平成二十八年度 県南地区高等学校演劇発表会   上演4 秋田県立大曲高等学校 みんな夢の中                                          作  佐々木 繁 樹          キャスト 【実在の人物】  リカ  ミホ  マヤ  タカダ 【架空の人物】  花川戸政市(はなかわど・まさいち)   鳥越 京佳(とりごえ・きょうか)  開幕。センターにスポット。花川戸が登場し。照明は当たっていないが、舞台上にはマヤとミホがイスに座っている。お互いに自分のスマホを見ている。 花川戸「おれは、大江戸区役所文化産業観光部文化振興課主査の花川戸政市。全国のアニメファンにはもうおなじみだろ・・・大江戸区民のマイブルーヘブン。この花川戸、お前だけのものにはなれないかもしれないぜ・・・それでも俺とわっしょいするかい?・・・じゃあ、ついてきな!」  花川戸が去る。ホリ変わる。 マヤ「こんなの絶対ダメでしょ! アウトアウトアウト!」 ミホ「そのとおり」 マヤ「しかも、匿名で発言するなんて、卑劣きわまりない!」 ミホ「そうそう、匿名だもんねー」 マヤ「こんなこと発言する権利、いつから認められたの?」 ミホ「認められてないでしょ」 マヤ「いつから日本はこんなに品性が賤しい国になってしまったの?」 ミホ「ほんとにねえ」 マヤ「ほんとにねえ、じゃない! どうしたのミホ! さっきから聞いてたら! 冷静すぎるでしょ! あなたももっと一緒に怒りなさい!」 ミホ「私だって怒ってますよ。にしても、マヤ怒りすぎじゃない? こんなのでいちいち怒ったってしょうがないじゃん」 マヤ「しょうがなくない! これは完全に一線を越えていますー! あーもう腹立つ!」 ミホ「私たちは、彼と出会ってしまった。あの人たちは、まだ出会えていないかわいそうな人たち。それだけのこと」 マヤ「耐え難い侮辱です!侮辱!侮辱!侮辱! あー侮辱侮辱侮辱! 完全な侮辱罪です!」 ミホ「侮辱罪、ってオーバーな」 マヤ「ミホはよく平気でいられるね!」 ミホ「私だって怒ってるって!・・・でもどうにもならないでしょう」 マヤ「私はどうにかします。あなたとは覚悟が違います」 ミホ「どうするつもりなの」 マヤ「知り合いの弁護士に相談するわ」 ミホ「相談してどうするの」 マヤ「法的手段も辞さない構えで臨みます」 ミホ「ちょっと落ち着きなさいよ」 マヤ「まだまだ私の怒りは序の口! アニメファンを怒らせるとどうなるか思い知らせてやるわ」 ミホ「あのね、わかんないヤツもいるってことよ」 マヤ「わかんなければ黙ってなさいっての」 ミホ「それはそうです」 マヤ「分からないくせに、見たこともないくせに批判する。実に愚かで、無知蒙昧な行動!」 ミホ「あーもうマヤ完全に火がついちゃった。こうなると長いよ」 マヤ「火をつけたヤツが全面的に悪い!」 ミホ「はあ・・・まーでも、リカが来る前でよかった」 マヤ「この侮辱事件、リカにもちゃんと報告します」 ミホ「やめてよ! どうなっても知らないからね」 マヤ「私一人では戦いきる自信がありません」 ミホ「何を戦うの」 マヤ「だから裁判だって」 ミホ「年次残ってないじゃん」 マヤ「年次休暇なんかなくても、裁判の証人になれば特別休暇が取れます」 ミホ「むちゃくちゃだよ」 マヤ「むちゃくちゃじゃない! それにしても、リカはまだ?」 ミホ「せっかく部屋押さえたのに」 マヤ「アニメはプロジェクタで見るに限るからね」 ミホ「マヤが公民館に異動になったのがラッキーなのよ」 マヤ「毎年異動希望出してたからね・・・いやー、これで一年間は無料で映画館気分が味わえる・・・ハコモノ行政最高!」 ミホ「しっかし、リカが遅れるなんて珍しいね」 マヤ「あー早く来なさいっての! こんな日に限って」  そこへ、リカが走って、きわめて少女チックでかわいい格好をして入ってくる。 リカ「あー、ミホもマヤも、遅れて、ほんっと、ごめんなさい! お願い! 許して! この通り!」  二人、リカの容姿を見て、驚きすぎてしまい、全くリアクションがとれない。 リカ「あれ? 二人とも、どうしたの・・・」 ミホ「どうしたの・・って」 マヤ「どうしたのはこっちのセリフでしょう」 リカ「え?」 ミホ「ちょっと、ほんとにどうしたの!」 リカ「わたし、どうかしてるように見えちゃったりする?」 マヤ「あなた、本当にリカなの?」 リカ「見たら分かるでしょ。正真正銘、本物のリカです。失礼しちゃうわ」 ミホ「つーか、なんちゅー格好してるのよ!」 リカ「格好?」 ミホ「おかしくない?」 リカ「ぜんっぜん、おかしくないでしょ」 ミホ「変です。絶対変です!」 マヤ「もしかしてイメチェン?」 ミホ「イメチェン?」 リカ「・・・やっぱりわかっちゃう?」 マヤ「まるわかりでしょ」 ミホ「だいいちさー、リカ、もしかして、お化粧してる?」 リカ「してたらおかしい?」 マヤ「おかしい!」 リカ「おかしくないでしょ。25歳のレディーですわよ」 ミホ「ああ・・・あんなに地味だったリカが」 マヤ「いつももっと、こきたない格好してたリカ」 ミホ「おしゃれのかけらもない」 マヤ「異性も全然寄りつかない」 ミホ「趣味だけに生きる女、それがリカ」 リカ「わたし、そんな風に思われてたの」 ミホ「そんなあなたが・・・」 マヤ「なんたる乙女チックなスタイル!」 ミホ「ねえ、ほんとに何があったの?」 リカ「別にいーじゃん。単なる気分転換」 ミホ「ほんとに? マヤ「そんなわけ無いでしょ!」 ミホ「うわ、びっくりした」 マヤ「ミホも分かるでしょ、付き合い長いんだから。リカは何か隠し事をしてる。間違いなく」 リカ「そんなことないよー」 ミホ「えー? じゃあ、しょうがない。これだけはしたくなかったけど・・・あなたに見せたいものがあります」 マヤ「あー、そうそう! リカは私と一緒に、裁判、戦ってくれるよね?」 リカ「さいばん?」 