「横田めぐみ・偽遺骨」は、日本政府による国家的でっち上げ
                                      (2007年11月18日)


○政府は、3鑑定機関が行った、全ての資料を公開せよ
○日本の言論機関は、この問題に関して、報道の責任義務を果たせ


「敵対関係からは、解決の糸口は無い」

別項に掲載している、ハンギョレ東京特派員記者のインタビユー記事(“北―日、共同調査を通して拉致問題解決を”)の相手である、田中前外務審議官は、20029月の小泉第一回訪朝と「ピョンヤン(平壌)宣言」、を準備した前外務官僚である。日朝関係にとって、この平壌宣言は、65年日韓条約によって一層固定化された朝鮮半島の分断から、統一への道筋と、日本帝国主義の植民地支配に対する戦後清算の第一歩を切り開く展望でもあったが、第2次小泉訪朝後の、「横田めぐみの“にせ遺骨”問題」によって(日朝関係は)大きく頓挫した。
しかし今 核を巡る6カ国協議のプロセスが、北韓と米国を中心に、11項目の核無能力化の措置・ウラン濃縮計画の「証拠に基ずく明確な解明」および「核開発計画の申告」と言う合意に沿って、その履行が順調に進んでいる。しかし日本は、「拉致問題」に対する間違った対応に固執して、東北アジアの平和構築の障害となってきた安倍政権の破綻路線を、福田政権は未だ修正できないで居る。 田中前外務審議官は、日朝関係の最大の障害となっている「拉致問題」解決の為には、“対北強行世論”におもねって、北と対話をしないのは間違いだ」し、「敵対関係からは、解決の糸口はない」と、これまでの政府の対応を批判している。
しかし、田中は、安倍の対北政策の狙いが、「拉致」を自己の国家主義的政策の道具として利用し、「強硬な世論』を誘導し国民を「衆愚」に追い込むことを意図してきたことに、寛容であるか、見落としているか、のどちらかだが、6カ国協議の進展の中で(国家介入による情報操作とマスメディアの翼賛化の結果としての)国内の「強硬世論」を乗り越える努力の必要を強調している。

世論を、反北朝鮮・ヒステリーに導いた手段と目的

日朝関係改善の道は、2004年、小泉の第2次訪朝までは、紆余曲折はあったがほぼ順調であった。しかし、めぐみの夫・金英男から引き渡された遺骨を、「偽物」と断じた当時の細川官房長談話を契機として、安部晋三(当時)拉致問題対策本部長と拉致家族会は、マスメディアを巻き込んで、めぐみ生存説と対北制裁政策の正当性を大合唱することとなるのである。
「北朝鮮の蛮行」イメージの形成に成功した安倍と、拉致連協及び家族会は、全国的な国民的ヒステリーによってメディアと大新聞を呪縛し、「自主規制」下に従え、言論機関をしてその客観的事実の報道の義務を放棄させ、言論と報道の自由への重大な侵害を生みだす事態となった。安倍一派が、国民的ヒステリーに後押しされ国家権力を手に入れると、国民の基本的人権と、表現と言論の自由に対する国家権力の蹂躙・権力の援護を受けた拉致家族会の前に、大マスメディアがひれ伏し、国家の宣伝機関と化すと言う異常な事態が現出した。

権力の待女となった言論・放送界

「放送の不偏不党、真実及び自立」(放送法第一章)に立脚するはずのNHKが、20061024日、安倍政権の「放送命令」を受け入れ、短波放送「しおかぜ」によって「公共の電波」を、〈救う会全国協議会〉と言う、右翼国家主義者に支配された極めてイデオロギー的な一団体に明け渡し、現に今も、利用され支配され続けているのだ。新聞協会は、拉致被害者への報道自粛と独自取材による記事の制限、さしずめ、国家と拉致連や家族会による報道検閲が、今もまかり通っていることは紛れも無い事実である。拉致家族会のある幹部は、そのホームページで、外務省に直接電話をかけ外交政策にまで〈口出し〉していることを自慢げに報告している。彼ら家族会と外務省や各新聞社との「やりとり」を、かれらのプログやホームページを開けてみればよい。ぞっとするほど検証することができるだろう。
日本のマスメディアの体たらくは、この拉致問題に限らない。国家と資本と民衆に関わるあらゆる問題で、すでに、国家と政府の意向に沿う御用メディアへと大きく傾斜している。いま、全国各地で開かれている憲法改悪やテロ特措法に反対する大規模な集会や、非正規労働者の若者が行う小さいが切実な示威行動、の動向を伝える大新聞はほとんどない。韓国の軍事独裁政権下で公益性の名で権力の広報係に転落し、巨大メディヤにしてもらった恩が忘れられない韓国の3大新聞(東亜、朝鮮、中央など)は、ハンナラ党保守政権の復活をリードし、サムソン等の大資本の利害の擁護者であって、ソウルにおける1111の巨大な労働者農民の示威行動を完全に無視したこととどこか似ているようだ。民衆の、6月抗争を髣髴とさせる示威行動が戦闘警察と衝突した姿を見て、それが直接的には彼らの嫌いなノ・ムヒョン政権に向けられているとしても、民衆の矛先は本質的には資本家階級に向けられているものであると警戒しているからだ。

