平成二十七年度 全県高校演劇発表会  最後の女神   キャスト  レイカ  コトネ  ナミ  ミカ  開幕  BGMと同時に幕が開く。学校の空き教室風の場所。いきなりナミとミカがスマホを見ながらじゃれあっている。やや離れて冷静にスマホを見ているコトネ。 ナミ「だから、こんなの食べないって」 ミカ「わかんないかなー」 ナミ「わかる人いるかなー」 ミカ「バニラ最高でしょ!」 ナミ「バニラは最高ですよ!」 ミカ「そうでしょ!」 ナミ「そうですよ!」 ミカ「桃も最高!」 ナミ「桃も!・・・最高かな?」 ミカ「桃だよ!桃!桃!桃!」 ナミ「いや、連呼されても」 ミカ「バニラ、で、桃、で、パフェ」 ナミ「うーん」 ミカ「最高の三倍!」 ナミ「意味わかんない」 ミカ「じゃあ、最高の三乗!」 ナミ「もっとわかんない」 ミカ「やっぱわかんないかなー」 ナミ「しかも、え? 何この名前?」 ミカ「かわいーじゃん」 ナミ「『バニーさんのピンクピーチピチパフェ』」 ミカ「おいしそう!」 ナミ「バニーさんが?」 ミカ「そんな卑猥な気持ちじゃないの!」 ナミ「なんかねー・・・コトネもちょっと見てよ」 ミカ「私は推薦します。是非これから食べに行きましょう」 ナミ「ミカはガンコだねー」 ミカ「おいしいに決まっています」 コトネ「どれどれ・・・(しばらく見て)これは無いでしょう」 ミカ「そう? よく考えてみて」 コトネ「桃、丸ごと入れる?」 ミカ「皮むく楽しみがあるじゃん」 コトネ「アイスが溶けます!」 ミカ「じゃあ、コトネはどんなスイーツがいいの?」 コトネ「私は・・・・・黒蜜白玉ソフトあんみつ」 ナミ「あんみつ?」 コトネ「ノンノンノン、黒蜜白玉ソフトあんみつ」 ナミ「あんみつなんか好きだっけ?」 コトネ「イエース」 ミカ「しかも黒蜜」 コトネ「イエース」 ミカ「で、・・・ソフト」 コトネ「イエース。夏ですから」 ミカ「初めて聞いたけど」 コトネ「初めて言ったもん」 ナミ「知らなかったなー」 コトネ「知っているのは、家族と、歴代の彼氏だけです」 ナミ「歴代」 ミカ「今は3代目ね」 コトネ「イエース」 ナミ「割と古風なスイーツが好きなのね」 ミカ「古風というより、なんかおばさんくさい」 ナミ「じゃ、抹茶ソフトクリームとかも、好きなの?」 コトネ「え・・・抹茶と言えば・・・かき氷でしょ。確実に」 ナミ「確実に?」 コトネ「確実に。かき氷の上に抹茶アイスと抹茶シロップ」 ミカ「そんなに抹茶好きなの?」 コトネ「で、熱い抹茶を飲む、と」 ミカ「抹茶ずくめじゃん」 ナミ「コトネはこだわるからねー」 コトネ「そう?」 ミカ「ダイエットのときもひどかったし」 ナミ「ははは、あそこまでする?」 ミカ「ナミはおもしろがってたけど、私は心配したよ」 コトネ「でも、4日でやめたじゃん」 ミカ「長時間にわたる説得の末、やっとやめてくれたんでしょ」 ナミ「ほんとにリンゴしか食べないんだもん」 コトネ「普通はドクターがストップするんです。なんでミカがストップするの」 ミカ「そうしないと、倒れるまで続けてたでしょ」 コトネ「皆勤賞の方が大事です」 ミカ「あんな顔色の悪い人間、見たこと無いし」 コトネ「ああなっちゃうと、もう意地だね」 ナミ「コトネは真面目だからさ」 ミカ「変に真面目すぎるの」 コトネ「『変に』は余計です」 ナミ「いまどき中島みゆきしか聞かない高校生だもんね」 ミカ「それ、まじめかな?」 コトネ「みゆき様は、私の最後の女神です」 ナミ「女神って、いつも言うよね」 コトネ「泣きたい夜にひとりで聞くと、なんかこう、最悪だなーって思っても、『気にしないで』『ファイト!』って思うわけさ」 ミカ「見事に伝わんない」 ナミ「ぼんやりとはわかるけどね」 コトネ「分かる人だけでいいんです」 ミカ「もっとわかりやすく説明して」 コトネ「聞けばわかるんです」 ミカ「聞いたこと無いしー」 コトネ「ミカさん、あなたのスマホは何のためにあるの」 ミカ「まあ、このためではないね」 ナミ「まあ、まあ」 コトネ「しょうがないですねえ・・・特別に、あなたに聞かせてあげましょう」 ミカ「えー」 コトネ「どうせやることないし」 ナミ「じゃ、コトネのおすすめの曲とか」 コトネ「そうねえ、じゃあ・・・」  とか言いながら、3人で集まって曲を聴き始める。BGM。レイカが下手から入ってきて、三人の背後をうかがったり、通り過ぎたりする。少しあって、 レイカ「皆さん!」 ナミ「うわっ! びっくりした!」 ミカ「いきなり何!」 コトネ「レイカさん!」 レイカ「驚かせてしまったようですね」 ミカ「あのさ、ずーっとあなたのこと待ってたんですけど」 レイカ「あ、お待たせしたとすれば、申し訳ありません」 ミカ「いや、だから、待ったって言ってるでしょ」 レイカ「いろいろと準備が立て込んでいたもので」 ミカ「私たちも結構忙しいの!」 レイカ「皆さんのご様子を、数秒間ほど伺わせていただきましたが、特段、忙しいようには見受けられませんでした」 ミカ「だから!」 レイカ「しばらく拝見しておりましたが・・・何か皆さん、スマホで調べ物をしていた感じでしょうか」 ナミ「調べ物、っていうわけじゃないけど・・・」 ミカ「なかなか来ない人を待つときにさ、いらいらしながらさ、何となくスマホ見たりするでしょ」 レイカ「あ、何となくのパターンでしたか。それは気づきませんでした。なるほどなるほど」 ミカ「・・・で、何?」 レイカ「ミカさん」 ミカ「だから、何」 レイカ「ご存じかと思いますが、私が呼んだのは、ミカさんではなく、そちらにいるコトネさんです」 ミカ「・・・わかってます!」 ナミ「まあ、まあ」 コトネ「じゃ、私が聞けばいいのね。で、何?」 レイカ「コトネさん」 コトネ「はい」 レイカ「タニタ・コトネさんですね」 コトネ「・・・はい」 レイカ「・・・コトネさんって、中学時代、生徒会長を務められたんですよね」 コトネ「え・・・そうだけど」 ミカ「それがどうしたのよ!」 レイカ「すみません。コトネさんと対話をしたいのですが」 ミカ「それは失礼しました!」 ナミ「まあ、まあ」 レイカ「で、どうして生徒会長をされたのですか?」 コトネ「ああ・・・別に・・・ほかにやる人もいないし、・・・先生がやれって言ったから・・・ま、成り行きって感じ・・・それが何か?」 レイカ「翻って、高校では、生徒会活動をしていないですよね」 コトネ「そうだけど」 レイカ「端的に言って、それはどうしてですか」 コトネ「え?」 レイカ「高校における生徒会活動を断念するに至った、その理由があれば教えていただきたいのですが」 コトネ「理由?