朗読劇(っぽいもの)  「From me to you」     作 佐々木繁樹      (2015学校祭用) 登場人物  女性A(元彼への手紙を読む)  女性B(父への手紙を読む)  女性C(妹への手紙を読む)  女性D(母への手紙を読む) 【女性A】 もう少しで6年になるんですね。 「私を魅力的にしてくれてありがとう」、 あのとき言ったのは、強がりじゃないです。 6年経つ今でも思います。やっぱり強がりじゃないって。 やさしくない自分が嫌いだった私が、 少しずつ変わっていくのが分かったから。 そして、いつまでも、一緒にいられる二人ではないことも。 このままだと私も、あなたも、ダメになっていくような気が してしまった。 二人で成長しなきゃ、って思い込んでた。子どもだったんだね。 2人で成長なんてしなくていい。今はそんな風に思えるけど。 「1+1が2にしかならないんだったら、別れた方がいい」 ほんっと、何言ってんだろうね。 ただそのまま、一緒にいたっていう、 そのことだけが大切な事実なんだね。 「1+1」は2のままでいいんだね。本当は分かってたんだね。 もっと大人になってから出会えばよかったんだね。 今だったらどうだったんだろうね。 そんなこと考えてもしょうがないけど・・私はたまに考えます。 結ばれないのはむなしいこと、今日わかった、 って言う歌があったけど 出会ったことがむなしいなんて考えたことがなかった。 あなたにきれいだと言われた鼻すじ、 あなたに読みやすいと言われた私の字、 あなたに褒められたことが、 いつまでもだれかに見られているようです。 あなたが私に残したすべての思い出が、 普通の生活の中に溶け込んで6年。 もっともっと大人の女性になりたいと、 意気込んでるだけだった私。 ひとりだけ先に行くなよ、と笑って取り合わないあなた。 いつか、いつかあなたが私を一度だけ見つけるとき、 私を見つけられないくらい魅力的になって すました顔で「久しぶり」って言いたかったのに。 今度こそ最後の電話だった。 こんな体になってしまったあなたが、 もう長くないよって笑うあなたが、 おめでとうって言ってくれたから、 ふたりの思い出がひとつだけ増えました。 祝福されたことよりも、 最後に「ありがとう」って言えたことが、 私の人生を照らしてくれると思います。 ありがとう。さようなら。 【女性B】 カレーライス、麻婆豆腐、ビーフシチュー、オムライス、 小さいころから、一緒に台所に立つのが大好きでした。 やっぱり、ご飯を作って味見しているときのお父さんが、 一番かっこよかった。 私にも優しく教えてくれたね。 味はかなわないけれど、手早くご飯を作れるようになりました。 リンゴの皮むきなんて、友達の誰にも負けたことがないしね。 私のせいで味付けがうまくできなかったときも、 お父さんの帰りが遅いから、私ひとりで作ったときも、 お父さんは必ず「おいしいおいしい」って言ってくれました。 他のことではいっぱい怒られたけど、 料理のことは褒めてもらった記憶しかありません。 私が高校に合格したときも、 部活で負けて泣いているときも、 お父さんに言えない理由で落ち込んだときも、 お父さんはいつもと同じようにご飯を作ってくれました。 そして、最後までふたりで一緒に食べてくれました。 本当にありがとう。 いつもお父さんに褒めてほしくって、勉強もがんばりました。 明日も「いい人を選んだね」って褒めてほしかったです。 これから料理を作るときは、もっと薄味にしないとダメだよ。 そう言って、今度は私が教えてあげる番だと思っていました。 「面倒くさいことをちゃんとやると、おいしくできるんだよ」っていうのが、お父さんの口癖だったよね。 「食器をちゃんと洗う人が、おいしいご飯を作れるんだよ」 そんなこと言うお父さん、珍しいよね。 でも、それが、幸せになる近道なんだね。 お父さんに見てほしいから、 明日の父の日を結婚式の日にしました。 あの日から、もうわがままは言わないって決めてたけど、 ひとつだけ、結婚する前にわがままを言ってもいいかな。 本当は、もう少しだけ、お父さんと一緒にいたかったです。 明日はどこからかでもいいから、必ず見ていてね。 私が選んだ人は、食器をきれいに洗う人です。 子どもができたら、私も一緒にご飯を作りたいです。 お父さんにもらったものを、大切にして、生きていきます。 改めて、ありがとう。あした、よろしくね。 