ミホ「あー気にしないで・・・ちょっとこれ見てよ」 リカ「・・・アニメのファンサイトじゃん・・・えーなになに・・・アニメ『大江戸区役所花吹雪』は駄作だった。見る価値ゼロ。ファンの神経を疑う・・・」 マヤ「(突然)我らが青春のアニメ『エドハナ』が侮辱されてるのよ! あーーーーまた腹立ってきた!」 リカ「・・・区役所にあんなイケメンがいるわけがないっつーの・・・区役所なんて地味な男の集まりだぞ・・・」 ミホ「役所に恨みでもあるのかな」 リカ「主人公がハッピ着て勤務、あり得ない、子供の発想、視聴者なめんなよ、見るヤツも見るヤツだ、それから・・・」 ミホ「意外と冷静に読むのね」 マヤ「リカ! ショックなのは分かるけど、よく考えて! あなたの愛する花川戸くんが全否定されてるのよ!」 リカ「・・・まあ、世の中いろいろな人がいるから・・・マヤもあまり興奮しなくても・・・」 マヤ「何それーーー!」 ミホ「全く予想外のリアクション」 マヤ「花川戸政市はあなたの人生の全てじゃなかったの?」 ミホ「彼の名前読み間違えただけで課長にキレたあなたが」 マヤ「湯水のように貢ぎまくったあなたが」 リカ「でも、花川戸くんの他にも・・・大事なことはいっぱいあるし・・・」 マヤ「なにー!」 ミホ「リカ、ほんとにどうしちゃったのよ」 リカ「なーんか、最近、いろいろ考えちゃんだよね・・・」 マヤ「アニメ以外に?」 リカ「大げさに言えば・・・人生とか」 ミホ「人生?」 マヤ「リアルな人生なんかどーでもいーじゃん」 リカ「いやいや、リアルな人生、大事でしょ」 マヤ「あー! こんなのリカじゃない!」 ミホ「もしかして、アニメファンをやめるの?」 リカ「・・・やめるとは言わないけど・・・少し冷静になってみようかな・・・とかさ」 ミホ「昨日までのあなたは何処に行ったの」 マヤ「そんな軟弱なアニメファンじゃなかったでしょ!」 ミホ「ゴリゴリだったよ」 リカ「まあ、ね」 マヤ「たとえば去年の秋のリカは、こうだったでしょ!」  ホリ変わる。 ミホ「どうしたの?」 マヤ「まだ片付けとか残ってるんだけど」 ミホ「同じ職場なのにわざわざ携帯で呼び出す?」 マヤ「しかも勤務時間終わる時だっつーのに・・・『大至急』なんて」 リカ「オホン、ふたりとも、まずはこれ(スマホ)を見てください」 ミホ「なによ」 マヤ「・・・・・・・・・あー! これマジやばいでしょ」 リカ「私が、わざわざ呼び出した理由、分かっていただけたでしょうか」 マヤ「『エドハナ』ファンの集い! 花川戸くんと会話ができる参加型イベント!」 ミホ「まさにプラチナチケット」 マヤ「このイベント、百人限定なんでしょ」 リカ「イエース」 マヤ「苦労したでしょ」 リカ「イエース」 ミホ「よく三席もとれたね」 リカ「こうなるともう意地」 ミホ「どうやったのよ」 リカ「スマホと八時間格闘」 ミホ「八時間!」 リカ「たいした時間じゃないよ」 ミホ「いや、たいした時間だって」 リカ「つい先ほど、終了しました」 マヤ「でも、仕事中でしょ!」 ミホ「まさか仕事中ずーっとスマホ」 マヤ「100%、職務専念義務違反じゃん」 リカ「ふっふっふっふっふ・・・だからいつまで経っても君たちは私を越えられないのだよ」 マヤ「え?」 リカ「実は今日、私は休みをもらっているのだよ」 マヤ「マジで?」 リカ「そして、たった今家からここにやってきた、と言うわけです」 マヤ「そこまでする!」 リカ「当然!」 マヤ「さすが我らが師匠!」 ミホ「リカ、私、あなたに一生ついて行く」 マヤ「わたしも!」 リカ「はっはっはっ・・・君たち、私とエドハナでアニメの神髄を研究しようではないか!」 二人「はい!」 リカ「安心して私についてきたまえ」 二人「はい! 師匠! よろしくお願いします!」  ホリ戻る。 マヤ「そんなあなたが、冷静になるなんて?」 ミホ「ほんとにそんなことできるの」 マヤ「きっかけは?」 リカ「え?」 マヤ「我々に納得のいくきっかけを教えてもらいましょうか」 リカ「なんで?」 ミホ「私についてきたまえ、ってあなたが言ったんだけど」 リカ「まあ、そういうのは、極めて個人的なことなんで、ね」 ミホ「そりゃそうでしょ」 マヤ「いいから言いなさいよ!」 ミホ「リカ、私たちさ、職場の同僚、高校の同級生、同じアニメ、同じキャラの熱狂的ファン、なのに、ちょっと水くさいんじゃない」 リカ「あー、えー、まあ、ねえ、こういうことは、それは、まあ、いいじゃないの」 ミホ「何だか急に歯切れ悪くなったんじゃない」 マヤ「はっきりしないなー」 ミホ「言いにくいことなの?」 リカ「言いにくい、って言うか・・・」 マヤ「いいから言いなさい」 リカ「・・・何か、ちょっと恥ずかしいなー」 マヤ「いい年して何が恥ずかしいっていうの!」 ミホ「いーじゃん、教えてよ」 リカ「・・・でも・・・」 マヤ「あー分かった! さては・・・あんた、男ができたね」 ミホ「オトコ!」 マヤ「オトコです。オトコ。オトコ。オトコ。絶対オトコです」 リカ「まあ、完全に間違ってるわけではないけど」 マヤ「え?!」 ミホ「そうなのリカ?」 リカ「実はね・・・ある人から、ここんところずーっとね、結婚して、って言われてるの」 マヤ「何と!」 ミホ「急展開だこと!」 マヤ「相手はやっぱり、花川戸くん?」 リカ「そんなわけないでしょう」 ミホ「それじゃ妄想じゃん」 マヤ「だって、どうせ妄想でしょう」 ミホ「それはさすがに失礼じゃない?」 マヤ「だってこの人、夢の中で花川戸くんと5回は結婚してるのよ」 ミホ「まあ、妄想好きだからなー」 マヤ「まさにファンの鏡!」 リカ「いや・・・そうじゃくて・・・」 ミホ「ほらーーーー」 マヤ「だいいち、リアルな話なの?」 ミホ「そらそうでしょ」 マヤ「結婚?」 ミホ「たぶん」 マヤ「だってリカの理想の人は花川戸くんでしょ」 ミホ「私たちみんなそうです」 マヤ「花川戸くんみたいな人じゃないと結婚しない、って」 ミホ「祭りと東京をこよなく愛し、常に仕事でもハッピを着用する、大江戸区役所の若手主査!」