アクトレス、アクトレス                                        作  佐々木 繁 樹          キャスト  オンダ・リサ       ・・・ 市役所職員。  ヨシオカ・ヒナタ     ・・・ 高校2年生。  マツオ・タカコ      ・・・ カリスマ主婦。  サクライ・ノゾミ     ・・・ 人気女優。  ムライ・ユウコ      ・・・ 市の広報課長。  イブカ・マキコ      ・・・ 女優のマネージャー。  職員A〜C  開幕  市役所の会議室。オンダがお菓子やお茶の準備をしている。  上手袖に課長が出てきて、客席に向かい話し始める。 課長「いやー、二十代の若手にこんな大役、やっぱり力がある人は違うのねー・・・全国広報コンクール。今年も内閣総理大臣賞いただきですね。・・・今をときめく女性達のシンデレラストーリー! ・・・これであなたのキャリアにも弾みがつく! 今から完成が楽しみですね! がんばってね!」  課長、ほほえみながら去る。オンダ、準備があらかたできたところで、ため息をつく。 オンダ「はあ・・・いい年した広報課長から『(ポーズまでものまねして)がんばってね!』って言われてもねー・・・すっごいプレッシャー・・・」 課長「(また出てきて)もしかして、今のでプレッシャー感じた?・・・できるあなたなら大丈夫ですよね!・・・まあ、人生はプレッシャーの連続ですから・・・楽しむくらいじゃないと!」(課長、去る) オンダ「『(ものまねで)楽しむくらいじゃないと!』・・・だったら好きなようにやらせてよ!」 課長「(また出てきて)ん? 何か言いたそうな顔してますね・・・別にない?・・・じゃ、いいんだけどね・・・」(去る) オンダ「・・・・(大きいため息)はあ」 課長「(また出て)女性は人前でため息つかない!」(去る) オンダ「・・・(少しためて)・・・うるさいな!(と言ってすぐ上手前方を見る・・・市長出てこない・・・安堵)・・・んもう!・・・」 課長「(いきなり出て)以上! よろしくね!」(去る)(オンダ、緊張する演技など) オンダ「・・・ふう・・・」  オンダ、また準備をする。と、そこへ職員A〜Cがサクライ・イブカを伴って入ってくる。 職員A〜C「失礼します!」 職員A「オンダさん、女優のサクライ・ノゾミさんがお見えです」 職員B「マネージャーさんもお見えです」 職員C「つまり、お二人そろってお見えです」 オンダ「はあ」 イブカ「失礼します」 オンダ「あ、よろしくお願いします」 職員A〜C「では、失礼します」 オンダ「ちょっと、あんたたちなんで三人で来たの?」 職員A「だって、大女優ですよ」 職員B「失礼があってはいけませんから」 職員C「三人でずっと案内するって決めてたんです」 オンダ「ただ近づきたかっただけじゃない」 職員C「ではあらためて」 職員A〜C「失礼します!」 職員B「対談の成功を期待しております!」(三人、ゆっくりゆっくり去る。サクライ、手を振って見送る) イブカ「ありがとうございました・・・こちらが対談会場ですね」 オンダ「そうです・・・マネージャーさんでいらっしゃいますね」 イブカ「はい。私、サクライのマネージャーを務めています、イブカと申します(名刺を渡そうとする)」 オンダ「(急いで名刺の準備をして)広報担当のオンダです。今日はよろしくお願いします(名刺を交換する)」 イブカ「(名刺をじっくりと見てから)・・・オンダ・リサさん。早速ですが、暗くないですか?」 オンダ「はい?」 イブカ「今日は写真撮影があると聞いています。この照明ではちょっと」 オンダ「すいません。これ以上明るくはならないですけど」 イブカ「・・・まあ、いいです。で、今日の進め方について教えていただけますか?」 オンダ「はい。えー、本日は、(イブカ、オンダにぴったり近づき『ふんふん、ふんふん』などの合いの手をどんどんいれながら)高校生が聞き役で、その質問に、サクライさんと、マツオさんが答えて、対談のような、形に、まとめる、ということに・・・・・(イブカに突っ込む)近い、近いです!」 イブカ「(無視して)分かりました。では、ウチのサクライは、質問に答えるだけでいいと」 オンダ「基本的にはそうですね。まあ、その中で、楽しい会話が、弾んでいけば、それも記事に・・・(少しずつイブカが近づいているので)だから、近いですって!」 イブカ「(無視して)それにしても、他の皆さんまだなんですか」 オンダ「(少しイブカから離れて)もう少し、もう少しお待ちください」 イブカ「このまま待っていろと」 オンダ「申し訳ありません」 イブカ「楽屋はないんですか」 オンダ「市役所なんで」 イブカ「控室とか」 オンダ「市役所なんで」 イブカ「メイク室とか」 オンダ「市役所なんで」 イブカ「リハーサル室Bとか」 オンダ「AもBもないです」 イブカ「だいたい楽屋すらないなんて、聞いてないですよ!」 オンダ「楽屋がないなんて、わざわざ言うことですか」 イブカ「困る! 困るわー・・・実に困る!」 オンダ「困るんだったら、すいません」 イブカ「女優は緊張の連続なんです! リラックスして待機したいんですよ! メイク直しもできないし」 サクライ「マネージャー、わたしなら、大丈夫。慣れています。監督が待てと言えば、いつまでもどこまでも」 オンダ「かんとく?」 サクライ「逆に、いい緊張感でいられそうです」 イブカ「本当に申し訳ありません。私の現場確認ミスです。とりあえず、いますぐコーヒーをお持ちします」 オンダ「コーヒー?」 イブカ「サクライは待ち時間、必ず熱いコーヒーを飲みます」 オンダ「そうなんですか」 イブカ「『サクライ・ブラック』、業界の常識です」 オンダ「へえ」 イブカ「(オンダに)で、コーヒーは?」 