【女性C】 朝寝坊が多くて、忘れ物が多くて、靴も揃えないから、 「お姉ちゃんみたいにもっとちゃんとしなさい」って いつも言われると、 「どうせ私はお姉ちゃんみたいにしっかり者じゃないよ」って 泣きながら言ってたの、覚えてるよ。 でもそのあとは必ずケロッとしてた。 怒られても反省しないし、堂々としてたから、 もっともっと怒られてたね。 好き嫌いが多くて、方向音痴で、いきなり怒り出すし、 欠点だらけに見える困った妹だけど、 お姉ちゃんは全然嫌いじゃないよ。 ま、そんなこと、分かってるよね。 無断で遊びに行ったことも、勝手に部活辞めたことも、 秘密がとっても多いのに、いつでもぶっきらぼうな感じで、 私には全部喋ってたのは、私のことを信頼していたから? 危なっかしい妹だから、結婚したり子どもができたりしたら、 いや、その前に、変な男に引っかからないかとか、 お姉ちゃん実は心配してたんだよ。 でも、ちゃーんとお母さんしてるんだもんね。 やっぱりすごいね。 仕事も子育ても、ちゃんとやってるなんてさ、 最初信じられなかった。 私が素直にそう言うと、 「お姉ちゃんは、良いお姉ちゃんだから、私よりいいお母さんになるよ」って言ってくれたけどね、 けど・・・ね、 けど・・・さ、 お姉ちゃんじゃ、・・・いいお母さん、無理かもしれない。 全然、いいお母さんになれそうもない。 しっかり者のお姉ちゃんは、もう疲れたよ。 「こんなに子どもが泣いても、いらいらしないの?」 って前に聞いたとき、 「泣くから子どもなんじゃん!」って言ってたよね。 やっぱりすごいね。 どうすればそう思えるのかな・・・。 自分ががんばれば、必ず相手に伝わるって思ってたけど、 自分ががんばれば、何でもうまくいくって思ってたけど、 ・・・・・・そうじゃないって分かった。 そんなこと、なんで分からないの?って思ってるでしょ? しっかり者って言われてたこと、昔はうれしかったけど、 途中から、ぜんぜんうれしくなかった。 ずーっと一緒だった子どものころ、 あなたといるだけで、すーっと気持ちが楽になった。 もっと、私のことをいっぱい喋っておけば良かったんだよね。 秘密だって、弱いところだって、いっぱいあるんだもんね。 もっと、たくさん言葉をもらっておけば良かったんだよね。 だから、お願いだから、今からでも遅くないって言って。 悪いお母さんにも、悪いお姉ちゃんにもなりたくない。 まだあなたのお姉ちゃんでいたいから、・・・お願いだから、 ・・・・・これからも助けてね。   【女性D】 「あなたには私のような人生送ってほしくないの」 小さいときからお母さんはいつもそう言いました。 「私はお母さんみたいになりたくないの」 あるときから、私もいつも反撥して言っていました。 自分みたいになってほしかったのか、 なってほしくなかったのか、 お母さんの本心は、今もよくわかりません。 私も、自分の本心が、良くわかりませんでした。 「あなたに与えることができたのは、 私のダメなところばかりね」 何に腹が立っていたのか忘れましたが、とても怒っているとき、 お母さんは一度だけそう言ったことがありました。 私も腹が立っていたとき 「自分の嫌なところに私が似ているから、怒るんでしょ」と 言ったことがありました。図星だったでしょ? 無理しているときに、機嫌が悪くなることも、 好きな食べ物は真っ先に食べることも、 猫舌のこともくせっ毛のことも、 ひとえまぶたのことも、男運がないことも、 似ているのはしょうがないので、我慢します。 似ているのは嫌じゃないし。 それから、一人でいるのが嫌いなことも。 ひとりでお風呂に入れなかった私と、 忙しくても、毎日お風呂に入ってくれました。 「お母さんもひとりで入るの、好きじゃないから」。 たぶん、私と似ているお母さんの本心だったと思います。 お母さんと離れた今、お母さんの気持ちがよく分かります。 今日の私の引っ越しでも、小さい壁のへこみを 大家さんに確認していました。 「言わないでいると、あなたがへこませたことになるでしょう」 私も同じことを考えてた。 夕飯の時黙り込んだのも、 帰りのドアを閉めるとき振り向かなかったのも、 オトナは寂しいなんて口にしないからですね。 お母さんの行動のわけが、やっとわかりました。 でも、私は涙が止まりませんでした。 今も、まだ涙をこらえながら書いています。 この手紙が着くころに、電話をします。 少しだけ、オトナに近づいて、 お母さんに近づいた私に教えてください。 お母さんも、あのとき泣いてたんでしょ。 ひとりが嫌いなお母さんを、ひとりにしてごめんね。 じゃ、またね。バイバイ。