11 アタック25体験記 その4 リハーサル

10月18日(木)

 スタジオに入る前、全員がトイレに行き、完全に臨戦態勢に入った。

 ということで、ついにリハーサルがはじまる。まずスタジオに入場すると拍手で迎えられる。児玉さんと出題の沢木さんはまだ入場されていない。はじめに自分の居住都道府県と名前(解答席に前のほうについているヤツ)の確認。誤字があったらすぐに訂正となる。かつてはセルに白いペイントで書いていたが、現在はパソコンのカラープリンターで作っているようである。ちなみに6年前に出たときのものはずっと自宅の冷蔵庫に貼ってある。ここで落合さんの都道府県に間違いがあり、直しが入った。直すのにはそこそこ時間がかかるようだ。だったら控え室で確認させればいいのに。

 その後、座席についてカメラ割りをする。自分がカメラでどう映っているか気になるのだが、モニターに目をやると画面に映った顔はそっぽを向いてしまう。だからカメラ映りはよく分からない。あと、右手を上げると、モニターで向かって左側の手が上がってしまう。鏡を見なれている我々には違和感がある。だから、あまりテレビ映りは気にしないようにしないほうがいいのかもしれない。自分のカメラ目線がどういう顔になっているかは、どうせ確認できないし。

 なお、ここでカメラ目線について触れておこう。よくクイズプレーヤーで、答えを言うときにカメラ目線になる人を見ることがあるが、こういう人たちはよほどテレビ慣れをしているのだろう。『能勢一幸のクイズ全書U』によると、能勢氏が当時、クイズ仲間たちの間で「テレビに映ったら解答権を取ったときにカメラを見て答えよう」と話をしていることが伺える。これについてはそれぞれのプレーヤーの意見がいろいろあるだろう。ただ、基本的にテレビを見ていてカメラ目線になっている人は少ない。まともに目線をカメラに持っていくのはニュースくらいなものである。「視聴者に向かって話し掛ける類の番組(アイドルものの番組や一部のアダルトビデオも含む)」でないかぎり、カメラ目線は不自然だと思う。

 その後、解答者紹介に関する注意を受ける。カメラの後ろでスタッフが手を振っているので、そっちをずっと見つづけてもらいたいこと、全く無表情で何もしないのもつまんないので、何かしらリアクションをしてほしいこと、などを言われる。基本的にどんなリアクションをしてもさぶくなってしまうと思っているので、少しでもさぶくないリアクションを必死で考え、まあ弱めのガッツポーズにしておこうか、と結論付けた。もう少し家庭的なキャラクターだったら手を振ったりもするのだが、出場者中最年少だし、闘志を少しだけ出すのが正しいと思ったのである。とにかく、赤の席にいるから何をするにも最初にさせられるのがしんどい。いろいろ考える暇も無いし。

 と、ここで児玉さんと沢木さんが入場。沢木さんはテレビで見るよりもはるかにおうつくしい。しかもたいへん感じのいい方であった。出演者にたいそう気を遣ってくださるのである。で、すぐ児玉さんがスタッフを順順に紹介していく。アタック25において児玉さんは演劇の「座長」という感じ。と同時に、出演者の緊張感も解きほぐしてくれる。やさしいおじさん、という感じである。こういう明るい家庭的な番組作りが長寿番組の秘訣なのかもしれない。

 その後、恒例の記念撮影。児玉さん、沢木さん、出場者で大盤のパネルの前に並ぶ。カメラマンらしいおじさんが出てきてぱしゃぱしゃ写しまくる。普通「こっちを見てください、はーい撮りますよ」くらい言いそうなものだが。だからできた写真は記念写真としては変なもの。わたしも沢木さんも向かって左下を向いているし、落合さんの目は閉じている。なお、この写真は10月19日の消印で大阪から送られている。ものすごい早業だ。大阪の番組は基本的に「出演したことを思い出に残してほしい」という姿勢があるようである。「新婚さんいらっしゃい」でもそういう姿勢が強く見られるし。

 さて、この後パネル取りのリハーサル。すでにいくつか埋まっているパネルが表示され、赤から順に易しい問題に答えてパネルを取る。赤の人は角が取れるようになっているから簡単である。このとき、児玉さんがスタジオのお客さんに向け、我々ひとりひとりの簡単な紹介をする。「赤の佐々木さんは高校の先生です」と言うとおばさんの声で「おーっ」とミニ歓声があがる。教師なんか別に珍しくないだろ。エキストラのおばさんたちのリアクションの大きさにはびっくりする。

