(民衆闘争報道 <朝鮮民主主義人民共和国・訪問記1>2011年5月11日)
(※以下の文中の中で”朝鮮共和国”と表記されているのは、”朝鮮民主主義人民共和国”の誤りです。)
晴れた5月、あんずの花咲くピョンヤンは、
強盛大国に向かう社会主義朝鮮の力強い建設の鎚音が響いていた。
朝鮮民主主義人民共和国訪問記<その1>
△ コンピューターで全自動化された「大同江タイル工場」。発電所、職住接近の労働者マンションを併設、専用ふ頭も持つ。労働者のための10万戸モデル住宅に使用する巨大な建設材(タイル、瓦、壁、床材等)工場。(後ほど、本文で詳しい説明をする) (写真・時事研)
今日まで日本政府は、米帝国主義とイ・ミョンパク政権による共和国への核の脅しと戦争挑発を支持し、米・日・韓軍事同盟の一翼を担いながら、日本の右翼軍国主義グループと結託し、朝鮮半島の戦争危機を煽ることが国民世論の右傾化を促進し、改憲を実現する手段であると考えてきた。またそれを通して、日本国家の半世紀にわたる朝鮮での歴史的犯罪の清算を、引き延ばし糊塗する事も企んできた。
韓国のイ・ミョンパク政権は、浅はかにも共和国の政権崩壊と、その資本主義的統一を妄想し、米国の核武力に依る軍事的威嚇を利用する事が最良の手段と考えて、軍事的挑発や事件の捏造に余念がない。
また米国は、未だに、共和国への軍事的威嚇を通して朝鮮半島の緊張を高めることが、中国に対抗し東アジアでの覇権を取り戻す方途と勘違いしている。
これら二つの帝国主義的強国と一つの傀儡国家の理不尽な軍事的経済的圧迫の前に昂然と立ち向かう朝鮮民主主義共和国に、5月某日、我々に初めて、訪れる機会が与えられた。
我々はこの機会を通して、
○共和国は、ソ連と東欧の「社会主義体制の崩壊」をどの様に評価して来たのか、一方で朝鮮共和国は何故力強く存在するのか。
○中国ともベトナムとも異なる、独自の社会主義体制とはなにか。その社会主義システムとはどんなものか。
○「人間中心の世界観」「人民大衆の自主性を尊重する為の革命思想―チュチェ思想を指導指針とする」(共和国憲法・政治―3条)とはどう言うことか。なぜそれが必要なのか。また、「先軍」とはどう言うことか、
○共和国憲法に定められた、社会主義体制を具現する諸規定が教育、経済、生活の場で、実際にどのように実行されているのか、
○そして、反共和国キャンペーンの一つである「食糧危機と飢餓」の実態とは。
これらの疑問を、学校・工場・農場の見学や、共和国勤労者の意見も聞きながら、すこしでも明らかにし、帝国主義者と日本の右翼反動の攻撃から、社会主義朝鮮を無条件に擁護するための思想的武器を準備することが必要であると考えた。
△ピョンヤンに向かうコリョ(高麗)航空・飛行機の室内にて。共和国のスチュワーデス。(写真・時事研)
関西空港から、ピョンヤン(平壌)まで、直行便があるとすればせいぜい2時間弱の所要時間だ。しかし、我が国とは国交がなく、日本政府は共和国に対し、日本の国家犯罪の清算を実行するどころか、逆に経済制裁を科し、日本国民に渡航自粛を指示して来た。従って共和国政府からビザが交付されたとしても、朝鮮民主主義人民共和国の大使館乃至総領事館のある、中国からの入国となる。中国からピョンヤンへ乗り入れるのは、共和国のロシア機ツポレフだが、そんなに便数がない。日に合して瀋陽か北京経由となるので、場合により中国1泊となる。時間と費用の無駄を強制する日本政府に怒りがこみ上げる。
明日となる共和国ビザ取得のため、瀋陽泊となる。ここは言うまでもなく、旧奉天である.到る所に日本帝国主義の中国東北部植民地経営の歴史的痕跡(満鉄本社跡等)がある。満州の鉄道沿線(中国東北部)を軸とした植民利権をめぐる、ロシア帝国と日帝による植民地分割戦争が展開された場所であり、その政治的経済的拠点である満鉄鉄道総局が大連と共に置かれた。
