14 漢字検定雑感3〜漢字関連の書籍紹介

 漢字の学習そのものが世の人々の関心を誘っているのか、漢字に関する本は世に結構出回っている。ところが、わたしにはどれも似たり寄ったりにしか見えないのが現状である。特に「これであなたも漢字に詳しくなる」的な本は、ほとんど異口同音大同小異。同じような語について同じようにしか説明できていないのが現状である。要は特徴がない。もっとも漢字検定2級程度の知識内容で、そんなに何十冊も本が成立するわけがない。だから仕方ないことなのだけど、それにしても漢字検定協会と同じで「ちょっと安易に儲けすぎじゃないかい」と言いたくなる。

 と、文句から始めてしまったが、以下に紹介する本はそこまで安易な本ではない。ま、そこそこ特徴のある本を選んでみたので、古本屋などで発見の際には立ち読みしてみるとよいかもしれない。

A 「漢字に必ず強くなる本」(村石利夫・三笠書房)→是非読んで!お奨め。

 知的生き方文庫1988年刊。「漢字に強くなる」的な本はいくらでも存在するが、ここまで本気で強くなれる本は珍しい。漢字検定に2級以上を受験する人には是非とも読んでいただきたい本である。が、最近は書店で見つけにくいから、新古書店で探されるのがよいだろう。

 まず初っぱなは「和製四文字成句」。「名前動後」「五蕗六筍」「金帰火来」など漢字検定には出ないが、一般に使われる四字熟語で教養を付けよう。

 次「難敵は二十画以上」は難しい漢字の書き方を覚えるコーナー。「讒言」の「」は右上の部分を「クロ比」と覚える、というのが高校の頃日本史で「讒謗律」と書くのに役立った。韓非子に登場する「五」は「なべぶたに、中にワ石に虫二匹」で覚えた。1級にもこんな書き取りは出ないし、覚えて役に立ったことはないけど、漢字に強いというかなりの自信は生まれる。

 「語呂合わせで覚える漢字」は、古今東の漢字語呂合わせの仕方を集めたものであるが、こういうコーナーはなかなか類書には存在しないから貴重だ。「立つ月トコひんまげチョンチョンチョン」は「龍」。余談だが、試験で「芥川龍之介」と書かせると、「龍」の最後の三本を二本にする生徒が実に多い。「ウばねカンびき」は漢字検定受検者必須の語呂合わせ。もっとも、実用的なのはこの二つくらいか。

 「1画の違いが生命取り」は、「帥」「師」のように1画違うと別の字になる組と、「都」とその旧字体のように、旧字体と新字体で1画違う字の組が紹介されている。漢字にそこそこ自信がある人ならどうってことない内容だが、2級を目指す高校生たちだったら漢和辞典を引きながら熟読したいところ。「候」と「侯」のように間違うと恥ずかしい漢字をおさえるのに良い。なお、間違いやすい漢字を集めた「校正者の気くばりに学ぼう」のコーナーも同様に必読。「弊」「幣」や「慨」「概」などの違いは、余程意識しないと覚えられないのだが、このコーナーを読むことでかなり強く意識を向けられるようになるだろう。とにかく漢字は「意識すること」が大事だから。

 次の「偏ではなく、旁で覚える」。わたしが部首について興味を持つきっかけとなったコーナー。従来の部首による漢字分類ではなく、部首になっていないところに着目して分類する、という「新しい試み(筆者がそう言っている)」。要は、わたしの部首の説明で「音符」と読んでいる部分を使っている分類法を紹介しているコーナーである。例えば「包」という項には「泡」「咆」「砲」「抱」「苞」「鞄」「鮑」が掲載されており、それぞれ「水がはらんだ(包)ような状態なのがアワ」「獣がほえるこえ(包)が、ホエル」などの1行解説が施されている。なぜ「ほえるこえ」を「包」という漢字で表すかは解説していないから、かなり不親切な記述内容ではあるのだが、その辺は普通の漢和辞典で補えるだろう(一応、包は「ホウ」という吠え声の音を表す)。内容云々よりも、音符で漢字を分類したという発想を買いたい。なお、このような分類は後に紹介する『この一冊で漢字王』『漢字の成り立ち辞典』にも出てくる。

 そのほか「難しい文字は漢音で覚えよ」「季語から学ぶ当て字」「熟字訓に強くなろう」は、どれも当て字の成立事情を解説してくれていて、特に準1級以上受験者は必読。当て字を解説している本は少ないから、実に重宝する。また「国字を知ろう」のコーナーは、国字の成立事情を実にコンパクトにまとめており、1級受験者には宝のような情報だらけである。

 「熟語は片割れが鍵」は、同じ意味の漢字を2字くっつけた熟語をたくさん紹介してくれている。で、そういう熟語は訓読みが同じだったりする。例えば「勘考」。この熟語を知ると、「勘える」と書いて「かんがえる」と読むことがわかる。同じように「陳述」とか「愉楽」とか。こういう熟語を覚えることが準1級の「常用漢字の表外読み」の学習に大変役立つことはすでに述べた。

 「読みとりの勉強」では「呉音」を紹介している。漢字の音読みは大きく分けて「呉音」「唐音」「漢音」「慣用音」があるが、このうち「呉音」は仏教用語を表すのに使われる。例えば「開眼」という熟語。「カイガン(開眼手術、など)」「カイゲン(開眼供養、など)」で意味が違う。後者が呉音であるが、何故そういう意味の違いがあるのかがよく分かるようになるだろう。

 全体を通して言葉たらずの印象も受ける本だが、単に漢字と読みを羅列した漢字ノウハウ本と違い、漢字について様々な知識を、きちんと理解しながら読み進めることができるだろう。「丸暗記」では漢字は理解できない。理屈を付けてくれるこの本、是非一読を。

 

B 「この一冊で漢字王」(藁谷久三・NON−BOOK)→そこそこお勧め。

 この種の体裁の本の中では一番読みやすい。同音・同訓の語や、同じ部首の漢字について、字の成り立ちから説明しようとしている。

 

 

 

BACK