(このとき、花川戸が舞台を横切る) マヤ「その通り!」 ミホ「休日は独居老人の話し相手になる、心優しき28歳!」 マヤ「(花川戸の口調で)大江戸区民のマイブルーヘブン。この花川戸、お前だけのものにはなれないかもしれないぜ・・・それでも俺とわっしょいするかい?・・・きゃーかっこいい!」 ミホ「そんな人現実にはいないでしょ」 マヤ「少なくともウチの職場にはいません」 ミホ「ウチは郊外の市役所だからねー」 マヤ「でも、確かにいます!」 ミホ「どこに?」 マヤ「みんなの夢の中にひとりずついます!」 ミホ「(無視して)リカ、どうなの! 誰から結婚してって言われてるの?」 リカ「それが・・・じつは・・・あのう・・・あーはずかしい・・・」 ミホ「いいからいいから」 リカ「(くねくねしながら)どうもねえ・・・総務部のタカダさんが・・・わたしのこと・・・気に入ってるみたいで・・・なんか・・・だから・・・ねえ・・・」 マヤ「はっきりしゃべれ!」 リカ「なんか・・・プロポーズされてる・・・っていうか・・・ちょくちょく言い寄られてる・・・っていうか・・・結構タカダさん、真剣なんだよね・・・何と言っていいか・・・あーはずかしい・・・」 ミホ「そういうことですか」 リカ「そういう目で見ると・・・なんか・・・気になって来ちゃって・・・結婚っていうのが・・・少しリアルに感じてきちゃって・・・あーどうしよう・・・」 ミホ「いやいや、いい話じゃん」 リカ「いい話かな?」 ミホ「チャンスチャンス」 リカ「えー」 ミホ「タカダさん、堅実そうだし、いい人だもん」 リカ「そうだけど・・・」 ミホ「(花川戸の口調で)君のマイブルーヘブンは・・・今、目の前にいるブルーバードだぜ・・・キャー花川戸くんかっこいい! ねえマヤ」 マヤ「認めない!」 ミホ「はい?」 マヤ「私は許しません!」 ミホ「あんた、ガンコ親父か」 マヤ「目を覚ますんです! リカ!」 ミホ「どういうこと?」 マヤ「花川戸くんは大江戸区役所文化産業観光部文化振興課お祭り担当わっしょい係よ! タカダさんなんか総務部のオリンピック担当じゃない! ぜんっぜん関連性ない!」 ミホ「どっちもお祭りだけどね」 マヤ「いい? リカ。花川戸くんとタカダさん、どっちがイケメンか、よく考えてみて!」 ミホ「別にイケメンと結婚するのが幸せじゃないじゃん」 マヤ「今は一時の気の迷いで現実を追い求めてるだけ。このままだと後できっと後悔する。やっぱり夢の世界に生きるべきだったと」 ミホ「そういうもん?」 マヤ「そういうもの! リカ、若いんだから、少しは現実から目をそらしなさい!」 ミホ「普通逆でしょ」 マヤ「現実の男と二次元の男、どっちがあなたの理想を満たしていますか!」 ミホ「そりゃ二次元ですよ」 マヤ「どっちがその気にさせてくれますか!」 ミホ「聞くまでもないでしょ」 マヤ「どっちに人生掛けますか!」 ミホ「むちゃくちゃな質問ね」 リカ「・・・人生・・・どっちって言われると・・・正直困る」 ミホ「え? 困るの?」 マヤ「そうだよね」 リカ「・・・うん」 マヤ「リカも本当は分かっているはず。夢に生きるのと、現実で妥協するのと、どっちが幸せなのか!」 リカ「・・・マヤ・・・」 ミホ「あれ? 何このしっとりした雰囲気」 マヤ「今まで頑張って夢を追い求めてきたんじゃないの!」 リカ「・・・確かに」 マヤ「なんで今さら夢を諦める生き方選ぶの!」 リカ「夢を諦める・・・生き方」 マヤ「よーく考えてみて」 リカ「よく・・・考える」 マヤ「あなた、今、現実に惑わされているのよ! リカ「・・・もしかしたら・・・私・・・現実なんかに惑わされて・・・間違ってたのかな?」 ミホ「違う違う違ーう! リカ、あなた全然間違ってないでしょ。ちょっとマヤ、変なこと言わないでよ」 マヤ「うるさーい」 ミホ「何が!」 マヤ「そんなに言うならミホも思い出して!」 ミホ「何を!」 マヤ「私たちが、市役所の職員という職業を選んだのはなぜ?」 ミホ「え・・何を今さら」 マヤ「ほら、リカ! 思い出して! 高校3年の秋のことを!」  ホリ変わる。 マヤ「担任が言ってたよ! ウチの高校始まって以来の快挙だって!」 ミホ「まさか三人とも同じ市役所に合格なんてね・・・うまく行き過ぎ」 リカ「これで花川戸くんと同じ職業!」 マヤ「偶然とは言え、好きなアニメと同じ仕事だもんねー」 リカ「偶然じゃありません。私は狙っていました」 ミホ「まあ、私たち二人は受かって当然だけど・・・ねえ、リカ」 リカ「・・・わたしの合格は不思議だと」 マヤ「だって全然勉強なんかしてなかったじゃん」 ミホ「二次試験の前日もオールだったんでしょ」 リカ「テンション上げるためにね、エドハナ全25話一気に見ちゃった」 ミホ「それで受かるんだもんね」 マヤ「よほど強力なコネがあったとか・・・」 ミホ「面接官がすさまじいアニメオタクだったとか」 リカ「何を言うか! 失敬だな君たち! はっはっはっ! 恐れおののけ! 趣味に生きる私の覚悟を!」 ミホ「たしかに、おみそれいたしました」 マヤ「改めてリカを尊敬するわ。ほんっと、奇跡の大逆転」 リカ「ふふふ、マヤさん、まだまだ分かってませんね・・・これは奇跡ではない。いわば、アニメ如来が、私を極楽に導いたのだよ」 ミホ「阿弥陀如来でしょ」 マヤ「つーか、極楽行っちゃダメでしょ」 リカ「シャラップ! とにかく! これで明るい未来が約束される! 明るい未来とは!」 ミホ「安定した収入!」 マヤ「取りやすい休日!」 リカ「花川戸くんと同じ職業! 実家から通える経済性! お金使いまくり! イベント行きまくり! 大人買いしまくり! 夢って念じればかなうのね! あー4月が楽しみ!」  ホリ戻る。 