満鉄初代総裁は、日清戦争で略奪した台湾の、初代総裁でもある後藤新平だ。かれは、台湾植民地支配の経験を買われ、それを総合的なアジア侵略の為の植民地経営研究機関としての「満鉄調査部」も立ち上げた。それは、主として中国・朝鮮を中心に、その民族的特性、社会的構造や機能などの調査研究により、その「学術的根拠」によって日本の「植民地支配が正当である」事を示そうとしたのである。
それは、乙巳(ウルジ)条約で朝鮮支配がはじまる、1905年、朝鮮総監府(初代伊藤博文)→朝鮮総督府(初代寺内正毅)による、露骨的「日韓併合」の正当化の為の「研究」へと向かったのだ。そこに「マルクス主義歴史学者」を始めとする多くの歴史・経済学者が動員された事実を、「研究者自体の調査研究活動には、水準の高いものがあった。」などと、後年それを正当化して評価する事は(かって、著者が在籍した東洋史の教室で、或る教師が主張していた。)許されるものではない。
彼らが共通して結論付けたのが、「停滞したアジア、外圧でしか近代化出来ない中国、朝鮮」と言う主張である。この、(中国・朝鮮の歴史を侮辱した)日本帝国主義の対外膨張とアジア支配のための主張が、学術的装いの下で理論化され、明治政府と福沢諭吉、新渡戸稲造を始め、日本の国粋主義者の思想と融合して行き、民衆を国家へ抱き込み、朝鮮侵略へとなだれこんだ事実を思い起こさねばならない。
いま、日本資本家階級の、新自由主義に基づく労働者民衆への嵐の如き犠牲の転嫁が、深刻な非人間的差別と搾取を生み出している時、朝鮮中国に覇を唱えた「明治は、栄光の時代であった。日清、日露戦争は、ロシアから日本を守る祖国防衛戦争であった」と主張する司馬遼太郎の歴史観を、国家と右翼人士、そして日本資本家階級らによって、分裂する日本民衆の国家統合のイデオロギーに収斂しようと映像化が進められている。
一方民主党も、10日、政治資金規正法違反で外相を辞任した前原誠司を党憲法調査会の会長に据え、憲法改正手続きを規定する96条を改定し改憲手続きのハードルを下げる事を狙い、自民・公明の大連立を図ろうと動き始めた。朝鮮共和国の「ミサイル・核攻撃の脅威」を捏造・扇動し、共和国と中国を狙ったミサイル防衛網推進を主張して来た前原は、米国と日本資本家階級から、今最も期待をかけられている人物だ。
彼は5月3日、読売新聞の座談会で、東北大震災と福島原発事故さえ利用しながら、「有事には、お願いベースでは駄目だ。個人も地方も(国家に)従ってもらわなければならない。」と高言して憚らなかった。資本家階級の危機を、民衆に対する強権的支配と犠牲の転嫁で乗り切ろうと、「国民を一つに」国家へ統合する動きがアジア侵略の歴史と重なっている。資本家階級が贅沢な資金を出し合って運営する「日本広告機構」がたれ流す、広告企業名の無いコマーシャル「日本は一つ、頑張ろう日本」の、薄気味悪いフレーズの狙いは、明確であろう。
これらの事実は、日本帝国主義のアジア侵略の歴史が、現実の動きと連動し、すべての面で今日的意味を持つと言う事だ。
△瀋陽・朝鮮民主主義人民共和国総領事館、ゲイトに立つ中国の兵士は、とにかく厳しい。写真も撮らせない。(館内の共和国館員は、穏やかで優しい。)
さて、翌日我々は、午後のピョンヤン行き便に間に合うよう、全員で朝鮮人民民主主義共和国・瀋陽総領事館へ向かい入国ビザを申請した。館の規模は隣の日本領事館より立派だ。発行を待つ間、トイレの必要な我々に、館員は受付から領事館本館にまで案内してくれる便宜まで計ってくれた。共和国発行のビザは、国交のない日本人ビザに共和国の印章を押す訳にはいかない。別途の青い「観光証」(TOURIST CARD)が入国ビザ代わりとなる。従って日本人のビザには、(日本と共和国と言う二つの国を)中国を経由して出入りした日付けの異なる4つの印が押印されるだけで、数日間どこに行ったかは不明と言うことになる。日本再入国の時、聞かれた人もいる。しかし、ただそれだけの事だ。
