日野 守♂   一見おとなしくて優しそうな雰囲気。だけど、言う事はきつい。自分は頭良いと思っている節がある。 台詞数:67





品川 皐月♀ 自意識過剰。野望と夢に燃える多感な少女。ハイテンション。 台詞数:67












             跳ね回る風の下で


エピソードその3『こういうのも良いのかも知れない』






1 皐月 「ちょっとちょっと!」
2 「はい?」
3 皐月 「なんで帰っちゃうかねー」
4 「放課後だからです」
5 皐月 「そんな寂しい事を言わないでくれたまえ。今日も見学に来てくれると思って、楽しみにしてたのに」
6 「……僕の周りって自分の都合だけで話す人ばっかりな気がしてきた(ぼそ)」
7 皐月 「? どうしたんだい?」
8 「なんでもありません。それじゃ失礼します」
9 皐月 「そっかそっか。なんでもないのか。おつかれさまー」





と言って見送る皐月だが、ハッと気づいて追いかける



10 皐月 「って、まだ帰っちゃだめじゃないか!」
11 「なんなんですかもう」
12 皐月 「まあ、こうやって会ったのも何かの縁。さあ、速やかに部室に来てくれたまえ」
13 「何かの縁って思いっきり自分から会いに来てますよね」
14 皐月 「もう、細かいこと言わないでくれよ」
15 「はぁ……ともかく今日は見学に行くつもりは無いんで」
16 皐月 「じゃあ、仕方ないな」
17 「はい。それじゃ僕は帰りますから」
18 皐月 「よし、一緒に帰ろうじゃないか」
19 「結構です。一人で帰ります」
20 皐月 「酷いなぁ。可愛い女子が誘ってるっていうのになあ」
21 「……そういうのは、自分で言うものじゃないと思いますよ」
22 皐月 「お? 否定しないのかな?」
23 「……ともかく、帰ります」
24 皐月 「っとと、私はまだ帰る準備できてないので、少し待ってもらうよ」
25 「だから、僕は――」





皐月は返事を聞く素振りも見せずに駆けて行った。



26 皐月 「うん、よし! お待たせー!」
27 「別に待ってないです」
28 皐月 「じゃあなんで待っててくれたんだい?」
29 「なんか日本語がおかしいですよ。……ああ言われて帰るわけにもいかないでしょう」
30 皐月 「おお、やっぱりその童顔通り優しいところもあるんだね。では行こうか」
31 「って、断るために仕方なく僕は……って何手を引っ張ってるんですかっ!」
32 皐月 「まあまあ、そんなに照れなくっても良いじゃないか」





校門を二人並んで出て行く。そこで守は深くため息を吐く。



33 「はあ……本当に付いてくるんですね」
34 皐月 「当然だよ」
35 「なんというか、すごいですね」
36 皐月 「あっはっは、そんなに褒められると嬉しいじゃないか」
37 「あまりの強引さに呆れてるんです」
38 皐月 「美味しいケーキ屋があってね。そこにでも行こうじゃないか。あぁ、もちろんおごりだよ」
39 「別に好きじゃないです」
40 皐月 「いいからいいから、一人じゃなかなか入りにくいんだよ」
41 「だから、僕は帰るって言ったじゃないですか」
42 皐月 「……何か予定でもあるのかい?」
43 「いえ、無いです。無いですけど帰る予定でした」
44 皐月 「君も日本語が変だよ。ま、予定があるんだったら悪いからね」
45 「ええ、それじゃあ――」
46 皐月 「うん、ではこっちだよ。いやいや久しぶりだなー」
47 「だから、なんで手を引っ張るんですか?」
48 皐月 「だって、暇なんだろう? ちょっとくらい良いじゃないか。せいぜい二時間くらいだよ」
49 「にっ? ……充分長いですよ」
50 皐月 「えー、二時間でも我慢してるっていうのになー。酷いなー」
51 「何を……ああ、もうこれじゃ僕が悪者みたいですよ。校門の真ん中で駄々こねないで下さい。そして、袖引っ張らないで下さい」
52 皐月 「えー、行きたいなー」
53 「はあ、仕方ないですね。一時間だけですよ」
54 皐月 「一時間も!? わーい、やったやったー。ホントは三十分くらいでも良いかな、とか思ってたなんて言えないねっ!」
55 「はあ……」





