(最新の世界情勢を分析する 2012年3月31日 柴野貞夫時事問題研究会)
論評[国連安保理の役割と、朝鮮民主主義人民共和国に対する制裁](1)
2006年10月の安保理1718決議は、米帝国主義が企む、北侵核戦争への、自衛権の行使に対する、不当な制裁である。
地球観測衛星<光明星>3号の打ち上げは、宇宙の平和利用に基づいた、朝鮮民主主義人民共和国国民の経済発展に不可欠な平和的事業である。
2006年10月、北の核実験と弾道ミサイルの発射は、第4回六者会談の9.19合意を破り、対北核戦爭を公言したブッシュと、米帝国主義に対する自衛的行動として行われた。帝国主義による被抑圧国家、 朝鮮民主主義人民共和国の正当な自衛権の行使である。
安保理1718決議は、帝国主義列強による被抑圧国家、朝鮮民主主義共和国に対する不当な制裁であった。
米国と、日本・韓国を始めとするその同盟国は、今回の朝鮮民主主義人民共和国の民生用地球観測衛星、<光明星>3号を‘長距離弾道ミサイル’と断じ、東北アジアの安保に緊張を醸成する‘挑発行為’だと煽り立てている。
またそれは、この朝鮮民主主義人民共和国の核実験に対する国連安保理決議<核実験と弾道ミサイルの発射開発に対する国連制裁決議>1718号に違反する行為だと主張している。
米国は、<光明星>3号の打ち上げが、2月29日、北京で開かれた第3次北―米高位級会談での「2.29合意」に反すると主張する。合意書には、弾道ミサイルの記述はあるが、人工衛星には触れられていないにも拘らず、「合意違反」との主張は、9.19北・米合意を裏切った、ブッシュの対北政策を彷彿とさせる。
宇宙への発射体と弾道ミサイルは、発射原理が同じであり、人工衛星<光明星>3号の打ち上げを安保理決議1718号違反とする、日米帝国主義列強の主張には、如何なる根拠もない。
ここに二つの問題がある。
ひとつは、これまでの国連安全保障理事会の多くの決議そのものに、どの様な正当性があるのかと言う問題の検証である。
世界資本主義市場をめぐる帝国主義列強の、経済的政治的覇権をめぐる談合の場である国際連合は、その憲章の文言とは裏腹に、列強の貪欲な政治的経済的支配に抵抗する国家に対し、「国際世論」や「国際社会」の名のもとで、集団的軍事的威圧の手法を使い、当該国家の軍事的経済的制裁を加え続け、侵略的武力介入を繰り返してきた。
つまり、国連憲章が規定する諸国家の主権平等の原則は、国連を牛耳る帝国主義列強の強盗的本質を覆う無花果の葉に過ぎない事を示して来た無数の歴史で彩られている。
●安保理は、欧米帝国主義列強の被抑圧国家に対する軍事侵略の道具として利用されて来た
1950年、朝鮮半島における朝鮮民族の統一運動に対する、米軍を主力とする「国連軍」の介入は、北を‘侵略者’と規定した1950年6月27日の(ソ連が欠席した)安全保障理事会での決議によるものである。
セルビア、アフガニスタン、イラクでは「国連」の舞台を利用しながら、米国帝国主義と欧米先進資本主義列強は、「人道の危機」や、「大量破壊兵器の摘発」と言う、ありとあらゆる捏造のプロパガンダを資本主義媒体を使って垂れ流し、空爆と地上戦によって、先進資本主義諸国による(イラク、アフガニスタンなど)弱小被抑圧国家への侵略行為を正当化した。
彼らの侵略戦争が継続するところでは、無垢の民衆を今も殺し続けている。 国連の諸組織は、列強による(イラク、アフガニスタンなど)弱小被抑圧国家の主権の侵害と侵略行為を糾弾するどころか、列強によるこれら不法な占領地の「民生安定」の役割を受け持って、侵略者を固く支えてきた。
2003年のイラクに「大量殺傷兵器」が無かったように、西欧列強と世界の資本主義媒体が垂れ流してきたリビアの「大量虐殺」は無かったと言う事実が、今明らかになりつつある。
●リビア制裁と、帝国主義が捏造した、カダフィの市民大量虐殺の嘘
国連安全保障理事会は、2011年2月26日、リビア政権幹部の渡航禁止や財産の凍結等の制裁決議を「満場一致」(中国も賛成)で採択し、3月17日には、「リビア上空の飛行禁止区域を設定する」決議が、賛成多数(中国は棄権)で採択され、米国とその同盟国の軍事力の行使を認め、「反乱者」への武器の供与や無人機の投入、爆撃機の動員など、ありとあらゆる暴力が、国連の名において正当化された。
