1 はじめに

 10年ほど前、書店の「趣味」コーナーに、クイズの本がからっと並んだ時期があった。皮切りとなったのは長戸勇人氏の著書『クイズは創造力』であったが、その後も有名クイズプレーヤーの手によるクイズの本が出版され続けた。

 クイズの本は、「一般のクイズ好き」を「クイズマニア」「クイズプレーヤー」に変える扉でありつづけた。中高生の「クイズプレーヤー予備軍」たちは、テレビのクイズ王番組に熱狂し、自らもクイズプレーヤーになるために、クイズ本を読み漁った。

 今、クイズの「強豪」と呼ばれている人たちは、一部を除いて少なからず「クイズ本」の影響を受けてきた人々だ。だから、今「クイズの常識」と呼ばれている事柄は、その当時のクイズの本に書いてあったことを前提としている場合が、もしくは「鵜呑みにしている場合が」多い。

 こうした「クイズ本」に書かれた「クイズの常識」は、一般の人々の考える「クイズに対するイメージ」と、少しズレていた部分がある。詳しくは今後述べていくが、この「ズレ」によって、「一般のクイズ好き」と「クイズプレーヤー」の間の考え方・思考方法のミゾが生まれていった。

 こういう「クイズ本ラッシュ」は1994年くらいまで続いたが、1995年頃になると書店からクイズの本が消え始めた。それと同時に、「一般のクイズ好き」と「クイズプレーヤー」を繋ぐラインが急速に失われていった。

 失われた後もクイズプレーヤーたちは、独自の論理を展開させていき、ついに自分たちだけに通用する価値観を形成するに至った。そのためクイズの世界が、「一般の人々」乃至「一般のクイズ好き」には及びもつかないようなシロモノになってしまったのである。

 ということで、今の「クイズプレーヤー」の世界というものは、一般の人と隔絶されたものになってしまったわけだ。

 

 さて、こういう中で元クイズ研究会のわたしは、クイズについての質問をよく受けることがある。曰く「クイズ研究会って何をしてるの?」「クイズの勉強ってどうやるの?」のように。これら質問に答えるのは、容易なことで無い。何故なら今述べたような状況があるため、ちょっと説明したくらいでは、クイズプレーヤーの持つ独自の価値観を理解してもらいにくいからだ。

 このコーナーでは、今までわたしが一般の人々から受けた(若しくは受けるであろう)クイズに関する疑問について、クイズプレーヤーに比較的共通していると思われる価値観を解きほぐしながら、ゆっくり答えていきたいと思う。

 

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