酒井 聡樹(東北大学大学院理学研究科生物学教室)
2000.1.28. ver. 1.0.2 since 1998.9.4
まず初めに、どういう人たちがあなたの論文を審査するのかを見ておこう。一般の国際誌では、雑誌の編集にかかわる人たちの基本構成は下のようなもの である。
Editorial Board
編集長 (Editor-in-Chief)(一名:研究者がなる)
編集幹事 (Managing Editor) (一名:研究者ではない)
編集委員 (Associate Editors)(複数名:研究者がなる)
編集長はその雑誌の編集責任者であり、論文の採否の最終的な決定権を持つお方である。編集幹事は編集に関する事務を取り扱う。投稿者との直接のやり
とりは編集幹事が行う雑誌が多い。編集委員は、専門分野の異なる研究者で構成され、各委員は、自分の分野の論文審査の担当者となる。これらの人々以外に論
文を審査するレフリーがいる。レフリーは、不特定多数の研究者集団から選ばれた人たちであり、その論文の審査には責任を持つものも、その雑誌の編集にかか
わっているわけではない。場合によっては、編集長や編集委員がレフリーを兼ねることもある。
Editorial Board の構成メンバーは雑誌に載っているし、雑誌のホームページで
も公開されている。その構成メンバーは雑誌の性格を強く反映しているので、どういう研究をしている人が
Editorial Board
に入っているのかを調べれば、自分の論文がその雑誌にふさわしいのかどうか見当がつくであろう。
Nature や Science
は特殊な編集形態を採っており、科学に精通したプロの編集者が
、論文の採否の決定やレフリーの選定を行っている。
論文審査のプロセス
投稿
投稿者 ---> 編集長 ---> 担当編集委員
あなたは原稿を編集部または編集長に送る。編集長は原稿を読んで、その論文を審査するにふさわしい編集委員を選び、その人の元へ原稿を送る(編集長 自身がその論文の担当編集委員となることもある)。その編集委員があなたの論文の採否を決める実質的な責任者である。ただし上に述べたように、最終的な決 定権は編集委員長が持つ。編集長(編集幹事)からあなたへは、原稿を受け取ったという知らせが来る。
編集委員によるリジェクト
投稿者 <--- 編集長 <--- 担当編集委員
ここで第一の関門が待ちかまえている。担当編集委員は、あなたの論文が雑誌にふさわしいかどうかを判断する。判断の基準は、その雑誌が扱う分野に
あっているかとか、その雑誌の読者の興味を惹くかといった点である。担当編集委員が雑誌にふさわしくないと判断したら、レフリーに送ることなくリジェクト
の答申を編集委員長に行う(場合によっては、担当編集委員に送らずに、編集長自身がリジェクトしてしまうこともある)。あなたは、「他の雑誌の方がふさわ
しい」とか、「論文の目的が狭くて本誌の読者の興味を惹かない」といった手紙を編集委員長から受け取ることになる。
Nature や Science
の場合、上に述べたようにプロの編集者が雑誌にふさわしいかどうかを判断する。その評価基準は非常に厳しく、かなりの論文がレフリーに送られることなくリ
ジェクトされてしまう。
レフリーへ
投稿者 ---> 編集長 ---> 担当編集委員 ---> レフリー
あなたの論文がその雑誌にふさわしいと判断されたら、担当編集委員はレフリーを選定して原稿を送る。レフリーの人数は雑誌によって決まっており、多 くの雑誌で二名、たまに一名や三名以上である。そのとき、あなたが知らないところでレフリーに恐ろしい要請をしている雑誌もある。たとえばこんな感じだ。
掲載可能な以上の論文が当誌には送られてきているので、良い論文を多数リジェクトしなくてはいけない。著者に対するコメントに は、「この論文はアクセプトである」などと書かないで欲しい。
平たく言うと、リジェクトしにくくしないで頂戴というお願いである。もっと露骨に、
大改訂が必要なときにはリジェクトして欲しい。
などと要請してくる雑誌もある(こわー)。
たいていの雑誌は、以下の四段階の評価をレフリーに求める。
掲載可 (accept as it stands)
小改訂後に掲載可 (acceptable after minor revision)
大改訂後に掲載可 (acceptable after major revision)
掲載不可 (reject)
雑誌によって微妙な表現は違うが、まあこんな感じだ。レフリーが二人とも「掲載不可」と判定したらその論文は確実にリジェクトである。二人とも、
「大改訂後に掲載可」以上の判定をしたら、とりあえずはリジェクトはされないだろう。一人が「掲載不可」でもう一人が「大改訂後に掲載可」以上の判定をし
た場合は、担当編集委員がどう判断するかによって運命が決まる。大まかに言って、投稿原稿が多くてリジェクトしたがっている雑誌ではリジェクト、そうでな
い雑誌ではリジェクトを免れるといったところか。二人のレフリー間の評価の隔たりが大きい場合は、第三のレフリーを選定して意見を求めることもある。
この四段階の判定以外に、より細かな採点表をレフリーに渡す雑誌も多い。たとえばこんな感じである。
A 誌(下記の項目についてそれぞれ 5 段階評価)
1.