オンダ「はい?」 イブカ「だから、サクライブラック」 オンダ「マネージャーさんが用意するんじゃないんですか」 イブカ「まさか」 オンダ「お茶ならありますけど」 イブカ「サクライにお茶なんて、常識外れです」 オンダ「知らなかったんです」 イブカ「だいたい女優を待たせたら、ふつうコーヒーも出ないの?」 オンダ「そういうもんですか」 イブカ「ケータリングとか」 オンダ「まあ自販機ならありますけど」 イブカ「自販機じゃ領収書出ないでしょう」 サクライ「マネージャー、わたし、お茶でも大丈夫ですよ」 イブカ「いけません。こういうことは、ちゃんとしないと」 オンダ「ちゃんと!」 サクライ「・・・そうですね、何事も、最初が肝心ですから・・・」 イブカ「ということで、何でもいいからコーヒーを用意して下さい」 オンダ「だから、ないんですって」 イブカ「お茶があるのに、コーヒーがない!」 オンダ「すいません」 イブカ「人口十二万の市役所に、コーヒーがない!」 オンダ「すいません」 イブカ「枝豆の名産地なのに、コーヒー豆がない!」 オンダ「無理矢理です!」 イブカ「そんなに無茶なことを言ってますか? ちょっとコーヒーを出してほしい、それだけなのに」 オンダ「分かりますけど」 イブカ「まるでクレーマー扱い!」 オンダ「してません!」 イブカ「早く、早くなんとかしてください」 オンダ「・・・インスタントなら、たぶんありますけど」 イブカ「インスタント?・・・」 オンダ「大女優には失礼ですよね」 イブカ「サクライはインスタントが大好きです」 オンダ「え?」 イブカ「分かっていただけてみたいで嬉しいです」 オンダ「はあ・・・(小声で)めんどくさ・・・(普通の声で)ちょっと待ってて下さい」  オンダ、いったん下手に去る。その間に、イブカがサクライの額の汗を丁寧におさえる。そのあと、イブカは自分の汗を無造作に拭く。オンダがインスタントコーヒーの容器を持ってくる。 オンダ「今淹れますから」 イブカ「ありがとうございます」  とそこへ、職員Aに伴われたカリスマ主婦・マツオがやってくる。 職員A「オンダさん、マツオさんがお見えです」 オンダ「・・・あなた、ひとり?」 職員A「え? 普通、そうじゃないですか」 オンダ「あんまり興味がないと」 職員A「では、失礼します」 オンダ「ご苦労さん」 マツオ「(名刺を出す)どうも、マツオと申します」 オンダ「広報担当のオンダです。今日はよろしくお願いします(名刺を交換する)」 マツオ「よろしくおねがいします(名刺をすぐしまう)」 オンダ「(名刺をじっくり見る)はっきり『カリスマ主婦』って書いてあるんですね」 マツオ「まあ、みなさんそう呼ぶから」 オンダ「・・・失礼ですけど、この写真、マツオさんです・・・よね?」 マツオ「ええ、ちょっと前の写真だけどね」 オンダ「ちょっと・・・ですか(じろじろ見比べる)」 マツオ「あんまり見ないの・・・ところで、オンダさん、いま何歳なの?」 オンダ「いきなり年齢ですか」 マツオ「最初に聞かないと聞きにくくなるから」 オンダ「はあ、まあいいですけど・・・」 マツオ「あ、ちょっと待って、当てよう。年齢当てクイズ! えーと、何歳かなー・・・(じろじろ見まくる)見たところ若いけど・・・でも広報担当だからなー・・・意外といってたりして、えーと」 イブカ「(それまでサクライと話していたが、いきなり振り返り)すばり、29歳!」 マツオ「29? えー、もう少し若いんじゃないかなー・・・って、おたくは?」 イブカ「申し遅れました。(名刺を渡し)サクライ・ノゾミのマネージャーです」 マツオ「(サクライの方を見て)あ、久しぶり」 サクライ「タカコちゃん、変わらないね」 マツオ「そう?」 サクライ「相変わらず」 マツオ「年取っちゃったよ」 サクライ「そんなことないよ」 マツオ「ノンゾ全然変わらないしー」 イブカ「すいません! ノンゾって呼ぶのはやめてもらえませんか」 マツオ「え?」 イブカ「事務所的に、『ノンゾ』、NGなんで」 マツオ「は? だって、昔からノンゾノンゾって呼んでたし・・・今更変えられないでしょ」 イブカ「ノンゾではなく、『ノゾミン』が公式の愛称です。雑誌から何から、すべて『ノゾミン』で契約しています」 オンダ「確かに、普通『ノゾミン』ですね」 イブカ「初めてのCMのときからノゾミンです。ファースト写真集『ノゾミン ファースト』は十二万部も出ましたし」 マツオ「でもノンゾはノンゾだし・・・ノンゾのことノゾミンって呼ぶと何かノンゾがノンゾじゃないような気がするし・・・ノンゾだってノゾミンよりノンゾの方がノンゾとしてノンゾっぽく答えられるんじゃない?・・・だから、今日はノンゾでいかない?」 イブカ「ノンゾは困ります」 マツオ「こっちも困る! ノゾミンなんて恥ずかしくて呼べないし」 イブカ「ノンゾの方が恥ずかしいでしょう」 マツオ「なんで!」 イブカ「田舎くさいもの!」 オンダ「じゃ、じゃあ、広報に載せるときにはノンゾを全部『ノゾミン』に直す、ってのはどうでしょうか」 マツオ「えー、同級生が読んだらどう思うかなー」 イブカ「ファンの方が人数多いです! 」 オンダ「あ、ノゾミン・・・サクライさんはどっちがいいんですか!」 サクライ「わたしは、女優です。役のイメージに合う方にしてください」 オンダ「役?」 イブカ「オンダさんは、どちらがいいんですか!」 オンダ「え?」 イブカ「オンダさんが監督ですから、選んでください」 オンダ「そんな」 サクライ「オンダさんが選んだ方に、従います」 イブカ「ノゾミンこそ、サクライを表現する最高の呼び方です」 マツオ「ノンゾの方が地元ではしっくりくるの!」 