|
|
|
「満月の日の悩み」 |
|
|
|
|
|
|
|
男 やや消極的。満月の日になると、元気が無くなる。 |
|
|
|
女 仕事帰りに男にぶつかられてしまった女性。前向きでハキハキしている。 |
|
|
|
|
|
|
|
|
1 |
男 |
|
あ、すみません! |
2 |
女 |
|
ちょっと! 気をつけてよね! |
3 |
男 |
|
すみません。前見てなかったもので |
4 |
女 |
|
見てなかったもので……ってちゃんと見て歩いてよね! |
5 |
男 |
|
ああああ済みません! わ、私満月の夜はいつもこうなんですよ。 |
6 |
女 |
|
はあ? 満月の夜に元気が無いっていうの? それ変じゃない? |
7 |
男 |
|
な、何がでしょう? |
8 |
女 |
|
普通満月って言ったら元気になるもんでしょ? |
9 |
男 |
|
そ、そうなんですか? |
10 |
女 |
|
ほらさ、狼男とか滅茶苦茶元気になるじゃない。 |
11 |
男 |
|
え、いやそんな事無いですよっ。 |
12 |
女 |
|
なんでよ? 狼になるんだから元気になるでしょ? |
13 |
男 |
|
それもそうですけど、違うんですよ。 |
14 |
女 |
|
何が違うのよ? |
15 |
男 |
|
狼になりたくない時には、困ると思うんですよ。 |
16 |
女 |
|
なりたくないって、せっかく変身できるのになりたくないって変じゃない? |
17 |
男 |
|
いや、その、あのですね。なりたくないときだってある・・・と思いませんか? |
18 |
女 |
|
別にー? 狼になれたら面白そうじゃない。 |
19 |
男 |
|
はあ、分かってないなぁ |
20 |
女 |
|
な、なによ! その偉そうな言い方。だいたい、なんであなたがそんな事言うわけ? |
21 |
男 |
|
あー、それは。 |
22 |
女 |
|
それは? |
23 |
男 |
|
それは私が……だからですよ |
24 |
女 |
|
ん? 何? |
25 |
男 |
|
私が、狼男だからですよ。 |
|
|
|
(ファミレスに移動した二人) |
26 |
女 |
|
ええと、ハンバーグ二つ頂戴。あなたもそれでいいわよね? |
27 |
男 |
|
え、ええ、構いませんけど……あの、なんでこんなとこに来たんですか? |
28 |
女 |
|
お腹が空いてたの。立ち話も疲れるでしょ。でもさ、本当に狼男なわけ? どうしても、そうは見えないのよねぇ。 |
29 |
男 |
|
本当なんですって。 |
30 |
女 |
|
ま、いいわ。何が大変なのか聞かせてよ。今日は予定も入ってなくてつまんないなーって思ってところだし。面白そうな話じゃない。 |
31 |
男 |
|
あの、別に面白くなんか無いです。 |
32 |
女 |
|
それは聞いてみなくちゃ分からないでしょ。ね、聞かせてよ。 |
33 |
男 |
|
はあ……ええと何から話しましょうか? |
34 |
女 |
|
じゃあ、なんで下向いて歩いてたの? |
35 |
男 |
|
満月を見ると変身しちゃうんですよ。 |
36 |
女 |
|
見なければ平気なんだ。 |
37 |
男 |
|
はい。でも鏡に映ったのを見ても変身しちゃったんで、どこ見てても怖いんですよね。 |
38 |
女 |
|
うん、それよ。なんで狼になりたく無いなんて言ったのよ? |
39 |
男 |
|
そりゃあ、だって、ねえ? |
40 |
女 |
|
いや分かんないわよ。 |
41 |
男 |
|
まず、突然狼になったりしたらみんなびっくりするでしょ。 |
42 |
女 |
|
するわね。でも面白いじゃない。 |
43 |
男 |
|
私は面白くないんですよぅ。服は破れちゃうから朝になったら人間に戻っちゃうし……で、戻っても服は破けたままだし……アパートに帰ろうとしたら管理人さんに通報されそうになったんですよ。 |
44 |
女 |
|
あははははは! それおっかしー! |
45 |
男 |
|
笑い事じゃないですってばー! |
46 |
女 |
|
んで、他には? |
47 |
男 |
|
大騒ぎになって警察に狙われたり。ライフルで狙われた時は本当に怖かったんですから。 |
48 |
女 |
|
そりゃあ大変ねー。 |
49 |
男 |
|
全然、大変そうじゃないですね。 |
50 |
女 |
|
いやいや、ちょっとはそう思ってるわよ? |
51 |
男 |
|
