日野 守♂ 15歳 一見おとなしくて優しそうな雰囲気。だけど、言う事はきつい。自分は頭良いと思っている節がある。 台詞数:56





品川 皐月♀ 17歳 自意識過剰。野望と夢に燃える多感な少女。ハイテンション。台詞数:45


新井 志穂♀ 16歳 病弱で引きこもりな少女。いつも元気無さそうにしている。人をからかうのが密かな趣味。台詞数:36












             跳ね回る風の下で


エピソードその5『ただのんびりと過ごしましょう』



1 「失礼しま……うわ!」
2 皐月 「ひっさしぶりぃぃ!!」
3 「いきなり突撃して来ないで下さいっ」
4 皐月 「君が中々来てくれないからだよー」
5 「中々って……あれからまだ一週間も経ってませんよ」
6 皐月 「私は待たせるのは平気でも、待たされるのは苦手なんだよぅ」
7 「すっごく身勝手ですね……」
8 皐月 「で、今日は入部だよねだよね!? 入部届けはばっちり用意してあるから安心してくれたまえ!」
9 「何勝手に人の名前書き込んでるんですか……」
10 皐月 「まあ、良いじゃないか。サービスだよサービス」
11 「はあ……まあそのつもりだったから良いですけど……」
12 皐月 「へえ? ふーん」
13 「な、なんですか。ニヤニヤして」
14 皐月 「いやね、君の事だからもっとじらしてくれるとばっかり思ったんだがね……へー……」
15 「別に良いじゃないですか。そもそも誘ったのはそっちです」
16 皐月 「ほー、日野君がそんなムキになるなんてますます……」
17 「帰りますよ?」
18 皐月 「えぇ!? ダメダメっ! せっかく入ったんだから付き合ってもらうよ。君に見せたいものがあるんだ」
19 「活動ですか?」
20 皐月 「うむ、その通り。というわけで移動しようではないか」
21 「ちょっと、だから引っ張らないで下さいって!」





皐月は守の制服の裾を掴んで引き摺っていく。



22 「連れていくってどこですか? また外だったらカバン取ってきたいんですけど」
23 皐月 「ああ、だいじょぶだいじょぶ。別の教室行くだけだから」
24 「はあ……」
25 皐月 「前に言ったかも知れないけど、一つ予備室があるんだよ」
26 「予備室ですか」
27 皐月 「そ。まあ、楽しみにしててくれたまえ」





校舎のはずれの方に連れてこられた守。



28 「ここって、物置か何かですか? 物が多すぎです」
29 皐月 「うん、元資料室で今は物置になってるよ。ま、使わないならと、うちらに貸してもらってるわけだよ」
30 「……はあ」
31 皐月 「おーい、居るかーい。お邪魔するよー」
32 「誰も居ないんじゃ……」
33 皐月 「ん、まあそうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
34 「なんですかそれは」





と、その時気だるい声で返事が返ってくる。



35 志穂 「どなたですか? ここには誰も居ませんし、金目の物もありませんよ」





そう言って、一人の女生徒が物憂げな表情と共に歩いてきた。



36 「いや、居るじゃん(ぼそ)」
37 皐月 「やーやー、久しぶりー。元気だったかね志穂君」
38 志穂 「こんにちは、会長。……いえ、元気じゃありません。昨日も風邪で休みましたから」
39 皐月 「そうか。ま、今日は元気そうじゃないか」
40 志穂 「だから元気ではありません。まだ少しだるいです……そちらの方は? 会長の新しい家来ですか?」
41 皐月 「いやいや、まだ違うよ」
42 「まだって……するつもりなんですか」
43 皐月 「あ、紹介しよう。彼は日野守君。一年生で、今日から我が独立書籍研究会の新しい仲間だよ。可愛がってあげてくれ」
44 志穂 「まだその名称を使ってるんですね……もう普通で良いと思います」
45 「あー、やっぱりそうなんですね。でも会長って呼びましたよね」
46 志穂 「ええ、読書部が正式名称なんですよ。会長というのは、まあ、あだ名みたいなものでしょうか?」
47 「はあ、そうですか……」
48 志穂 「それはともかく。自己紹介をしないと行けませんね。新井志穂です。二年ですから一応先輩にあたります。お見知り置きを」
49 「どうも。日野です。宜しくお願いします」
50 志穂 「しかし、入部当日からこんなとこに来るなんて物好きですねぇ」
51 「僕は、突然連れて来られただけです」
52 志穂 「はあ、それは災難でした。会長さんは、あの刑事コロンボに引けを取らないねちっこさですから」
53 皐月 「私に掛かれば、落とせない奴なんていないよん」
54 志穂 「……では、何故未だに恋人が居ないのでしょう?」
55 皐月 「え……そ、それはー……まー、その、あれだよ。私のメガネに適う男子が居ないってことじゃあないのかな。はっはっは」
56 志穂 「ちなみに、会長はただいま5連敗中でしたね」
57 皐月 「うぐぅ……」
58 志穂 「そういえば、また最近気になる人が居るとか――」
59 皐月 「って、うわー! ダメダメ!」
60 「……僕、席外しましょうか?」
61 志穂 「いえ、大丈夫です」
62 皐月 「うあー、私は大丈夫じゃないー」
63 「ええと、廊下で待ってます」
64 志穂 「いえいえ、もうこの辺にしときますから。会長、またお話聞かせて下さいね」
65 皐月 「もう二度と君には話さない……」
66 志穂 「で、どういったご用件ですか? 先ほども言いましたが、金目の物はありませんよ」
67 皐月 「ん、ちょっと日野君にここでの活動内容を見せてあげようと思ってね」
68 志穂 「……ここのですか? 活動と言えるか甚だ疑問ではありますが、よろしいですよ」
69 「いや、別に僕はどうでもいいんですが」
70 志穂 「……日野さん。そんな野暮な事を言うものではありませんよ」
71 「野暮って言ったって……」
72 志穂 「ま、それなりには楽しいですよ。テレビゲームとかお好きですか?」