・・・だって、中学の時から、美術部だったし」 ミカ「生徒会なんか、入らない方が普通でしょ」 レイカ「(ミカを一瞥もせず)ということは、美術部の活動の方が、自分に向いていると思ったんですね」 コトネ「いや、・・・向いてる、っていうか・・・何だろ・・・(後が続かない)」 レイカ「向いてる、っていうか・・・何ですか」 コトネ「・・・ていうか、生徒会に入らない理由なんか、そもそもあるの?」 レイカ「ある行動を取らない理由、というのは、一般的に言って普通、ありません」 コトネ「でしょう」 レイカ「たとえば、私が今日の朝ご飯に、海苔巻きを食べなかった理由は、ありません」 コトネ「そりゃそうです」 レイカ「でも、生徒会長だった人が、生徒会活動を続けなかった理由は、必ず存在するはずです」 コトネ「・・・そう?」 レイカ「たとえば、中学時代野球をしていた人が、高校に入って野球をやめた理由は、存在するでしょう」 ナミ「確かに」 ミカ「でも、それは屁理屈でしょ?」 レイカ「それなりの理由があるはずなんですが」 コトネ「・・・じゃ、美術部に入りたかったから。美術部と生徒会の両立はできないから。これでどう?」 レイカ「ああ・・・なるほど!」 コトネ「私、絵を描くの好きだし・・・一人で何かするの好きだし・・・勉強の時間もとりたいから」 レイカ「総合的に判断した結果、というわけですね」 コトネ「総合的・・・ってほどじゃないけど」 ミカ「こんなのが総合的だっつーんなら、総合的じゃない判断なんかないでしょ」 レイカ「私が言う『総合的』というのは、相当なほめ言葉です」 ミカ「ほめ言葉?」 レイカ「大局的に、統括的に、弁証法的に、等と言い換えていいでしょう」 ミカ「はあ」 レイカ「振り込め詐欺にも見られるように、ひとつの理由に飛びついて、軽々しく重大な決断をする人が、どんどん現代人に増えています」 ナミ「それは確かに問題だね」 ミカ「いや、そうだとして、それが何か?」 レイカ「コトネさんは、そうではなく、熟慮したあげく、より正解に近い判断をしようとして、複数の異なる見地から物事を結論づける人だ、ということが言いたいのです」 ミカ「何でもいいけど、結論まで長くない?」 ナミ「でも、コトネのすごさが何となくわかったような気がする」 ミカ「そう?」 レイカ「わかっていただけたとすれば、よかったです」 コトネ「つまり、私を呼んだのは、そんなほめ言葉を言いたいからなの?」 レイカ「ああ、長々と失礼しました。閑話休題、ここからが本題です」 ミカ「早くしましょうよ」 レイカ「突然ですが、今回の生徒会長選挙、どう思います?」 コトネ「・・・は?」 ミカ「・・・会長選挙?」 レイカ「このままいくと、明日の告示終了17:00を迎えた時点で、立候補者は1名のみ。今の生徒会副会長が立候補し、そのまま信任投票で当選」 コトネ「そうなの?」 レイカ「なお、信任投票で信任されなかった例は、本校の生徒会長選挙の歴史の中で、一度もありません」 ミカ「・・・それって誰の見立てなの?」 レイカ「校内に複数いる情報屋・事情通による下馬評です」 ナミ「へー」 ミカ「学校に情報屋なんかいるの?」 レイカ「・・・もしかして、選挙のこと、興味ないんですか」 コトネ「あんまり」 レイカ「どうして!」 コトネ「・・・会長選挙なんて、興味ある人なんかいるの?」 ナミ「まあ、噂にもなってないしね」 ミカ「勝手にやれば」 レイカ「生徒会長経験のあるコトネさんなら、さだめし関心が高いのかと思っていたのですが」 コトネ「そう見える?」 レイカ「私のとんだ先走りだったようです」 ミカ「そんな世間話するために呼び出したの?」 レイカ「何という言いがかりですか! いいですか、これは決して、世間話などではありません」 ミカ「じゃ、なに」 レイカ「生徒会長選挙の話です」 ミカ「だから、なんなの」 レイカ「私は、今の今まで、てっきりコトネさんが選挙に出馬するものだとばっかり思っていました」 ミカ「はい?」 コトネ「話がよくわからないんだけど」 レイカ「私も本校生徒について、いろいろ調査・分析し、考えました。そうすると、どうしてもコトネさんしか会長にふさわしい人が、見つからないのです」 ミカ「何にもわかんない。わかるようにしゃべりなさいよ」 ナミ「まあ、まあ」 レイカ「わかりませんか」 ミカ「はあ?」 レイカ「本当にわかりませんか」 ミカ「なにが!」 レイカ「こんなに身近にいるのに」 ナミ「あの、コトネはたしかにいい友達だけど・・・見ず知らずのあなたがそんなに押す理由が・・・ね」 レイカ「コトネさん!」 コトネ「はい!」 レイカ「あなたは、選ばれた人なんです」 コトネ「選ばれた・・・だれに?」 レイカ「このたびは、本当におめでとうございます!」 コトネ「はあ」 レイカ「コトネさんこそ、本校を統率する生徒会長という役職に、ふさわしいのです」 ミカ「あのさ、いきなり来て、何言ってるの?」 レイカ「来たのはいきなりですが、ずーっと考えていたことです」 ミカ「いや、質問に答えなさいよ」 ナミ「まあ、まあ」 レイカ「では聞きますが、ミカさんから見て、コトネさんは生徒会長に向いていないと?」 ミカ「え?」 レイカ「あなたの言葉の端々から、そういう雰囲気がにじみ出ています」 ミカ「向いてないとは思わないけど・・・!」 レイカ「じゃ逆に、どうして向いているのだと思いますか?」 ミカ「え・・・そりゃ、勉強もできるし、・・・はきはき喋るし・・・後輩とかから人気もあるし・・・」 ナミ「嫉妬もされちゃうけどね」 レイカ「んー・・・どれも決め手に欠けますね」 ミカ「いや、そもそもコトネが生徒会長にふさわしいかどうか、そんなの、どうでもいいことでしょうが」 レイカ「どうでもいい?」 ミカ「コトネがなりたいかどうか、確認もしていないのに」 レイカ「あなた自身の結論は出さない、と」 ミカ「さっき言ったじゃん」 レイカ「もしかして、何かに気を遣っているとか」 ミカ「何言ってるの・・・」 ナミ「でも、コトネが生徒会長にふさわしいかなんて、今の今まで考えたことないよね」 ミカ「そうだよ」 レイカ「出ましたね。現代人の陥りやすい罠、『論点のすり替え』」 ミカ「なに?」 レイカ「いいですかミカさん、世の中、すべて、『結論ありき』なんです。まず結論。(指さして)コトネさんは生徒会長にふさわしい! 少なくとも私は、この結論からしかスタートできません! なぜなら! そう思っちゃったんだから、しょうがないでしょう!」 ミカ「しょうがない?」 レイカ「けだし! 理由なんか、後付けでいいんです! はいスタート!」 ミカ「もうむちゃくちゃ」 レイカ「そう考えていけば、ひとつひとつのことが、すべて生徒会長にふさわしく見えてきます」 ナミ「たとえば?」 