○植民地支配の反省に立った新しい展開を!!
○制裁より対話を!!
7月10日・京都で、蓮池透氏の講演会が開かれた ! !
○北朝鮮攻撃と制裁路線にしか視野がない家族会に、疑問を感じた蓮池透さん
京都駅前の、キャンパスプラザ京都、4階・第3講義室前は、入りきれない人々の群れで溢れていた。北韓による「拉致家族会(拉致被害者家族連絡会)」前事務局長・蓮池透氏の講演会に参加しようとする人達だ。予め入場整理券を受け取った参加予定者以外、立ち見で良いと、当日来た人々が、会場の後ろにギッシリと並んだ。
「拉致問題」で、北韓攻撃と制裁路線しか視野にない、日本政府と「家族会」の運動のあり様に疑問を抱き、更に、彼等の「意に沿わない報道」を自己規制し、真実と多様な意見を伝える責任を放棄した既存の報道・言論機関に対し、“今、運動の内部から異議を唱える人間がいなければならない”と考えた蓮池氏は、最近、京都の‘かもがわ出版’から、「拉致―左右の垣根を超えた闘いへ」を著わした。
この日の講演は、「かもがわ出版」系列の‘ブックセンター・本の風’と「日朝協会」の主催で行われたものだ。
○拉致問題を、北の体制打倒や政治信条に利用する‘救う会’と家族会からの決別
この著作に対し、すでに、朝日、東京、韓国ハンギョレ紙が、著者とのインタビュウを行い、雑誌‘アエラ’が書評を掲載(一水会/鈴木邦夫)、出版直後の5月、蓮池薫氏の地元新潟で講演がもたれ、6月12日には、日本記者クラブに蓮池透氏が招かれた。この京都講演の翌日には、京都造形大学理事長が、この「勇気ある出版」に対し、大学として全面支援するため、透氏を招請した。 △会場を埋める聴衆
蓮池氏のこの様な活動が、国民に支えられ大きく発展すれば、今日まで日本の多数の「世論」の脳髄を冒してきた「反北朝鮮熱病」に対する、冷静な外科的投薬的治療の一撃となるであろう。また「拉致問題」の解決に向け、何らの外交的努力もせず、「制裁と圧力」のカードしか切らず、それを「核とミサイル」に結び付けて「北朝鮮基地先制攻撃」と言う帝国主義的侵略戦争の画策に利用する、日経連、自民と民主党の改憲勢力の狙いを打ち砕く力となるに違いない。
○「私が、裏切り者と呼ばれている蓮池です」
蓮池氏が、演壇に立って冒頭、「(右翼や‘救う会’から)、‘裏切り者’と呼ばれている蓮池です。」と自己紹介した時、会場は連帯の笑いが巻き起こった。
「一度は、(知識の不足や思い込みから)北朝鮮制裁の急先鋒であった私が、家族会・救う会と絶縁し、彼らから裏切り者呼ばわりされるように舵を切らなければ為らなかったのは、拉致家族会、及びそれを牛耳る救う会が、‘拉致問題’を、北朝鮮の体制打倒等の政治的信条や‘核・ミサイル’と言った国家の政策に結び付けて「制裁」を政府に要求し、北朝鮮を交渉の場から手を引かせる原因を自ら作っていることにある。拉致問題は政治的目的と如何なる関係も無い。家族会は、政治団体でもなければ国家の政策に口を出す組織でもない。 △講演する蓮池透氏
初めて、家族会が政府に呼ばれて官邸に言った時、家族会が呼ばれたはずなのに、救う会の連中が真ん中に陣取り、大きな顔をして座っていたのを不審に思った記憶がある。今や‘救う会’は、北朝鮮の体制打倒と言う政治信条の実現に,拉致問題と家族会を利用しているだけである。
○多様な意見を否定する‘救う会’と‘家族会’
そして、彼らには、何よりも‘多様性と少数意見’を尊重し受け入れる考えが無い。今日の世論や、世相もそうであるが、それは日本を閉塞状況に追い込んでいくだけだ。少数意見の尊重こそ、多数意見の間違いが明らかになったとき、人々を救う事が出来る。
救う会と家族会は、先日、田原総一郎氏がテレビで発言した事(「政府は真実を隠している」等)に対し、その発言根拠を追及し、「謝罪」を求め、それでも我慢できないとBPO(放送倫理検証委員会)に提訴した。「謝罪」しても、しつこく認めないと言うかれらは、その発言の内容が自分達の政治的目論見を破綻しかねないと感じているからだ。かれらに、多様な意見を受け入れる考えは無い。
NHKで、9・11以前は、「拉致」は取り上げられる事はなかった。