 で、わたしに出題された問題は

 というような問題だった。実はわたしは野球に全く興味が無く、この日の朝まで知らなかったのだが、たまたま朝に日刊スポーツを買って読んでいたおかげで分かった。とりあえず「ニューヨークヤンキース」と答えて事無きを得、角を指定する。このときボタンを押して答えたのだが、押しにくいボタンだと思った。感覚としては、半球状になっていて強く押すと灯りがつくタイプの照明器具を想像してもらいたい。感度があまり良くなさそうであるから、上から下へ強く押し入れる感じを心がけなければならない。いわゆる「押しこみ(ボタンの遊びギリギリまで押し、反応する直前の状態にボタンを持っていくこと)」は無理だろう。どっちにしてもわたしは押しこみをしない派なのでいいんだけど。

 このあと緑→白→青と進むが、問題は易しいものであったと思う。中には「児玉さんが秋の夜長を過ごす方法は次の三つのうちどれ?」のようなものもある。とにかく雰囲気を和やかにしようというスタッフの気持ちが感じられて嬉しい。なお、「白の中田さんは中学校の先生です」という紹介があったときも歓声があがった。でもなぜか「青の落合さんは証券アナリストです」と言ったときには歓声があがらなかった。そっちの方が珍しいだろ。

 その後、特殊な形式の問題の練習。最初はオープニング問題。いくつか出るヒントを見て誰のことを言っているか当てる問題。リハーサルでもガンガン正解したいと思っていたので、気合を入れて臨んだ。出身都道府県と年齢が最初のヒントになるから、ちょっとでも思い浮かぶ人がいたら当てずっぽうでも押していきたい。と思っていたら、最初に出てきたのが「1970年生まれ」。はぁ? なぜ「○○県生まれ」が無いのか。わたしより5歳年上かぁ、31歳ねぇ、全く分からない。と思っていたら途中で「映画『グリッター』で初主演」とある。映画予想問題にあった問題だ。「マライア=キャリー」と思いボタンを押したらワンタッチ遅かったようだ。そうか、日本人じゃない場合、出身場所は出てこないのか。雰囲気としては緑と白が押したようだった。クイズをやっていると、周りで誰と誰が押したかはすぐに察知できるもんだ。また、自分が解答権を得られたかどうかもすぐ感じ取ることができる。このときは明らかに遅かった(といっても0.1秒くらいのもんだろうけど)。

 誰が解答権を得たのか?と思うが児玉さんは誰をも指名をしない。どうも早押しシステムのミスのようだ。複数の人が同時に押したとき、たまに誰が解答権を取ったのか分からなくなることがあるんだそうだ。で、「今押した方はどなた?」と児玉さんが4人に問うが、わたしは名乗り出なかった。結局譲り合いの末、緑の佐藤さんが答えた(ような気がする)。

 次に漢字の問題の練習をした。漢字検定1級だから、という訳でもないが、テレビを見ていて出場者より遅かったことはほとんど無い。自信はあるのだが、かえってプレッシャーも感じる。また東大クイズ研究会でヴィジュアルクイズを研究した自分としては、何としても正解したい。と思ったら果たして「屋根」と分かり正解。本番ではないけど嬉しい。漢字検定ははっきり言って伊達ではない。

 さらに続けて早押し問題が出題される。こんな問題

 ここでほぼ全員が押したのだが、付いたのはわたし。アタックのビデオをさんざん見まくった感じで言うと、秋を感じさせるような前振りがある場合、直球に決まっている。ちょっと難易度は低いような気もするが、押してみたら「まだ問題は続きます」といわれブー。その後「秋の桜と書くと何でしょう」と続く。クイズの手だれ大会ということで、強烈なバカ押しを避けさせるための練習問題だったのだろう。単純だから引っかかってしまったが。

 と、とりあえず通しのリハーサルが終わったところで、プロデューサーの人が「皆さん、全体的に声が小さいです。声を出す練習をしてみましょう」と言ってきた。わたしは仕事柄、基本的に声が高音且つラウドリーなのだが、テレビだと声が低音になる癖がある。普段のような高めの声で話すと痛っぽいからなのだが、テレビ的には聞き取りにくい音であるらしい。

 声を出す練習というのは、プロデューサーの人が「赤の方、さあ何番?」と聞く声に対し、好きな番号を「25番!」のように指定するのである。大きな声だと後ろのおばさんたちが拍手をしてくれる、という寸法である。赤のわたしから練習が始まるが、何回言っても全然拍手してくれない。8回くらいは練習したのではないだろうか。結局やっとのことで拍手してもらったのは5分後くらいであったと思う。それに引き換え他の3人は2〜3回くらいできれいな拍手をもらっていた。特に青の落合さんは1発OK。さすが歴戦の勇士。

 で、この後すぐに本番になる。別に「トイレに行きたい人いませんか」とかの言葉も無く、直ぐに児玉さんのタイトルコールになってしまう。リハーサルが全体に和やかな雰囲気であるから、初めての人はなかなか緊張感を高めるのが難しいかもしれない。ただ、わたしとしては本番が始まった段階で、できるだけすぐに闘志丸出し(痛くないように)モードに変えようと必死になった。

 

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