ホームページ タイトル

 

<論考> 「日米防衛協力指針の改定は、日・米両帝国主義の、アジアと世界に対する新たな戦争準備である(その1)」(2015年5月7日)


[論考] 日米防衛協力指針の改定と、11件の戦争法規は、日・米両帝国主義の、アジアと世界に対する新たな戦争準備である

<連載項目>
@ 安倍訪米の目的とオバマの狙い(今回)
A 集団的自衛権と新日米防衛協力指針(次回)
B 11件の戦争立法(一つの新法と10件の改正法)
                                                 
柴野貞夫時事問題研究会


@ 安倍訪米の目的とオバマの狙い


● 安倍の日本軍の戦争犯罪隠蔽に手を貸した
オバマ


426日から米国を公式訪問した安倍晋三は、第2次世界大戦の収束から70年を迎えた年、オバマ政権によって最大級の歓迎ともてなしを受けた。
また、この歓迎行事を通して、安倍の、日本のアジアにおける戦争犯罪の否定と改竄を、公式に黙認した。それは、安倍が、集団的自衛権の行使を閣議決定し、日本自衛隊が米軍と共に、世界中至る所で戦争に参加出来るように、日本国憲法による制約を取り除く決意を示したからである。

米国の安倍に対する免罪符の根拠は、“誰も、歴史問題の負担が原因で、我々の安全な未来の構築を妨害することは出来ない”と言うものである。しかし、オバマは、安倍と日本帝国主義の戦争犯罪を、一体誰の許しを得て棚上げしようとしているのか?!
オバマは、これによって間接的に、米国のもう一つの頼れる同盟国−韓国が、アジアでの戦争犯罪を正当化し、謝罪もしない日本に対し抗議する世論の動向に制約された<対日強硬政策>を、“改善”するように強く求めたのである。オバマは、韓国に、“日本の戦争責任に拘(こだわ)っている時ではない。”とし、安倍の歴史認識と戦争犯罪の隠蔽を、間接的に支持したのである。
それによって、日本の中国に対する挑発的な領有権紛争を利用し、軍事的に中国を牽制するとともに、中国の経済的拡張とアジア主導に対抗して、「環太平洋経済連携協定」(TPP)に日本を引きずり込み、アメリカの戦略的利害の確保のために、日本を利用する道を選んだのである。


“民族の矜持(きょうじ)を回復”することを主張してきた犯罪人・安倍晋三

安倍は、この訪米までの道のりで、極東裁判とポツダム宣言の受諾による“敗者の戦後体制から、‘民族の矜持(きょうじ)’を回復する為の<戦後レジューム>からの脱却”を一貫して主張し、日本国憲法第一項「国権の発動たる戦争と武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争の手段として永久にこれを放棄する」および第二項「前項の目的を達するため、陸空軍その他の戰力は、これを保持しない。國の交戰權は、これを認めない」とする、明確に戦争を否定した平和憲法を、破壊・蹂躙する事に執念を燃やしてきた。
過去日本国家による、中国・朝鮮・フィリピン・ベトナムなど、アジアの諸国家と民衆に対する、野蛮な侵略戦争と虐殺行為、非人道的植民地支配と、朝鮮民族を主とするアジアの女性20万名を、日本軍の性奴隷とするなどの非人倫的行為に象徴される、膨大な戦争犯罪の歴史に真正面から向き合って公式に謝罪し清算することを拒否し、日本帝国主義による侵略の歴史を'自虐史観‘として否定し、村山/河野談話の修正発言を執拗に繰り返してきた。
安倍は、2013423日、国会において、“侵略に対する定義は、学会でも国際的にも定まっていない。国家間関係をどの側から見るかによって異なる”と、アジア侵略の歴史を公に正当化した。

● 日本軍慰安婦は‘人身売買の被害者’、国家の関与を否定する安倍

アジアに対する侵略と犯罪の歴史を謝罪し清算することなく、帝国主義日本の敗北から70年になる2015年の、この訪米で、アメリカ帝国主義の軍産共同体の忠実な代理人・オバマとの首脳会談を通して、日本帝国主義の軍事力(自衛隊)を、世界中至る所で展開出来るようにする、日米軍事同盟の質的改変の為の新日米防衛協力指針(日・米新ガイドライン)作成作業と、それを実効化するための国内の戦争諸法規(11)の立法化に突き進もうとしている。

