縄文の稲作と植生破壊 その3

イネ属花粉の同定と稲作の検出


カラスムギの花粉(表面模様T型) ヨシ花粉(表面模様U型)
 イネ科の花粉は全て、イネもムギもササもヨシもススキも、外側に突き出た丸い穴が一個だけという単純な形態をしています。ですからそれらをお互いに区別することは困難です。これに対して、1974年当時、高知大学におられた中村純さんは、外膜表面の微細な突起の形態に着目してイネ科花粉を位相差顕微鏡下で観察すると、粒の小さな突起が散在するタイプ(T)・比較的粒の大きな突起が密集し、突起間の隙間の溝が網状になるタイプ(U)・そして(T)と(U)との中間型で、両者が混在するタイプ(V)の3つのグループに分けられることを見出しました(中村,1980).
イネ花粉(表面模様V型)
 イネ属花粉はコムギ、カモジグサ、メダケ、ササ、カンチクの各属と共にV型に属しています。これらのうちでコムギ属の花粉はイネ属よりは明らかに大型で区別が可能です。またカモジグサ属は穴の突き出し方が弱いこと、タケ亜科の他の3属は外膜の厚さが薄いことで、イネ属と区別することができます。
イネ属化石花粉
 ですからKaP-IIB亜帯の花粉化石群集中の、表面模様がV型のイネ科花粉のうち、穴の突き出しが明瞭で,かつ膜の厚いものがイネ属花粉の可能性が高いと考えられ、調べた結果、このタイプのイネ科花粉は、木本花粉の総数の32.5%を占めていました。当時イネが存在したことは、これでほぼ確実になったと言えます。