平成二十四年度 県南春発表会 何だかわからない部屋  作 佐々木繁樹          キャスト   男 開幕 事務室風の部屋。事務机。事務椅子。パイプ椅子。テーブル。 スーツを着た男がひとり。事務椅子に突っ伏して寝ているところ。 男、無理して起きた感じで 男「あ、あ、やべ、ぐっすり寝ちゃった! か、課長! もう少し待ってください!」 しーんとしている。異変に気付き、辺りを見回す。立ち上がり、見覚えのない景色に戸惑う。 男「誰もいない。・・・何だここは・・・どう見ても、会社ではないよな」 明らかに眠そう。少し歩き回る。事務椅子に座り直したり、事務机の上のものを見たり、パイプ椅子に座ったり、勝手な動きをする。時計も見る。 男「まだ30分くらいか・・・寝ぼけてるのかな・・・ちょっと仮眠取っただけなんだけどな・・・」 目を覚ますための動きをする。 男「・・・会社のデスクでちょっとお昼寝してたはず、だよな・・・ここどこ!」 パイプ椅子に座る。 男「どうみても、普通の部屋だよな・・・たぶん初めて来た部屋だと思うけど・・・こんなにふつうの部屋だと、初めてのような気がしないな・・・前に来たことあったっけ・・・来たことあるような・・・いや、ないな・・・夢の中か?・・・違うよな・・・まあいい! とにかくここはどこなんだ!」 パイプ椅子に座ったまま、携帯を見る。 男「・・・呼び出し来る前に戻らないとまずいよな・・・どうやって?」 男、下手に去る。唯一あるドアの鍵が閉まっているのを見て、「おー!」など声をあげる。ややあって戻る。 男「全然開かない! 何で鍵が開かないんだよ!・・・窓だって全然ないし・・・まるで地下牢じゃないか・・・閉じこめられてるってじゃねーか!・・・何なんだ・・・」 男、部屋をくまなく動き回るが、何も手がかりはない。 男「困ったな・・・(携帯を見る。首をかしげる。どこかに電話を掛ける。なかなか出ないからいらいらしている。ややあって)何だよ、とっとと出ろよ(そんなこと言ったって、家の中にいると携帯持ちあるかないもの)ああ分かった分かった、で、おい、おう、あー、今どこだ?(家にいるよ) え、あ、違う違う、えーと、おれどこだ?(会社でしょう)あ、いや、今、会社にいないんだよ(どっか具合でも悪いのかい?)いや、具合悪いわけじゃねんだけど(またサボりかい)またって、さぼったことねーだろ(何なんだよ)説明しづらいんだよな・・・えーと、そう、何だかわからない部屋に閉じ込められてるんだよ(あ?)見たこと有るような無いような(何言ってんの)いや、あの、部屋は普通の部屋なんだよ(はあ)机が1個あって、椅子は2個あって、割と広い(お前今周りにだれもいないの)・・・え? 誰もいないけど(ああよかった)ああよかった、って何だよ。よくねーよ、閉じこめられてるんだぞ、よく分かんねーけど。(お前、頭でもぶつけたんじゃないのかい)頭なんかぶつけてねーよ! 何だよ、俺がおかしいってのかよ(何かねえ)そんなこといいから助けに来いよ・・・実の親だろ! (だって話がよく分かんないもの)え、あ、ああ、そうか、もういいよ。はあ、・・・あ、あー、・・・まず様子見て、何か分かったらメールするわ。じゃあな」 電話を切る。 男「自分の子どもが信用できないのかね? ま、たしかに、こんなの誰に電話しても納得しないよな。だいたい自分ですら状況がよく分かってないんだから。説明のしようがないよ」 携帯を机の上に置く。デスクの上の電話をとり、どこかに掛けている。 男「・・・うんともすんとも言わない。使えないのかな? 何のための電話なんだ?・・・はぁ、・・・しかし、それにしても、・・・おれ本当に閉じこめられてるのか?・・・普通閉じ込められるときって、もっと暗い部屋にするんじゃないのか? 地下室とか。・・・手も別に縛られてないし・・・椅子にくくりつけられてるわけでもないし・・・注射された跡もなさそうだし・・・だいいち目隠しもされてない!・・・あ、わかった! 軟禁だ。監禁じゃないんだ!・・・どっちでもいいな・・・どっちにしても、閉じこめられてる実感はゼロだよな・・・こんなんじゃ、何で閉じ込められてるのか、考える気にもならないな・・・にしても、俺を閉じこめてどうするんだ?