Information



g-2017yuuki.a




西村智弘企画

佐藤舞梨萌「BLOOM」展 


会期 2017年10月16日(月) - 10月28日(土) 22日(日)休廊

時間 11:30 - 19:00(最終日17:00迄)

会場 art space kimura ASK?

   東京都中央区京橋3-6-5 木邑ビル2F   art space kimura ASK? 



色彩とマチエールのシンボリズム
西村智弘(美術評論家)

 佐藤舞梨萌は、2007年に「再生」と題した初個展を行って以来、コンスタントに個展を開催してきた。佐藤は個展ごとにテーマを決め、自分に与えた課題をこなしながら、少しずつ前に進んできた。今回の展覧会は初個展から十年の節目にあり、自分の原点に回帰しつつ、これまでの成果を昇華させている。               

 個展のタイトルは「BLOOM」で、花が主要なモチーフである。すでに初個展で佐藤は、色彩の動きによって花の生命力を描こうとしていた。色彩の問題は、当時から取り組んでいる重要なテーマである。もうひとつのテーマであるマチエールの問題は、初期作品でも萌芽的に試みていたが、油絵に移行した2012年以降、本格的に取り組むようになった。佐藤の目的は、花の再現的に描写にあるのではなく、花の生命力を描くことにある。色彩とマチエールは、花に内在した自然のエネルギーを表現するためにある。 

 佐藤の絵画を考えるためには、ロバート・ローゼンブラムの名著『近代絵画と北方ロマン主義の伝統』が参考になる。ローゼンブラムは、19世紀のドイツロマン派の絵画から20世紀アメリカの抽象表現主義に至る流れに、超自然的で精神主義的なビジョンを象徴的に暗示する北方ロマン主義の伝統を指摘した。これは、形式をスタティックに分析するモダニズム絵画論が切り捨ててきた歴史であり、超越的な無限性に対する憧憬という絵画内容によって近代絵画を読み解くものだった。 

 佐藤の絵画の外観は、一見するとクロード・モネに代表される印象派の絵画と似ている。佐藤が印象派から学んだのは、色彩によって光を捉えることだろう。しかし彼女は、印象派のように光のあり方を描いたわけではなかった。佐藤の関心は花のもつ生命力にあり、光によって開示されるもうひとつ別の世界にある。彼女は、パウル・クレーの絵画から影響を受けているという。ローゼンブラムはクレーの絵画を論じつつ、ヴァン・ゴッホやピエト・モンドリアンの花の絵に言及している。一貫して佐藤は花を描いてきたが、その作品は印象派の花の絵よりも、ゴッホやモンドリアンが描いたシンボリックな花の絵に近い。 

 もちろん佐藤は、花ばかりを描いてきたわけではない。早くから天使の絵を描いてきたし(クレーの天使の絵から示唆されたという)、他にも小道のある風景画や人物が点在する風景画(ドイツロマン派のカスパー・ダーヴィト・フリードリヒが描く風景画の構図と似ている)、子供の肖像画(オットー・ルンゲは子供をよく描いた)などがある。しかし、花の絵を含めてこれらは同じ地点を目指している。

 佐藤には、無垢なもの、純粋なもの、清らかなものに対する憧憬がある。おそらく天使とは、物質的な世界と精神的な世界を媒介する存在であって、超越的な世界を象徴的に暗示している。この超越的な世界は、小道の先や点在する人物の向こう側に広がる世界であり、子供が凝視する此岸の世界でもあるだろう。  

 佐藤にとって絵画とは、目に見えないものを描くべき場所である。しかし絵画は、造形的な要素によって目に見える状態をつくるものだ。見えないものは見えるものを通して具体化するしかない。彼女の課題は、見えるものと見えないものをめぐるこの逆説を克服することにある。画家である佐藤は、それを色彩とマチエールの探求という手段を通じて実現しようとしている。 

 佐藤が描いているのは、自然の下に隠された精神的な世界、人間と自然とが有機的に統一された世界である。今回の個展は、色彩とマチエールの探求の結果を示すものだが、同時にそれは花をめぐるシンボリズムの純化を示している。これが佐藤が到達した境地であり、この十年の成果であって、いわば彼女は新たなる「再生」の場所に立っている。

 

<企画者プロフィール>

西村智弘 / nishimura tomohiro

1963年 茨城県生まれ。

1993年 美術出版社主催「第11回芸術評論」に「ウォーホル/映画のミニマリズム」で入選。

以後、美術評論家、映像評論家として活動する。美術評論家連盟会員。

著書に『日本芸術写真史ー浮世絵からデジカメまで』(美学出版社、2008年)

『アメリカン・アヴァンガルド・ムーヴィ』西村智弘・金子 遊/編(森話社、2017年)

論文に「アニメーションの概念はいかにして変容したかー1960年代初頭のリミテッド・アニメーションから考える」(『多摩美術大学研究紀要』30号、2016年)等。


掲載作品

勇気「愛と勇気と叡智について」 2017年 652×530mm oil on canvas 作品撮影:村越将浩氏





Copyright©2017 Satou Marimo All Rights Reserved.