レイカ「まず、容姿!」 コトネ「ルックス?」 レイカ「そう! にじみ出るカリスマ性! 自己主張を隠し持った目力! 化粧映えする顔の抑揚!」 コトネ「無理にほめてない?」 レイカ「本人のことは、本人が一番わからないものです」 コトネ「そう?」 レイカ「特に、容姿を冷静に見られる人はいません」 コトネ「まあ、ねえ」 レイカ「人間だれしも、自分の背中は見ることはできないのです」 ミカ「顔の話でしょ」 レイカ「話の腰を折らない!」 ミカ「はあ」 レイカ「あまつさえ! 理路整然とした話し方!」 ナミ「言われてみれば・・・」 コトネ「意識したことないし」 レイカ「えー! 無意識のうちに、こんなに完璧な話し方ができるなんて!」 ミカ「驚きすぎでしょ?」 レイカ「天性! 天性!」 ミカ「この人、大丈夫?」 レイカ「声質も、聞きづらくなく、大きすぎず、くさくもなく!」 ナミ「かわいい声なのは確かだけどね」 コトネ「そんなにいい声かな?」 レイカ「もう、女性初の総理大臣、見えてきました!」 ミカ「だから、オーバーだって」 レイカ「オーバーにもなります! 歴史的瞬間です!」 ミカ「歴史的瞬間?」 レイカ「コトネさん。私が冗談で言っていると思いますか?!」 コトネ「え、ああ、・・・えと、・・・冗談、では、ない、かな?」 ナミ「ちょっと大げさなだけでね」 ミカ「ちょっとじゃないでしょ」 レイカ「コトネさん。実は、わたし、本当はあなたがうらやましいんです」 コトネ「うらやましい?」 レイカ「こんなに天から贈り物をもらっているコトネさん」 ミカ「天って」 レイカ「ひとつひとつ、すべての要素が、全部生徒会長にふさわしい!」 ミカ「容姿と話し方だけでしょ」 コトネ「というか、生徒会長なんか、誰でもできるんじゃないの?」 レイカ「わたしは、ふさわしいかどうかを問題にしているんです!」 コトネ「はあ」 レイカ「誰でもできるから、誰でもいい、というものではありません」 ミカ「でも、・・・容姿と話し方だけなら、・・・まだまだほかにもいるでしょ」 ナミ「確かに・・・」 レイカ「では、極力些細な例で見てみましょう。よく聞く音楽のジャンルは?」 コトネ「え」 ミカ「中島みゆきだってー」 コトネ「みゆき様、当然です」 レイカ「どうですか、この流行に流されない、重厚で落ち着いた雰囲気」 コトネ「そうかな」 レイカ「最近のアイドルの曲とかは」 コトネ「えー、ほとんど聞かないけど」 レイカ「AKBとかNMBとか乃木坂とか」 コトネ「全然区別つかないんだけど」 レイカ「すばらしい!」 ミカ「どこがすばらしいの?」 レイカ「はい?」 ミカ「だから、そんなの、どこがすばらしいの」 レイカ「親友をつかまえて、『どこがすばらしいの』っていうのは、いかがなものでしょう」 ミカ「だってさ、言ってることがいい加減なんだもん」 ナミ「えー、おもしろそうだから、もうちょっと聞いてみようよ」 ミカ「ていうか、もっと『へえー!』って思える要素とかないの?」 コトネ「ないと思うよ」 ナミ「私は少し『へえー』って思ってるけど」 ミカ「私はちっとも納得できない」 レイカ「じゃあ・・・(いきなり)黒蜜白玉ソフトあんみつ」 ミカ「(相当驚いた声で)え!」 レイカ「コトネさんの好きなスイーツですね」 コトネ「そ・・・そうだけど」 ミカ「何・・・?」 レイカ「好きなスイーツひとつ取っても、好感度抜群です。このような古風な好みに対しては、同年代の女性の8割弱、男性なら5割強が好感を持つという調査結果があります。黒蜜の健康的な雰囲気も実にすばらしい。しかも、あんみつのもつ清涼感がその票数をさらに押し上げて」 ミカ「ちょっと、・・・ちょっと!」 レイカ「話の腰を折らない!」 ミカ「あなた、私たちの話聞いてたの?」 レイカ「何がですか」 ミカ「な、何とかあんみつ」 ナミ「黒蜜・・・」 コトネ「(怖そうに)黒蜜白玉ソフトあんみつ」 ミカ「そう、それそれ。何で知ってるの?」 レイカ「はい?」 コトネ「黒蜜白玉ソフトあんみつが好きだ、なんて、誰にも言ったことがないのに」 ナミ「誰にも、ではないけどね」 レイカ「みなさん、私の情報網をみくびらないでください」 コトネ「お母さんに聞いたの?」 レイカ「まさか」 ミカ「分かった! 元彼だ」 コトネ「ミカ!」 レイカ「元彼もご存じなんですね」 ミカ「あ、え、・・・いや・・・あなたは誰に聞いたの!」 レイカ「残念ですが、情報ソースを明らかにすることは、今後の調査活動に支障をきたすおそれがありますので、絶対にできません。あしからず」 コトネ「こわ!」 ミカ「高校生のすることか?」 レイカ「いずれにせよ、黒蜜白玉ソフトあんみつ。選挙に勝つには、完璧な好みです」 ナミ「(興味深そうに)じゃ、じゃ、桃と、バニラアイスのパフェは?」 レイカ「桃とバニラアイスのパフェですか・・・その桃は生ですか?缶詰ですか?」 ミカ「そりゃ生でしょう!」 レイカ「生の桃・・・まあ、バニラアイスは世代を超えた定番商品ですから、得票数にはさほど影響しないと思います」 ナミ「そうなんだ」 ミカ「バニラ味は最強なの」 レイカ「いえ、厳密に言うと、バニラ味という味は存在しません。バニラエッセンスの主成分バニリンには、香りをつける意味合いしかありません」 ミカ「はあ」 レイカ「バニラは良いのですが、そこに桃が絡むとダメですね」 ナミ「どうして」 ミカ「ま、桃は嫌いな人もいるからね」 コトネ「あのエグ味がね」 レイカ「エグ味は、全く問題ありません」 コトネ「はあ」 レイカ「桃だと、いささか『狙いすぎ』の感が否めません」 ミカ「狙いすぎ?」 レイカ「まあ、劣勢な状態から一発大逆転を狙う場合、あえて持ち出すことはあり得ます」 ミカ「うそくさー」 レイカ「また、『桃』という言葉のイメージに、高齢者は卑猥なニュアンスを感じ取る傾向にあります」 ナミ「そうなの?」 ミカ「嘘嘘」 レイカ「いずれにせよ、投票活動にはマイナスの影響を与えるでしょう・・・でもま、別に論じる必要はないですね、ミカさんの好みですから」 ミカ「は?! 何で私の好みまでわかるの!」 レイカ「当然、調べはついています」 ミカ「ちょっと調べたくらいでわかることなの?」 ナミ「まあ、まあ」 ミカ「わかった、盗聴だ。盗聴してるんでしょ」 ナミ「そんなことするわけないでしょ」 ミカ「だって、おかしいでしょ。さっき初めてしゃべったことなのに!」 レイカ「コトネさん!」 コトネ「はい!」 レイカ「たとえば、スイーツ以外で、好きな食べ物は何ですか?」 コトネ「え?・・・やっぱ、カレー?」 レイカ「カレーライスですか」 コトネ「そう。カレーライス」 レイカ「それは、おかあさんのカレーライス?」 