16 一覧表を見て問題を作る
一覧表を見て問題を作るのは、クイズ作りの初心者がよく使う手である。そもそも世の初心者の問題作りは、問題を作ることそのものが目的であると言うよりは、クイズの勉強のために問題を覚える、という要素が強い場合が多い。世間にはいかにも「一覧表を見て作った問題」が多く存在するから、手っ取り早いクイズ上達法としてこの方法を選ぶ手合いが多いのであろう。しかも、世の中にはクイズ問題を作るのに手頃そうな一覧表がわんさと存在し、そのこともこの傾向に拍車を掛けている。
もっとも、クイズプレーヤーたちが一覧表問題を作りまくったことにより、最近では一覧表からこれ以上多くの問題を作ることは困難になっている状況もある。が、そのように閉塞した事態の中で、あえてわたしは一覧表を問題作りの題材として使いたいと思うのである。一覧表問題は得てしてクイズプレーヤーの作る対策問題とかぶっている場合が多く、普段わたしが主張している「対策の立てにくい問題を作りたい」という内容とずれていると思われる方もいらっしゃることだろう。が、以下に述べる方法は今までもわたしが使ってきたものであり、決して矛盾していない。
では説明。いきなりだが例題を見ていただこう。
まだまだいくらでもあるが、きりが無いからこの辺にしておく。
このように「源氏物語」の巻名に関する問題は、その一覧表を見さえすればたくさん作れるし、現にテレビのクイズでも出題されてきた。ご存知の方も多いだろうが、1番は第10回ウルトラ(エルパソ)、2番はFNS1億2000万人のクイズ王決定戦の第1回グランドチャンピオン大会で出題されている。1番は「最後」、2番は「2番目」、3番は「最後から2番目」、4番は「50音順」、それぞれよく出題されるパターンの問題である。
「よく出題されるパターン」というのは、「源氏物語」の巻名でなくとも、いくつか(多いほうがよい)同じカテゴリーに含まれるものが存在すれば同じパターンで問題が作れる、と言うことである。例えば、先の「『源氏物語』の巻名」を「小倉百人一首の歌」「モーニング娘。のメンバー(名前の五十音順や年齢を使う)」としても、同じような問題が作れる。
で、このような問題は、クイズのために「源氏物語」巻名を調べたことがあるか、それだけで答えられるかの差がつく。其処に横たわる価値観は「源氏物語に詳しい人が答えられるように」というものではない。あくまで「クイズのための勉強をした人を有利に」というものである。
もっとも、1・2番だったら「源氏」通でも、まぁ簡単に答えられる(早押しで押し勝てるかどうかは別として)。が、3番はなかなか出てきづらい(とんでもなく詳しければ別)。4番に至っては「源氏物語」に詳しいかどうなどが全く関係無い。調べたことがあるかどうか、純粋にそれだけにかかっている。
これら問題は、作る側からすれば実にたやすい。この「たやすさ」は「源氏物語」のストーリーを知らなくても作れる、という意味でのたやすさである。それこそ「源氏」の「げ」の字も知らない人でも作れる(これはこれで大変危険なことなのだが)。たやすいから、ひたすら作られつづける。みんなが作ると思うから、たとえマイナーなものが答えになってもみんな安心して出題する。それが「源氏」通にとってどうでもいい情報であっても、クイズプレーヤーたちは「対策問題」として作ったことがあるから、彼らにとって「マイナー」ではない。
このように、一般にはマイナーなことでもクイズプレーヤーにはメジャーになる、という状況は、昨今のクイズ大会などで出題される問題に如実に現れてきた。特に「一覧表があれば作れる問題」のパターンには、「第1回受賞者(作)」「第2回受賞者(作)」「最高峰」「五十音順で」「20世紀最初の」など結構種類があるが、これ以上はオールマイティー「『挑戦!!クイズ王への道』を論じる」で記す予定であるから、深入りしない。ただ、一覧表から作られた問題群は、簡単に作れるが故に、その事物について詳しい人からすると、どうでもいい情報が混じっている場合が多い。
かくいうわたしも、この手の一覧表問題を高校から大学1年にかけて作っていた。が、ここで述べようとしている「一覧表から問題を作る」というのは、そういう意味ではない。例えば、型に嵌った「対策問題」以外にも、一覧表から問題を作ることはできる。
実は源氏物語の場合、単に巻名だけが羅列してある一覧表(広辞苑など)より、簡単な内容が添えられているもののほうが多い。そうすると、「○○○という内容なのは何という巻?」という種類の問題が何ぼでも作れる。で、その中で出題に耐えるものをチョイスして問題化する。この問題の場合、源氏に詳しい人だと「葵の上が亡くなった直後に紫の上と結婚している」→「葵の上が亡くなったのは『葵』に決まっている」→「答えは『葵』だ」という思考の流れが成り立つ。逆に詳しくない人にはお手上げの問題だろう(対策問題を作っていれば別だけど)。このように、その事柄に詳しい人がどのように思考して正解を導くかを作成者は意識することが重要である。(詳しくは後ほど述べるつもり)なお、問題としての不自然さを減らすために前振りを付けてある。
その他、国語便覧を見ていくつか作ってみる。
これ以上はとりあえず作る気にならなかった。5番は「当たり前じゃん」(「御法」を正解にしても悪くないが、難易度が跳ね上がる)。6番は詳しい人なら答えられると思う。フリをうまく付けないとあんまりおもしろくないけど。7番はちょっと毛色が違い、「対策問題」として作られかねない問題ではあるが、「対策問題を作らない集団」で出題する分には成立する。この「対策問題を作らない集団(東大クイズ研や、クイズプレーヤーが出ないアタック25など)で出題してもしらけないか」という観点は、わたしの問題作りの中心をなしている。なお、1995年1月に「『竹取物語』のことを「物語の出できはじめの祖」と呼んでいる「源氏物語」の巻は?」という問題を作ったことがあるが、誰も答えられないことを想定してわざと作った問題であり、大しておもしろくない(ただし、源氏にかなり詳しい人なら正解できる問題ではある)。
以上の例から、一覧表を使って問題を作るときにわたしが気をつけている要素を考えてみると、
いったい何も見ないで問題を作るというのはものすごく難しい作業である。わたしは「源氏物語」について、世間一般の人にしては知っている方だと思う。それでも源氏について何も見なければ問題を作るのは難しい。そんなとき、自分の知識が整理された形で提示されている一覧表を見て、発想を膨らませていく。「詳しい人は、この問題をどうやって正解するだろうか」「単純な対策問題の餌食にはなっていないだろうか」「難しすぎないだろうか」などを、見ながら考える。そのために一覧表を使用することは、大変有用である。