10 2級までのための部首講座 理論篇

 このホームページは、最終的に漢字検定1級獲得を目指す人のためのものであるのだが、と同時に「漢字検定リピーターを減らす」という強い信念も持っている。そのためには「勉強しにくい分野のラクな抑え方」をじゃんじゃん紹介しなければいけない。そういう分野の最たるものが「部首」である。

 「部首」は漢字を分かりやすく分類する、という目的で作られている癖に、ちっとも分かりやすくできていない。困ったことである。だから、部首で漢字を引きこなすには、相当な努力を必要とする。心ある人は子どもに部首を丸暗記させようなどと考えない(と思う)。もちろん、部首分類が概ね意味による分類になっている、ということを教えるのは大切だと思う。しかし漢字検定で頻出しているような、「缶」の部首が「缶」である、というような知識には、常用漢字を使いこなすという点に於いて何らの意味も感じられない。というか、私は漢字検定2級程度の学習をするのに、漢和辞典は必要ないとさえ思っている。漢和辞典は漢文を読むための辞典であり、小中学校の段階で使用する必要は無いと思う(こういうことを言うと他の国語教師から相当批判されそうだが)。

 部首の知識が必要ない、と言っているのではない。部首を理解するのは漢和辞典を引くためではない、ということを言いたいのである。高校段階までで部首の知識が必要となるのは、例えばこんなときである。「植物をサイバイする」「布をサイダンする」を漢字で書いてみよう。「サイバイ」は植物絡みの語だから「木」が部首となる「栽」を使う。「サイダン」は衣に関係ある語だから「衣」が部首となる「裁」が使われる。このように、似た漢字の書き分けには部首理解が効果的である。部首学習は、このようなときにこそ役立つものである。

 しかし、「升」の部首が「十」であり、「丙」の部首が「一」であることなど、知っているから何だというのだろうか。少なくとも漢字を運用する能力に何ら関わりがない。少なくとも

余談だが、私がかつて中学校の授業を参観していたら、「矛」の部首を生徒に答えさせていた。驚くことに、その教師は「ほこづくり」を正解としていた。その程度の認識で子どもに漢字の部首を教えようという了見が間違っている(「ほこづくり」は、いわゆる「るまた」の別名であり、「矛」という字とは無関係である)。

もっとも、本気で漢和辞典を引きまくる専門の研究者は部首を知らないと不便であろう。漢字をある程度以上詳しく学ぶには、どうしても漢和辞典は必要である。しかし、漢字検定はそういうところを目指しているのでは無い。専門性を必要とするのは準1級以上でよろしい。2級で部首を出題するのは、是非やめていただきたい。何らの実用的意義がないからである。そりゃあ、部首を全部暗記していれば便利だろうが、その労力を2級受験者に強いる意味が分からない。

 前置きが長くなったが、つまり、部首の学習は本当に面倒くさい。諦めて丸暗記に走ることが近道であるという誤解をも招いている。しかし、その労力を少しでも減らせるとすれば、それに越したことはない。例えば「騰」という漢字の部首は「月」ではなく「馬」である。これは以下紹介する方法によって見分けがつくようになる。以下、見分けるための理論を紹介しよう。まず、

 部首を覚えやすくするためには、部首じゃない部分に着目することが重要である。

 ということを、標語のように掲げたい。それはこういうことである。

 漢字のでき方を大きく4つに分けると「象形」「指示」「会意」「形声」となるが、このうち「形声」に分類される漢字が一番多い。「形声」とは、一言で言うと

 意味を表す部分「意符」と音を表す部分「音符」(声符)とから成り立つ漢字である。

と定義できる。どんなのか、具体例で示してみる。例えば、

 一般に、音符として同じ部分を持つ漢字は、似たような音を持つ(当たり前だ)。古代の中国語の発音と今の日本の音読みとは違うから、「俳」「悲」「罪」のように、全く同じ音にはならない。が、結構似ている音になるから、同じ部分を持つ漢字が同じ音符かどうかは想像つくだろう。

 で、形声文字は一般に「意味を表す部分」が部首となることが多い。何故ならそもそも部首は、できるかぎり意味による分類がなされているからだ。だから、

 と判断できる。このことを逆に言うと、「音符の部分が部首になることはまず無い」となる。全部が全部これで見分けられるわけではないが、かなり有効な場合が多い。例えばこんな感じ。

 などの具合である(ただし「登」は本当は形声文字ではない)。とすると、すべきことはまず「音符」という考え方に慣れることである。で、音符が分かれば部首も分かりやすい、という寸法である。

 で、音符の探し方なのだが、次項で具体例を詳細に記すので、参考にされたい。もちろん、この方法で部首が分かるのは形声文字(と一部の会意文字)に限られる。それ以外の漢字の部首には全くお手上げになってしまうのがつらい点ではあるのだが、かなりの効果をあげる考え方であるから、ぜひ習熟して欲しい。習熟にそれほど苦労しないのも特徴であるから。

 なお、「意符の部分が部首になりやすい」ということは「二級 漢字必携」にも記されている(234ページ)が、一般の受験者はどこまできちんと意識して学習しているだろうか。よしんば意識したとしても、そもそも漢字の「意符」を探すことはたいへん難しい(めんどくさい)ことである。例えば、先の例の「現」の意符が「王」だというのはものすごく想像しにくい。でも音符が「見(ケン)」だというのは分かりやすい。だから、もう1歩踏み込んで「音符は部首にならない」と言って欲しかった。「意符」より「音符」の方が格段に分かりやすいから。

 今一度繰り返す。

 部首を覚えやすくするためには、部首じゃない部分(音符)に着目することが重要である。

 では形声文字以外だったら部首をどのように判断するのがよいだろう? 基準は概ね次の3つ。

  1. その漢字そのものが部首になっているものは、それ自身が部首になる(当たり前だ)。
  2. 意味から判断する。
  3. それでも無理なら何とかしてこじつける。

 これらによって常用漢字1945字のうち、部首が分かりにくいもの(つまり、よく出るもの)を分類して整理するのが、部首攻略のコツである。次項でその具体的方法を述べて、学習の一助としたい。

 

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