コトネ「いや、・・・お店のカレーの方が」 レイカ「完璧です!」 コトネ「どこが」 レイカ「日本に団欒が残っていた昭和までの時代は、おかあさんのカレーに票が集まっていました。しかし、バブル期から徐々に食生活が多様化し、平成10年、ついに逆転。今はお店のカレーの方が得票率は高くなる傾向になっています」 ミカ「それほんとに選挙の話?」 レイカ「もちろんです」 ミカ「適当に言ってるんでしょ」 レイカ「失敬ですよ。何を根拠に!」 ミカ「それはこっちのセリフです」 レイカ「データが無言のうちにすべてを物語っています」 ミカ「食べ物一つ一つのデータとってるの?」 レイカ「情報の出所は、秘密だと言ったでしょう!」 ミカ「たかがカレーが選挙に関係あるの?」 レイカ「たかがカレー! ミカさん、日本の食文化をおとしめる発言は、厳に慎んでください」 ミカ「何で!」 レイカ「応援演説をするあなたが、そういうことでは困ります」 ミカ「応援演説?」 レイカ「ミカさんは、応援演説にふさわしい人です!」 ミカ「はい?」 レイカ「応援演説をするために産まれてきた人なんです」 ナミ「え? 具体的に、どういうところがふさわしいの」 ミカ「やめてよナミ、また長くなるから」 ナミ「えー、聞きたいじゃん」 レイカ「ミカさんが応援演説をすれば、得票数は若干ですが伸びます」 ミカ「若干かい」 レイカ「応援演説なんて、そんなもんです」 コトネ「あの・・・盛り上がってるところ悪いんだけど・・・(みんなが注目したら)わたし、立候補する気、ないから・・・」 ミカ「する気がない。はい、じゃ、今日のお話はおしまい、ということで!」 レイカ「ナミさん!」 ナミ「え? わたし?」 レイカ「ナミさんは、どうすればコトネさんが立候補すると思いますか?」 ナミ「え・・・」 レイカ「明日の17:00がタイムリミットなんです!」 ミカ「つーか、なんでそんなに立候補させたいの」 レイカ「・・・そんなことに、普通疑問持ちます?」 ミカ「普通、持つでしょ」 コトネ「万が一、私が生徒会長にふさわしいとして、それと立候補させたいと思うことは、直接結びつかないんじゃない?」 レイカ「さすが私が見込んだだけあります。実に論理的な発言です」 ミカ「話をずらさないで!」 レイカ「もし、私がコトネさんだったら、絶対に立候補します」 ミカ「関係ない!」 ナミ「まあ、まあ」 コトネ「だいいち、会長になっても、何すればいいか分からないし」 レイカ「何をするかなんか、関係ないんです」 ミカ「はあ?」 レイカ「選挙は、きっかけに過ぎません」 ミカ「何の!」 レイカ「何かわからないけれど、そこに何かがあるような気がしませんか」 ナミ「なんか名台詞っぽい」 ミカ「ぽいだけ」 レイカ「コトネさん! あなたの学校生活、本当に充実していますか?」 コトネ「え・・・ああ・・・」 レイカ「日々閉塞感に苛まれながら、それを直視せず、現状認識から逃げる形で学校生活を」 ミカ「ちょっとー、もっと簡単にしゃべってよ」 レイカ「話の腰を折らない!」 ミカ「はいはい」 レイカ「コトネさん、この選挙で、自分を変えてみませんか!」 コトネ「変える、って言われても」 レイカ「自分を変えるために、新しいことにチャレンジしてみる、またとない機会だと思いませんか!」 コトネ「そうかな・・・」 ミカ「そんなこと言って、落ちたらどうすんの」 ナミ「対立候補が必ず出るんでしょ」 レイカ「もちろんです。信任投票では、自分を変えるチャレンジにはなりません」 ミカ「だから、落ちたらどうすんの、って」 レイカ「ミカさん! やってもいないうちから、どうして失敗した後のことを考えるんですか!」 ミカ「だって、落ちたらイヤじゃん」 レイカ「やらないで後悔するより、やって失敗した方がいいでしょう」 ミカ「やらなくても別に後悔しないでしょ!」 レイカ「私は、コトネさんにサジェスチョンしてるんです!」 ミカ「だってあなた、言ってることめちゃくちゃだもの」 ナミ「ねえねえコトネ、なんか立候補するのも面白そうじゃない?」 コトネ「えー?」 ナミ「学校生活、あんまり楽しくないしさー」 コトネ「だからって、立候補?」 ナミ「そこに何かがあるような気がしませんか」 コトネ「何か・・・良いこととはかぎらないけどね」 ナミ「そりゃそうだけど」 レイカ「良い悪いではありません。自分を変えるきっかけが、そこにあるはずです」 コトネ「レイカさん・・・ひとつ、確認させてもらっていいかな」 レイカ「何ですか」 コトネ「しきりに私を立候補させようとしてるけど、あなたに何かメリットがあるの?」 ミカ「そうだよ」 ナミ「私も気になる」 レイカ「・・・やっぱり気になりますか」 コトネ「こんなに熱心に勧められると、何かウラがあるように思っちゃうんだよね」 レイカ「思っちゃいますか」 コトネ「私をあまりよく思わない人も、結構いるんです」 レイカ「ウラ・・・なんか・・・ないけど・・・」 ミカ「正直に言わないと、コトネも心を開かないと思うけどね」 レイカ「では正直に・・・言います・・・コトネさんを当選させ、自らの手で生徒会長を生み出す実感を得ることで、私自身の変わるきっかけにもしたいのです」 ミカ「あなたが変わる?」 レイカ「私だって、高校生活に抜き差しならぬ閉塞感を感じています。これを打破したい!」 ミカ「選挙で?」 レイカ「できることなら、私が立候補したい!」 ミカ「すればいーじゃん」 レイカ「でも、自己分析の結果、当選は不可能との結論に至りました」 ナミ「そうなんだ」 レイカ「まず私の容姿ですが」 ミカ「もういいよ、長くなるから」 レイカ「では、私の自己分析については省略します」 ミカ「でも、あなたさっき『やらないで後悔するより、やって失敗した方がいいでしょう』って言ってたじゃない」 レイカ「コトネさんは当選の可能性が極めて高いですから、私の場合とは全然異なるケースです」 ミカ「そうなの?」 レイカ「私はほぼゼロ%です」 ミカ「そうなの?」 レイカ「そこで、私は応援を通して、自己を改革することに思い至ったのです」 ミカ「ふーん」 レイカ「コトネさんを生徒会長にすることに、青春の一時期を賭けてみるのが、今の自分にできるベストな選択なんです!」 ミカ「思い込み激しすぎるでしょ」 コトネ「あの・・・私って、そんなに当選の可能性が高いのかな」 レイカ「おそらく」 コトネ「そこまで言う、ってことは、出てみる価値がある、ってことだよね」 レイカ「その通りです」 ミカ「ちょっとコトネ、やめときな、って」 コトネ「だまそうとしてるようには見えないからさ」 ミカ「すごいうさんくさいけど」 ナミ「でも、面白そうじゃない?」 