ミホ「4月が楽しみと言いながら、次の日に学校サボってイベント行ったのは誰だったっけ」 リカ「・・・まあ、どうせ皆勤じゃなかったから。関係ない関係ない」 ミホ「ほんっと、畳の上では死ねない女ね」 マヤ「でも、夢を追い求めて、見事普通の公務員になったんでしょ!」 リカ「・・・まあ、そうだけど」 マヤ「それなのにあなたって人は! まだ分からないの!」 ミホ「ちょっとマヤ、そろそろ落ち着きなさいよ。少しはリカの話も聞こうよ」 マヤ「だってさ!」 ミホ「いいから! わざわざこんなウケ狙いみたいな格好してるんだから、相当な覚悟があるはずでしょ」 マヤ「確かに、真っ向からウケを狙ってるけど」 リカ「狙ってません! 普通の女の子みたいな格好、してみようかな、って思っただけ・・・」 マヤ「私のどこが普通じゃないっての!」 ミホ「興奮しない! リカに話してもらうの!・・・だいいち、タカダさんのこと、あんたどう思ってるの?」 リカ「どうって・・・」 マヤ「現実の男なんか心に泥のたまった濁り水の中に」 ミホ「(マヤの口をふさいで)あーうるさい! ねえ、どうなの」 リカ「・・・よくわかんない」 ミホ「わかんない?」 リカ「・・・いろいろ言ってもらってうれしいけど・・・こういうのも恋心っていうのか・・・うーん、やっぱよくわかんない・・・」 マヤ「でもリカ、花川戸くんには恋してるんでしょ」 リカ「当然です。花川戸くんへの気持ちは、間違いなく、純粋で純真で純朴な恋心です」 ミホ「それとは違うの?」 リカ「違う」 ミホ「でも何か感じるところがある」 リカ「・・・んーー・・・微妙・・・」 ミホ「よくわかんない」 マヤ「少し詳しく聞かせてよ」 ミホ「例えば、あなたの純粋で純真で純朴な恋心とは?」 リカ「ずばり! イコール花川戸くん」 マヤ「じゃ、ま、いつも通り、あなたの花川戸妄想話を聞きましょう」 ミホ「そうね、一番分かりやすい気がする」 リカ「妄想話ねえ・・・」  ホリ変わる。花川戸が現れる。 花川戸「(リカに気づき)あ!・・・ちょっと・・・そこを行く娘さん!」 リカ「・・・は・・・はい」 花川戸「もしかして・・・あんたは・・・い、いや、そんなはずはない・・・(じろじろ見て)ああ、やっぱり他人のそら似だ・・・いけねえいけねえ・・・こんな失礼なことはねえよな・・・はっはっはっ・・・娘さん、よかったら、今のことは忘れてやってくれ。や、こいつはすまねえ」 リカ「・・・どうかしたんですか」 花川戸「・・・いや本当に何でもねえんだ」 リカ「・・・私が誰かに似ていたとか・・・」 花川戸「(うろたえて)ま、まあな、・・・い、いや、本当に、本当に忘れてやってくれ」 リカ「これも何かの縁です。私でよければ・・・話を伺ってもいいですか」 花川戸「・・・いやね・・・恥ずかしい話なんだけど・・・昔、ちょっと縁のあった娘さんに、あんたが、よく似ていたもんで・・・」 リカ「そんなに似ているんですか?」 花川戸「髪型とメガネと顔の輪郭以外はそっくりでさあねえ」 リカ「じゃあ、相当似てるんですね」 花川戸「まあ、似ているっつっても、かつて懸想した相手を見間違えるなんざあ・・・おれもとうとう、焼きが回ったってことだなあ」 リカ「いえ、そういうことってあります」 花川戸「いやいや、そういってくれると、嘘でもうれしいねえ」 リカ「嘘じゃないですよ!」 花川戸「気ぃ遣うなって」 リカ「遣ってません、って!」 花川戸「・・・はっはっはっ、結構気が強いんだねえ・・・あんたと話してると、なんか京佳が帰ってきたみたいだ」 リカ「その方・・・京佳さん、っておっしゃるんですか」 花川戸「おっと、こいつはいけねえ・・・大江戸区民を預かる役人が、進んで個人情報を漏洩するなんてマネしちゃいけねえなあ・・・つい気を許しちまったよ」 リカ「大丈夫です。秘密にします」 花川戸「ありがとうよ」 リカ「京佳さん、って・・・元カノですか」 花川戸「元カノ・・・ちょいと娘さん・・・口幅ったいことと思うかもしれねえが・・・若い娘さんが、元カノなんて、ゲスな物言いをするのは、ほめられたことじゃねえなあ」 リカ「ゲスですか?」 花川戸「あまり上品じゃねえってことよ」 リカ「じゃあ、何て言えばいいんですか?」 花川戸「・・・そうさなあ・・・かつて・・・いっとき・・・想いを寄せていた・・・マイ、ブルー、ヘブン・・・ってとこかな」 リカ「出た! マイブルーヘブン! キャー! かっこいい!!!」 ミホ「カットカットー」  ホリ戻る。花川戸、急いで去る。 ミホ「あのう、恋心の説明じゃなかったでしたっけ?」 マヤ「普通にリカの妄想聞いてるだけじゃん!」 リカ「あらー、ごめんなさいごめんなさい」 ミホ「冷静になるとか言ってたけど!」 リカ「つい、習慣で・・・ね」 マヤ「だいいち、京佳さんとリカ、全然似てないし」 リカ「妄想なんで、つい」 ミホ「で、どうよ! 恋心は!」 リカ「最後の『キャー!かっこいい!』ってとこ」 ミホ「そうなの?」 リカ「特に『キャー』の部分」 ミホ「ただの擬音じゃん」 リカ「擬音で伝わればそれで充分でしょう」 ミホ「ま、タカダさんに『キャー』はないか」 マヤ「普通の人だもんね」 ミホ「普通に生活してて『キャー』は出ないよね」 マヤ「だから、リアルなオトコなんかダメなんだって」 ミホ「『キャー』が出ないからダメなの?」 マヤ「だいたい、花川戸くんの行ききってるところがかっこいいんじゃん。30代前半の一般人には無理よ〜」 ミホ「リカ、ホントは普通の人が好きなの?」 リカ「だから、よく分かんない」 マヤ「じゃあ、比較のために、タカダさんのこと、妄想してみてよ」 リカ「え・・・リアルな人のこと妄想するの?」 ミホ「まあ、試しにね」 マヤ「あなたならできる」 リカ「えー・・・普通の人で妄想したことないんだよなー・・・」 マヤ「では! ケースその2! タカダさんに誘われたら、どうするどうする?」  ホリ変わる。タカダが登場。 