「横田めぐみ偽遺骨」の国家報道を垂れ流してきた言論

大新聞とテレビジャーナリズムは、「拉致問題」の中で、北朝鮮と総連に対する「侮蔑」と「憎悪」のキャンペーンに核心的に利用され、北への「制裁」と総連を初めとする在日朝鮮人への「弾圧」行為の正当化に、最もよく利用されてきた「めぐみの偽遺骨」問題が、全く科学的根拠に基ずかない国家的フレームアップ(デッチアゲ)の疑いが濃いものであることが、幾度と無く指摘されてきたにも拘らず、今までその事実すら報道しなかった。また日本政府と外務省は、第三者による科学的再検査を一貫して拒否し、その検査を行った本人との一切の接触さえも禁じ、北朝鮮の遺骨返還要求にも応じていない。今もなお多くの国民は、国家権力とマスメディアによって流布されてきた「偽遺骨を送りつけた北朝鮮」と言うデマの刻印を払拭できないでいるのだ。

日本政府は何を根拠に〈偽物〉と主張したのか?

04128日、当時官房長官・細田が記者会見を開き、「遺骨は、偽物」と断定した。彼がその根拠としてあげた「科学的で最も権威のある鑑定」とは、帝京大学医学部法医学教室の吉井富夫講師(当時)の鑑定を指すが、北朝鮮はその直後、2005124日「朝鮮中央通信備忘録」で次のように反論した。(参考資料1を参照)
3つの機関の検査のうち、東京歯科大学は、骨片が微細で鑑定困難。科学警察研究所は、遺骨が高温で焼かれたのでDNAの検出不可能。帝京大・でも5つの骨片の一つは異なる結果がでた。日本政府が断定した“最高水準の研究機関”による客観的で正確な検査“は、疑問点が多い」さらに「日本の週刊誌〈週刊金曜〉20041224号から引用して<、DNAを検出できなかったと言う事実と検出できたと言う事実は同じ科学的事実である。法医学の為の設備として世界的な環境にあるはずの科学警察研究所が検出出来なかった事もまた、無視すべきでない結論のはずである。結論を採用するとき、委託した2つの研究機関の結論が一致したとき、それを採用すべきであろう。食糧支援を中止し経済制裁うんぬんの決定に繋げることには、科学的分析の方法を歪曲して政治的に利用しているに過ぎない>との指摘を転載している。
200522日付、英国の科学専門誌オンライン版「ネイチャー」(www.nature.com)は、帝京大・吉井富夫講師とのインタビューを掲載した。彼はそこで「火葬された骨片標本鑑定の経験はまったくない。自分の鑑定は確定的でなくサンプルの汚染の可能性もある。」と自ら鑑定の科学的根拠を否定した証言をおこなった。日本政府はこの吉井の証言記事を事実と異なると否定し吉井はその後、警察庁科学警察研究所医課長に抜擢され、この鑑定に関わる一切の接触を断つよう指示された。これについて、20054月7日版「ネイチヤー」は、吉井の科学警察研究所課長への「栄転」は、国家による口封じであり、「遺伝学者の新しいポストは、DNA鑑定に関する証言を止めさせるかもしれない」と指摘した。

韓国の法医学専門家はこぞって、日本の鑑定方法の信頼性の欠如と経験不足を指摘した

韓国・ヨンハップ(連合)ニュースの2005125日付は、韓国においても「ネイチャー」に掲載された「めぐみ遺骨問題」が論議を呼び、北韓が「朝鮮中央通信備忘録」によって日本政府に抗議した直後から、韓国の法医学専門家によって、日本の焼却された遺骨の鑑定に対する経験の無さと分析法の問題点が数多く指摘されていることを伝えていた。
若干長くなるが引用する。
「ソウル大学イ・ジョンビン医大教授、国立科学捜査研究所・パク・キウオン遺伝子研究室長、最高検察庁のイ・スンファン遺伝子分析室長等、遺伝子鑑定には見識のある法医学の専門家である。3人は、今年1月、日本側の遺骨鑑定結果について一様に、
1200度の高温で火葬された遺骨からDNAの検出は
事実上不可能だ。
▲仮にDNAが検出されたとしても、分析の過程で他の物質で汚染された結果だと言う分析を示した。