429日、日本総理としては初めて、米国議会、上・下院合同演説をした安倍は、日本のアジアでの戦争犯罪に対し、“我々の行動がアジアの諸国の国民に、苦痛を抱かせた事実から目をそらす事はいけません。この様な点に対し、歴代日本の総理が表した見解を守っていきます。”と一言、戦争犯罪について、まるで他人事の様に、抽象的かつ曖昧に触れた。朝鮮人の女性を中心とする日本軍慰安婦に関しては,その単語さえ出なかったし、無論、謝罪もしなかった。一方で、ハワイの真珠湾とフィリピンのバターンなどで、日本との戦争で亡くなった米国人達に対しては、“日本と日本国民を代表し、永遠の哀悼を表す”と言った。しかし、日本の侵略戦争の結果で引き起こされた、2000万人を越えるアジア民衆の死に対する哀悼も謝罪の言葉もなかった。
安倍は、今回の訪米期間中、講演会や米議会、記者会見の席上で、日本軍慰安婦達を、日本政府と軍の関与を否定し、民間の責任だとする‘人身売買の被害者’として描写して見せながら、日本政府と軍の介入を事実上否認する発言を繰り返した。
オバマは、安倍の訪米期間中、戦後ポツダム体制を批判し、アジアに対する自らの戦争犯罪を公然と否定する安倍晋三とその自公政権に対し、それを苦々しく批判的に評価する米国の一部言論とは異なり、「戦後体制の枠組み脱却」という、ややもすれば、戦後の米国による世界支配体制への批判とも受け取れる安倍の思想に、鷹揚な態度で肯定的に受け入れ、むしろ大歓迎した。


● 日・米のグローバルな軍事同盟の制度的枠組み

バラク・オバマは29日、ワシントンでの首脳会談で、安倍の祖父で、A級戦犯である岸信介の名前を出しながら“(岸が)1960年、破壊することが出来ない同盟関係―日米安保条約を結んだ。過去の敵であった両国が、強固な同盟になって、アジアと全世界で、米国のアジア再均衡政策と日本の積極的平和貢献と言う共通の理解と普遍的価値観を進展させる為に協力した。”と、安倍にリップサービスまでして見せた。
オバマは、安倍との公式イベントが始まる27日にも、リンカーン記念館に案内した後、 “大規模の衝突のあとに和解がなければならない”と言う、南北戦争後のリンカーンの言葉を引用し、両国による地球規模の戦争における日本の戦争責任を追及しないと語ったのである。両者は、その後の、安倍の上・下院演説と首脳会談を通して、日・米のグローバルな軍事同盟の制度的枠組みで一致し、その敵対的目標に、公然と中国と朝鮮を挙げた。

● 日・米両帝国主義、植民支配者の論理に基づく野合

アメリカ帝国主義と日本帝国主義の二人の代理人が、互いに、アジア諸国の植民地分割戦争に伴う戦争犯罪を問わないと言う事は、過去それぞれの帝国主義的利害対立下にあった両国が、今は新しい獲物を前に、共通の利害関係として協力して望もうと決めたからに他ならない。
本来、フィリピン・インド・ベトナム・ビルマをはじめとする東南アジアへの英・仏・米帝国主義の植民地支配と、朝鮮半島と中国大陸に対する日本帝国主義による侵略戦争と植民地支配をめぐる、世界の帝国主義列強の私的利害の政治的・軍事的衝突こそ、第2次世界大戦の歴史的性格であるが、であれば、今度は、かっての敵味方だった帝国主義の二人の代理人が、互いの過去の戦争犯罪を不問にし、アジアにおける新しい獲物を巡って、新しい軍事同盟の枠組みを作ろうとしているのが事の本質である。
彼らが互いの戦争責任を問わないと言う時、植民地支配下で塗炭の辛苦に喘えぎ、虐殺され、性奴隷とされたアジア民衆への、彼等の戦争犯罪を隠蔽した上で、アジアで再び、侵略と略奪の帝国主義者の新しい侵略の同盟を作ろうとする企み以外の何者でもない。これこそ、日・米両帝国主義者の、懲りない植民地支配者の論理に基づく野合に他ならない。
その為には、互いに過去の犯罪を問う訳にはいかないのだ。過去の戦争犯罪を問わないと言う事は、現在の米帝国主義を中心とする、アフガン侵略、イラク侵略、シリアを中心に進行形の、中東での政権転覆策動を目指す戦争犯罪を肯定すると言うことであり、且つそのために、日本自衛隊が米軍と共に血を流すと言うことである。