コトネ「じゃ、たとえば、たとえばよ、立候補するといっても、どうすればいいの?」 レイカ「まず、立候補の届け出。これは17:00ギリギリにしましょう」 コトネ「どうして?」 レイカ「選挙は、後出しじゃんけんが有利です」 コトネ「そういうもんなの?」 レイカ「対立候補に、戦略を練る時間を与えてはいけません。幸いコトネさんが立候補することを、現副会長の陣営はまだつかんでいないようです」 ミカ「当たり前」 レイカ「絶対に相手は油断しています。そこを突くのです」 コトネ「で、それから」 レイカ「現今の生徒会長選挙には、一般に言う選挙運動というものがありません。その代わり、立会演説会が唯一の選挙運動として認められています」 ミカ「だから」 レイカ「立会演説会の練習を、ひたすらします」 コトネ「練習で何とかなるもんなの?」 レイカ「今から、その準備をしますから、ちょっと待っていてください」 コトネ「いや、だから、まだ立候補するなんて言ってないんだけど」  傍線部の最中に、レイカは下手に去ってしまう。 ナミ「行っちゃった」 ミカ「・・・・・ねえ、コトネ、どうするの?」 コトネ「え?」 ミカ「立候補」 コトネ「どうするって・・・」 ナミ「おもしろそうじゃん」 コトネ「ひとごとだと思って」 ナミ「でも、確かに、コトネは生徒会長にふさわしいかもね」 コトネ「え」 ナミ「レイカさんが言ってたことはよくわからなかったけど・・・コトネってとにかくしっかりしてるし」 ミカ「イエース」 ナミ「お姉さんキャラだし」 ミカ「イエース」 ナミ「男子にももてるし」 ミカ「イエスイエスイエース」 ナミ「成績も文系トップだし」 ミカ「もう同級生の嫉妬の的!」 コトネ「いやな思いをすることもあるわけよ」 ミカ「でも確かに・・・・あの人の言うことより、ナミの言うことの方がよく分かる」 コトネ「お店のカレーが好きなだけで、あんなにほめられてもねえ」 ナミ「一理あるけどね」 ミカ「ないよ・・・で、どうすんの」 ナミ「えー、出てみようよ」 コトネ「・・・少し考えさせて」 ミカ「本気?」 コトネ「・・・少し、ほんの少しだけね、考えてみましょ、っていうこと」 ミカ「やめた方がいいよ」 ナミ「どうして」 ミカ「・・・明らかに、怪しいでしょ、あの人」 コトネ「まあねえ」 ミカ「言ってることもうさんくさいし」 ナミ「私は、おもしろかったけどね」 ミカ「そう?」 ナミ「・・・少しだけ」 ミカ「私は反対だけどね。コトネは?」 コトネ「ここまできたら、立会演説会の練習につきあってみてもいいかな」 ミカ「まじ?」 コトネ「イエース」 ミカ「あまりその気にならない方がいいんじゃない?」 コトネ「別にその気になんかなってないけど」 ミカ「あんな人の褒め言葉、いい加減なもんなんでしょ」 ナミ「そう?」 ミカ「生徒会長選挙なんか、信任投票で、穏やかに終わった方がいいんだって」 ナミ「えー、それじゃつまんなーい」 ミカ「おもしろさを求めてどうすんの!」 ナミ「コトネが会長になったら、学校変わるかもしれないじゃん」 ミカ「変わんないよ」 コトネ「まあ、まあ、とりあえず、もう少し様子を見てみない?」 ミカ「コトネもおもしろがってる?」 コトネ「うーん・・・というか、判断がつかない」 ナミ「ちょっとは前向きだってことね」 コトネ「わかんない」  と、レイカが、「谷田ことね」と大書したタスキと、演台代わりの机を持って入ってくる。 ミカ「(しばらく見つめた後で)・・・ちょっと、何それ?」 レイカ「雰囲気を出さないと」 ミカ「よく見せてよ(と言ってタスキを観客に見えるように広げる)」 レイカ「急ごしらえなので、いまいち締まらないかもしれませんが、練習をするには十分でしょう」 ミカ「『ことね』は漢字のはずだけど」 レイカ「選挙ですから、名前を開いておきました」 ミカ「ひらいた?」 コトネ「ひらがなに直すことよ」 ミカ「ふーん」 レイカ「では、装着してもらいましょ」 コトネ「え、ええ」 ミカ「抵抗しないのね」 ナミ「似合ってるじゃん」 ミカ「恥ずかし!」 レイカ「で、こっちがミカさん」 ミカ「え!」 レイカ「応援演説の人にも、たすきは必要です」 ミカ「やっぱりわたし?」 ナミ「ミカ、がんばって」 ミカ「まじですか」 レイカ「イエスイエスイエース」 ミカ「はあ・・・」 ナミ「ミカも似合うじゃん!」 ミカ「嬉しくないよ」 レイカ「準備万端整ったところで、それでは、ミカさんの応援演説から練習しましょう」 ミカ「は! わたしから?!」 レイカ「普通、応援演説が先でしょう」 ミカ「ええ?」 レイカ「まず、この演台の前に立ってください(ミカを立たせる)」 ミカ「ちょっとー」 レイカ「では、流れを説明します。まず演壇にて一礼し、自分のことを簡単に紹介します。コトネさんとの関係を一言二言述べれば良いでしょう。それから、コトネさんが生徒会長にふさわしいのはどのような点であるかを二〜三点説明し、最後に心からのお願いを熱く述べて、再び一礼して終了、ざっとこういう流れです」 ミカ「はあ」 レイカ「ではさっそく行ってみましょう。・・・用意、スタート!」 ミカ「ちょ、ちょ、スタートって、(とりあえず一礼し、しばらくあってから)・・・・・どうも、・・・ミ、ミカと言いまーす」 レイカ「(怒って)カットー!」 ミカ「いきなりは無理でしょ!」 レイカ「ミカさん、せめてフルネームでお願いします」 ミカ「ああ、そっか」 レイカ「『ミカと言いまーす』こんなんで当選しますか!」 ナミ「しない・・・ね」 レイカ「さほどかわいい言い方でもないし!」 ミカ「そこ?」 レイカ「中途半端が一番嫌われます」 ミカ「はあ」 レイカ「ミカさんは、極めて心配性のようですから、娘を心配する母の愛情を全面に押し出したキャラクター設定にしてみましょう」 ミカ「母の愛情?」 レイカ「普段のミカさんの性格と、それほど齟齬をきたさないと思われますが」 ナミ「確かに」 ミカ「そう?」 レイカ「では、ミカさんから見たコトネさんの良さを、お母さん口調で説明してみてください」 ミカ「・・・(ためてから)えー・・・ほんとにやるの?」 ナミ「ミカ! なにためらってるの?」 レイカ「練習ですから、稚拙でもいいので、とりあえず、やってみましょう。案ずるより産むが易しです」 ミカ「・・・えー、・・・ンンッ(=咳払い)・・・コトネさん・・・じゃなくて・・・(無理にお母さんの口調にして)ほんっと・・・うちのコトネは、・・・何と言っても・・・何と言っても・・・男子生徒にもてるんですよ」 レイカ「カットー! もててどうすんの!」 