タカダ「あの、リカさん、ちょっといいですか」 リカ「はい」 タカダ「あ、もしかして、怒ってます?」 リカ「いえ、全然怒ってませんよ」 タカダ「しつこいヤツだなあ、とか」 リカ「そんなことないです」 タカダ「そうですか。じゃあ、リカさんって、野球とか、見に行きます?」 リカ「野球ですか?」 タカダ「実は、来週の木曜日、巨人戦のチケットがとれたんですけど、もしよろしければ・・・予定は、どうですか、6時15分からなんですけど」 リカ「巨人戦とかって、チケットとるの、やっぱり八時間くらいかかりました?」 タカダ「え、いや、ま、普通にとれましたけど」 リカ「野球のチケットは楽なんですね」 タカダ「え?」 リカ「せっかくですが、あまり野球には興味がなくて」 タカダ「でも、リカさんは、イケメンが主人公のアニメが好きだって聞きました」 リカ「誰から?」 タカダ「マヤさんです」 マヤ「あたし言ってない!」 ミホ「まあ、妄想だから」 リカ「まあ、好きですけど」 タカダ「男の人が主人公のアニメと言えば、やっぱりこれじゃないですか」  BGM「タッチ」 リカ「すいません。あまりそっちには詳しくなくて」 タカダ「アニメと言えば、タッチですよ。上杉達也ですよ」 リカ「タッちゃんもカッちゃんも、あまり好きじゃないもんで」 タカダ「えーっ! そうなんですか」 リカ「そんなに驚くところですか」 タカダ「女性はだいたいどっちかが好きだと思っていたので」 リカ「同じあだち充なら、『陽あたり良好!』の高杉くんがかっこいいかと」 タカダ「え、それも野球ですか」 リカ「知らないんですか! 私より8つも年上なのに!・・・確かに、高杉くんとタッちゃんは同じ三ツ矢さんですけど・・・やっぱ高杉くんの方がコメディーっぽくて好きですね」 タカダ「リカさん、結構詳しいじゃないですか」 リカ「いやあ、ちょっとたしなむ程度です」 タカダ「・・・リカさんって、アニメの他に趣味あるんですか」 リカ「全くありません」 タカダ「じゃあ、もしよかったら、よかったら、ですけど、今度、リカさんが一番はまってるアニメのこと、教えてもらえませんか」 リカ「え?」 タカダ「リカさんが好きなもの、僕も、知りたいです」 リカ「あまり人に話したことはないんですけど」 タカダ「もしよければ、でいいので」 リカ「いいでしょう! せっかくですから! いっくらでも教えましょう!」 タカダ「お、おねがいします!」 リカ「じゃあ、花川戸くーん、出ておいてー」  花川戸、さっそうと現れる。 タカダ「リカさん、こ、この人は」 花川戸「あ、娘さん!・・・あなたは・・・確か・・・リカさん?」 リカ「この人が、私の一押しアニメ『大江戸区役所花吹雪』の主人公・花川戸政市くんでーす!」 花川戸「そこのお兄さんもよろしく〜!」 ミホ「カットー!」  ホリ戻る。花川戸、さっそうと去る。と同時に、タカダが去る。 マヤ「アニオタ丸出しの会話」 ミホ「そんな妄想ばっかりしてると、戻れなくなるよ」 リカ「やらせたのはだれですか」 ミホ「結局花川戸くんがいいんじゃない」 リカ「妄想してると、ついそっちに行っちゃうのよねー」 ミホ「よっぽどね」 リカ「寝てて夢に見るもん」 マヤ「それは私も見るけどさ」 ミホ「あと、リカのしゃべり方、なんかきつくない?」 リカ「そうかな」 マヤ「花川戸くんのときと全然違うし」 ミホ「素直になれてないんじゃない?」 リカ「・・・そうかも・・・何か・・・ね」 マヤ「じゃあ、どうせきついんだったら、いっそ京佳さんになりきっちゃえば?」 ミホ「あ、それ意外に名案かも」 リカ「えー、全然似てないって言ってたじゃん」 マヤ「シミュレーション。あくまでも。妄想ならできるでしょ」 リカ「どうかなあ」 ミホ「エドハナ見まくってれば、誰でもできるよ」 リカ「アニメキャラになりきるっつってもねえ」 マヤ「間髪入れずいってみよう! ケースその3! タカダさんに誘われたら、どうする? by鳥越京佳バージョン」 リカ「そんな急に言われても」  リカのセリフの最中にホリ変わる。タカダが急いでやって来る。 タカダ「あの、リカさん、ちょっといいですか」 リカ「なに?」 タカダ「あ、もしかして、怒ってます?」 リカ「怒ってないけど!」 タカダ「しつこいヤツだなあ、とか」 リカ「だから、怒ってないって!」 タカダ「そうですか、じゃあ、リカさんって、野球とか、見に行きます?」 リカ「野球?」 タカダ「実は、来週の木曜日、巨人戦のチケットがとれたんですけど、もしよろしければ・・・予定は、どうですか、6時15分からなんですけど」 リカ「あたし、野球なんてほとんど見に行ったことないけど!」 タカダ「ほとんど、ってことは、見たことはあるんですね」 リカ「そりゃ、これだけ生きてりゃ、1回や2回、見たことくらいあるさ」 タカダ「そうですよね」 リカ「最近だと・・・5年前かな!・・・草野球だけどな」 タカダ「知り合いが出てたんですか」 リカ「まあ、いろいろあったんだよ」 タカダ「いろいろ、ですか」 リカ「いい年して、そのくらい察しなさいよ!」 タカダ「彼氏さんとか」 リカ「彼氏っつーか、元カレ。元カレがね、野球やってたんだよ」 タカダ「ああ、そうなんですか・・・元カレ・・・てことは、野球見ると、思い出しちゃいますよね」 リカ「はあ! 何言ってんの! あたしをそんなおぼこい娘だと思ってもらっちゃ困るよ!」 タカダ「そ、そうですよね」 リカ「長く生きてれば、誰だって、心のマイブルーヘブンがいるでしょ!」 タカダ「マイブルーヘブン?」 リカ「心の中に青空を持て・・・その人の口癖でね」 タカダ「かっこいい言葉ですね、元カレさん」 リカ「でも・・・結ばれなかった・・・いろいろあってね」 タカダ「その人・・・リカさんを悲しませるなんて・・・僕はそんなこと絶対しません!」 リカ「あんた・・・」 タカダ「僕の心の中の青空は・・・リカさんです! 青空に悲しみは似合いません!」 