● 日・米の犯罪的談合<桂・タフト協定>を彷彿

近代世界史で、離合集散を繰り返す帝国主義列強の政治的軍事的「同盟」と言う「野合」は枚挙に暇ない。米国と日本は、アジアの植民地分割政策で、過去にも共通の利害を持っていた。
日露戦争中の只中の19057月29日、日本の内閣総理大臣、桂太郎と、米国陸軍大臣、ウイリアム・タフトは、“極東の平和は、日(朝鮮)・米(フィリピン)・英(中国)による同盟によって維持される。米国は日本の朝鮮支配を認め、日本は米国のフィリピン植民地支配を認める”と、三つの帝国主義列強による東アジアの分割支配を談合した。それが<桂・タフト協定>というものである。
今回のオバマと安倍が取り交わした‘新日米防衛協力指針’の階級的・歴史的性格は、将に新たな装いで登場した<桂・タフト協定>と言うべき物だ。
東アジア・中国・朝鮮の民衆は、米国の黙認と合意の下で、朝鮮半島を植民地として併呑し、満州から全中国に侵略戦争を敢行した日本帝国主義による100年に亘る恥辱の歴史を、決して忘れていない。アジアを侵略した歴史を公然と否定する日本帝国主義の代理人−安倍晋三が、日本の軍備増強を図り、集団的自衛権を行使する憲法解釈を行い、米軍と共に極東から全世界に自衛隊を展開することに、深い警戒と対抗的対応をするのは当然のことだ。
アメリカ帝国主義者の、‘アジアリバランス(アジア回帰)’政策の目的は、世界経済に圧倒的な存在感を示し始めた‘社会主義中国’を経済的軍事的に包囲し、‘アメリカの核による脅しに核武装で抵抗する社会主義朝鮮’を圧迫し、場合によっては、その政権崩壊を狙いながら、アジアにおけるアメリカの覇権を回復することにある。
しかしながら、米国経済の破綻と軍事費の削減の中で、その軍事的プレゼンス維持に、日本の助力は不可欠である。5万名の米軍兵士と武力の膨大な基地経費は、日本の負担に多くを頼らざるを得ない。日本もまた、米国との同盟の中に、アジアに対する帝国主義的覇権の機会を狙って来た。


● 中国と朝鮮を標的にした MD(ミサイル防衛システム )体制

米国は、極東と東アジアにおいて、日本と共に、もう一つの信頼に足る同盟国である韓国にも依存しなければならない。とりわけ、極東・東アジアにおける米国の、中国・朝鮮包囲の軍事体制確立の中心に置かれているのは、ミサイル防衛体制(MD)を軸にした‘米・日・韓三角軍事同盟’である。
オバマは、2015325日、オランダ・ハーグにおいて、日・韓・米首脳会談を開催し、自分の左右に安倍とパク・クネを並べ、次の様に言った。“MD体制の構築と三角軍事同盟確立にとって、障害物が二つある。一つは、集団的自衛権を行使できない日本の自衛隊であり、もう一つは、過去の歴史に捉われ、韓国の世論の動向に左右される韓国政権の‘対日強硬策’である”と主張した。
今回の安倍訪米と集団的自衛権行使を前提にした<日米新ガイドライン>は、日本の国会において、その実効性を担保する11件の戦争法規の成立を待たなければならないとしても、米国は、日本の‘米・日・韓三角軍事同盟’参加への道筋に立ちはだかっていた‘集団的自衛権の行使が出来ない日本の自衛隊’と言う障害物を、ひとまず取り除く事に成功したのである。


● 韓国民衆の闘いに連帯しなければならない

しかし、オバマの、この“過去より現在の安保問題に焦点を合わすべき”とする主張は、韓国世論の猛反発を呼び起こした。
韓国の民衆言論<統一ニュース>は当時、2014422日付で、次の様に指摘した。
米国は、アジア太平洋地域での中国の牽制と朝鮮孤立圧殺政策を効果的に実施するには、世界で米国だけを信じて従う唯一の国々、韓国と日本との三角軍事同盟が絶対的に要求されている。・・・しかし、日韓は米国の希望とは違って、過去の歴史問題と領土問題、歴史認識の渡るに難しい川がある。特に安倍政権発足以来、日本の植民地支配など過去犯罪と、日本軍慰安婦強制連行などの不正、集団的自衛権行使の主張、歴史教科書問題、戦犯の遺骨のある靖国神社参拝、軍国主義復活策動など、我々民族として容認できない負の要因が積まれている。“日・韓・米三角軍事同盟の為に、日本の歴史問題(戦争犯罪)を不問にしようとする米国の態度は、植民地支配者の論理である”と厳しく批判した。

 アジアの民衆に対する、日・米両帝国主義者の100年に亘る戦争犯罪を免罪にして、再びアジアの戦争危機を煽り、主として中国と朝鮮を主敵と位置付けた、日・米軍事同盟の再編―日米新ガイドライン(新日米防衛協力指針)と日本自衛隊の集団的自衛権の行使は、アジア全域の民衆によって拒否されるであろう。日本国民の、安倍政権と戦争立法に対する戦いは、このアジア民衆との連帯の中から勝利の展望が切り開かれるに違いない。