午後3時、ピョンヤン行きの飛行機は、ぎっしり満杯だ。東洋人だけでなく西欧人の姿が極めて多い。162か国以上と外交関係があるから当然なことだが。
△朝鮮人民民主主義共和国の実質的な入国ビザ。中には本人の顔写真・氏名などが添付・記載されている。共和国を出るとき返還する。(写真―時事研)
共和国は現在、160以上の諸国と外交関係を持ち、国交のない国を探す方が困難な程だ。EC13カ国を始め,ほとんどの欧州諸国と大使を交換し貿易関係を持っている。情けない事に、日本人の多くがその事を知らない。米国と日本の「経済制裁」で、共和国が今にも崩壊するのではないかと言う日本人を笑うわけにもいかない。彼等は、国家と言論媒体の虚偽の情報によって洗脳されてきたのだから。
共和国の豊富な天然資源(露天掘りのマグネサイトや無尽蔵の無煙炭)は無論のこと、自動旋盤などの精密機械工業製品を、欧州や中国に輸出している事をどれだけの日本人が知っているのだろうか。西海(中国の呼称は黄海)大陸棚は、石油の宝庫とも言われる。日本の「経済制裁」では、びくともしないのは当然のことである。先日、日本の衣料製造会社が、300枚の婦人物ショーツの縫製の一部を共和国で作り、中国で完成品にしたものを、「中国製と偽って日本に輸入した嫌疑」で3名逮捕したと言う。日本政府の制裁措置を破った外為法違反(無承認輸入)だとのことだが、今時国際分業されない商品など皆無だろう事ぐらい帝国主義国家日本政府なら極く承知のはずだ。当り前な経済活動として認めなければならないはずだ。核を持ち込んでいないと言っては嘘をつき、在日米軍基地をイラク侵略の前進基地にし、日本の実質的な軍事同盟への参加である米日韓合同軍の演習を常態化することは、憲法を蹂躙する百万倍の犯罪行為である。300枚の婦人用ショーツが悲しんでいるぞ。
南朝鮮が未だに共和国への軍事的挑発を、1953年以来毎年、米韓軍事演習として繰り返して来た事や、核兵器と言う「新型兵器」を持ち込んだことも、朝鮮戦争休戦協定の明確にして一方的な蹂躙である事も知られていない。日米両政府が、共和国への「制裁」を南朝鮮とともに声高に騒ぐ姿こそ、世界から取り残された日米の哀れな孤立を現わしている。日本政府は、朝鮮共和国と朝鮮半島にかかわる正しい情報を、1度として流した事はない。日本政府と殆どの言論媒体は、朝鮮共和国に対する不当にして意図的な虚偽情報を垂れ流して来た。この情報操作と情報遮断を繰り返してきた行為は、福島原発事故において情報操作を繰り返し、国民の命を危険にさらしてきた所業と同じだ。
コリョ航空のスチュワーデスは、ピョンヤンまでの1時間を微笑を絶やさず、乗客の世話をやいた。上着を脱ぐ乗客の後ろにそっと回り手助けする姿は、サービス精神旺盛な日本人スチュワーデスより、もっと自然な振舞いに見える。
ツポレフは、ピョンヤン空港に予定通りの時間で、少しの振動しか感じない程度にソフトランディングした。
△大きな日本の地方空港の様な、落ち着いた、穏やかな佇まいだ。外にも内にも、南朝鮮インチョン空港の様な自動火器で武装した兵士や警察の姿は皆無だ。(写真―時事研)
いま、我々は、「社会主義的生産関係の土台の上に、生産手段は国家と協同団体のみが有し、土地、国の天然資源、鉄道、空港、運輸、通信機関、重要な工場、企業、港湾、銀行は、国家のみが所有。対外貿易は国家が管理し、勤労者大衆の創造的労働によって建設される人民経済は、計画経済である」(朝鮮民主主義人民共和国憲法から)社会主義国家にやってきたのである。