・・・何にもないぞ俺なんて・・・もっと世の中には閉じこめる価値のある奴がいるだろ・・・身代金なんか全然取れないし・・・いや、俺が知らないだけで、本当は俺には閉じこめる価値があるのか・・・何か犯罪に巻き込まれてるのかな・・・実は命も危ないのか・・・快楽殺人ってのもあるからな・・・」 間。ややあって、いきなりデスクの電話が鳴る。すぐには取らないが、結局取る。 男「・・・はい、もしもし、(もしもし)、もしもし、(私があなたを閉じこめた犯人です)はい? おたくが犯人?(そうです)やけにあっさり名乗るもんですね(そうですか)そうですか、って、で、あなただれですか(それはまだ言えません)言えないってそりゃそうか。じゃあ、何で俺を閉じこめたのか教えてください(簡単なことです)うん、(今、あなたは監視されています)監視されてる?(カメラが見えませんか)何処に?(パイプ椅子の正面です)(客席上方を指さして)あれか?(見つけたようですね)見つけたけど、あれで俺を写してるのかよ(はい)写してどうしようってんだよ?(それはまだ言えません)まだ言えませんって、おい、おかしいだろ?(ふふふ)何で笑ってんだよ!おい、ちょっと(ガチャプープープー)あー、おい! ・・・切れた・・・」 監視カメラがあるという方向を見る。 男「・・・ホントに録ってるのか?・・・まじか?・・・ホントかな?・・・でも、たしかに動いてるようだけど・・・」 まず、カメラの方をじっと見る。カメラから身を伏せようとしてみる。 男「わっ!動いた!・・・俺の動きに合わせてるのか?」 いろいろ動き回ってみて、やっぱりカメラがついてくることを確認する。 男「カメラに何かかぶせることも無理そうだし・・・これじゃ逃げようがないな・・・どうしても写されちゃう、ってことか」 そのあと、笑顔でピースする。手を振る、変な表情をする、大げさに動いてみる。明らかにカメラを意識している。 男「・・・やっぱ、カメラがあるって言われるとつい意識しちゃうな・・・音も入ってるのか?・・・あーさっき聞いとけばよかった・・・あーあーきこえてますか?・・・聞こえてるかなんて確かめようがないか・・・というか、映ってるかどうかも確かめようが無いぞ・・・」 パイプ椅子に座り、カメラの方を向いたまま、爽やかな顔でじーっとしている。 男「そうか! カメラ見る必要ないんだ! なんかつい見ちゃってた! 気にしない、気にしない、そう、気にしないことだよな」 気にしないように心がける動きをするが、なにかしらぎこちない。携帯で何かゲームでもしようとしている。が、やっぱりカメラが気になるらしく、ちらちら見てしまう。ゲームに集中しようとするが、やっぱり見てしまう。 男「あー、やっぱ見られてると思うと普通にできないなあ・・・見られてるなんて、嘘かもしれないのに・・・見られてるって思いこんでるだけかもしれないのに・・・つーか、こんな大がかりなことして、俺を録ってどうすんだ?・・・俺一人撮影するのに、何でこんな手の込んだことするんだ?・・・やっぱり、犯罪?」 再び事務椅子に座る。 男「監禁の理由は、俺を撮影することだよな・・・そんなことしてどうすんだ?・・・これってもしかしてyoutubeとかニコ生とか、ネット中継とかされてるのか?・・・それだったら、確かにちょっと面白いかもな・・・にしても、なんで俺が?・・・まあ、どっちにしても相手は犯罪者だ・・・もうちょっと動きを考えないと・・・」 電話が鳴る。驚く。急いで電話をとる。 男「(もしもし)え、もしもし、あ、さっきの人?(あの、実はいい忘れたことがありまして)あ、こっちも聞き忘れたことがあるんですど(聞き忘れたことですか)はい、あの、この、これって、ネットですか?(はい?)あ、え、ネットに出てますか?(・・・)あのyoutubeとか(ああ、そんなことはしてませんよ)え、ああ、よかった。そうですよね。おもしろくないですもんね・・・はあ(聞き忘れたことってそれですか)あ、えーと、このカメラは本当に録ってるんですか?(はい?)あと、マイクが見えないんですけど、音声も入っているんですか?(そんなことが聞きたいんですか)そんなことって(そんなことなら答えません)あー、なぜ私は見られてるんでしょう?(それはいい質問ですね)いい質問でしょう? (はい)で、なぜでしょう?(見たいんですよ)見たい?(それだけです)それだけって・・・(他には?)