● 日米両帝国主義者による戦争犯罪の隠蔽は通用しない

考えて見れば判る事である。他国を侵略して、その犯罪を悔いない国(日本)が、他国を侵略したことのない国(中国・朝鮮)が日本を攻めてくると、民衆を欺いているのが、今日の安倍政権である。
中国は、紀元前90年、漢の武帝による歴史の書き換えや改竄を、命を掛けて拒否した太史公―司馬遷の国である。帝国主義列強によって蹂躙された100年の恥辱の歴史を決して忘れない国である。しかも、米国に次ぐ経済力と軍事力を持ち、今や、日米軍事同盟による脅しに、座して待つ国ではない。朝鮮民族もまた、日本帝国主義による40年の植民地支配を忘れず、朝鮮戦争から65年に渡る、米帝国主義者による核戦争の脅しに決して挫けなかった国だ。日本の民衆は、安倍のデマゴギーに飲み込まれては成らない。
我々は次に、安倍の訪米によって明確となった、日・米ガイドライン(日米軍事協力の指針)改定の内容と、その実効化を担保する、‘戦争立法’の法制化の実態を徹底暴露するものである。


A集団的自衛権と ‘日米新ガイドライン’

安倍訪米とほぼ並行して、527日、ワシントンに於いて、日・米ガイドライン(日米軍事協力の指針)再改定が取り決められた。

日本国憲法・第9条、1項および2項を、恣意的に解釈したクーデター的違憲行為である「集団的自衛権行使容認の閣議決定」を、201471日に強行した安倍自公政権は、安倍訪米に先立って集団的自衛権行使を前提にした関連法案、所謂‘戦争立法’の‘新法制定’と‘関連法規改定’の法案化作業を、自公の密室協議で矢継ぎ早に取り掛かった。これは、日米ガイドラインの実効性を支える国内の法的整備でもある
「ガイドライン」とは、米軍と自衛隊が軍事協力をする場合の具体的役割分担を示すものであり、もちろん一つの立法ではない。その内容と目的の変更によって、当然自国の国内法規によって規制される。しかし本来、「ガイドライン」は、自国の憲法に基づくものであって、その為に立法的措置をとるのは本末転倒だ。今回の「集団的自衛権行使」を前提にした米軍と自衛隊の「軍事協力指針」は、安倍政権の成立直後から、自国の憲法に抵触する「戦争立法」の法案化作業と一体的に進められてきた所以である。(米国は、‘新ガイドライン’のための立法措置は取っていない)日米の軍事協力を、‘極東事態’から‘周辺事態’に拡大した1997年の再改定でも、それが既に憲法に抵触する違憲行為である可能性を指摘されていた為、関連法規の改定と関連新法が立法された。
しかし、今回、自衛隊が、集団的自衛権行使を米軍と共に地球規模で展開する狙いを持った「新ガイドライン」が、集団的自衛権を実効化する「戦争立法」を、未だ国会で法案化されていない状況にも拘らず、米国と合意取り決めをすると言う、立法府と国民を無視した手法が繰り広げられた。この「戦争立法」―11(新法1件、改定法10)の全容がほぼ明らかになったのは、安倍訪米の直前である24日である。この戦争立法の座長である高村正彦は昨年、‘戦争立法’が、「新ガイドライン」の策定作業までに自公の合意をしなければ米国との協議に格好がつかないと平気で語っていた。因みに、当時外務大臣だったこの高村は、2008年4月、名古屋高裁が、「日本の航空自衛隊によるバグダッドへの多国籍軍兵員輸送は、憲法91項に違反する戦争行為」だとの判決を前にして、“判決文は、暇になったら読んでやる”と、憲法尊重義務のある特別公務員のくせをして、あろうことか「法の番人」を嘲けった、どうしようもないパラノイア的犯罪人でもある。
(続く)


<参考サイト>

 

世界を見る−世界の新聞/安倍は、自衛隊に憲法上の制限を踏み越えさせた  (ICFI−第4インターナショナル 2015年2月19日付)

世界を見る−世界の新聞/アメリカ帝国主義の決定的転換点 (ICFI−第4インターナショナル 2015年4月1日付)

世界を見る−世界の新聞/安倍は米国議会の演説で侵略反省どころか「韓国・中国の成長を助けた」と強弁した (韓国・ハンギョレ 2015年4月30日付) 

世界を見る−世界の新聞/安倍「慰安婦」謝罪・反省なく、「世界平和に貢献」と自画自賛 (韓国・ハンギョレ 2015年4月28日付)