クローズアップ現代で、かって「取り上げる」といわれたが、30秒に圧縮したと伝えられた後、松田聖子の結婚式の為、それもなくなったと言われた。今日、NHKは何でも取り上げている。ほとんど垂れ流しているのだ。「拉致問題の関心を維持する為」と言うが、米国の北朝鮮に対する制裁解除が決定した時、NHKは横田夫婦をスタジオに呼び、“(米国の決定は)北へのカードを失った”などと、“強硬姿勢”だけが解決の道などと言う、見果てぬ夢を追い求めさせる放送を流した。私は、直ぐNHKに抗議を行った。
○北朝鮮の「ミサイル、核」は、米国に対する‘ラブコール’
北朝鮮の「ミサイル、核実験」は、米国に対するラブコールである事を認識しなければ為らない。米朝直接対話を求める北の意思表示である。(と、弟も言っている)。
オバマは、それを理解しているのであろうか。考えが不明である。日韓が、アメリカ傘の下にあること、これが問題である。李明博が北に敵対的と考えられ、日本が制裁路線をとり、オバマの真意が(ブッシュよりも)分りにくいし方針が不明瞭。オバマは、北と交渉をする気があるのか?北を保有国として認めないとしても、インド、パキスタンとのダブルスタンダードと言うジレンマから逃れられるのか。
そして、日・韓・米主導の「安保理制裁・1874号」は、(北の真意を汲み取り)北と、日・韓・米の関係を打開するもの、ではまったくない。「経済制裁」の後に来るものは「武力行使」しか、ないではないか。中国の介入で「要請」の文言が入ったが、「制裁」をすれば、どうなると考えているのか、安保理事国の人々に聴いて見たいものだ。
○日本政府による、「拉致は付け足しの便乗制裁」は、拉致問題の政治的利用である
(侵略者や攻撃に対し)「死なば諸共」と、結構危険な軍部指導層もいると弟は言っているが、この中で日本は、(安保理国連制裁以外に)「拉致もあるから」と日本独自の「追加制裁」を付け加えた。
これこそ、「拉致」は付け足しの「便乗制裁」ではないか。それを喜んでいる連中がいる。拉致が政治に利用されているのだ。
救う会の連中は、もっと早くしなかったからだとか、もっと強くしなかったからだとか言うが、拉致問題の情勢は「制裁」によって1ミリでも動くものではない。動いてはいないでは無いか。
「制裁」は、かって,支援組織[救う会]が言い出したものだ。私たちは、この支援組織による洗脳を受けたと言える。昔、拉致問題が「疑惑」「でっち上げ」程度に言われていた頃、銀座での署名は、1日に1名も無かった。そのときに「善意」を見せてくれ、北朝鮮の情報を受けたのが「現代コリア研究所」の連中だった。
○被害者が強者に変貌してしまった9・17
当初、救う会に名を連ねていた朝日の石坂さん、サンケイの安部記者、共産党国会議員秘書の兵本さんなどが参加する「救う会」は、佐藤勝巳、西岡力などに乗っとられ、佐藤の1000万横領事件など全く変質してしまった。かれらは、北朝鮮の体制崩壊を我々に「予見」し“今年の冬は、もう持たないだろう”と、言い続けて、もう10年になる。北は「潰せばよい」と、家族会をレクチャーしてきたのだ。彼等は、家族の「支援」ではなく家族の「利用」を考えているのではないか?と言う、大きな疑問を抱くに至った。
2002年9・17(ピョンヤン宣言締結時の、5名生存8名死亡)、で、事態は一変した。「北朝鮮けしからん」で驀進し始めた。
被害者が強者に変貌してしまったのだ。自浄作用が発揮できない組織としての家族会が固定化されて行った。
○弟(薫)帰国の裏話
弟、薫の日本帰国の状況について言えば、彼は、「帰国」ではなく2週間の予定で「来日」した「使節団」だった。羽田の裏口からこっそり家に帰り、“親孝行し、横田さんを連れて帰えるという任務”をもっていた。”しかし、羽田のタラップの姿が世界中に流れてしまった。
薫のパスポートは、「出生地新潟」となっていた。
薫から、北政府から1000米ドルが支給されてきたので、子供にコンピュータを買って帰ってやりたいから、銀行で日本円に交換するように頼まれた。銀行で、100ドル紙幣が3枚偽札だといわれたので、偽札所持で北に帰れなくなればそれに越した事は無いと思ったが、他の銀行では、本物と言う鑑定だった。ずい分日本の銀行もいい加減だ。