イブカ「ノンゾなんて、アフリカの地名みたいな名前、使えないって言うの!」 マツオ「何がノゾミンよ! だいたい佐々木希とかぶってるじゃない! イブカ「こっちの方が先ですー」 マツオ「向こうの方がかわいいのよ!」 イブカ「演技はこっちの方が上ですー」 マツオ「年齢はだいぶ上です−」 イブカ「オンダさん!」 オンダ「はい!」 マツオ「どっちにすんの!」 イブカ「そうよ!」 オンダ「あー、えー、どっちでも、いいんじゃ、ないですか?」 イブカ「何!」 オンダ「いや、あのー、じゃあ、呼ばないというのは」 マツオ「しゃべりづらい!」 オンダ「あー、えーと、それにしても、高校生が来ませんね」 イブカ「早くはじめましょうよ」 オンダ「じゃあ、すいません、この時間を使って写真撮影してよろしいですか」 イブカ「写真?」 オンダ「はい。まずはツーショットを」 サクライ「マネージャー」 イブカ「はい、ただいま」(と言い、サクライのメイク直しに行く) マツオ「ちょっと待って(鏡を見たり)」 オンダ「おふたり、この壁をバックに並んでいただけますか?」 マツオ「え、はいはい(急いで鏡を見ながら)並び順とか決まってるの?」 オンダ「向かって右にサクライさん、左にマツオさんでお願いします」(マツオは並ぼうとする) サクライ「(動かない)・・・マネージャーさん」 イブカ「(あわてて)はい! すいません。ただいま」 オンダ「どうかしましたか」 イブカ「立ち位置、逆にできない?」 オンダ「え、まあ、記事の都合で、こっちがいいかと」 イブカ「逆にはできない?」 オンダ「できれば」 イブカ「どうしても?」 オンダ「・・・どうしてですか?」 イブカ「サクライは、右半分からの角度、事務所的にNGです」 オンダ「NG?」 マツオ「角度なんかどっちだって同じじゃない」 イブカ「ダメです。事務所の方針です」 マツオ「何それ」 イブカ「ツーショットのときは向かって左と決まっています」 オンダ「マツオさん、いいですか」 マツオ「別に。というか、そんなのどうでもいいんじゃない?」 イブカ「イメージマネジメント戦略に、どうでもいいということはありません」 マツオ「気にし過ぎじゃない」 イブカ「修整した写真の名刺よりマシです」 マツオ「何だって?」 イブカ「聞こえませんでしたか。修正した写真の名刺より」 マツオ「てめえ、もういっぺん言ってみろよ!」 イブカ「ひゃっ!」 オンダ「ちょっと落ち着いて下さい!」 マツオ「おちついてられるかよ」 サクライ「タカコちゃん、さすが元ヤン」 イブカ「え?この人不良だったんですか?」 サクライ「泣く子も黙る」 マツオ「もう大昔のことよ」 イブカ「カリスマ主婦が元不良」 マツオ「不良じゃなくてヤンキーです」 イブカ「イメージ悪いねー」 マツオ「別に隠してませんから」 サクライ「たばこはやめたの?」 マツオ「それはイメージ悪いから秘密」 オンダ「あのう、そろそろいいですか」 サクライ「もめてないで、早くしましょう」 マツオ「もめたのはあなたのことです」 サクライ「そうなの? で、結論は出た?」 マツオ「もう・・・相変わらずマイペースね」 オンダ「では、お願いします!」  とそこへ、高校生が入ってくる。空気も読まず、カメラとサクライ・マツオの間に入り、挨拶をしようとして オンダ「ちょ、ちょっと、何?」 ヒナタ「あ、失礼します! ご挨拶が遅れました。わたし、」 オンダ「ちょっとどいて」 ヒナタ「はい?」 オンダ「どいてどいて」 ヒナタ「ああ、お取り込み中でしたか」 オンダ「分かるでしょ!」 ヒナタ「もしかして、・・・もしかして・・・写真?」 オンダ「そりゃそうでしょ」 マツオ「(ずーっと表情を作っている、その笑顔で)おい! 早くしろよ」 オンダ「では行きます、はいチーズ(で、何枚か撮る)はい、お疲れ様でした」 イブカ「(サクライだけに)お疲れ様でした!(といって、汗を拭き、肩をもむ)」 マツオ「今ので汗かく?」 オンダ「改めまして、皆さまにご紹介します。今日のインタビュアーの、えーと」 ヒナタ「ヨシオカ・ヒナタです」 イブカ「(名刺を渡して)わたし、女優サクライ・ノゾミのマネージャーの、イブカと言います」 ヒナタ「よろしくお願いします」 イブカ「女優を待たせるとは、なかなか大物ね」 ヒナタ「いや、それほどでも」 マツオ「嫌み言われたのよ・・・(名刺を渡して)マツオです。どうぞよろしく」 ヒナタ「よろしくお願いします(マツオと名刺をまじまじと見る)」 オンダ「では、全員おそろいです。あまり時間がないので、対談に移ってよろしいですか(みんな、なんとなくうなずく)じゃあ、ヨシオカさん、打ち合わせ通りにお願いします」 ヒナタ「はい」 マツオ「打ち合わせ通りって、私何も聞いてないけど」 オンダ「質問に答えてくだされば大丈夫です」 マツオ「そうなの?」 ヒナタ「では、さっそく、始めたいと思います。まず、サクライさん」 サクライ「はい」 ヒナタ「そもそも、女優になろうと思ったのはなぜですか」(オンダは個人の写真をとりまくっている) サクライ「なりたくて、ね」 ヒナタ「なりたくて」 サクライ「やってみたら・・・何となく・・・できちゃった・・・ってとこかな」 ヒナタ「(メモして)・・・何となく・・・できちゃった・・・ってとこかな・・・はい、分かりました。では、次の質問です」 オンダ「(カメラから目を離して)ちょっとちょっと、もう次?」 ヒナタ「いい答えでしたから」 オンダ「そう?」 ヒナタ「『何となく、できちゃった』って、かっこいいじゃないですか」 マツオ「何となくできちゃった結婚、ってのもあるけどねえ」 オンダ「そのために努力したこと、とか」 ヒナタ「じゃあ、そのために努力したことはありますか?」 