社会主義計画経済は、「剰余価値の追求」と「労働の商品化」とは相容れないものである。国家の資源や投資、国有化された土地の計画的経営を通して、その社会的獲得物を(一握りの資本家階級の懐ではなく)労働者農民、勤労者の側へ獲得することが出来る条件をつくるものである。我々の分析では、世界の社会主義国家を掲げる諸国において、朝鮮共和国が、最もよく、社会主義計画経済に基礎をおき、政治権力形態において、プロレタリア独裁(共和国憲法は、それを、労働者、農民、勤労インテリおよびすべての勤労人民が主権をもつと表現する)を貫いていると考えている。自動車をはじめとして、資本主義社会の延命の道具となった大量消費財(贅沢品)の多少が、人間生活の豊かさをしめすものではない。生きとし生けるものが差別されることなく、平等に、食・住・文化の恩恵を受ける事が、まず前提である、その為には、剰余価値の追求と言う資本の価値法則から決別しなければならない。その事によって労働の商品化ではなく、労働の解放が前進する。
1980年代の中国・ケ小平主席の「改革開放」路線は、世界資本主義市場における中国経済の比重を大きく高めた。しかし、今日、中国社会主義国家の資産(それは労働者権力の国家にあって、労働者農民をはじめとする勤労人民の社会的所有物である。)の蚕食が、非合法か合法化の違いは別にして、進行しているのは事実である。国有企業が私的資本に売買され、それを自分たちの社会的所有物と考える労働者によって抗議され紛争となるケースが頻発した時期もあった。国有企業幹部、行政、党官僚の腐敗と汚職は眼にあまる。私的企業と国営企業の環境破壊、失業、勤労者のセフーネットティーネットの崩壊が進行している。
そこに、<2008憲章>をネット上で発表し、1945年中国革命の社会的獲得物を
ブルジョア社会に売り渡そうとする反革命勢力が生まれた。
「ノーベル賞」を受賞した劉暁波を中心としたグループは、ネットに<2008憲章>を発表したが、彼らは序文で、1945年の中国革命そのものを否定し「共産主義革命は、国を全体主義の奈落に陥れた。」と攻撃し、中国資本主義復活のロードマップを示した。「市場経済体制の促進、産業と工業の政府独占の撤廃、国営企業の私有化を監督するための国家所有財産委員会の樹立、土地所有権と売買の保障等、社会主義革命のあらゆる成果、労働者階級の共有財産と国有地の私有化で、労働者階級の賃金奴隷化を復活し、農民階級の生命と生活を破壊しようとした。
これらの現象は、次の事を教えてくれる。
社会主義革命によって獲得した、「生産手段の社会的(国家)所有」と「土地の国有化」それ自体が、自律的に働き、機能して「社会主義経済体制」と「プロレタリア独裁」(社会主義の完全な実現に至る過渡的政治権力としての)を無条件に守って呉れると言うものではないと言うことだ。
資本主義は、商品経済自体が持つ自律的運動に従って、その障害となる条件を取り除く国家の施策により生き延びることも可能だ。(労働者階級・民衆の意識的な反資本主義社会革命が起こらない限り)しかし、社会主義は、それを取り囲む、圧倒的な資本主義世界市場を基礎に、その延命のために相互に覇権を競い、生き延びようとしている帝国主義諸列強の、経済的・軍事的圧力の包囲の中で、その社会の主体である労働者階級の・意識的・自立的・創造的な実践と戦いがなければ、その存立は危機に曝されるに違いない。
中国社会主義の現実が示す様に、社会主義革命によって獲得した社会的成果を守る事は決して容易ではない。
我々は、共和国憲法に明記された「(共和国は)人間中心の世界観であり、人民大衆の自主性を実現する為の革命思想であるチュチェ思想をその活動の指導的指針とする。」こと、そして、「国家は、都市と農村の差異、労働者階級と農民の階級的差異をなくすために、農村技術革命を促進し、農業を工業化、現代化し、」「公民の権利及び義務は、‘1人はみんなのために、みんなは1人のために’という集団主義原則に基づく。」と言う思想は、社会主義が、働く労働階級の絶えざる階級意識の追及無くしては、一時も存立しえない事を示唆している。
その様な事を考えながら、我々は、社会主義朝鮮の門をくぐった。(続)
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