[国連安保理で拒否権を持つ(軍事力を、国連の名において行使する執行部)5常任理事国の役割は重い。このリビア制裁への中国の賛成行為(棄権も同じだ)は、被抑圧国家の側に立つべき「社会主義国」としての自殺行為である。歴史的に、帝国主義と対決した時(その政権の良し悪しは別として)被抑圧国家の軍事力への全面支持こそ、帝国主義を抑制する力である。この‘マルクス主義者’の立脚点である事を忘れた中国は、2006年10月9日にも、朝鮮民主主義人民共和国に対する制裁決議に賛成票を投じた。中国共産党内部の左右の葛藤が生み出したものと考えるが、舵を少し左に切りつつある今、これに対する内部の抗議も聞こえる。
世界の真のマルクス主義者の立場は明確である。欧米帝国主義に対しては、カダフィの軍隊の側に立ち、米帝国主義の北核侵略策動に対しては、朝鮮民主主義人民共和国の軍事力を支持しなければならない。]
<カダフィの虐殺が進行し猶予を許さない>とか、2月17日の‘怒りのデモ’の後、<無差別虐殺が行われた>という宣伝は、カタールの支配階級が運営するアルジャジーラが流したものであるが、リビア空軍の爆撃がはじまったあと、3月22日の<USツデー>に掲載された論文で、テキサス大、アラン・クーパーマンは、“多くの携帯電話があったが、反乱者たちが主張する大量虐殺に関する写真はひとつもない”と指摘している。4月6日の<ワシントンポスト>で、米国対外関係委員会の議長リチャード・ハースは、“大規模虐殺があったとか、迫っていると言う証拠はない”と明らかにした。
特に、世界の資本主義媒体は、<カダフィによる市民虐殺>の証拠をあきらかにすることも出来ず、証拠の追跡も何ひとつ行っていない。
それとは逆に、4月から10月までに、英国、フランスなどNATO空軍による「リビア市民を守るため」と言う名分で行われた「人道的爆撃」は9600回に達し、数千人のリビア国民が殺害され数千人が重軽傷を負った。
オバマと米帝国主義もリビアに介入した。副大統領ジョーバイデンは、“米国は20億ドルを支出し、ひとりの兵士も失わなかった。”とし、イスラエルのメディアは、“地上軍はつかわず、無線操縦を含む強力な空軍力を利用して敵の拠点を攻撃した”とリビア市民の虐殺に加担したアメリカを称賛した。
”英国の歴史家アラン・ブロック(Alan
Louis Charles Bullock)は、その著「ヒトラーとスターリン――対比列伝(全3巻)
(鈴木主税訳草思社, 2003年)で、ポーランド侵攻を前に、ヒトラーが(1939年8月22日)次の様に言ったと記述している。
“戦争を始める名分を提示しなければならない。それがもっともらしいか、そうでないか、嘘を言っているのか、いないのか、勝利者には問わない。一旦戦争が始まれば、そんなものは問題とならない。もっぱら勝利が問題となるだけだ。”と。
<大量殺傷兵器>と、<大量虐殺)の嘘で、イラクとリビアに対する軍事侵略を正当化した欧米列強は、このヒトラーの手法を踏襲したのである。
国連安保理事会において、リビアへの軍事行動が「正当化」され、国内では帝国主義欧米列強と連携し、CIAの雇い兵とNATOが送りこんだ多数の特殊部隊で武そうした「リビア国民会議(TNC)」がトリポリを占領した。カダフィ政権の崩壊を指揮し、トリポリを占領したのは、「カダフィ独裁に苦しむリビア国民」などではなく、石油・ガス資源の再略奪を狙った帝国主義者の手先だった。
新しいリビア首相アブドラヒム・エルケイプは、アラバマ大学で教鞭をとり、アラブ首長国連邦の石油大学電気技術部の長として勤めた時、その研究を米エネルギー省が支援した経歴の人間だ。カダフィが国有化したリビアの石油・ガス資源を帝国主義者に売り渡す作業を監督するにふさわしい人間だ。
国連と、国連を牛耳る欧米資本主義列強らが、国連を利用して資本主義世界市場の資源と政治的枠組みの再編を狙い、「人道や人権」「独裁政権に抵抗」する国民の代弁者を装い、「国際世論」やら「国際社会」の代理人を騙って、帝国主義による被抑圧国家の主権と独立を軍事力で蹂躙しているのである。
●2006年の、朝鮮民主主義人民共和国の核実験と弾道ミサイルは、
ブッシュ政府の核先制攻撃の政策化に対する、朝鮮民主主義人民共和国の自衛権の行使である