サクライ「え・・・努力なんて・・・したことないな・・・」 ヒナタ「えー、そうなんですか?」 サクライ「昔からかわいいって言われるし・・・甘いもの食べても太らないし・・・最初から演技上手って言われたし・・・女優は天職ね」 ヒナタ「オンダさん、今のもかっこよくないですか?」 オンダ「感動しすぎじゃない?」 サクライ「私、女優になるために生まれてきたから」 オンダ「あのう、サクライさん、もう少し、真面目に答えていただければ」 サクライ「え」 オンダ「読者の方々が納得するような答えがほしいんですけど」 サクライ「わたしがふざけてる、って言うんですか」 オンダ「いや、そういうわけではないですが」 サクライ「一生懸命、答えています」 オンダ「そ、そうかもしれないですけど」 サクライ「そんな陰口をだれがたたいているの・・・マネージャー!」 イブカ「オンダさん! 困ります! ウチの大女優つかまえて『ふざけてる』だなんて!」 オンダ「いや、あの」 イブカ「いいですか。ウチのサクライは、天然で苦労知らずなんです。そこが売りなんです」 オンダ「は、はあ」 イブカ「名誉毀損です」 オンダ「天然は名誉ですか?」 イブカ「ウチの事務所は、裁判大好きです」 オンダ「そんな物騒な」 イブカ「勝訴勝訴また勝訴」 マツオ「オンダさん、とにかく天然なのよ、ノンゾは」 イブカ「ノンゾはNG!」 マツオ「いちいちうるせーよ!」 オンダ「分かりました。失礼しました。もう余計な突っ込みはしません!」 イブカ「分かっていただけたようで」 オンダ「はあ・・・疲れた・・・ヨシオカさん、あとよろしく」 ヒナタ「え? そんな・・・」 オンダ「わたしちょっと休憩」 ヒナタ「別に何もして無いじゃないですか」 マツオ「だったら、わたしから聞けば?」 ヒナタ「そうします・・・では、マツオさんは、どうしてカリスマ主婦になろうと思ったんですか」 マツオ「え、別になり方なんかないでしょ」 ヒナタ「なろうとしたわけじゃないんですね」 マツオ「まあ、なろうと思ってなるもんじゃないし・・・気づいたらなってた、みたいな」 ヒナタ「そうですよね・・・はい・・・分かりました・・・(しばらく間)」 オンダ「だから! これじゃ対談にならないでしょう!」 ヒナタ「気づいたらなってた、って、かっこよくないですか?」 オンダ「あなたは感化されすぎなの」 ヒナタ「じゃ、どうすればいいんですか?」 オンダ「とにかくどんどん質問して、答えを引き出してください。使える答えを後でつなぐから」 ヒナタ「そんなこと言ったって」 オンダ「順番はどうでもいいから、とりあえず、話しやすそうなテーマから」 ヒナタ「はい・・・えーと・・・では、お二人は小中高と同級生ということでしたが」 オンダ「お、いいじゃない」 ヒナタ「同級生にしかわからない」 オンダ「いいよいいよ!」 ヒナタ「お互いの」 オンダ「うんうん」 ヒナタ「エピソードについて」 オンダ「そうねえ」 ヒナタ「しゃべりづらいんですけど!」 オンダ「ああ、ごめんね。続けて続けて」 ヒナタ「ということで、お互いのエピソードを何か教えてください。では、マツオさんから」 マツオ「それは、とっておきのネタがあるのよ! ノンゾのファーストキスは、実は」 イブカ「あーNGNG!」 マツオ「ノンゾでいーじゃん!」 イブカ「いや、ファーストキスがNGです!」 マツオ「そうなの?」 イブカ「サクライのファーストキスは、小学校4年生のとき、飼っていたチワワのメロちゃんとしたことになっています」 マツオ「はい?」 イブカ「事務所の公式見解です」 マツオ「犬に奪われたの?」 イブカ「これがファンにうけるんです」 マツオ「うける?」 サクライ「動物は、人を裏切らないからね」 マツオ「いや、名ゼリフみたいに言われても」 イブカ「人間とのキスは映画撮影が最初です」 マツオ「はあ? 違う違う! 中3のときにさー」 イブカ「やめてください!」 マツオ「いい年していつまで清純ぶってるの?」 イブカ「全国のノゾミストの夢を壊さないでください!」 マツオ「ノゾミストって! じゃあこないだの熱愛報道は何よ!」 イブカ「あれは映画の宣伝でやむを得ず」 マツオ「単なる嘘つきじゃねーかよ!」 オンダ「話を進めて! ヒナタ「じゃあ、ファーストキスじゃなくて! えーと、サクライさんの知っているエピソードをおねがいします」 サクライ「そうね・・・タカコちゃんといえば・・・いつも・・・何か武器を持ってたよね」 マツオ「いつもじゃないでしょう」 ヒナタ「どんなときに武器を」 マツオ「え、非常事態のときよ」 サクライ「えー、じゃ、木刀持ってたときは」 マツオ「あれは・・・超非常事態」 ヒナタ「で、どんなときなんですか?」 マツオ「狙われてる!って思うときはね、護身用に」 ヒナタ「じゃあ、結構ケンカも強かったんですか?」 マツオ「ま、弱くはないね」 サクライ「謙遜しちゃって」 マツオ「ちょっと謙遜しちゃった」 オンダ「カットカット!」 ヒナタ「オンダさん、せっかく盛り上がってたのに!」 オンダ「市の広報に木刀持ってたなんて書けないでしょう」 ヒナタ「面白そうですよ」 オンダ「そりゃ、個人的には興味あるけど」 ヒナタ「あるんですか」 オンダ「エピソードはやめましょう」 ヒナタ「えー・・・じゃあ、高校時代の部活動とか」 マツオ「部活?」 イブカ「部活のことなら、NGありません」 サクライ「わたしは演劇部でした」 ヒナタ「キャストですかスタッフですか」 イブカ「キャストです」 ヒナタ「どんな役をなさったんですか」 イブカ「『エリザベート』のエリザベート役です」 ヒナタ「高校生でエリザベートってすごいですね」 イブカ「レベルの高い演劇部でした」 ヒナタ「エリザベート役、難しくないですか?」 