ミカ「えー・・・でも、事実だし」 レイカ「そんな卑猥でエロいイメージはダメです」 コトネ「私はエロくありません」 ミカ「だれもエロいなんて言ってないし・・・てか、何言っていいか全然わかんない」 レイカ「他に、コトネさんのイメージはないんですか?」 ミカ「えー・・・生徒会長にふさわしいイメージでしょ?」 レイカ「とりあえずイメージをどんどん出してみましょう」 コトネ「なんか恥ずかしいんだけど」 ナミ「文系で成績トップ!」 レイカ「使えません」 ナミ「そう?」 レイカ「成績が良くても、好感度は上がりません」 ナミ「オール5だよ!」 レイカ「弱点が無いイメージでは、余計な反感を買うだけです」 ミカ「・・・お姉さんキャラ」 レイカ「・・・悪くないですね」 ミカ「(お母さんっぽく)うちのコトネが生徒会長になったら・・・まるでお姉さんの暖かさで皆さんを包みこんで」 レイカ「意味が分かりません。やっぱりだめです」 ミカ「説得力のあるしゃべり方」 レイカ「対立候補も、結構説得力ありますからね」 ミカ「・・・全然思いつかなーい」 レイカ「では、コトネさんが会長になったら、学校はどう変わるか」 ミカ「誰がやったって、学校なんか変わらない、って」 レイカ「学校の制度上の変化は無いかもしれませんが」 ミカ「そうでしょ」 レイカ「要するに、生徒会長というのは、挨拶係です」 コトネ「挨拶係」 レイカ「ちょっとした行事の際には、校長と生徒会長、ペアで話すのが基本です」 ミカ「じゃ、校長先生も挨拶係」 レイカ「そういうことです」 コトネ「そうかな?」 レイカ「コトネさんが常日頃挨拶をすることで、学校の雰囲気に、ある一定の変化がもたらせるというアピールはできないでしょうか」 ナミ「コトネが学校祭で喋ると、行事の盛り上がりが違う!」 レイカ「いいですね」 ナミ「コトネが壮行会で応援すると、甲子園出場が決まる!」 レイカ「ちょっと大げさですね」 ミカ「あなたに言われたくない」 ナミ「コトネが・・・コトネが喋ると、学校の雰囲気が明るくなる!」 レイカ「これもいいですね」 ナミ「コトネが喋ると、みんなが適度な緊張感を持って学校生活に臨める!」 コトネ「ちょっ、ちょっと、そんなこと言われた後で、私喋るの?」 レイカ「当然です。順番ですから」 コトネ「ハードル上げまくってない?」 レイカ「当然です。応援演説から既に、勝負は始まっています」 コトネ「でも」 レイカ「勝負はスタート前が大事です。だいたい、にらめっこの勝ち方知ってますか?」 コトネ「いきなりなに?」 レイカ「だーるまさん、だーるまさん、のときに面白い顔をするんです」 ナミ「へー」 ミカ「へーじゃないよ」 レイカ「表情に声をつければ、表現効果が倍増と言うことを言いたいんです!」 コトネ「それってルール違反じゃないの」 レイカ「選挙にルールもへったくれもありません。みんな選挙違反ギリギリで来るんです。必死なんです。野球は9回裏が終わってからが勝負なんです」 ミカ「むちゃくちゃだよ」 ナミ「でも一理ある」 ミカ「だから無いって」 コトネ「じゃ、私は適度な緊張感をもって話をする、ってこと?」 レイカ「イエース」 コトネ「適度な緊張感・・・適度な・・・ちょっとレイカさん、お手本とか見せてください」 レイカ「まず、演説の体勢を作ります。(妙な仕草で)適度なー緊張感! はい皆さんご一緒に!」 他三人「適度なー緊張感!」 レイカ「顔が硬すぎます。それでは適度ではなく、過度な緊張感です」 ミカ「というか、私たちやる必要ある?」 ナミ「なんか面白そうだったから」 レイカ「いえ、全員でやりましょう。その場の成員全員で行うことにより、練習効果が平均1.3倍になると、アメリカ航空宇宙局・NASAの1965年の調査で」 ミカ「やります、やりますよ」 レイカ「ではいずれも様、いまひとたびまいります。せーの、」 全員「適度なー緊張感!」 コトネ「こんなこと壇上でやるの?」 レイカ「言い忘れました。くれぐれもこれは演説会の直前に、聴衆の目の届かないところで行うことです。こんな場面、事前に見られたら間抜けですから。絶対に壇上でやってはダメですよ!」 ミカ「事前じゃなくても間抜けだって」 レイカ「で、そのままの表情・姿勢・テンションで壇上に上がります」 コトネ「そうなの?」 レイカ「はい、あがってください!」 コトネ「待ってください、今テンション作るから」 ミカ「ちょっと乗ってきてない?」 コトネ「適度なー緊張感!(そのまま壇上にあがろうとする)」 ミカ「自分からやってるよ」 コトネ「(一礼して)皆さん、今回生徒会長選挙に立候補した『タニタ・コトネ』です。・・・こんな感じでどう?」 レイカ「ばっちりです!」 ナミ「どの辺が」 ミカ「もういいよ、長くなるから」 レイカ「一礼する前に聴衆をちらっと見ました。このさりげない見方は、決して素人にまねできるものではありません。決して媚びず、かといって敵意を見せるでもなく、適度な緊張感だけを愚直に追い求めていった職人芸です!」 ミカ「よく思いつくねー」 レイカ「こうなれば演説の要求水準もどんどん上げていきます。コトネさんのイメージは『凜々しい女優』にしましょう」 ミカ「なんで」 レイカ「対立候補はおそらく『ほんわかキャリアウーマン』のキャラクターでくるはずです」 ミカ「ほんわかキャリアウーマン?」 ナミ「ああ、確かに!」 ミカ「まあ、ほんわかしてて、いかにもキャリアウーマン、っていう感じだけど・・・そのままじゃない?」 レイカ「たかが高校生に、演じられるキャラの数など限られています」 ミカ「もしかして、副会長のこと嫌いだったりする?」 レイカ「いえ、副会長の人物的な面には何ら興味がありません」 ミカ「ほんとに?」 レイカ「下司の勘ぐりはおやめください。政治活動というのは、私的な怨恨やそねみで左右されるべきものではありません。マックス=ウェーバー読んでないんですか?」 ミカ「それはたいへん失礼しました!」 レイカ「コトネさん、そろそろよろしいですか」 コトネ「凜々しい女優でしょ?・・・ちょっと待って・・・(役作りをする)」 ミカ「あー、すっかりその気だよ」 ナミ「コトネ! がんばって!」 レイカ「あ、その表情、いい感じです。自分が学校の雰囲気をどう変えたいか、手短に、そして、エレガントにアピールしてください!」 コトネ「ンンッ(=やや大げさでエレガントな咳払い)、わたくしは、皆さんの高校生活が、今よりも、明るく、楽しく、かつ適度な緊張感をもった、・・・向上心あふれるものにしたいと考えています・・・皆さんのご協力で会長に立候補することができました。本当にありがとうございます・・・・・こんな感じでいかがかしら?」 レイカ「(間髪入れず大げさに拍手をする。