他にって、えー、あ、私は今後どうなるんでしょう?(今後ですか)まさか殺されるなんてことには(そんなことはしません)あ、よかった(食事も出します)え、食事も出す?(はい。割とおいしいものを)割とおいしいもの? はあ、いよいよ閉じこめられた理由が分からないんですが(割とすぐ釈放しますよ)釈放も・・・何日くらいですか?(数日間と言ったところでしょうか)数日間?そんなもんでいいんですか?(閉じこめられてるのが嬉しいですか)あ、いや、嬉しい訳じゃないですけど、(こっちはあなたを見ることだけが目的です)見ることだけ?(はい)そんなことのために、わざわざ監禁したんですか(はい)何でまた(世の中には理由がわからないことがたくさんあります)ま、そうですけど・・・(まあ、暇つぶしでもしててください)暇つぶし・・・俺の暇つぶしなんて見て楽しいですか(もう切ります)あ、最後に一つだけ(プープープー)あ、切れた!」 電話を切る。 男「はあ・・・・・・ま、数日間で帰れる、ってことはハッキリしたな・・・家に連絡しておこう」 メールを打つ。割と指の動きは早い。 男「・・・待てよ・・・俺は何であんな電話信じてるんだろ? 会ったこともない人なのに・・・でも、凶悪な犯罪者って感じでもなさそうだよな・・・うーん、信じて良いのか?・・・信じるしかないか・・・」 やっぱりカメラが気になる。 男「・・・とにかく、言われたとおり暇つぶしをしよう・・・ホントに俺を連れ去った理由って暇つぶし方を観察するためか?・・・そんなことで連れ去るか?・・・カメラさえなければ考えなくてすむんだけどな・・・はあ、ま、とりあえず携帯のゲームでもするか。これならいっくらでも時間つぶせるからな」 携帯電話を何度も見たり耳に当てたりする。 男「あ、携帯の電池もう終わりそうじゃん! これで数日間もたすのかよ・・・はあ、ゲームできねーし! ショック! こんなときこそゲームしまくるチャンスなのに・・・せめてメールできるくらいは電池とっとかないとな・・・」 携帯をしまい、部屋にあるものを探り始める。まずは机の棚にある漫画に目をやる。 男「しょうがねえ、本でも読むか・・・あ、ワンピースだ。何回も読んだけど、まいいか・・・はい? 1巻がないな・・・というか、13巻と29巻しかないな・・・はあ。他には『刑法各論講義』・・・ジャン=ジャック=ルソー『人間不平等起源論』・・・『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』マックス=ウェーバー。・・・『はらぺこあおむし』・・・だれの部屋なんだ?・・・んーー、暇つぶしに適した本がないな・・・やっぱ難しい方の本読んだ方が、印象いいかな・・・人に見られてるのに『はらぺこあおむし』はないよな・・・この本の選択も見られてるってことだな・・・俺の好みなんか見てどうすんだ?・・・つーか、好みの本用意しとけよ」 さらに物色する。 男「ジグソーパズル。これやってみるか。・・・難易度テラレベル!30000ピース。テーマ「猛吹雪」!・・・他の無いのかな・・・「みんなであそぼう 1歳からのパズル」・・・手頃なのはないのかよ・・・あ、オセロだ! オセロには自信があるんだよな!・・・で、だれとやるんだ?・・・CDはあるけど、プレーヤーはなさそうだし・・・机の中はからっぽか・・・ワザとだな・・・これで何を知りたいんだ?・・・でも見てるんだよな・・・?」 更に物色する。 男「あ、なわとびがある! これならひとりでできるな」 上着を脱ぎ、ネクタイをはずしてなわとびをはじめる。最初は単調にとんでいる。二重跳びにチャレンジする。が、できない。何度か挑戦するができない。だんだんいらいらしてくる。しょうがなく、もう一度単調な跳び方にもどる。ややあって、やめる。 男「・・・何か実験動物みたいだな・・・これって、もしかして何かの実験なのか?・・・問題『人間はやることがない極限状態に置かれたとき、どういう行動をするか?』・・・答えは『縄跳びをする』でしたー!・・・そんな実験あるか?・・・はあ、やめよやめよ。時間の無駄無駄・・・ああ、暇つぶしだから無駄でいいのか」 そこへ、携帯が震える。急いで取る。 男「(誰から来たか確認して出る)あー、なんだよ・・・・・・・・・はい? もうかけてくるな!