西沢 和真♂ 毎日をやる気無く過ごしている男の子。付き合いは悪くないが他人や周囲に執着する事が無い。台詞数:42 | ||
笹山 唯♀ 大人しい女の子。感情がすぐ表に出る。慌てやすい。今日と言う日を力一杯生きている。台詞数:40 | ||
第一話「二人で遅刻すれば怖くない」 | ||
やや町はずれにある丘。そこからは町全体を見渡す事が出来る。 | ||
その丘を通る道に立ち尽くす学生服姿の男の子がいた。 | ||
1 | 和真 | 「9時28分……か」 |
2 | 和真 | 「入学式から遅刻はまずいよねえ?」 |
遠くにある学校を見つめてつぶやく。 | ||
3 | 和真 | 「ま、一人で愚痴ってても仕方ないよな」 |
4 | 唯 | 「あー、良かった」 |
5 | 和真 | 「は?」 |
6 | 唯 | 「え? な、なんですか?」 |
7 | 和真 | 「なんですかって、今、俺に声かけたんじゃないの?」 |
8 | 唯 | 「私、何も言ってませんよっ」 |
9 | 和真 | 「良かったとかなんとか……」 |
10 | 唯 | 「それ、独り言です。まさか口に出してましたか?」 |
11 | 和真 | 「うん。思いっきり。っていうかさ、独り言って声に出すものだよな」 |
12 | 唯 | 「え、え、え? ご、ごめんなさい」 |
13 | 和真 | 「んな……謝んなくてもいいって」 |
14 | 唯 | 「あはは……そ、そうですよね」 |
15 | 和真 | 「……」 |
16 | 唯 | 「……」 |
17 | 和真 | 「ええと、何が良かったの」 |
18 | 唯 | 「そ、それは、てっきり遅刻したと思ってたら同じ学校の制服の人が居て遅刻じゃなかったんだなあって思って……」 |
19 | 和真 | 「遅刻だよ」 |
20 | 唯 | 「あー、良かったなって思ったんですよ。あ、何か言いましたよね? なんですか?」 |
21 | 和真 | 「……言いにくいけど、俺も遅刻」 |
22 | 唯 | 「……ど、どうしよう」 |
23 | 和真 | 「このまま登校するしかないんじゃないかな?」 |
24 | 唯 | 「はぁー。そうですよね」 |
25 | 和真 | 「俺は帰ろうかと思ってたところなんだけどね」 |
26 | 唯 | 「ダメですよ。初日から欠席なんて推薦入試に響いてしまいますよ」 |
27 | 和真 | 「そんな先の事は考えたくないよ」 |
28 | 唯 | 「私、本番にすっごく弱いんで内申点だけで入れる学校がいいんです」 |
29 | 和真 | 「ないでしょ、そんな都合のいいとこ」 |
30 | 唯 | 「いきなりくじけそうなこと言わないでくださいぃ」 |
31 | 和真 | 「この状況ですでに挫けそうだよ」 |
32 | 唯 | 「……はぁ、そうですよね。足が一歩も前に進みません」 |
33 | 和真 | 「ホント、帰ろうかな……?」 |
34 | 唯 | 「だめですよっ。今帰っても怒られるだけです」 |
35 | 和真 | 「そりゃそうなんだけどさ。行っても怒られるし」 |
36 | 唯 | 「でも、結局明日怒られちゃいます」 |
37 | 和真 | 「それに、今から言っても恥ずかしいし」 |
38 | 唯 | 「でも、それは我慢しないと」 |
39 | 和真 | 「んじゃあ、君は一人で行く?」 |
40 | 唯 | 「え? っと、それは……でも」 |
41 | 和真 | 「悪かったよ。泣きそうになるなって」 |
42 | 唯 | 「は、はい。すみません」 |
43 | 和真 | 「いや、謝んなくてもいいって……俺が悪かったよ」 |
44 | 唯 | 「いえ、そんなことないです」 |
45 | 和真 | 「ちょっと、話でもしない?」 |
46 | 唯 | 「でも、それじゃあもっと遅れちゃいますよっ」 |
47 | 和真 | 「五十歩百歩だよ。一分も一時間も同じじゃない?」 |
48 | 唯 | 「それは、さすがに違い過ぎると思います」 |
49 | 和真 | 「確かにそうかもね」 |
50 | 唯 | 「そうですよ。あの、私は笹山唯と言います」 |
51 | 和真 | 「うん」 |
52 | 唯 | 「……はい」 |
53 | 和真 | 「……何?」 |
54 | 唯 | 「だから、名前を」 |
55 | 和真 | 「ああ、ごめんごめん、俺の名前か。俺は西沢。西沢和真だよ」 |
56 | 唯 | 「はい、西沢君ですね。あの、どうして遅刻したんですか」 |
57 | 和真 | 「寝坊」 |
58 | 唯 | 「私は、起きる時間を間違えてました」 |
59 | 和真 | 「お互いマヌケだな」 |
60 | 唯 | 「あはは、そうですね」 |
61 | 和真 | 「……少しは、マシになったかな?」 |
62 | 唯 | 「何がですか?」 |
63 | 和真 | 「あ、ただの独り言だよ。さっきより気分がマシになったってことだよ」 |
64 | 唯 | 「それはなによりです」 |
65 | 和真 | 「……ありがとうな」 |
66 | 唯 | 「え? なんでですか?」 |
67 | 和真 | 「笹山と話せたからだよ」 |
68 | 唯 | 「それを言うなら、私も西沢君と話せて嬉しかったです。一人で凄く心細かったから」 |
69 | 和真 | 「ま、なんもしてないけどな」 |
70 | 唯 | 「それは、私もですよ」 |
71 | 和真 | 「いや、一人だったらとっくに帰ってたよ」 |
72 | 唯 | 「ダメですよ……あの、せっかくだから一緒に行きましょうよ」 |
73 | 和真 | 「んー、せっかくだから一緒に帰らない?」 |
74 | 唯 | 「それは放課後にもできますからっ」 |
75 | 和真 | 「それはそうだけど俺は今帰りたいよ」 |
76 | 唯 | 「二人で行けばきっと怖くありませんよ」 |
77 | 和真 | 「んー……そうだなあ。仕方ない。いくかっ」 |
78 | 唯 | 「はいっ」 |
十数分後、学校に到着した二人。 | ||
しかし、その時丁度入学式が終わったところだった。 | ||
79 | 和真 | 「あー、ちょうど入学式終わったとこみたいだな」 |
80 | 唯 | 「あぁ、先生達こっち見てますよぉ」 |
81 | 和真 | 「これは随分悪いタイミングで来ちゃったみたいだなぁ」 |
82 | 唯 | 「ぁはは……滅茶苦茶恥ずかしいです」 |
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