ほかの二人もつられて拍手したあと)オウ、エクセレント&エレガンスエレガント! プリティ・リトル・ベイビー! コトネさんは私の最後の女神!」 ミカ「最後の女神!」 コトネ「(女優風に)光栄ですわ」 ミカ「やっぱりなんかおかしい」 ナミ「何が」 ミカ「最後の女神!」 ナミ「ああ・・・偶然でしょ」 ミカ「そんなはずない! 」 レイカ「コトネさん、会長選挙、もちろん立候補してくれますね」 ナミ「コトネ、どうするどうする?」 ミカ「やめやめ、こんな気持ち悪い人の言うこと、聞いちゃダメ!」 ナミ「気持ち悪くないじゃん」 ミカ「どこが!」 ナミ「面白いじゃん」 ミカ「面白くない!」 コトネ「ミカ!」 ミカ「この人ここに来てからずーっと適当なこと言ってるだけでしょ」 ナミ「レイカさん、ごめんね、ミカも悪気があって言ってるわけじゃ」 ミカ「悪気があって言ってるの!」 ナミ「ミカ!」 レイカ「私の話し口調が胡散臭く感じられることは、自覚しています。その分、正確で濃密な内容面でカバーしようと常日頃心がけて」 ミカ「内容がうそくさいの!」 ナミ「ミカ、落ち着いて」 ミカ「ネットの掲示板みたいに、いい加減なこと偉そうにしゃべってさ!」 ナミ「だから、」 ミカ「根拠のないこと雰囲気でしゃべってるだけじゃん!」 ナミ「ミカ!」 ミカ「私はね、そんな雰囲気みたいなもんにだまされないからね!」 ナミ「もう、やめてよ!」 ミカ「あなたも、なんか言い返して来なさいよ」 レイカ「私は、無駄な反論はしません。正しいことの証明はできませんから」 ミカ「反論できないだけでしょ」 ナミ「いいから!」 ミカ「コトネはどうするの!」 コトネ「え」 ミカ「出るの!出ないの!」 コトネ「え・・・え、と、・・・それは・・・」 ミカ「どっちにしても、・・・私は応援演説なんかしないから」 ナミ「ミカ、どうして!」 コトネ「・・・私の応援はしてくれないの・・・」 ミカ「この人の言うとおりにするのはイヤです」 レイカ「それは残念ですね」 コトネ「・・・どうしよう」 ナミ「彼氏は?」 コトネ「え・・・無理・・・」 ナミ「だよね」 コトネ「そんな深い仲じゃないし」 ナミ「そういう理由?」 レイカ「じゃ、応援演説のことはまた後ほど考えることにしましょう」 コトネ「後ほどで、大丈夫?」 レイカ「まあ、何とかなるでしょう」 コトネ「ほんと?」 レイカ「保証します」 コトネ「根拠は?」 レイカ「皆さん、私の話にも飽きてきたと思うので、省略します」 コトネ「そう?」 レイカ「そういう顔をなさっています」 コトネ「・・・大丈夫かな?」 ミカ「さあね」 ナミ「ミカ!」 ミカ「嫌いなの! こういう人が一番!」 レイカ「まあ、万人に好かれるタイプでないことは自ら認めざるを得ないでしょう」 ミカ「うるさい! ああいえばこう言う! いなくなってほしい!」 コトネ「ミカ! 言い過ぎ!」 ミカ「勝手にしたら! 私先に帰る!」 ナミ「ちょっとミカ!」 レイカ「やや不穏な空気になってきましたね」 ミカ「あなたのせいです。じゃね!(下手に去る)」 コトネ「待って! 帰らないで!」 ナミ「帰っちゃった」 コトネ「・・・どうしよう・・・(しばらく考える)」 レイカ「結論は出ないようですね。では、明日の朝まで、結論を待ちましょう」 コトネ「・・・うん」 レイカ「いい答えを待っています。信じています。では、私はこれで失礼します。また明日まで、みなさん、ごきげんよう(下手に去る)」 ナミ「ミカ・・・怒ったね」 コトネ「ミカも応援してくれるかな」 ナミ「・・・大丈夫」 コトネ「根拠は」 ナミ「たぶん、だけど」 コトネ「・・・十分だよ」 ナミ「私たち、幼なじみだからね」 コトネ「そうだよね」 ナミ「こんなこと、何回もあったじゃん」 コトネ「そっか」 ナミ「そう」 コトネ「・・・ありがとうね」 ナミ「何が?」 コトネ「いつも一緒にいてくれて」 ナミ「何、急に」 コトネ「別に・・・言いたくなっただけ」 ナミ「・・・じゃ、帰ろうか」 コトネ「イエース」 ナミ「イエスイエスイエース」  で、下手に去る。暗転。  照明がつくと、レイカ一人。スマホを必死に見ている。そこへ、コトネが入ってくる。 コトネ「ここにいたの」 レイカ「(見てから)あ、コトネさん・・・」 コトネ「ずいぶん探したんですけど」 レイカ「・・・選挙・・・本当に、お疲れさまでした・・・私・・・力になれなくて・・・」 コトネ「・・・いいの・・・ダメ元だったから」 レイカ「ごめんなさい」 コトネ「だから、いいの」 レイカ「でも」 コトネ「気にしてない」 レイカ「・・・気にしてない・・・の?」 コトネ「気にしないことに決めたの」 レイカ「・・・そうですか」 コトネ「そんなことより、もっと気になることがあってね」 レイカ「気になること」 コトネ「そう」 レイカ「・・・何・・・ですかね」 コトネ「ふふふ、・・・それよりさ、・・・レイカさんはあのとき、・・・私が立候補すると思った?」 レイカ「・・・え?」 コトネ「どう?」 レイカ「・・・もちろん、か、くしん、してましたけど」 コトネ「ほんとに?」 レイカ「・・・ええ」 コトネ「端的に言って、それはどうしてですか」 レイカ「え?」 コトネ「私が選挙に立候補すると考えるに至った、その理由があれば教えていただきたいのですが」 レイカ「・・・何となく」 コトネ「えー、面白くない!」 レイカ「では・・・総合的に判断しました」 コトネ「だから、つまんない」 レイカ「じゃ・・・・・え、と、・・・考える時間が、必要なとき、『一応』という言葉を、使った人は、最終的に、肯定的な返事をすると、心理学の、有名な実験で」 コトネ「ふふふ・・・レイカさんの話って、面白いけど、やっぱり嘘っぽい」 レイカ「嘘っぽい?」 コトネ「でも面白い」 レイカ「はあ」 コトネ「でまかせなんでしょ?」 レイカ「そう聞こえますか?」 コトネ「そう聞こえます」 レイカ「真剣に話しているつもりですけれど」 コトネ「そうでしょうね」 レイカ「そうでしょうか」 コトネ「真剣にでまかせを言ってるんでしょ」 レイカ「・・・そんなこと・・・」 コトネ「実は・・・私もね・・・レイカさんのこと、少し調べたんだ」 レイカ「私のこと? どうやって」 コトネ「残念ですが、情報ソースを明らかにすることは」 レイカ「絶対できないんでしたね」 コトネ「イエスイエスイエース」 レイカ「・・・で、何か分かりましたか」 コトネ「みんな言ってたよ」 レイカ「みんなに聞いたの?」 コトネ「同じ中学校だった人にね」 レイカ「・・・」 コトネ「優しい人だって」 レイカ「そんなはずないよ」 コトネ「自己主張はしない」 レイカ「できないだけです」 コトネ「あんなに立候補を勧めた人が」 レイカ「・・・そういうこともあります」 コトネ「部活には入っていない。