イ教授は、1994年の「チチョン派事件」で焼却された死体の骨からDNAを抽出して死亡者の身元の確認に成功し、この分野最高の権威と認められている。イ教授は北の備忘録を検討して「北の主張にも理がある。」と評価した。そのうえ「私も火葬で粉になった遺骨のDNA鑑定を何度もやったが1件も成功しなかった。」といった.
パク室長は、帝京大が使用したミトコンドリアDNA分析法が有する基本的問題点を提議した。「ミトコンドリアDNAを使って分析するところは多くなく極めて敏感な実験であり同じサンプルをもってしても、方法によって結果が代わることが出来る。」と、分析方法の盲点を指摘した。
イ室長は、11日、帝京大の研究チームが使用したと報道された遺伝子分析法(nested PCR)について、「この方法は、遺伝子を2回以上増幅させて分析する事から、増幅過程が繰り返される都度に正確さが欠けていくと言う短所があり、法医学専門家は、この方法による分析結果の信頼性を認定することに、極めて保守的立場をとっている。韓国は、大邱地下鉄火災事件の様な大事故を通じて炎上した遺骨の鑑定に対する豊富なノウハウを蓄積してきた反面、日本は、経験が浅いことで知られている。「ネイチャー」はこれに関連し、“日本の法医学専門家は火葬された遺骨の分析経験があまりない”と、明らかにした。」と報じているのだ。
2005210日、日本政府(外務省)は、「北朝鮮側“備忘録”について」で次のような「反論」を行った。一部を紹介する。(全文は、下記・ 参考資料1を参照)
「日本側における“遺骨”とされたものの鑑定結果は、日本の刑事訴訟法等の法令に基つく厳格な手続きに従い、日本で最も権威ある機関の一つが実施した客観的かつ科学的な鑑定に基つくものである。北朝鮮側が“備忘録”において、この鑑定結果を“捏造”と断言していることは、鑑定手続きの厳格さや、DNA鑑定の技術水準に関する現実を少しも認識していないことを表しており、わが方としては、このような北朝鮮側の見解は全く受け入れられない物であることを明確にしておく。北朝鮮側が如何に抗弁しようとも、“遺骨”とされたものの一部から横田めぐみさんではない全く別人のDNAが検出されたことは明白であって、北朝鮮側の説明が虚偽であったと言う日本政府の結論を否定することは不可能である。」と、居丈だけに主張している。
この日本外務省の文書は、北韓の「備忘録」が、専ら、日本の鑑定過程における科学的根拠への問題点を、冷静かつ客観的に指摘しているのに対して、「日本の権威ある鑑定」が「世界の権威」であるかのような妄言で、「客観的かつ科学的で、その手続の厳格さと技術水準のレベルから言って、問題点を指摘される筋合いは無い」と言う、科学的技術的視点からの対応で無く、問答無用的傲慢不遜な、政治的意図を持った主観に脚色されたものである。「日本政府の結論を否定することは不可能である。」と言う文言に至っては、この一行に、真実を隠し、虚偽を事実と言いくるめて、民衆をその暴力で黙らせようとしてきた国家権力の姿が見えるではないか!当時の安倍右翼集団の手先となった外務省の、知的レベルと道徳的頽廃を示して余りある。
帝京大・吉井講師(当時)の、同じ証言記事「ネイチャー」(200522付)で、かれは「骨片を拾った人の体液などで、サンプルが汚染されていた可能性があり(別人のDNAが検出されたとしても、このことから)別人のものとは断定していない」と証言したが、これを否定する日本政府は、今も吉井による鑑定結果を記録した文書の公表を拒否している。「炎上した遺骨の豊富なノウハウを持った」韓国の法医学の専門家からもこぞって、「問題のある保守的鑑定方法と指摘」された、「分析経験のあまりない」日本の鑑定が、どうして「全く別人のDNAが鑑定されたことは明白」であることに成るのか?「鑑定の技術水準に関する現実を少しも認識していない」のは一体どちらなのか?

