勝田川低地の4500年 その1

KaP-I コナラ林の時代

 約4500年前から3400年前まで、花粉ダイアグラムの試料番号1〜15は、 コナラ亜属花粉の多い時代です。
 台地はコナラ(現在の植生や生態からコナラ亜属の花粉はコナラに由来するものでしょう)を主に、イヌシデ(クマシデ属)、エノキ、ムクノキ等の落葉広葉樹林に被われ、斜面(勝田川低地の南側には、横戸の集落の乗る広くて緩い斜面が広がっています)では、これらにスギやアカガシ、ケヤキ等が混じっていたことでしょう。
 一方低地ではこの間、次のような変遷がありました。 
KaP-IA亜帯の復元図
 KaP-IA亜帯  コナラ林と草原の時代 試料番号1〜5
 低地には、ハンノキの小規模な湿地林が見られる程度で森はなく、ヨモギやキク科、ススキなどの茂る、乾いた日当たりのよい草原が広がっていました。この層準からは珪藻化石が出現しません(KaD-ib亜帯)から、恒常的な水域はありません。勝田川の流れは普段は小さく、上流から土砂を運んでくるほどの流量もなく、たまにおきる洪水時に限って、砂を運び込んでくる程度だったと考えられます。
キク亜科の花粉 タンポポ亜科の花粉 ブナ属の花粉
 KaP-IB亜帯 コナラ林と低湿地の時代 試料番号6〜9
 底生の珪藻化石の出現は、地下水位の上昇によって、乾いた環境から湿った環境への変化(KaD-ic亜帯)が進行していることを示しています。低地の乾いた草原は次第に姿を消して、イネ科やカヤツリグサ科の茂った湿地に姿を変えてゆきます。花粉ダイアグラムのブナ属のわずかな増加は、当時の気候が、涼しくて雨の多いものに変わっていったことを示しているのかもしれません。低地の環境変化は、そのために起きた現象でしょう。しかし、ブナ属の増加が勝田川低地周辺で起きているのか、房総丘陵や関東山地などの離れた場所でなされ、そこから飛んでくる花粉の増加であるのかははっきりしません。
トネリコ属の花粉 トネリコ属花粉塊 ハンノキ属花粉塊
KaP-IC亜帯の復元図
 KaP-IC亜帯 コナラ林とハンノキ-ヤチダモ湿地林の時代 試料番号10〜15
 陸生珪藻の出現(KaD-iia亜帯)は、地下水位が低下して、周囲の水域が縮小していることを示しています。この減少はおそらく、気候の冷涼化によって、海水面が低下したためでしょう。池や沼は次第に狭まって、低地はハンノキとトネリコ属(ヤチダモの可能性が大きい)の湿地林に覆われます。少量残ったカヤツリグサ科やイネ科の花粉は、わずかに残った水域の水辺や、湿地林の林床に生えていたものでしょう。湿地林の林床には、枯れて落ちた枝や倒れた幹などが積み重なり、木本質泥炭層が積もっています。この部分は後に、勝田川の河川改修工事に伴って、地層が露出しました。その様子はこちらです。