勉強はできる。でも、いつもスマホしか見てない」 レイカ「確かに私ですね」 コトネ「人前でしゃべってる姿、ほとんど見たことないって」 レイカ「ほとんど・・・全く、の間違いじゃないですか」 コトネ「みんな言ってたよ。1回だけ、人前でしゃべった姿が、印象的だった、って」 レイカ「・・・」 コトネ「で、友達は」 レイカ「いないよ」 コトネ「そうなの?」 レイカ「調べたら分かることでしょう」 コトネ「仲のいい人がたくさんいた」 レイカ「友達なんかいません。何かの間違いじゃないですか」 コトネ「そんなはずはないんだけど」 レイカ「・・・みんな、嫌いだったもん」 コトネ「みんな嫌い?」 レイカ「ほんとは、みんな、大っ嫌い」 コトネ「大っ嫌い?」 レイカ「あなたには、こういう気持ちは分からないでしょう?」 コトネ「・・・そういう情報はなかったなー」 レイカ「本当に大事な情報は、外に出ないものです」 コトネ「じゃあ、生徒会長選挙」 レイカ「え」 コトネ「選挙に対する思い入れ、あれはどう見ても普通じゃないでしょ」 レイカ「・・・調べたんですね」 コトネ「自分が落ちたから、私を落とそうとした」 レイカ「・・・」 コトネ「いや、自分が無理矢理立候補させられて落とされたから、私をそういう目に遭わせようとした」 レイカ「どうかな」 コトネ「もっと調べたんだけどね」 レイカ「物好き」 コトネ「レイカさんほどじゃないけどね」 レイカ「・・・あなたたちみたいな三人組見ると・・・思い出すのよ」 コトネ「そういうことですね」 レイカ「仲良し三人が私を囲んで・・・いや、いつも真ん中にいた・・・あなたみたいな人が、ずーっと私に・・・ほかの二人は周りでおもしろがってるだけ」 コトネ「にしても、立候補するかな?」 レイカ「理由になってないことをずーっと、毎日言われて・・・言い返せなくて・・・ノリが悪いってさんざん言われて・・・最後は自分から、出る、って」 コトネ「で、選挙に負けた」 レイカ「いや、あの三人に負けた」 コトネ「三人に」 レイカ「あなたには分からないでしょう」 コトネ「全然分からない」 レイカ「でも、あなたも立候補した」 コトネ「うん」 レイカ「今度は私の勝ち」 コトネ「私の負け?」 レイカ「そう」 コトネ「どうして」 レイカ「作戦勝ち。事前準備、ツイッターで鍛えた説得力、それと」 コトネ「それと」 レイカ「自分を変えようとする力」 コトネ「・・・私は負けてないけどね」 レイカ「そんなことない」 コトネ「レイカさんの中学の話・・・立候補を決める前に調べたんだ」 レイカ「え」 コトネ「やっぱスマホって便利だし」 レイカ「・・・友達が多ければね」 コトネ「そういうこと・・・私ね、別にレイカさんの話に納得した訳じゃないの」 レイカ「・・・」 コトネ「でも、・・・立候補したの」 レイカ「よく分からない」 コトネ「レイカさん」 レイカ「はい?」 コトネ「私、演説の時に、『皆さんのご協力で会長に立候補することができました』って言ったでしょ」 レイカ「立候補なんか誰でもできるのに」 コトネ「ううん(=否定)、あれはあれでいいの」 レイカ「え」 コトネ「あれはね・・・レイカさんに向けて言ったの」 レイカ「・・・」 コトネ「あ、レイカさんと、ミカとナミ。三人のおかげ」 レイカ「・・・・・」 コトネ「でも、ホントに、一番感謝してるのは・・・レイカさん」 レイカ「そんな」 コトネ「レイカさんが、・・・ホントの最後の女神・・・最後の」 レイカ「・・・最後の」 コトネ「どういう理由でも、私を導いてくれたし」 レイカ「導いた・・・?」 コトネ「自分の背中を押してくれる、最後の女神」 レイカ「・・・突き落としたようなもんじゃない?」 コトネ「これからは、自分で進めるような気がする。誰に押してもらわなくても」 レイカ「・・・」 コトネ「全校生徒の半分位の人が、私に投票してくれた。それで大満足」 レイカ「負けたのに」 コトネ「『いいね!』がつくよりも、充実感あったよ」 レイカ「・・・そう」 コトネ「だから、自分に自信がつきました。レイカさん、ありがとう」 レイカ「・・・私は変わらなかった」 コトネ「そうかな?」 レイカ「そう」 コトネ「こんなに感謝してるのに」 レイカ「感謝なんかしないでよ!」 コトネ「何で」 レイカ「私のせいで、こんなことになったのに!」 コトネ「だから、ありがとう、って」 レイカ「やめて!」 コトネ「いいじゃん」 レイカ「だから、あなたたちみたいなの、大っ嫌いなの!」 コトネ「・・・安心して・・・私も、レイカさんのこと、好きじゃないから」 レイカ「・・・え?」 コトネ「私たちのこと、はめようとしたんだもん。けんかするように仕向けたり」 レイカ「・・・そ、そうだよ」 コトネ「感謝してるけどね、好きじゃない。信じてなんかいませんでした。これでよかった?」 レイカ「私のこと嫌いなのね」 コトネ「そう言ったじゃん」 レイカ「・・・そう・・・分かった」  しばらくあって、そこへ、ナミとミカが来る。 ナミ「コトネ、早く帰ろうよ。私まで疲れちゃった」 ミカ「あー慣れない演説したから肩こっちゃった」 コトネ「ごめんね」 ミカ「肩もんでよ」 コトネ「二人とも、全然慰めないね」 ミカ「慰めませーん」 ナミ「イエース」 コトネ・ミカ「イエスイエスイエース」 ナミ「レイカさんも行く?」 レイカ「え」 ナミ「これから残念会」 ミカ「慰めない残念会」 コトネ「各々が、好きなスイーツを食べる」 ナミ「私たち、残念なことがあったら、三人でおいしいものを食べることにしてるの」 レイカ「・・・」 ナミ「行きましょ行きましょ」 コトネ「そうそう」 レイカ「でも・・・」 ミカ「行くの行かないのどっちなの!」 ナミ「甘いもの嫌いなの?」 レイカ「・・・いえ、好きです」 コトネ「でしょうね。レイカさん、LINEで『シュガー』って名前なんでしょ」 レイカ「・・・よく調べましたね」 ナミ「だったら行きましょう」 コトネ「スイーツ食べて、このプロジェクトは解散! 明日から、また元の生活!」 レイカ「元の生活」 ミカ「では、出発進行!」  コトネ、ナミ、ミカが下手に去って行く。一人遅れる感じで残されたレイカ。 レイカ「・・・嫌い・・・みんな嫌い・・・あの人達も・・・私も・・・みんな・・・嫌いなの!」 ナミ「(下手袖から呼ぶ声)ほんとに行かないの!」  コトネが走って舞台に入ってきて コトネ「ほら、行くよ」 レイカ「・・・嫌いなんでしょ」 コトネ「きらいだよ。だから、行きましょ」 レイカ「え」  二人、ゆっくり下手に進む。閉幕。