リカ「なんだい、恥ずかしいじゃないかよ」 タカダ「でも、僕の本当の気持ちです」 リカ「そっか・・・じゃま、野球、見に行こうか」 タカダ「え? OKしてくれるんですか!」 リカ「レディーに同じこと何回も言わせないこと!」 タカダ「はい! やった! やった! うわー、信じられない!」  ホリ戻る。タカダが去る。 リカ「こんなの全然私じゃない!」 マヤ「かなり京佳をコピーできてたんじゃない?」 ミホ「うん、充分、京佳っぽいよ」 リカ「私には元カレなんかいないもん」 マヤ「でも、なりきってたじゃん」 ミホ「花川戸くんの元カノ・京佳。二人は結ばれない運命。しかし、お互いの心の中には常にいる」 マヤ「・・・この花川戸政市・・・忘れられない娘がいるが・・・それでも一緒に、わっしょいしてくれるかい?・・・」 三人「キャーかっこいい!」 ミホ「京佳さんも、タカダさんとだったら、いい夫婦になりそう」 マヤ「あのタイプの女性は、優しい言葉に弱い」 リカ「京佳がうまくいってもしょうがないでしょ」 ミホ「だから、なりきっちゃえばいいの」 リカ「てことは、もしも、タカダさんと結婚したら、この口調を一生続けなきゃいけないの?」 マヤ「そら当然じゃん」 ミホ「全然できるでしょ」 リカ「全然できないでしょ」 マヤ「そう?」 リカ「だって一生だよ!」 マヤ「いい感じだと思うんだけどなー」 リカ「二人とも、何か私で遊んでない?」 ミホ「リカが勝手に盛り上がってるだけ」 リカ「たしかに・・・妄想が若干暴走しちゃうのよね」 マヤ「いいんじゃない。妄想に人生決めてもらうのも」 リカ「むちゃくちゃなこと言わないで」 マヤ「だって花川戸くんも第1シリーズの第7話で言ってるでしょ。ね〜花川戸くーん」 花川戸「(颯爽と現れ)人は必ず、妄想という名の夢を見る。妄想が・・・妄想だけが、人生を動かす・・・力さ(颯爽と去る)」 三人「キャーかっこいい!」 リカ「確かにかっこいいけど、現実はそうは行かないよ」 ミホ「現実を妄想で考えるべし!」 マヤ「高校のころ言われたでしょ。夢を努力で現実にしなさい、って」 リカ「努力のしようがないんですけど」 マヤ「夢に向かって進むのよ!」 リカ「夢じゃなくて妄想なんだけど」 マヤ「夢なんてどうせ妄想なんだから」 リカ「そうかもしれないけど・・・あーどうしていいかわかんないんだけど!」 マヤ「あー、もう、けどけどうるさいなあ。こうなったら、もっともっと妄想進めてみたらどうなるか、やってみようよ。ケースその4。花川戸くん恋愛相談編!」  ホリ変わる。花川戸登場。 花川戸「やあ、また会ったね」 リカ「あ、花川戸くん」 花川戸「たしか、リカさん、だったね」 リカ「覚えてもらえて、嬉しいです」 花川戸「それにしても・・・あんた・・・きょうは・・・浮かねえ顔をしている」 リカ「・・・分かっちゃいますか・・・花川戸くんって鋭いんですね」 花川戸「この花川戸、区民を見る目は節穴じゃねえぜ・・・」 リカ「実は」 花川戸「ちょっと待て・・・俺の目を見ろ何にも言うな・・・ははーん、さては・・・おまえさん、恋をしているな・・・」 マヤ「ちょっと、このペースだといつまでかかるかわかんないよ」 ミホ「そろそろ飽きてきたからさ、巻きでお願いしていい?」 リカ「妄想を巻きで?」 ミホ「妄想だから、何でもありでしょ」 リカ「(花川戸に向き直って)ということで、タカダさんのこと、どう思ってるか自分でもよく分からなくて」 ミホ「巻いたねー」 花川戸「うーん・・・俺にもよく分からねえが、・・・それにしても・・・そのタカダ氏って人は、罪な男だねえ」 リカ「え」 花川戸「こうして、この花川戸に相談するほど、リカさんの頭の中には、タカダ氏がいる」 リカ「確かに・・・そうかもしれません」 花川戸「俺にもそんな娘がいるんだけどね」 リカ「・・・京佳さん?」 花川戸「あれえ・・・いやあ、よく覚えてるねえ」 リカ「でも・・・花川戸くんにとっての京佳さんは・・・結ばれない運命にあるマイブルーヘブン・・・」 花川戸「リカさんはひょっとして・・・アニメ『エドハナ』のファン・・・?」 リカ「はい!・・・なんで二人は結ばれないんだろう・・・って、ずっと疑問でした」 花川戸「結ばれない・・・まあ、そういうことだな・・・いろいろあってな・・・」 リカ「何があったんですか?」 花川戸「・・・運命・・・と書いてさだめと読む・・・これじゃ答えになってないかな・・・」  京佳がつかつかと現れる。 京佳「何がさだめよ! 何かっこつけてんのよ! あんたがはっきりしないからじゃないの!」 マヤ「思わぬ展開ね」 花川戸「京佳・・・相変わらずおきゃんな娘だな・・・」 京佳「おきゃんで結構! あんたがはっきりしないのと、あたしが期待しすぎなのと、見事にかみ合わなかったの! それが二人の別れた理由! はい! 以上!」 花川戸「ま、出会うのが早すぎた・・・ふたりとも・・・若かったんだねえ」 京佳「やかましいわ!」 花川戸「じゃあ、二人とも、あの頃は子ども過ぎた・・・」 京佳「そういうことね。あたしは今も子どもだけど」 マヤ「二人の別れた理由なんてアニメに出てきたっけ?」 ミホ「裏設定とか?」 マヤ「ないない」 ミホ「じゃあ、これもリカの妄想?」 京佳「あんたのせいでねー、あれ以来、まだ誰ともつきあってないっつーの!」 花川戸「それは・・・おれのせいかい?」 京佳「当たり前じゃないの! あんだけ好きだったんだから!」 花川戸「・・・京佳には・・・心から幸せになってほしいんだけどなあ・・・」 京佳「遠い目をするな!」 リカ「京佳さん・・・花川戸くんのこと、ずーっと忘れられないの?」 京佳「若いころの恋心を越えるのは・・・なかなか難しいものよ」 花川戸「若いラブはブラインド」 京佳「ちょっと夢中になりすぎた」 花川戸「おれだって、おんなじだけどなー」 京佳「ま、この人より好きな人ができれば、一発だけどね」 リカ「夢中になりすぎた・・・」 京佳「若気の至り」 リカ「私も同じ」 京佳「え」 花川戸「リカさんもアニメのキャラなの? 