はあ……デート中に狼になったときは…… |
52 |
女 |
|
あー、野獣の如く襲っちゃったと。このこのっ! |
53 |
男 |
|
そんなんじゃないです。毛深い人って嫌い! って嫌われちゃったんですよ。 |
54 |
女 |
|
狼だもんねえ。毛深いわよねー。 |
55 |
男 |
|
でも人間に戻れば、ほら、毛深く無いでしょ。 |
56 |
女 |
|
いや、見せなくていいから。 |
57 |
男 |
|
まあ、そんなところです。 |
58 |
女 |
|
ふうん、でもさー、メリットは無いの? |
59 |
男 |
|
メリット? |
60 |
女 |
|
そ、狼になって良かった事。 |
61 |
男 |
|
んー…あったかなぁ。 |
62 |
女 |
|
無いの? |
63 |
男 |
|
すぐ寝れる事? |
64 |
女 |
|
なんかパっとしないわね。他には? 物凄く速く走れるとか? |
65 |
男 |
|
ああ、そういや確かに。そのおかげで麻酔銃もギリギリかわせたし。 |
66 |
女 |
|
滅茶苦茶鼻が利くようになるとかさー。 |
67 |
男 |
|
うん、遠くの焼肉屋の匂いが気になって仕方が無いです。って、逆に損してる気がします。 |
68 |
女 |
|
それは考えようよ。美味しいお肉がどこかに落ちてるかもしれないじゃない。 |
69 |
男 |
|
いや、落ちてても食べないですから。 |
70 |
女 |
|
後ろ向きねぇ。 |
71 |
男 |
|
普通ですよ。 |
72 |
女 |
|
んーと、他には? |
73 |
男 |
|
ま、まだですかぁ? |
74 |
女 |
|
まだよ。あ! そうだ! 犬と話せたりするの? |
75 |
男 |
|
しませんよ。 |
76 |
女 |
|
え、だって狼でしょ? |
77 |
男 |
|
狼と犬は別ですよ。日本人とフランス人は喋れないでしょ。 |
78 |
女 |
|
どっちがフランス人? |
79 |
男 |
|
さ、さあ。 |
80 |
女 |
|
じゃあ、狼となら話せるの? |
81 |
男 |
|
一応。 |
82 |
女 |
|
何話したりするの? |
83 |
男 |
|
動物園の狼には、「半端者が俺様に話しかけるな」って言われました。 |
84 |
女 |
|
あー……そう。プライド高いのね。 |
85 |
男 |
|
ね、あんまり良い事ないでしょ。 |
86 |
女 |
|
まあ、でもさ、いつも狼になっちゃうって訳じゃないでしょ。 |
87 |
男 |
|
ええ、三日月とかじゃ別になんともないですね。 |
88 |
女 |
|
じゃあさー、やっぱり羨ましいな。 |
89 |
男 |
|
えー、羨ましいですかぁ? |
90 |
女 |
|
うん、そうよ。たまに狼になれるなんて楽しいでしょ。 |
91 |
男 |
|
でも…… |
92 |
女 |
|
うん、大変なのは分かるけどさ。たまにはそんな変な事があっても楽しそうじゃない。 |
93 |
男 |
|
楽しそうですか? |
94 |
女 |
|
毎日さー、おんなじ事の繰り返しで飽きちゃうのよねえ。そんな時にさ、狼になんかなれたら、良い気分転換になるんじゃないかな。 |
95 |
男 |
|
なりますかねぇ?でも、電車乗ってて月を見ただけでも、変身しちゃうこともあるんですよ。 |
96 |
女 |
|
それは気を付ければ良い話でしょ。考えようによっては月に一度のイベントって感じじゃない。 |
97 |
男 |
|
そうですかねえ? |
98 |
女 |
|
無いよりは有ったほうが選択肢は増えるわけでしょ。せっかく出来ることが増えたんだから楽しまなくっちゃ。 |
99 |
男 |
|
確かに、そうかもしれないですねえ。 |
100 |
女 |
|
ね、物は考えようって事よ。前向きに考えなさい。 |
101 |
男 |
|
はい、ちょっと気が楽になりました。 |
102 |
女 |
|
んじゃ、食べましょうか。 |
103 |
男 |
|
はい。あ、ここのハンバーグって目玉焼きが乗ってるんですね。 |
104 |
女 |
|
あー、そうねえ。なんか満月みたいね。 |
105 |
男 |
|
そう言われれば……確かに。 |
106 |
女 |
|
ちょ、ちょっと? 大丈夫? なんか毛深くなってきてるわよ。 |
107 |
男 |
|
わ、わおーーーーーん |
108 |
女 |
|
あー……こういうのでも狼になっちゃうわけね。こりゃ不便だわ。 |