2 クイズ研究会ってどんなことしてるの?

 「大学のころクイズ研究会に在籍していた」と誰かに話せば、まずこの質問を受けます。一度や二度でなく、何十回と受けた質問です。わたしがこの質問に答える際には、まずその人が「クイズ研究会」というものに対して、どういうイメージを持っているかを確認します。

 そうすると、いろんな反応があります。曰く「クイズに勝つためにひたすら早押しの練習をしているのだろう?」、曰く「クイズ番組のビデオを持ち寄って見ているの?」などなど。

 これら反応は「クイズ研究会は、クイズ(主にテレビのクイズ番組)に勝つために研鑽を積むのが目的だ」という前提を内に潜めています。一般の方々にとって「クイズ研究会の会員」は、「クイズに勝つための努力」をして「クイズ番組」で活躍しようとする人々、なのでしょう。

 だから、こういう質問が次に控えています。「クイズ研究会の人って、クイズ番組のない今、何をしているの?」と。

 そもそも世間一般の人がクイズ研究会の会員を目にするのは、歴史的にクイズ番組の中であり続けてきました。だから、「クイズ研究会」と、「クイズ番組」ひいては「そこで勝利すること」とを繋げて考えることは、極めて正常な感受性といえるでしょう。

 確かに1990〜1992年くらいまでの「クイズ研究会」では、「ウルトラクイズ対策」という明確なコンセプトを持っている場合が多かったのが事実です。そしてウルトラで勝つことを目指した会員が多かったのも事実だと聞いています。ウルトラクイズが終わると、ウルトラ目当ての会員は減ったものの、「史上最強」「FNS1億2000万人のクイズ王決定戦」などで勝つことを目指した会員が残り、さらにクイズの力に磨きをかけようと、研鑽を積んでいた様です。

 ところが、今は「クイズ研究会員」が活躍できるクイズ番組が殆ど無い。「クイズミリオネア」「タイムショック21」ではクイズ研究会の人が殆ど登場してきていません。こういう状況下でクイズ研究会に存在意義があるのか、疑問に思われるのも無理ないことでしょう。ではクイズ研究会は、今何をしているのか。 

 一般のクイズ研究会に話を広げる前に、わたしが在籍していた「東京大学クイズ研究会(TQC)」の、1996年ごろのことをお話ししましょう。我がTQCでは「通常例会」と称し、毎週土曜日に集まっておりました。誰かが企画者となり、3時間くらいクイズを行なったりしております。企画内容は概ね「面白がってクイズをする」という性質のもので、勝った負けたにこだわる人はいませんでした。また、クイズ番組などで活躍するための勉強を、一生懸命する、ということもありませんでした。

 合宿もしましたが、これも「面白がってクイズをする」だけのものでした。合宿のメリットは「酒を使ってクイズができる」「屋外をふんだんに使ってクイズをできる」などです。徹夜でクイズをすることを「徹クイ」と呼ぶ向きもあるようですが、合宿では比較的「徹クイ」はしてませんでした。

 また1年に何回か「サークル内大会」があり、サークル内で権威あるクイズ大会として「TQC杯」「早押しチャンピオンシップ」などが存在しています。このときは珍しくみんな真剣にクイズに取り組みますが、それでも楽しみを中心に据えた構成の大会になっています。

 単にクイズ好きが集まって何となくクイズをしている、というスタイルが、わたしの在籍していた頃のTQCの活動を支えていました。「クイズ番組で勝つこと」を目指していないから、クイズ番組でクイズ研究会の会員が活躍できなかった今でも、存在意義はしっかりあるし、会員はそれなりに面白がっています。

 そういうサークルでしたから、いかに面白いクイズ問題を作れるか、いかに面白いクイズの企画ができるか、そういう能力をみんな磨いていました。「クイズに強くなるための努力」は殆ど顧みられず、問題作成能力や企画能力をまさに「研究する」、そういうサークルでした。

 もちろん会員の中には「クイズに強くなりたい」という気持ちを持った人もいましたが、そういう人は自分でクイズの勉強をしていた様です。クイズの勉強方法については次項に譲りますが、TQCではクイズの勉強になるようなことをしたことはありません。

 こうした活動の形態が、概ねクイズ研究会の活動である、と思ってもらって間違い無いと思います。ただし、サークルによってクイズに対するコンセプトが違うため、「とにかく難しいクイズを出し合って知識をつけていく」ことを目的とするサークルもありますし、「クイズを趣味とする人たちが何となく集まっていろいろ楽しむ」ことを目的とするサークルもある。いろいろあるのだけれど、概ね「同じ大学」「同じ地方」「同じ種類のクイズを志向している」などの、様々な共通点を持った人々が、クイズを楽しむことを目的に集まったものが「クイズサークル」と言えましょう。

 今までのことをいささか強引にまとめてみると、こうなります。クイズ研究会は「クイズ番組対策」という要素から脱し、現在は「それぞれのサークルなりにクイズを楽しむ」というところに目的を広げています。日本の歴史上、クイズサークルができるまでのクイズは、「クイズ番組」の中だけのものでした。それを「クイズ番組」だけのもので無いものにしたことが、「クイズサークル」の歴史的意義だと思います。

 ただひとつ問題が新たに生まれました。クイズ番組の無い今、「クイズ研究会」は、もしかしたらクイズを自分たちだけのものにしていないか?という点です。これは自省の意味も込めてここで問題提起しておきます。そういう意味では、「クイズ番組」がもう少し「一般の人向け」の作りをして欲しいかな、と思います。賞金の高さだけで緊張感をあおる番組ではなくて。

 なお、今「クイズ研究会」と名乗っているサークルは少なくなりました。その代わり、何の集まりなのかよく分からない名前をつけるのが流行っているようです。詳しくはクイズプレーヤーやサークルのホームページをネットサーフィンしてみてください。

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