イブカ「でも、サクライのイメージにぴったりではないかと」 ヒナタ「あの、サクライさんに聞きたいんですけど」 マツオ「また公式見解か」 イブカ「事務所の公式見解は私の方が詳しいですから」 マツオ「設定が多すぎるのよ」 ヒナタ「でも・・・やっぱりサクライさんから、お願いします」 サクライ「エリザベート」 ヒナタ「すごいですよね」 サクライ「のパロディ」 ヒナタ「パロディ?」 サクライ「エリザベートが五人いるの」 ヒナタ「はい?」 サクライ「ダンナが四人で、ルキーニが七人」 ヒナタ「むちゃくちゃじゃないですか」 サクライ「おもしろいでしょ」 ヒナタ「いやー、見てみないと何とも」 サクライ「(女優風に)今思えば・・・ほんっと、あの頃は・・・むちゃくちゃだったな・・・」 ヒナタ「そうですね」 サクライ「・・・でも、楽しかった」 マツオ「いやいや、別に美談じゃないから」 サクライ「未来のことしか考えてなかったな・・・」 マツオ「ノンゾ大丈夫?」 サクライ「あの頃があるから、今の私があるのよね・・・」 マツオ「ちょっとあの人、放っておくといつまでも続くよ」 オンダ「ヨシオカさん、時間もないから、どんどん次いきましょう」 ヒナタ「えー? 何か面白そうな話なんですけど」 オンダ「時間がないのよ」 ヒナタ「聞きたいです!」 サクライ「もしかしてあなたも、演劇部?」 ヒナタ「そうです」 オンダ「そうなの?」 マツオ「それでエリザベートに食いついたのね」 ヒナタ「エリザベートが五人なんて、すごく興味があります」 サクライ「脚本、学校に残ってないかしら」 ヒナタ「ほんとですか? 今度ゲキブの友達に聞いてみます」 マツオ「もしかして、あなたも女優志望?」 ヒナタ「女優じゃなくて、声優になりたいんです」 サクライ「声優なら私もやってるわね」 イブカ「サクライは、声優としても超一流です」 ヒナタ「サクライさんは、私のあこがれの存在です」 マツオ「そうなの?」 サクライ「声優か・・・声優も・・・女優よ・・・」 マツオ「また名ゼリフっぽく言う」 サクライ「人はみな・・・女優だから」 マツオ「はい、不思議ちゃん出ましたー」 オンダ「男の人も?」 イブカ「これは次の映画『アクトレス、アクトレス』の宣伝文句です」 マツオ「へー」 イブカ「ですから、対談の中に必ず入れて下さい」 オンダ「はい?」 イブカ「映画の宣伝ができそうだったから、ムリしてスケジュール組んだんです」 オンダ「そんな意味の分からないせりふ無理です! つながりません!」 サクライ「監督がつながらない、って言うなら、やめましょうか」 イブカ「いや、入れてもらわないと事務所が納得しません」 オンダ「考えときます。時間がないんで、お願いだから早くしましょう」 イブカ「約束の終了時間まで、あと二十分ですね」 サクライ「二十分あれば、充分ですよ監督」 オンダ「何が充分なんですか」 サクライ「サクライのいいところ、目一杯出せると思います」 オンダ「じゃ、そうしてください! とんとんいきましょう!」  そこへマツオのケータイが鳴る。マツオ、猫なで声で電話に出る。 マツオ「(もしもし)はーい、ハローダーリン(もしかして対談の最中だった?)ううん。全然。大丈夫大丈夫。なになに?(実は今日、仕事遅くなるわ)えー、じゃ、帰り何時になるの?」(この辺で上手奥で小声になっていく) イブカ「旦那さんでしょうかね」 サクライ「タカコちゃん、彼氏の前ではいつもあんな感じよ」 イブカ「カリスマ主婦は、夫婦仲もいいと」 オンダ「・・・旦那にしては長電話じゃないですか?」 ヒナタ「確かに・・・毎日会ってる人ですよね?」 オンダ「そうですよ!・・・んもう!時間が無い、時間が無いのに!」 ヒナタ「しょうがないじゃないですか」 オンダ「しょうがなくない! 旦那と長電話してる場合じゃないでしょ!」 ヒナタ「いらいらしないでください」 オンダ「してない!」  マツオ、電話終了し、戻る。 マツオ「ごめんなさい、重要な電話だったもんで」 オンダ「長いですよ!」 マツオ「旦那がしつこくて」 イブカ「そら、よござんした」 サクライ「にしても、相変わらずだね」 マツオ「何が?」 オンダ「まあ、いいですいいです。気を取り直して、もう、すぐ始めましょう!」  そこに、またマツオのケータイが鳴る。 オンダ「またですか!」 マツオ「大丈夫、メールだから(メールを読み出し、にやつく。いきなり大笑いする。旦那からのメールのようだ・・・周囲の目線に気づき)何?」 オンダ「旦那さんから」 マツオ「なんで分かるの?」 オンダ「誰でも分かります」 イブカ「早くしたほうがいいんじゃない!」 オンダ「すいません、ここからは携帯の電源をお切りになるか、マナーモードにしてください」 マツオ「えー?」 オンダ「私も切りますから」  切ろうとしたところで、オンダのケータイが鳴る。 オンダ「こいつなんでこんなときに!(いらいらして出る)はいオンダです(あ、オンダさん)何?(印刷所の方がお見えですが)印刷所? 何で今来てるの? (確認したいことがあるって)後にしてもらっていいかな? (今すぐじゃないと困ると)時間ないのよ(向こうも同じこと言ってますが)え(今日中じゃないと困る話だとかで)今日中? 分かった分かった(すぐ来てください)分かったって! 今行くから(すいません)」  ケータイを切って オンダ「(さっき言った手前、強く言いにくいが)・・・時間が無い!んですけど・・・ちょっとだけ抜けてきます。三分・・・いや、一分で来ますから、約束ですよ、どうぞこのまま、お待ちください」 マツオ「時間もったいないなー」 オンダ「ヨシオカさん」: ヒナタ「え」 オンダ「ちょっとつないでて。