国連安保理は2006年10月9日、ブッシュと米帝国主義が、北への核先制攻撃を政策化し、それが現実化する可能性が高い状況で、自衛的核抑止力を開発する自らの権利を行使した朝鮮民主主義人民共和国に対し、1718号決議、所謂「(これ以上の)核実験の実施と、弾道ミサイルの開発発射に対する国連制裁決議」を採択した。
これは、国連によるイラク、アフガン、リビアへの軍事介入と本質的に同じ、国連を利用した米国を中心とする帝国主義列強の、朝鮮民主主義人民共和国の主権に対する不当極まりない攻撃である。米国によって名指しされ、核を含む先制軍事攻撃を公言された国家の自衛的手段が、帝国主義者によって「制裁」の対象となる、如何なる名分もない。
米国は、イラク侵略で‘勝利宣言’をした後、2005年の6者協議で取り決められた合意を破り、悪の枢軸と名指しした朝鮮民主主義人民共和国への敵対行動に出た。ブッシュは、クリントン政権とのあいだで取り決めた1994朝米合意も、北の違反をでっち上げて破たんさせて来たが、「北の崩壊」を狙う核攻撃の準備は、一貫して追求していた。
北の核実験と弾道ミサイルの発射は、第4回六者会談の9.19合意を破り北への核攻撃を公言した米帝国主義に対する自衛的行動として行われた。帝国主義による被抑圧国家− 朝鮮民主主義人民共和国の国家としての正当な自衛権の行使であった。
安保理1718決議は、帝国主義列強による被抑圧国家、朝鮮民主主義共和国に対する不当な制裁である。
●「長距離ミサイルの技術を使った人工衛星発射体は、弾道ミサイル」と主張する日・米・韓の主張は、荒唐無稽な自己撞着論である
今二つ目の問題は、民生用地球観測衛星<光明星>3号の打ち上げが、安保理1718決議に反すると言う日米帝国主義者の主張、すなわち、その(制裁)決議は、宇宙の平和的利用さえ認めていないのか、はたしてその根拠がどこにあるのかと言う問題である。
2009年3月、朝鮮民主主義共和国の民生用人工衛星<光明星>1号の発射時、それを日米韓が、弾道ミサイルの発射だと大騒ぎした時、ロシアは、米国に対し,“北韓が打とうとする発射体が衛星であれば、1718号に外れるものではない”とし、“北韓が打ち上げ様とするものが衛星であろうが、ミサイルであろうが、宇宙の発射体と弾道ミサイルは発射原理が同じである”と明快に主張した。日米韓が画策した安保理制裁は、不発に終わった。
言い換えれば、衛星は、弾道ミサイルの技術を使った発射体をもってしか打ち上げられないと言うことだ。
米国と、日本・韓国を始めとするその同盟国は、今回の朝鮮民主主義人民共和国の民生用人工衛星、<光明星>3号を‘長距離弾道ミサイル’と断じ、東北アジアの安保に緊張を醸成する‘挑発行為’だと煽り立てている。
そもそも、衛星を地球の周回軌道に乗せる衛星運搬ロケットは、長距離ミサイル製造技術によって打ち上げる以外、ほかにどんな手段もない。
韓国と日本は、朝鮮民主主義人民共和国の衛星発射を、<長距離ミサイルの発射>だと、自国民に執拗に繰り返し扇動し、“北のミサイルを迎撃する態勢を取った”などと言う茶ばん劇までして民衆を欺むこうとしている。
今回打ち上げる朝鮮民主主義人民共和国の地球観測衛星が、もし<衛星>などでなく、<長距離弾道ミサイル>だとしたら、その軍事技術とその施設を、今回のように透明性をもって、あらゆる世界の専門家に見せることはない。
米国と、日本・韓国を始めとするその同盟国は、朝鮮民主主義人民共和国に対し、宇宙の発射体を弾道ミサイルと非難するのは、「長距離弾道ミサイルの技術を使って衛星を運搬するな」とでも言いたいのかも知れない、
それこそ荒唐無稽な自己撞着に陥るだけである。人工衛星は、初速5キロで飛びたち、発射後20秒で大気圏に消える弾道ロケットでしか運ぶことが出来ないのだ。運搬手段に異議を主張する事は、軍事用であれ民生用であれ、衛星発射そのものを否定することとなる。北に対する国連1718号制裁を、宇宙の平和的利用の制限にまでひろげて解釈する日・米・韓の主張には全く理屈が通らない言語障害である。
これは、朝鮮民主主義人民共和国に対してだけは、平和的な商用衛星さえ認めたくないと言うことであり、宇宙を、自国が生きていく上で必要な経済的・社会的発展のために平和的に利用する権利のみならず、国家の生存権をも脅かし蹂躙する不法行為に他ならない。