・・・え、・・・電池切れそうなんだよ。あー、切るぞ切るぞ、何やってんだよ・・・俺から連絡有るまで黙ってろよ! ・・・え、夕飯?しらねーよ・・・こっちは割とおいしい料理が出るんだからな・・・電池がないの! そのくらいわかれよ! ・・・え? 見られてる身にもなれよ! 言えることと言えないことがあるの!・・・ほっとけ! 切るぞ!」 電話を切る。電話は持ったまま。 男「はあ、あぶなかった。・・・・・・今の俺の姿、どう映ったんだろう・・・はあ」 今度は電話が鳴る。急いで取りに行く。 男「はい!もしもし!(切れてしまったようだ)切れた! 何なんだよ! あー!・・・」 どんどんいらいらしてくる。また携帯が震える。 男「あー、今度は何だよ! もう掛けてくるなって言ってるだろ! あー!(携帯を見る)・・・アラームかよ・・・そういえば寝る前にアラームかけた・・・俺じゃねーかよ! あー!もう!・・・(携帯の電源を切る)何なんだよ!・・・」 いらいらした動き。また電話が鳴る。 男「・・・・・・(ゆっくり電話を取りに行く)もしもし・・・もしもし?・・・さっきの人でしょ?・・・こんなことして何になるの?・・・何か言えよ・・・何で何にも言わないんだよ・・・俺を見て、どうしようってんだよ!・・・(切れる)おい! 切るなよ! 何か言うんじゃねーのかよ!」 カメラを見る。カメラに向かって 男「おい、おい、何か言えよ! なに黙って見てんだよ! もういいだろ! 何だか分からねーのに見られんの、気持ち悪いんだよ! もうやめろよ! お前も姿を見せろよ! おい! 聞こえてるんだろ! わかってんだぞ! ずーっと観察しやがって!」 いらいらしているうちに動き回ってしまう。が、カメラの動きが止まっていることに気づく。 男「ん・・・あれ?・・・止まってるな・・・(カメラを見ながらいろいろ動く)お?あれ? 動いてない。(切れの良い動きをしてみるが、やっぱりカメラは動かない)やっぱ動いてないな・・・動かない、ってことは、もう撮ってないってことか?・・・いや、そうとは限らんぞ・・・動かないだけか?・・・確かめようないな・・・でも動かない、ってことは、撮ってないってことだろ・・・いや、・・・」 カメラ、マイクをじろじろ見る。 男「映ってないのかよ・・・いや、だまされないぞ・・・俺が見られてないなんてこと、あるわけないだろ・・・見られてるに決まってる」 何か気づいたように、下手へ動く。入り口の扉が開くことを確認し、「あ」と一声あげる。で、すぐ戻ってくる。 男「ドアが開くということは・・・そこにだれか来たってことだよな・・・もう閉じ込められてないのか・・・解放されたんだろうか・・・ホントはドアの外に何かいるんじゃないのか?・・・俺を殺そうとしてるとか・・・いちかばちか開けてみるか?・・・・・・・いや、それはできない・・・でもここにいてもだれか来るかもしれない・・・あーでも、やっぱここにいた方が安全なんじゃないのか?・・・割とおいしい食事も出るんだから・・・」 カメラを見たり、うろうろ動き回る。 男「・・・さっきの状態の方が、まだましだったんじゃないのか?・・気持ち悪いよ・・・怖いなあ・・・いったい俺はどうすればいいんだ?・・・(電話を取るが、うんともすんともいわない)電話・・・もう来なかったらどうしよう?・・・携帯!(携帯の電源を入れようとするが、入らない)・・・電池ない・・・だれとも連絡もとれない・・・カメラは撮ってるかわからない・・・いや、撮ってるに決まってるよ・・・撮ってないわけない・・・ドアも開いたし・・・絶対試されてる・・・だって、ドア開いたら、俺どうすればいいかわからねーじゃねーか」 カメラに向かって 男「おい、ホントは撮ってんだろ! 俺のこと見てるんだろ! 俺のこと閉じ込めて、飼い殺しにして遊んでるんだろ! もう何も信じないぞ! 全部見せてやろうじゃねえか。その代わり、俺の欲しいものどんどん持ってこい! ワンピース全巻もってこい! 俺に合うパズルもってこい! オセロの相手も連れてこい! どうせ閉じ込められてるんだよ! どうでもいい暇つぶしして、やってること全部観察されて、そうやって生きていくしかないんだよ! だれかに見られていない瞬間なんか、俺たちには一瞬だってないんだからな!」 閉幕