質問しててもいいから」 ヒナタ「あ、え? つないでって言われても」(オンダ、去る) マツオ「ホントに行っちゃった」 イブカ「時間がないのに」 サクライ「大丈夫ですよ」 マツオ「根拠ないじゃん」 サクライ「あなたの人生に、根拠・・・必要ですか」 マツオ「(サクライをじっと見た後、目線をそらし)でも、こんなんでホントに記事になるのかな」  少し間。まったりした感じを出した後で イブカ「あの・・・ヨシオカさん・・・ちょっといいかな」 ヒナタ「はい・・・何ですか」 イブカ「ちょっと、ちょっと」 ヒナタ「はあ(といって、下手袖に連れて行かれる)」 マツオ「あれ、どこ行くのかな?」  再び少し間が空く。二人になり、どうしていいか分からないマツオ。何ら変わらないサクライ。所在なさに堪えきれず、マツオが口を開く。 マツオ「ノンゾさあ」 サクライ「ん・・・何?」 マツオ「・・・あのさ、何か、しゃべっていいことと、ダメなことの区別が、よく分からないんだけど」 サクライ「・・・私もよくわからない」 マツオ「やっぱり」 サクライ「ただ、いっぱいしゃべっちゃえば、あとは編集でなんとかするんじゃない?」 マツオ「でも、マネージャーが止めるじゃん」 サクライ「・・・止めるね」 マツオ「でしょ?」 サクライ「もっとしゃべりたいね」 マツオ「わたしと?」 サクライ「うん」 マツオ「わたしも」 サクライ「・・・あまり、やりたくないんだけど」 マツオ「ん?」 サクライ「ちょっといなくなってもらおうかな」 マツオ「え?」  と、サクライ、何処かにメールを打つ。そこにオンダが走って帰ってきて オンダ「はあ、す、すいません・・・あら? マネージャーは」 マツオ「え、その辺にいるんじゃない?」 オンダ「ヨシオカさんもいない」 マツオ「二人でどこか行ったよ」 オンダ「なんで!・・・もう、時間ないのに!」  そこへ、ヨシオカだけ帰ってくる。 オンダ「ヨシオカさん、・・・マネージャーは?」 ヒナタ「何か、急に連絡しなきゃいけないところがあるとかで・・・」 サクライ「ふふ、よくあることです」 マツオ「よくあるの?」 サクライ「ま、いろいろね」 オンダ「まあ、マネージャーはどうでもいいです。いなくてもいいです。いないほうがいいです。とにかく時間がないんで、ヨシオカさん、どんどんいきましょう」 ヒナタ「はい。では、あー、サクライさん、次の映画への意気込みをお願いします」 オンダ「・・・何それ?」 ヒナタ「・・・だって、マネージャーさんが必ず聞けって言うから」 オンダ「はあ?」 マツオ「そんなこと言われてたの?」 ヒナタ「はい」 オンダ「ダメダメ! 市の広報を宣伝には使いません!」 マツオ「あとどんなこと吹き込まれたの?」 ヒナタ「7月からのドラマのこととか」 オンダ「ボツ!ボツ!」 ヒナタ「じゃ、・・・え、エリザベートが五人ということで」 オンダ「もういい!」 ヒナタ「だって五人ですよ!」 マツオ「よほど興味あるのね」 サクライ「声優になりたいんだよね」 ヒナタ「はい」 サクライ「ウチの人は何て言ってるの」 ヒナタ「それが・・・」 オンダ「ヨシオカさんのことはいいです!」 マツオ「いーじゃん、話してごらんよ」 ヒナタ「みんな反対してます」 オンダ「どうでもいいから」 サクライ「まあ、芸能関係は反対されるわよね」 ヒナタ「・・・はい」 サクライ「でもね・・・反対を押し切る人じゃないと、この世界ムリよ・・・」 マツオ「ノンゾも反対されたの?」 サクライ「もちろん」 マツオ「ふーん・・・ちなみに、私も反対されてる」 サクライ「されてる?」 ヒナタ「カリスマ主婦」 マツオ「まあ、自分の嫁がカリスマ主婦、ってのは、ダンナとしては微妙かもね」 オンダ「もういいですか!」 サクライ「じゃあ、みんな反対された仲間」 オンダ「いい加減にして下さい!」 マツオ「あなたは反対なんかされてないんでしょ」 オンダ「はい?」 マツオ「市役所の職員、反対する人いないよねー」 オンダ「・・・そんなこと・・・ないですけど」 マツオ「いるの? えーじゃあ、当てよう、クイズ!だれが反対してるでしょうか!」 オンダ「ちょっと、やめてください!」 マツオ「全国2兆6000億人のクイズファンの皆さんこんにちは」 オンダ「だれなんですか!」 マツオ「他人の人生をクイズにするパーソナルヒストリークイズ!!!」 オンダ「乗りすぎです」 マツオ「こういうときはどんどん乗っていかないと」 オンダ「私の人生で遊ばないでください」 マツオ「苦情はBPOとかPTAに行ってくださいね! ここでは受け付けません! はい、ではヨシオカさん、クイズ『反対したのはだれだ』!!」 ヒナタ「とっくにわかりました」 サクライ「簡単簡単」 オンダ「何で分かるんですか!」 マツオ「じゃあ、皆さんご一緒に、せーの」 三人「彼氏!」 マツオ「さあ正解は!オンダさん!」 オンダ「・・・・・・・・・言いたくありません」 マツオ「なんで!」 オンダ「クイズはしません!」 マツオ「言えっつってんだろ!」 オンダ「いやです!」 マツオ「あー、てことは、彼氏いないんだ!」 オンダ「言いません!」 マツオ「いません?」 オンダ「言いません!って言いました」 マツオ「いたけどいなくなった」 オンダ「ちがいます」 サクライ「いい年して隠すことでもないでしょ」 オンダ「あなたには言われたくないです」 ヒナタ「いい年して隠すことでもないでしょ」 オンダ「それも何か嫌」 ヒナタ「彼が家庭に入ることを臨んでいる」 オンダ「違う違う違う!」 マツオ「じゃあ、何なのよ!」 オンダ「時間がないんです!」 マツオ「人生の」 オンダ「どうしてそうなるんですか!」 