鑑定機関の科学的結論でなく、「政府の鑑定結果」だと認めた福田政府

このような科学的根拠に乏しい鑑定結果によって、横田めぐみの遺骨を、「別人の偽物の遺骨だ」と決め付けた日本政府の行為が、いかなる経過の中でいかなる意図を持って生まれてきたのかが、今徐々に明らかになりつつある。
2007115日参議院、「北朝鮮による拉致問題等に関する特別委員会」において民主党・川上義博は、関連質問の中で、政府に対し横田めぐみの遺骨鑑定に関して次のように質問した。
「これは一体誰が横田めぐみさんのものでないと言う結論を、これは鑑定した吉井さんがその結論を下したのか、政府がその結論を下したのか、どちらなんですかと言うことなんです。」(「国会会議録検索システム」より原文のまま)
この質問に対し政府参考人・伊原純一(外務省参事官)は次のように答えている。
「この横田めぐみさんの遺骨であるとして渡されましたものについては、科学警察研究所及び帝京大学で鑑定をしていただきまして、その結果、一部から横田めぐみさんではない全く別人のDNAが検出され、その旨は同年128日に官房長官より鑑定結果と言う事で発表したわけであります。
この鑑定結果は、わが国の刑事訴訟法等の法令に基つく厳格な手続に従って日本で最も権威のある機関のひとつが実施した客観的かつ科学的な鑑定に基つくものでございますので、これを政府の鑑定結果として発表したものであります。」(同上、原文のまま)と。この後半4行の答弁のくだりは、この外務官僚が05210日の外務省「北朝鮮“備忘録”について」という文書の文言を、オウムのように一言一句繰り返していることが分かるであろう。福田政権下の外務省も、安倍右翼政権下の外務省とまったく変わりがない事をしめしている。
政府は、川上議員の「結論を出したのは、吉井か、政府か」という質問に対しては、明確に答えないものの、「政府の鑑定結果として」とは、政府が「政治的に結論を出した」と、言外に言ったようなものである。鑑定の拠り所とした帝京大・吉井のデータさえ公表できないのだから、勿論川上の質問には答えられるはずも無い。しかし、当時安倍自民党副幹事長が「嘘つきのテロ国家」という反北キャンペーンの最大の道具として用いたのが「北の偽遺骨」である。国民と世論に、抜きがたい反北感情を植え付け、「ピョンヤン宣言」の履行を踏みにじり北への人道支援の約束を反故にし、在日朝鮮人と故郷を結ぶ連絡船の往来を妨害するどころか、北の脅威を炊きつけることによって、憲法改悪と国民の国家主義的統合への動員に利用した罪業は万死に値する。

野党は、政府に対し、鑑定機関の全資料の公開を迫れ!

「救う会」は、韓半島の平和に敵対する妨害行動を直ちにやめろ!

野党は、今剥がれつつある、国家による大フレームアップを、徹底的に明らかにする任務があるはずだ。政府判断の根拠としたと言う、吉井氏と3機関の担当者の証人喚問を要求すべきだ。日本政府が鑑定を行った3つの機関の全てのデータを公表させ、いまだに、北韓の返却要求を拒否して政府が隠している〈遺骨〉とデータを、第三者の国際機関によって客観的科学的に鑑定すべきと要求しなければならない。
拉致問題の「解決」は、日本政府の、北韓に対するこの様な敵対的行動の中止と安倍政権下で繰り返されたデッチアゲ行為や、総連と在日朝鮮人への不当弾圧行為への反省と謝罪からはじまるだろう。
更に、拉致家族に虚偽の情報を流し、彼らをして、北韓への敵対的行動に駆り立てるだけで問題の解決を放棄してきた、これまでの日本政府の北韓政策を全面的に総括しなければならない。
安倍政権とともに「救う会全国協議会」を牛耳ってきた、佐藤勝巳、西岡力と、自民・民主一部議員で構成される右翼集団の行動や言動は、拉致家族を食い物にして、他国に対する「体制打倒」を目的とした政治集団を髣髴とさせる。しかし、彼らの存在自体、六カ国協議が進展し、とりわけ北韓の核の放棄と引き換えに、米国の果たすべき課題としての北に対する「テロ支援国家指定解除」が、年内か、遅くとも年始に行われると言う既定事実と、南北和解、朝鮮戦争休戦協定の平和協定への締結から始まる、極東アジアの平和に向けての大きな一歩の前に、空中分解を遂げるに違いない。拉致家族に残されたいくつかの問題は、北韓との敵対でなく協調の中で共に解決できる問題であることが明らかとなるであろう。彼らの〈指定解除阻止〉と言う行動は、六カ国協議の妨害であり極東平和に対する敵対行動以外の、なにものでもない。
六カ国協議の目的が、韓半島の核の撤去にあり、その為には北韓と米国の和解が前提であることを、認めたく無いと言う政府と人間は、今、世界の物笑いになっている。

<参考資料>

2005年1月24日 朝鮮中央通信備忘録(全文)

  http://www.ryuhaktong.org/material/others/05.html

 

2005年210日 外務省ホームページ 「朝鮮側備忘録について」
  http://www1.korea-np.co.jp/sinboj /j-2005/04/0504j0127-00007.htm