志穂は薄笑いを浮かべ、奥へと手招いた。



73 「これは……なんですか?」
74 志穂 「見て分かりませんか? テレビゲーム、とかです。旧世代機ばっかりではありますが……」
75 「とかです。って揃いすぎですよ。なんでバーチャルボーイまであるんですか」
76 皐月 「いや、それを可愛い女の子にやらせると変な面白さがあるんだよ。うんうん」
77 志穂 「会長。変態すぎます。これは、まあ……さる親切な方からの寄付とでも言っておきましょうか」
78 皐月 「親切な方も何も、志穂君の――っ! もがもが、はふぁひてー(はなしてー)」
79 志穂 「さ、座り心地は悪いでしょうがお座り下さい」
80 皐月 「はふぁふぇー(はなせー)」
81 志穂 「ちょっとお喋りな人は置いといて、活動内容の説明に入りますね。まず、そのコントローラーを持ってください。」
82 「これを? はあ」
83 志穂 「では、電源を入れます。ポチっとな」
84 「電源?」
85 志穂 「はい、そうですよ。活動を紹介して欲しいとのことでしたので」
86 「活動って、これゲームじゃないですか……」
87 皐月 「もうっ、細かいなあ守ちんはー」
88 「変な呼び方しないで下さい。まったく……もう僕は帰りますよ?」
89 志穂 「残念。せっかくメタル狩りしてもらおうと思ったのに」
90 「嫌です。人のレベル上げなんてしたくありません」
91 志穂 「ゲームはお気に召しませんでしたか?」
92 「いえ、そういうわけじゃなくて。もう僕帰っていいですか?」
93 皐月 「ダメ!」
94 志穂 「駄目です」
95 「はぁ……まだ何かあるんですか?」
96 皐月 「せっかく来たんだから、帰るなんて酷いじゃないかね」
97 志穂 「そうです。それに、こんな美味しいシチュエーションは、なかなかありません。10年後に後悔しますよ?」
98 「もう、分かりましたよ。で、他に何かやるんですか?」
99 志穂 「じゃあ、読書にしましょうか。これならちゃんと部活っぽいですよ。どうぞ」
100 「確かに読書っちゃ読書ですけど、これマンガですよね」
101 志穂 「そうですねー」
102 「いいんですか?」
103 皐月 「いいのいいの」
104 志穂 「……本当は良くないんですが、活字ばっかりじゃ疲れますから」
105 「んー」
106 志穂 「お気に召しませんか? まあ、こっちに色々揃ってますので、どうぞご自由に」
107 「いや、僕は別に……って本当に色々揃ってますね。……この罪と罰の原語版なんて誰が読むんですか?
108 志穂 「少なくもとも私が知る限りでは、誰も」
109 「しかし、一緒に名前も知らない芸能人のエッセイとかもある辺り、混沌としてますね。確かに物置とは言い得て妙かも」
110 皐月 「まあ、これでもたまーに役には立つんだよ。どうしてもここにある珍妙な本が欲しいって人もいるからね」
111 志穂 「一年に一度くらいですけど」
112 皐月 「あっはっはっは……んで、何か気に入ったのは有ったかな?」
113 「んー、今のところは特に。で、これがここでの活動って事ですか?」
114 志穂 「はい。ただのんびりと過ごすだけです。基本的に私か会長しか居ませんけど」
115 「新井さんはいつもここに?」
116 志穂 「ええ。ここは静かですから誰にも邪魔されなくて良いんです」
117 「……確かに、ここは静かですね」
118 志穂 「気に入りました?」
119 「ま、ちょっとだけは」





一時間後、資料室から出る守と皐月



120 皐月 「楽しかったかい?」
121 「楽しかったとは言いがたいです。会長はずっとマンガ読んでるし新井さんはずっとレベル上げしてるし」
122 皐月 「まあまあ、なんだかんだ言って付き合ってくれたじゃないか」
123 「ふう……で、僕に何が見せたかったのかよく分かりません」
124 皐月 「ん、分かんない? 可愛かったでしょあの子? 私ほどじゃないけど」
125 「……どう答えて欲しいんですか?」
126 皐月 「あっはっはっは。そりゃ決まってるじゃないか」
127 「いや分かりませんから」
128 皐月 「まあ、それはともかく、ああいうのも有りさって言いたかったわけだよ。君は変に生真面目だからね。少しは型破りになりたまえっ! ってことさ」
129 「……じゃあ、明日から一日も来なくても良いって事ですか?」
130 皐月 「……ま、そうだね。私は大人だから、『それとこれとは話が違う』なんて言いやしないよ」
131 「へえ」
132 皐月 「でも、しつこく追いかけ回るかもね」
133 「いや、それってさっき言った事と噛み合ってないですよね……」
134 皐月 「来たくないのは自由だし、私がそれにどうするのかも自由だよ」
135 「なるほど……そういう考え方ですか」
136 皐月 「そうそう、だから明日も来てくれよ」
137 「はいはい。ま、行くかどうかは僕の自由ですけどね」