マツオ「おもしろいじゃん」 オンダ「どこが」 マツオ「だれに反対されてるの」 オンダ「他人からは反対されてないです!」 ヒナタ「自分が納得していない」 マツオ「公務員になりたかったわけじゃないのね」 オンダ「・・・そうです」 マツオ「なりたくないのになっちゃった」 オンダ「ちゃんと就職しないとダメだから」 マツオ「私たち二人はちゃんとしてないのね」 オンダ「・・・そういうわけじゃないですけど」 マツオ「けど」 サクライ「人生は、不本意の連続・・・ってこと」 マツオ「出た出た」 サクライ「でも、不本意からしか・・・幸福は始まらないから」 ヒナタ「これは名ゼリフ」 マツオ「でもねえ、人生はやりたいことやらないとダメダメ」 オンダ「分かってますよ」 マツオ「私は料理もガーデニングも育児もぜーんぶやりたかったからね」 オンダ「よかったですね」 マツオ「好きなことやって注目されるのはうれしいもんね」 オンダ「よかったですね」 マツオ「ブログが本になりましたー」 オンダ「よかったですね」 マツオ「絶賛発売中! 私も宣伝してよかった?」 オンダ「だから、よかったですね!って!」 ヒナタ「どうしたんですか?」 マツオ「・・・こういう話聞きたいんじゃないの?」 オンダ「・・・すいません・・・」 マツオ「どうしたのよ」 オンダ「・・・私だって、ブログやってます」 マツオ「・・・何の?」 オンダ「いろいろです」 マツオ「えー見たい見たい」 オンダ「・・・ほんとですか」 マツオ「こんなにムキになるんだもん」 オンダ「・・・書く仕事したいんです」 サクライ「何か隠してるの?」 オンダ「隠し事じゃありません」 マツオ「はい天然出ました」 オンダ「・・・フリーライターとか」 マツオ「やればいーじゃん」 オンダ「広報担当するまで何年かかったと思ってるんですか」 ヒナタ「でも、だったら、私なんかじゃなくて、オンダさんがインタビューすればいいじゃないですか」 オンダ「いや、今回は、高校生に夢を語ってもらうのが趣旨だから・・・だから・・・私は段取りだけで・・・」  久々に市長が上手に出てきて(この間も四人は話す演技を続ける) 市長「インタビューしたい・・・まあ、あなたがインタビューしても、いいんだけど・・・ね・・・インパクトがねえ・・・こう・・・高校生というブランド・・・強いからね・・・」(市長、去る) ヒナタ「じゃあ、私にもインタビューして下さい」 オンダ「え」 ヒナタ「三人にインタビューです」 オンダ「そんなこと言っても」 マツオ「そこをうまくまとめたら、プロに近づくんじゃない?」 オンダ「プロなんて・・・」 マツオ「なりたいんでしょ」 オンダ「そりゃ、・・・(言葉にならない)」 マツオ「なら、なればいーじゃん」 オンダ「簡単に言いますけど」 マツオ「私はどこまでいってもアマチュアだもん」 オンダ「・・・」 マツオ「ノンゾみたいに、プロにはなれません」 サクライ「女優を演じるのは、女の私でもたいへんよ」 ヒナタ「また名ゼリフ」 マツオ「ずっと天然を演じなきゃいけないしね」 サクライ「・・・さあね」 マツオ「つっこまれるような喋り方、わざとしてるじゃん」 ヒナタ「え、そうなんですか」 サクライ「・・・事務所を通してください」 マツオ「昔は、もう少しマシだったからね」 サクライ「・・・NGはNGのまま楽しみましょう」 マツオ「・・・そうだね。ノンゾの秘密に付き合う」 ヒナタ「えー、知りたいです」 マツオ「ま、カリスマ主婦を演じるのもしんどいし」 オンダ「・・・どうしてですか?」 マツオ「しっかりしてるふりしなきゃいけないじゃん」 オンダ「確かに」 マツオ「カリスマ主婦が離婚の危機だとかっこわるいでしょ」 ヒナタ「ラブラブな電話でしたよ」 マツオ「表面上はね」 サクライ「ふふ」 オンダ「・・・ヤンキーは?」 マツオ「ん?」 オンダ「ヤンキーを演じるのも、しんどいですか?」 マツオ「さあね」 オンダ「教えて下さいよ」 マツオ「ヤンキーの話はNGNG」 オンダ「えー、知りたいです」 サクライ「なんか、対談ができそうな気がしてきたね」 マツオ「今みたいな話をふくらませばいいんでしょ」 オンダ「そ・・・うですね・・・では、ちょっとやってみましょうか」 サクライ「あと十分くらいしかないけど」 オンダ「いけます、たぶん。なんか、行けるような気がしました」(そこへ、マツオのケータイが鳴る) ヒナタ「なんか聞きたい話がたくさん出て来ました」 サクライ「私も少しサービスしましょうか」 ヒナタ「じゃ、ファーストキスは」 サクライ「それはNGね」 オンダ「ヨシオカさんもだいぶノリが良くなってきた」 ヒナタ「なんか、たのしくなってきました」 マツオ「(電話に対して)もしもしーマツオです(もしもしお母さんですか)はい? はい? ちょっと電話が遠くて(もしもし、実はですね)はいああ、聞こえました聞こえました(実はヒロシちゃん39.2℃の熱が出まして)えー! ほんとうですか! 朝からおかしかったんですよ(そうでしたか)機嫌悪くて(はい)そうですね、まもなく迎えに行けると思います(すいません、おかあさん、よろしくおねがいします)はい・・・はい?・・・ええ・・・はい?《この辺は絶対うけるので、演技で遊んでください》・・・こちらこそ、はい、はい、お手数かけます。失礼します(電話を切る)」 サクライ「どうしたの」 マツオ「ごめん、子ども熱出たわ。保育園迎えに行くから、帰るわ」 オンダ「え、ちょ、ちょっと、それは、困ります! もう少しいてもらわないと!」 マツオ「九度二分の熱だって」 オンダ「ちょっとだけ」 マツオ「ムリムリ!」 オンダ「あと五分!」 マツオ「九度二分よ!」 