1984年7月11日に発効した<宇宙条約>は、その前文において‘宇宙空間の探査及び利用がすべての人民のために、その経済的又は科学的発展の程度にかかわりなく行われなければならないことを信じ、’ 第1条において‘月その他の天体を含む宇宙空間は、すべての国がいかなる種類の差別もなく、平等の基礎に立ち、かつ、国際法に従って、自由に探査し及び利用することができるものとし、また、天体のすべての地域への立入りは、自由である。’と規定している。
本来、長距離ミサイルであれ、衛星運搬ロケットであれ、帝国主義支配とその政策に従順でない国家に対してだけ、その利用を容認しないと国連の諸機関が取り決める事は、国連憲章が規定する諸国家の主権平等の原則が、国連を牛耳る帝国主義列強の強盗的本質を覆う無花果の葉に過ぎない事を示している。
南韓出身の国連事務総長パン・ギムン(潘基文)は、朝鮮民主主義人民共和国の人工衛星発射に対し、「あらゆる弾道ミサイルの発射を禁じる安保理決議に違反する、朝鮮半島の平和と安全を脅かす、いかなる行為も行わないよう求める」と述べ、帝国主義者の主張を敷衍し、理屈の通らぬ自己撞着論を繰り返した。日米欧帝国主義者が牛耳る国連にあって、国連憲章の建前としての精神さえかなぐり捨て、帝国主義者の下僕となっている。
●朝鮮民主主義人民共和国による宇宙の平和利用の対極にある、日本の宇宙利用の急速な軍事化
「国際社会」において、米帝国主義の従順な犬である韓国が、2010年6月10日、打ち上げに失敗した運搬ロケットや、その衛星ナロウ(羅老)1号と、同じくその帝国主義的サポーターである日本の宇宙開発事業における弾道ロケットの打ち上げについて、朝鮮民主主義人民共和国に対すると同様の追求は行われていない。
しかし、日本の宇宙開発の軍事化は、朝鮮民主主義人民共和国の平和利用と対極に、、急速な軍事化に向かっている。1988年に導入された「偵察スパイ衛星」は「情報収集衛星」と偽って軍事利用され、日本初の宇宙飛行士・毛利衛は、2度目のシャトルフライトで、米国務省の衛星データの軍事利用に専念していた事実は、決して報じられたことはない。2009年にJAXA(日本宇宙航空研究開発機構)に採用された3人の飛行士うち2人は自衛官である。憲法に抵触する「集団的自衛権の行使」となる、攻撃的兵器システムである米帝国主義の弾道ミサイル防衛(BMD)システムは、既に導入されている。
1969年国会決議で歯止めされた「宇宙の平和利用の原則」は、2008年の宇宙基本法から逸脱し、今JAXA法の「平和目的」規定の削除が国会に上程されている仕末だ。
日本における、学術的装いに隠された宇宙開発の急速な軍事化を隠蔽し、朝鮮民主主義人民共和国の平和的民生用衛星打ち上げを、弾道ミサイルとして攻撃し、恐怖を煽る日本帝国主義者の狙いこそ、憲法を改悪し、日本資本主義国家の軍事プレゼンスを強化し、朝中の社会主義体制の崩壊と資本主義市場化に民衆を動員することにある。
我々は、日米帝国主義の北侵策動に対する、朝鮮民主主義人民共和国のあらゆる軍事的自衛手段を支持し、その社会主義体制を無条件に防衛しなければならないと考えるものである。
( 文責 柴野貞夫 2012年3月31日 )
(参考サイト)
☆ 朝鮮半島の戦争危機を煽る張本人は誰か? [シリーズ・その@] (2010年12月31日更新)
☆341 朝鮮外務省代弁人談話 (朝鮮民主主義人民共和国・朝鮮中央通信 2012年3月23日付)
☆340 米国は、どうして衛星発射計画を知りながらも、北韓と合意したのか? (韓国・PRISSIAN 2012年3月21日付)
☆339 光明星2号の政治経済的効果 (韓国・統一ニュースコム 2012年3月20日付)
☆338 北、核合意の履行が本格化、…IAEA訪北の時間表も出て・・。 (韓国・PRISSIAN 2012年3月15日付)
☆293 朝鮮民主主義人民共和国外務省代弁人談話 (朝鮮民主主義人民共和国・朝鮮中央通信 2011年8月18日付)
☆265 [米・韓合同軍事演習(キー・リジョブル、フォール・イーグル)に対する]
朝鮮民主主義人民共和国外務省代弁人談話 (朝鮮民主主義人民共和国・朝鮮中央通信 2011年3月1日付)
☆264 [声明]韓・米軍事合同訓練に、韓半島の運命を任せてはいけない! (韓国・労働解放実践連帯HP 2011年3月2日付)
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