5人の北への帰国を安部と中山が止めたと言う美談になっているが、事実は私達が説得したものだ。弟の様子から、日本にはもう戻らないだろうと感じたから、日本人のアイデンティティーとして日本のパスポート、(ピョンヤン生まれの子供の)出生届、運転免許証を取らせるようにした。しかし、子供か親かの選択を迫ることとなり、きつい問題だった。
○家族会の青いバッチは、今や右翼の象徴
日本政府は、米韓に対し、「拉致、ミサイル、核」が、「包括的問題」だとしているが、これはありえない。これ等は別問題だ。
キムジョンイル世代が交代したとき、拉致問題は、北方領土問題のようになる。外務省にはいま、アンダーテーブルのパイプはない。田中氏が北のミスター]と持っていたが、批判を浴びたのを恐れ今は無い。
しかも、北の言葉を正確に通訳する外交官も、今はいない。
「ブルーリボン」をつけている国会議員や政府閣僚は、何かやっているのだと,格好を付けたいだけなのだ。あの青いバッチは、今や怖いおにいちゃん達(右翼)の、象徴となってしまった
日本政府が連発する「制裁」は、ただの一方通行である点で、対話と交渉に比べ簡単な事だ。しかも、「家族会」も「それを望んでいる」のだから尚更だ。これは既に「思考停止」そのものである。
「ミサイル、核―だから制裁だ」と言うが、それが我々の拉致問題と、どう関係していると言うのだ。何の関係も無い。
○すみやかに平壌宣言を実行する事が、日本政府の責任だ。
9・17日朝平壌宣言は、日本帝国主義の植民地支配を通しての数々の罪悪を謝罪しているではないか。数十万人の朝鮮人強制連行も認めているではないか。1965年韓国政府に対して行った{日韓条約による賠償支払い}と同じように、それに対する賠償の責任も明記している。日本政府はそれを実行することしかないのだ。平壌で、安倍も小泉も「8名死亡」の報告を認めているにもかかわらず、今日も尚、「全員生存を認めないと、平壌宣言は履行しない」と言う安倍や政府の態度は、ジレンマだ。その彼等の思考の根底に、 △講演会の後、著作にサインをする蓮池氏
過去の日朝の歴史に対する反省と認識がないのだ。
行動対行動の原則が必要だ。
弟は、端的に「お金(過去朝鮮の財産を収奪し、朝鮮人を傷つけた事に対する賠償)を持って、謝りにくるのが日本だと、北朝鮮は考えている」と言っている。日本政府は約束も守らず反対の事ばかりして、交渉と対話の席から逃げているし。北を怒らせているのだ。
北への「経済制裁」は、決して北朝鮮だけに影響がある問題ではない。人道的観点からも「在日コウリアン」の問題がもっと論議されるべきである。
○横田さん夫婦は、平壌に行き、お孫さんと会うべきである。
私を訪ねてくる米国人に、北東アジアに関心を持ち、良く勉強している人が多い。彼等は、「横田さんは、何故北へ行って孫と会わないのか?」と質問する。私は、「横田さんを、止めている人がいるからだ。」と答えている。横田さんは「国が行け」と言えば行くでしょう。
「孫の画像が出ると、拉致が“幕引き”になると言うが、自分達が幕引きをしなければ幕引きにはならない。横田さんは、娘さんの旦那さんにも会うべきだし、お墓も見てくるべきだと私は考える。
○日本の閉塞状況を打破するため、日本の左翼に期待したい。
今や世論は、あたかも“日本は「正義」で、北朝鮮は「悪」である”かのように、盛り上がっている。世相が、やみくもに右旋回を始めているように見える。こんな状況が続けば、「北の崩壊」の前に、「日本自体が崩壊」するに違いない。だから自称左派の人々に、もっと元気を出して貰いたい。日本の状況も拉致問題も、左の人達の力を借りなければこの閉塞状況を打破する事はできないと考える。
家族会は「制裁」要求の一方で、もっぱら米国に「土俵を作ってくれ」と頼って行った。行けば、「人権は分った」と言うにきまっている。しかしそんな行動は何の意味も無い。何故そんな考えになったのか。彼らがどんな頼りになると言うのか。日本政府と北の間でこそ、交渉と対話が必要なのだ。アメリカは、イラク、アフガン、遡ればベトナムで、人殺しを繰り返して来た国だ。
ジャーナリズムは自ら「聖域」をつくり、多様性の喪失の中で自分達を崩壊させている。情けないエンタメイン化である。私たちは左翼の人達に期待している」と。
(文責 柴野貞夫 2009年7月13日)
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