生態学・進化学・遺伝学といった、大分野レベルでの概念の統一をもたらすか。
2.
群集生態学・生活史戦略・分子遺伝学といった、小分野レベルでの概念の統一をもたらすか。
3. 新しい問題を提示しているか。
4.
その論文が扱っている問題に関して、人々の考え方を変革させるものであるか。
5. 実証されていなかった理論や概念を実証(反証)しているか。
6. 幅広い読者が興味をもつか。
7. 原稿はどれくらい短くできるか(% で回答)
B 誌(下記の項目についてそれぞれ 4 段階評価)
1. 本誌読者に対する重要性。
2. 研究のオリジナリティー。
3. データは結論を支持しているか。
4. 本誌にふさわしい論文か。
5. 説明がわかりやすいか。
6.
論文の長さに比して、新しい情報やアイディアがどれくらい提示されているか。
雑誌が掲載論文にどういうものを求めているのかが何となくわかるであろう。
こうした総合評価と個別評価の結果は、投稿者に知らせる雑誌もあれば知らせない雑誌もある。
リジェクト
投稿者 <--- 編集長 <--- 担当編集委員 <--- レフリー
担当編集委員は、リジェクトと判定したらその答申を編集長に行う。編集長からは、担当編集委員のコメント・レフリーの評価表(これが来るかどうかは 雑誌による)・レフリーのコメントが、「残念ながら .......」という文面のちっとも残念そうでない手紙と共に送られてくる。雑誌によっては、担当編集委員から直接こうした手紙が届くこ ともある。
要改訂
投稿者 <--- 編集長 <--- 担当編集委員 <--- レフリー
リジェクトでない場合も、同じ道筋で編集長(または担当編集委員から直接)から手紙が来る。内容物は上記と同じだが、「残念ながら .......」という文面はない。そのかわり、
・コメントに従って原稿をどう改訂したのかを説明する手紙を書け
・改訂稿を何部返送せよ
・いついつまでに改訂稿を返送せよ
・どこそこに返送せよ
といった指示が書かれている。返送先は、投稿先と違う場合があるので注意しよう。
返送
投稿者 ---> 編集長 ---> 担当編集委員 (---> レフリー)
返送した原稿は担当編集委員の元に届く。改訂原稿にそれほど問題がなければ、担当編集委員はレフリーに送らずに論文をアクセプトする。まだまだ問題
ありと判断されるとレフリーに再び送られることになる。レフリーは、第一稿を読んだ人と同じであるのが普通だが、何らかの判断によって別のレフリーに送ら
れることもある。
決着がつくまで、あなたとレフリーの間を論文が何度も行き来することになる。この過程で対応を誤ると、一転リジェクトになってしまうこともあるのでご用
心を。
アクセプト
投稿者 <--- 編集長 <--- 担当編集委員 (<--- レフリー)
そしてついに担当編集委員がアクセプトと判断すると、その答申が編集長に送られる。編集長からは、
編集委員の xxx は、あなたの原稿を掲載することを強く求めてきた。私も喜んであなたの論文をアクセプトしたい。
といったやや大げさな手紙とか、
あなたの原稿は XXX 誌にアクセプトされた。
といった事務的な手紙が送られてくる。まあ文面などなんでもいい。アクセプトされたのだ!!喜ぼう、喜ぼう、もう三度喜ぼう!!!