というわけで、店のテーブルのメニューとにらめっこ中の二人



56 「なんで僕を誘ったんですか。人ならたくさんいるでしょう」
57 皐月 「ん? だから一人じゃ入りにくいんだってば」
58 「そうじゃなくて、部活の方です」
59 皐月 「君は、ちゃんと来てくれそうな気がしてね。幽霊部員ばっかりじゃ仕方ないからね」
60 「そりゃまあ行きますよ。入れば、ですけど」
61 皐月 「ま、本当は感想文コンクールに提出してくれて尚且つ良い結果が出せそうだから手放したくないんだがね」
62 「そうですか」
63 皐月 「なんかこー、本好きですーって感じじゃない?」
64 「ご多分に漏れず、インドア派ですよ。思いっきり」
65 皐月 「うふふふ」
66 「なんですか、その含みのある笑いは」
67 皐月 「まあ、何でも良いじゃないか。さて、君は何に……て、ああああ!」
68 「??」
69 皐月 「名前だよ。まだ名前すら知らなかったじゃないか。重要なフラグだよ名前ってのは」
70 「何のフラグですか」
71 皐月 「攻略フラグ」
72 「……空恐ろしいです」
73 皐月 「まあまあ。で教えてもらえないのかい?」
74 「日野です」
75 皐月 「うん」
76 「……」
77 皐月 「……」
78 「なんですか? じーっと見て」
79 皐月 「いや、待ってるんだよ」
80 「だから、日野ですよ――」
81 皐月 「だから、下の名前だよ」
82 「……守です」
83 皐月 「うんうん、守君ね」
84 「あまり好きじゃないんで苗字でお願いします」
85 皐月 「ふっふっふ、名前で呼ばれるのに弱い男の子は多いからねえ」
86 「好きじゃないだけです」
87 皐月 「そういうのを弱いというんだよ。さて、日野君は、何にするのかな」
88 「紅茶だけでいいです」
89 皐月 「せっかくなんだから、ケーキも食べていきなよ。ほらっ、これなんかお奨めだよ」
90 「……じゃあそれでいいです」





運ばれてきたケーキを頬張りながら皐月は満面の笑みを浮かべていた。



91 皐月 「んんん、ここのチーズケーキはやっぱり美味しいなあ。たぶん世界一だねえ」
92 「随分と安い世界一ですね」
93 皐月 「私が食べた中では、一番だからそれで良いのだよ」
94 「そういうもんですか」
95 皐月 「そういうもんだと思うよ。しかし、反応がいまいちだけど、美味しくないのかい?」
96 「いえ、そういうわけじゃないんですけど」
97 皐月 「むー、なんだよ。強引に誘ったのがそんなに気に食わなかったの?」
98 「それも無いわけじゃないですけど」
99 皐月 「んー?」
100 「それでも、僕にここまで手間掛けることは無いと思うんですよね」
101 皐月 「ああ……その事ね。まあ、あれだよあれ。さっきも言ったけど、幽霊部員が多くてね。野球の時しか出てこない奴までいるくらいだからね」
102 「いや、読書部のくせにやる方もやる方だと思います」





そう言って黙々と紅茶を口に運ぶ守。



103 皐月 「……ふむ……それにね、何人居たって同じだよ」
104 「そう、ですか」
105 皐月 「何も難しく考える事はないんじゃないのかね?」
106 「……」
107 皐月 「もう充分だからいらないなんて、欲の無い考え方は私には出来ないからね。欲しいものはいくらでも欲しいのさ」
108 「欲の無い、ですか。」
109 皐月 「そうさ、誰かがいるから、誰かがいらないなんてそんなことはないよ。少なくとも、私はね。……周りはどうか判らない事はよくあるけどね。」
110 「……本当に、なんで誘ったんですか?」
111 皐月 「だから、言ったではないか。一人じゃ――」
112 「いえ、そんなお約束はいいんで」
113 皐月 「む、そっか。まあ、あれだよ」
114 「あれってなんですか」
115 皐月 「こういう事を言うのは恥かしいから秘密にしたいんだけど」
116 「何が恥かしいんですか?」
117 皐月 「はあ……ま、私が先輩だしね。……私と君は、きっと良い友達になれそうだったから……」
118 「は?」
119 皐月 「……だったからだよ! 以上! もー、恥かしいなー。キャラじゃないんだよこういうのは」
120 「……そんな理由ですか」
121 皐月 「ええええええ!? そんな理由って、一番大切じゃないか。私はつまらない奴とは一緒にいたくないよ」
122 「はあ、まあ……有難う御座います」
123 皐月 「いやいやいや、お礼されても。それはそれで恥ずかしい」
124 「顔真っ赤ですよ」
125 皐月 「え? は? あ、ほらほら、ケーキ食べなよ。私はもう一個食べようかなー、なーににしようかなー?」





店を出て、帰り道を歩く二人



126 「ご馳走様でした。本当に奢ってくれるとは思いませんでした」
127 皐月 「むー、一言多いよ」
128 「本当に意外だったので」
129 皐月 「私ってそんな非常識に見えるかな?」
130 「いや、そういうわけでは……」
131 皐月 「ま、いいか。で、うちに入る気にはなってくれたかな?」
132 「……そうですね。前向きに検討しておきますよ」
133 皐月 「やったーー! じゃあ明日から来てくれるかなっ?」
134 「気が早すぎです」