奇遇だねえ」 京佳「そんなわけねーだろ!」 リカ「私も・・・夢中になりすぎた」 花川戸「夢中、っていう字は、夢の中って書くわな」 リカ「・・・でも、現実の人が私の中に入ってきた・・・」 花川戸「そりゃ、結構なことじゃないか」 京佳「そうだよ」 花川戸「おれたちなんか、忘れたってかまわねえんだぜ」 ミホ「ずいぶんあっさりしてるね」 花川戸「アニメのキャラだからね」 ミホ「うわ、答えた」 リカ「現実の人は・・・花川戸くんほど好きにならないかもしれない」 京佳「だから?」 リカ「・・・花川戸くんは私の手の届かない人・・・」 京佳「アニメのキャラだからな」 花川戸「花川戸政市・・・お子様の手の届かない男・・・」 京佳「薬かよ」 リカ「最初っから分かってるんだけど・・・」 京佳「だろうね。で?」 リカ「・・・アニメのキャラに夢中になってる私なんか・・・リアルの人とお付き合いしちゃいけないんじゃないかなー・・・とか・・・何というか・・・失礼なんじゃないかとか・・・」 京佳「はあ」 リカ「・・・何かよく分からなくて・・・」 京佳「結局さ、その人のこと、どう思ってるのよ!」 リカ「・・・話してると・・・いい人だな・・・一緒になっても良いかな、とか思ったりもするけど・・・花川戸くんほど夢中になれないから・・・」 京佳「いい人なんだろ!」 リカ「いい人です・・・すごく・・・でも・・・きっと幻滅しますよね・・・」 花川戸「俺から話してあげようか・・・人生なんて所詮・・・みんな夢の中」 京佳「そんなので幻滅する男なんか、やめちゃうんだね」 リカ「・・・」 京佳「そんな格好したんだからさ、あんたもまんざらじゃないんだろ」 リカ「・・・そうですけど・・・でも」 京佳「あーうっとうしい! そんなんだと人生何にも手に入んないよ!」 リカ「・・・でもやっぱり・・・」 京佳「やっぱりじゃないよ! あーしゃらくさい! ちょっと待ってな!(いったん下手に去る)」 マヤ「行っちゃった」 ミホ「どうなってんの?」 マヤ「(花川戸に)どうなってるんですか?」 花川戸「なんだかんだ言っても、京佳はお節介だからな。何とかしてやりたいんだろ」 マヤ「京佳さんのそういうところが好きなんですか」 花川戸「どうかな・・・ま、お節介同士は、うまくいかねえってことよ」 マヤ「リカのこと・・・自分に似てると思ったんじゃないですかね」 花川戸「ん? 誰が? 誰にだい?」  京佳、タカダを連れてくる。 京佳「ほら、あんたの気になる人、連れてきてやったよ! これでどうよ!・・・(タカダに)ほら、あんたも何かしゃべれよ!」 タカダ「リカさんは、そのかっこいい人が、好きなんですか?」 リカ「え・・・ああ、まあ、好き・・・でも・・・諦めてるから・・・」 タカダ「諦めてる?」 リカ「アニメのキャラですから」 花川戸「そう。おれは、大江戸区役所文化産業観光部・・・」 タカダ「じゃあ、ぼくにも、チャンスはある、ってことですよね」 リカ「・・・チャンス・・・どうかな・・・」 タカダ「僕じゃダメですか」 リカ「・・・タカダさんは、良い方です。・・・いつもよくしてくれますし・・・どっちかっていうと・・・好き・・・です・・・でも・・・わからないんです・・・」 タカダ「それは、その人のことが好きすぎて、ホントは諦められない、ってことですか」 リカ「そうじゃないです」 タカダ「容姿も態度もしゃべり方も、全部この人の方が上だし」 リカ「違います」 タカダ「僕はイケメンでもないし、かっこいいことも言えない」 リカ「だから、違います」 タカダ「じゃあ、どうして!」 リカ「・・・」 タカダ「僕は自分の気持ちをこんなにぶつけているのに!」 ミホ「結構押しの強い人だね」 マヤ「ま、妄想だけどね」 ミホ「実際もそうなんじゃない?」 リカ「・・・お気持ちはとってもうれしいです」 タカダ「・・・あ、ありがとうございます」 京佳「ありがとうじゃないでしょ?」 花川戸「ここは押すとこだよなあ」 京佳「ほんと」 花川戸「アニメなら一気に行くとこだけどな」 京佳「あなたは来なかったじゃん」 花川戸「その場になると、アニメのキャラでも、そうはいかねえものよ」 ミホ「これも妄想なの?」 マヤ「ちょっとリカってやばいんじゃない?」 リカ「でも・・・これほど好きな人が心の中にいるのに・・・あなたの気持ちに答えるなんて・・・できない」 タカダ「なんで!」 リカ「なんか・・・一番好きじゃないのに・・・失礼かなって」 タカダ「別にいいじゃないですか!」 リカ「よくない」 タカダ「僕は、ダテに年くってるわけじゃない。この年になれば、お互いいろいろあります」 リカ「・・・いろいろ・・・」 タカダ「いい年して、そんなこと気にするなんて、おかしいよ」 リカ「気にならないの?」 タカダ「ならない!」 リカ「ほんとう?」 タカダ「くどい!」 ミホ「何かアニメみたいで、ちょっとかっこいいかも」 マヤ「妄想だけどね」 リカ「・・・わかりました・・・」 タカダ「はい」 リカ「・・・ひとつだけ・・・お願いしていいですか」 タカダ「な、なんですか」 リカ「ちょっとだけ・・・自分の気持ちにけじめをつけたいから・・・そのあとで、もう一度会ってもらえますか」 タカダ「待ちます・・・いや、待たせてください」 リカ「じゃ、また・・・」 タカダ「また・・・」  タカダ去る。 マヤ「行っちゃった」 ミホ「けじめとか言ってたけど・・・妄想でけじめってつくの?」 マヤ「やっぱリカやばくない?」 リカ「京佳さん」 京佳「何?」 リカ「今日はいろいろとありがとうございました」 京佳「あたし何かしたっけ?」 リカ「お話ができただけで、幸せでした」 京佳「あんた、その男が好きなんだろ」 リカ「いや、エドハナのキャラは、全部好きです。