17 解答に至るプロセスを意識する

 問題作成者は、解答者がどのような思考を経て解答にたどり着くかを、考えて問題を作成する必要がある。で、この原則は、どんだけ単純な問題であろうと適用できることである。

 例えば「日本の首都は何処?」的な単純な知識のみを問う問題の場合、思考回路を分析することにさほど意味はないように思われるが、決してそうではない。「日本の首都=東京」という知識の有無を問うているだけではあるが、クイズというのはたいていの場合1問だけ単独で出題されるわけではない。例えば早押しクイズで出題される場合、「日本の首都は」と聞いた段階で「これは前ふりだろうなぁ」と思う場合と、「絶対に『首都は何処?』という終わり方だな」と思う場合、まぁいろいろな場合がある。その大会でそれまでどのような問題が出題されてきたか、その番組ではどのような問題が出てきたか、解答者がどういう状況に置かれているか(スパートを掛けるべきか、無理しなくても良いのか)など前後の様々な要素によって、問題に対する解答者の先読みの思考回路は変わってくるからだ。

 前フリやどの要素を解答にするかといった、問題に関わる要素を選択決定するときには、この「思考回路」を広い視点から考慮することが必要である。その際、考慮すべき様々な要素があるが、最も基本的になるのは「詳しい人と詳しくない人の思考回路に注目する」ということである。例えばこういう問題の場合。

 この問題を聞いている最中の解答者の気持ちを、考えてみよう。

  1. (詳しい人なら)笑いありの劇団かぁ、東京乾電池、東京ヴォードヴィルショー、WAHAHA本舗くらいかなぁ。おっと、柄本明が出たからまず2択だな。座長の名前が出たら押してやれ。
  2. (普通の人なら)えーと、ああ、東京乾電池、ああ、えーと、佐藤B作、あ、何かで見たなぁ。劇団の名前何だっけ?
  3. (知らない人)笑いありの劇団かぁ。WAHAHA本舗は有名だけどなぁ。座長誰だっけ、佐藤何ちゃら(注 正宏のことか)っていうオッサンは座長っぽいけどなぁ。あ、佐藤だって、押しちゃえ。
  4. (スパート掛けるべき人なら)よし、座長名が出たらとりあえず押そう。
  5. (待ちの態勢の人なら)よぅ知らんわ。無理せんとこっと。

 ま、他にもいくらでもあるだろうけど、おおざっぱに分ければこんな所だろうか。解答者は頭の中で明確に言語化されないうちに、このくらいのことは何となく考えるもんだ。

 さて、そもそもこの問題作成上、最低限考えなければならないことは、

  1. どの劇団を答えにするか
  2. 「座長」「劇団名」どっちを答えにするか。
  3. どの劇団をフリに使うか。

 の3点である。まず、笑いありの有名な劇団と座長との対応関係を書くとこうなる。

 その他もあると思うが、「メジャーであること」を考慮してとりあえずこの3つに絞るとする。答えにどれを選ぶか、作成者の感情・美意識・好き嫌いを全面に出してもいいし、「クイズによく出る」を避けても良い。いろいろ発想法はあるはずだが、わたしがこの問題を作成した時の気持ちは次の通り。

 まず、この3劇団のうち、共通点があるもの同士を選んでみる。そうすると「東京乾電池」「東京ヴォードヴィルショー」が「東京」つながり、「佐藤B作」「佐藤正宏」が「佐藤」つながりである(佐藤正宏がかつてヴォードヴィルショーにいたというのは、この際無視する)。このことを前提として、先の問題文のような形で問題文を作成すると、

 という効果が生まれる。もちろん、この効果を重視しない作成もあり得るが、この問題が出題されたのは鋭い早押しが要求される企画であったことと、当時サークルにはこの手の芸能問題が強い連中がたくさんいたことにより、この効果がひとつクイズ的なドラマを生むやもしれないと思ったのである。その際、「その事柄について詳しい人」と「その事柄をうろ覚えの人」との両方の意識に気をつけていることに特に注目して欲しい。

 この問題では「うろ覚えの人」がボタンを押した後に「ありゃま」と思うような問題構成を採用したわけだが、場合によっては「うろ覚え」程度の知識があれば正解させるような問題構成にすることもある。

 この問題は「焼き入れに対し」という言葉を入れるかどうかによって、問題の印象がだいぶ変わってくるし、難易度も相当変わる。具体的に言えば、「焼き入れに対し」という語を入れることで、「うろ覚え」でも正解しやすい問題文となっている。わたしがこの形を最終形に選んだ理由は、次の通りである。

  1. この問題を出題したときの企画では、早押しの緊迫感をできるだけ出したかった。
  2. 早押しの緊迫感で企画を押していきたかったから、なるべく正解してもらいたかった。

 結局、クイズ問題は出題される状況によって問題文が選ばれるべきである、ということである。だから、ぽんぽん正解が出る早押し合戦ではなく、じっくりとしたクイズを展開させたいときだったら「焼き入れに対し」を除く。なお、この問題文の場合、さらに早押しの緊迫感を出そうとすれば「金属の加工で」という部分を取り除くという方法もある。が、そこまで超早押し合戦が展開されるのは、さすがにわたしの本意ではない。この発想は「本名は○○」で始まる問題を作らないのと同じ心理である。

 むしろ「金属の加工で」という言葉をなるべくゆっくりと読むことで、「その次のことばがポイントになるかも」という意味の緊張感を煽る方が、はるかに演出としては高度であると考えているからである。もちろんその後は少し早めに読む。こういう読み方は福留氏もよくしている。余談ではあるが、解答者の思考回路を意識した問題の読み方も、問題読みの人は意識すべきと思う。第6回の高校生クイズ東北大会で

 このときは俳句クイズ「ものいへばく?び?さむしあきのかぜ」までパネルが空いている場面。絶対この問題で勝負が決まる。彼は「東洋の歌姫と呼ばれまして」の部分をものすごくゆっくり読み、しかもそこで2拍くらい空けて次をものすごい早口で(早かった相馬!)の部分まで読み進める。結局この問題に相馬高校(山下さんの方)が正解して全国大会進出を決めた。(まして)の部分は問題集には無く、福留氏が補ったと思われる部分(彼はこういうことをよくやる)である。

 なおこのことは、東北大会の方でははっきりと確認できるのだが、全国大会の放送で「東洋の……」の部分がカットになっている。そのため、ほとんどのクイズ関係者は知らなかったことではないかと思う。日本で最もクイズ問題を読むのが上手い福留氏の仕事として、せっかくだから此処で強調しておきたい。2拍空けたことについては「編集点を作った」というテレビ的な理由もあり得るが、この問題の場合その必然性が全くないから、やはり緊張感を煽ることを理由としておきたい。もしかしたら「前フリで押せよ」という意味だったかもしれないが。

 

 以上結構リクツっぽく説明してきたが、一例に過ぎない。題材・企画意図・解答者の性質などによって、問題文に対する気の遣い方はいくらでも変わってくる。要は1問1問、出題される状況を想定しながら眺めてみること。ある程度クイズ慣れしている人なら、シミュレーションは難なくできるはずだから、それを基に問題文の手直しをする練習をしてみよう。

 

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