オンダ「じゃあと二分」 マツオ「カリスマ主婦は、子どもの迎えもはやい!」 オンダ「そこを何とか!」  そこへ、イブカが帰ってくる。 イブカ「サクライさん! 社長が危篤だなんて!」 サクライ「あれ、間違いでした?」 イブカ「大恥かきました!」 サクライ「女優は、恥をかく仕事なのよ」 イブカ「私はマネージャーです!」 サクライ「ごめんなさーい」 イブカ「もう!私がサクライさんのために普段どんだけ生活を犠牲にして・・・」 マツオ「じゃ、とりあえず帰るわね」 オンダ「とりあえずって」 マツオ「ノンゾ、またね」(マツオ、去る) サクライ「タカコちゃん、またねー、バイバイバーイ」 オンダ「バイバイバイじゃなくて!」 イブカ「終わったんなら私たちも帰ります!」 オンダ「そんな!」 サクライ「オンダさん、がんばって記事書いてね」 オンダ「書けるわけ無いでしょ!」 イブカ「ヨシオカさん、映画のこと、いっぱい書いといて」 ヒナタ「あ、ああ、えー・・・どうでしょう」 イブカ「では失礼します!」 サクライ「みなさん、バイバイバーイ!」(二人、去る) オンダ「あー・・・行っちゃった・・・」 ヒナタ「嬉しい! ノゾミンのバイバイバーイ、生で見られた!」 オンダ「・・・はあ・・・終わった」 ヒナタ「ほんっと楽しかったですね」 オンダ「私の広報人生もおしまい・・・フリーライターが遠ざかる・・・」 ヒナタ「大丈夫ですか?」 オンダ「・・・大丈夫なわけないでしょう・・・」 ヒナタ「ではオンダさん、今の率直な気持ちを教えてください」 オンダ「・・・最悪です」 ヒナタ「今日の敗因は何だと思いますか」 オンダ「・・・練習不足です」 ヒナタ「途中、調子はいいように見えたんですが」 オンダ「・・・最後、少し調子に乗りすぎました」 ヒナタ「応援してくれたファンの皆さんに一言」 オンダ「・・・夏の大会には肩を万全にして帰ってきます・・・」 ヒナタ「以上、レポーターのヨシオカでした」 オンダ「もう!ふざけないで!」 ヒナタ「乗ってきたじゃないですか」 オンダ「記事、できないでしょ!」 ヒナタ「まあ、写真は撮ったし、それなりにしゃべってもらったんで」 オンダ「それなりにね」 ヒナタ「名ゼリフも多かったですね」 オンダ「そうだっけ」 ヒナタ「じゃ、あとは何とかしてください」 オンダ「はい?」 ヒナタ「フリーライター、なれると思いますよ!」 オンダ「え」 ヒナタ「ここを乗り切れれば、ですけど」 オンダ「はあ」 ヒナタ「実は、私、塾があるのでこれで失礼します!」 オンダ「え」 ヒナタ「じゃあ、オンダさんの幸せを祈って、バイバイバーイ!」(ヒナタも去る) オンダ「帰るなー!」  誰もいなくなった会議室。湯茶などの後片付けをし始めるオンダ。課長がまた上手に出てきて 課長「どう? 貴重なインタビューだったでしょ?・・・こんなこと滅多にないんだから! あとは記事にまとめるだけ! 内閣総理大臣賞決定! いやー、もう、今から読むのが楽しみだわ!」(課長、去る) オンダ「『(またものまねで)いやー、もう、今から読むのが楽しみだわ!』・・・はあ・・・確かにこんなこと、滅多にないです」  下手から登場人物がひとりずつ出てきて、しゃべっては去っていく。 サクライ「女優・・・私・・・女優になるために生まれてきたから・・・未来のことしか考えてなかったな・・・だって・・・動物は人を裏切らないからね・・・ほんっと・・・むちゃくちゃだったな・・・反対を押し切る人じゃないと、この世界はムリ・・・でも・・・人はみな・・・女優だから・・・じゃ、バイバイバーイ!」 マツオ「カリスマ主婦・・・気づいたらなってた・・・好きなことやって注目されるのはうれしいもんね・・・ま、カリスマ主婦を演じるもしんどいし・・・あ、そうそう、ノンゾのファーストキスはねえ、中3のときにねえ、部活の先輩だった」 イブカ「(早足で来てマツオを追い払い、スポットを奪って)チワワのメロちゃん! チワワのメロちゃんなのよー!」(といって帰る) マツオ「(ゆっくり戻って)あの人もたいへんね・・・みんな、お互いの演技に付き合ってるってわけだ・・・私だって、あなただって・・・ね」 ヒナタ「(走ってきて)最後に、今の率直な気持ちを教えてください!」  また、舞台上はオンダだけになる。 オンダ「はあ・・・こんなのまとまんない!・・・(しばらくしてから)やるしかないか・・・だってさー、(指折り数えて)チワワのメロちやん・・・たった9文字じゃん・・・なんでセントバーナードとかミニチュアダックスフントとかオールドイングリッシュブルドッグとかじゃないのよ・・・」 ヒナタ「(いきなり下手に出てきて)フリーライター、なれると思いますよ!・・・ここを乗り切れれば、ですけど」(去る) オンダ「あんたは気楽でいいね・・・ふう・・・(いきなりかぶりをふって)しょうがない、乗り切ってやろうじゃないの!・・・しんどいけど・・・フリーライターになりきりますよ! なりきればいいんでしょ! 私だって女優なんでしょ! 演じてみせましょう!」  オンダ、いったん舞台を去ろうとする。が、途中で客席を見つめて、話し出す。 オンダ「・・・もしかしてあんたがた演劇部?・・・みんな、よく演技なんかしてるよね・・・しんどくない?・・・え? わたし?・・・見ての通り、大けがしてますよ・・・『(物まねで)でも、人はみな・・・女優だから』・・・なんだとさ!・・・わたしももっとはやく演技してれば良かったかもね・・・(指さしまくって)あなたもあなたもあなたもあなたも! アクトレスアクトレスアクトレスアクトレス!・・・ま、せいぜい応援してるわ、女優さんたち・・・じゃ、バイバイバーイ!」  オンダ、去る。去る最中から幕を締め始める。閉幕。 - 37 -