もちろん、京佳さんも」 京佳「物まねしやすいからねえ」 リカ「そう・・・いや、・・・あ、でも、最後に・・・ちょっと席を外してもらっていいですか?」 京佳「席を外す?」 リカ「花川戸くんと・・・少しお話が・・・」 京佳「・・・けじめをつける、ってことね・・・いいんじゃない・・・協力するよ」 リカ「ありがとうございます」 京佳「じゃ、また」  京佳、去っていく。 リカ「・・・花川戸くん」 花川戸「ん?」 リカ「お願いがあるんですけど・・・」 花川戸「まあ、これも何かの縁だ。何でも言ってみな。力になるから」 リカ「・・・1回だけ、・・・わたしのこと・・・ぎゅーってしてください」 花川戸「ぎゅー?」 リカ「ぎゅーっと」 花川戸「・・・・・・」 リカ「ぎゅーーーーっと」  花川戸、リカの首を絞めようとする。 リカ「首じゃないです!」 花川戸「レモン? ぞうきん?」 リカ「ほんとに分からないんですか?」 花川戸「擬音だけじゃわからねえなー」 ミホ「そりゃ京佳さんとうまくいかないわ」 リカ「こうしてほしいんです」  リカ、花川戸に抱きつく。 花川戸「ちょ、ちょっと娘さん!」 マヤ「あー、リカだけずるい!」 ミホ「しょうがないでしょ、リカの妄想だから」 マヤ「ここまで妄想癖がひどいとは」 ミホ「マヤもぎゅーっていう妄想すれば」 マヤ「そんなこと、花川戸くんに失礼です! 無理です!」 ミホ「でも、これでホントにけじめがつけられるの?」 マヤ「つけられるわけないでしょ。妄想から戻ってこれなくなるよ!」 ミホ「まーねー・・・・・・・・・それにしても、抱きつきすぎじゃない?」  花川戸は離れようとするが、リカは離れない。 リカ「やっぱりしあわせー」 ミホ「しょうがないねー」 マヤ「では、京佳さん、お願いしまーす」  京佳が来て、二人の様子を見たあと、下手に再び去る。目隠しをされたタカダと一緒にやってきて 京佳「オホン!」  リカ、京佳とタカダに気づき、離れる。 京佳「待ちくたびれている人がいるんですけどー!」 リカ「あ、え、と」 タカダ「リ、リカさん、いるんですか?(目隠しを取る)」 リカ「わ、わたし、・・・これからもアニメ好きなままだし・・・花川戸くん見たら『キャー』とか言うかもしれないけど・・・」 タカダ「・・・大丈夫です」 リカ「それでもいいの?」 タカダ「心にマイブルーヘブンが、いっぱいある人の方が、魅力あります。僕には何にもないけど、今はリカさんに夢中です」 ミホ「キャー、意外とかっこいいじゃん!」 マヤ「花川戸くんほどじゃないけどね」 ミホ「比べなさんなって」 タカダ「僕の、マイブルーヘブンになってください!」 ミホ「キャーすてきー」 マヤ「そう?」 ミホ「言われてみたい!」 マヤ「普通の人だよ?」 京佳「普通の人が言うからかっこいいんじゃん」 マヤ「そうですか?」 京佳「アニメはね、かっこいいに決まってるの。それはズルなの」 ミホ「あなたが言いますか」 京佳「(花川戸を指して)こんなやつ、普通にいたらおかしいだろ。ハッピ着て勤務なんて、あり得ない、子供の発想」 ミホ「どっかで聞いた気が」 マヤ「京佳さんが書き込んだんじゃない?」 リカ「あなたの・・・マイブルーヘブン・・・」 タカダ「リカさん・・・お願いします!」 リカ「・・・・・・(しばらく悩む)・・・わ、わたし・・・」 京佳「はいストップ!」 リカ「え?」 京佳「妄想はこれで終わり!」 リカ「はい?」 京佳「あんたの中で結論は出たんでしょ。あとは、現実の世界でがんばるんだな」 花川戸「俺たちは何にもしてないさ。全部自分で出した結論」 リカ「でも」 花川戸「そのさ、『でも』っていう口癖、唇がとんがってかわいくないなー」 京佳「昔、おんなじこと、この人に言われたのよ」 リカ「そうなんですか」 花川戸「そうだっけ」 京佳「言われた方は忘れないものよ。うれしいことなら特に、ね」 花川戸「俺は忘れたな」 京佳「そういう適当なところが・・・好きなんだろうな」 花川戸「俺のこと、今も好きか?」 京佳「何言ってんだい」 花川戸「俺はいつでもより戻してもいいぜ」 京佳「ははは、じゃあ、この続きはアニメの世界で」 花川戸「つれねーなー」 京佳「じゃ、そういうことで」 花川戸「皆の衆・・・達者でナ」 京佳「じゃ、撤収!」  舞台上、リカとタカダ以外いなくなる。しばらくあって、ホリ戻る。 リカ「(しばらくして異変に気づき)・・・あ、あれ? タ、タカダさん・・・ここどこ?・・・マヤ?・・・ミホ?・・・・・・・・・(タカダに)ども」 タカダ「リカさん・・・どうかしましたか・・・」 リカ「あ、いえ・・・なんでもないです・・・何処まで話しましたっけ」 タカダ「その服、すごくかわいいですね・・・恥ずかしいから、2回も言わせないでください」 リカ「あ・・・ありがとうございます」 タカダ「い、いえ・・・どういたしまして・・・」 リカ「褒めてくれたの、タカダさんだけです」 タカダ「え・・・そうなんですか」 リカ「みんなウケ狙ってるって」 タカダ「かわいいです。ほんとに」 リカ「ありがとう・・・ございます」 タカダ「(しばらくして)リカさん!・・・僕の・・・僕の、マイブルーヘブンになってください!」 リカ「マイブルーヘブン・・・」 タカダ「リカさん・・・お願いします!」 リカ「・・・お話ししたとおり、私、いろいろあるけど」 タカダ「別にいいじゃないですか!」 リカ「・・・いいんですか」 タカダ「僕は、ダテに年くってるわけじゃない。この年になれば、お互いいろいろあります」 リカ「・・・いろいろ・・・」 タカダ「いい年して、そんなこと気にするなんて、おかしいよ」 リカ「気にならないの?」 タカダ「ならない!」 リカ「ほんとう?」 タカダ「くどい!」 リカ「・・・・・・(しばらく悩む)・・・わ、わたし・・・」  BGMが流れ、セリフが聞こえなくなる。ホリが変わり、他の登場人物が出てきて、混乱した状態になり、閉幕。 - 30 -