9 不案内なジャンルの問題を作る
クイズの企画をする時、問題に関して最も気を遣うのが「ジャンルの偏り」である。
もっとも、どういう風にジャンルをばらけさせれば「偏りがなくなった」と云えるのか、これは結構難しい。伝統的にオープン大会などのペーパークイズなどで行われているのは「社会」「文学・歴史」「科学」「芸能・音楽」「スポーツ」を5分の1ずつ出題する、という方法であるが、これは割合として明らかにアンバランスであると思う。だいいちクイズ問題の5分の1がスポーツ問題、ということが、どうしても解せない。
何故解せないかを一応説明しておこう。この方法で問題を配置すると、50問のペーパークイズでスポーツ問題が10問。同じスポーツから2問出すわけにも行かないだろうから、どうしたって「ハイアライ」とか「ラクロス」といった、明らかに馴染みの無いスポーツに関する問題を入れざるを得なくなる。50問の中にマイナースポーツ(失礼な表現だが)が2問あるのは、どう考えたって変だ。まあ、こんな理由である。
では、どうすればジャンルのバランスがとれるのか。大学3年のころからわたしなりに考えてきたが、未だに結論は出ていない。そもそもどのようなジャンル分けがクイズにとってふさわしいのか、それすらわからない。
とはいえ、500問くらい必要な個人企画をする時なんかは、かなりクイズのジャンルを(200くらいに)細分化したマルヒの表を使ってバランスを取ろうとしている。そのジャンルは「数学」「化学」という広いものから「東北地方の地理」「北海道の地理」のように細かいものまで、様々ある。こういう表を使って、一応ジャンルをばらけさせた気になっている。
さて、今日話したいのは「どうすればジャンルの偏りを防げるか」ではない。
わたしのマルヒのジャンル表には、「洋楽」「ブランド物」などのように、わたしが不案内なものが結構含まれている。そういうジャンルを問題にする時にはどうすればいいのか。
逆に「お笑い」「70年代アイドル」などのように、著しく詳しい事柄もある。こういう問題を作るときにはどういうことに気をつければいいのか。
本稿では、不案内なジャンルについてのみ考えることにする。
わたしは、洋楽は殆ど聞かない。こんなわたしが「洋楽」の問題を作らなければならなくなった。さあ、どうする?
「さあ、どうする?」というのは、「洋楽に詳しい人が見ても納得のいく問題」「間違いない問題」を作るにはどうするか、という意味である。自分があまり詳しくないジャンルに関しては、往々にして「その道に詳しい人からはブーイングが出るような問題」「間違った問題」を作ってしまうもんである。それを避けたい。
一番いいのは、洋楽をよく聞く人に作ってもらうことであろう。でも、それがかなわないとする。
次に考えるのは「自分の知っている洋楽の知識を駆使して作る」ということだ。どんだけ不案内な事柄でも、すこしくらい引っかかりはあるだろう。それを使って出題する。
例えば、音楽の授業でThe Beatlesの"Yesterday"を習ったことがあるとすれば、少なくともその「歌詞」について問うことができるはず。「歌詞」であれば「異説」がほとんどないから「間違った問題」にはならない。それ以外の要素は問わない方が無難だろう。
2はもしかしたら録音バージョンによって違うかもしれない。なんとなれば、この曲は「最も多くのアーティストにレコーディングされた曲」だから。でも、そこまで気を遣って問題を作ることもない。これが
だと、バージョンによって全然違う(バックコーラスにもあるのでよけいややこしい)。公式に発表されている歌詞だけでは問題を拵えることができない。
とはいえ、基本的に音楽問題は、歌詞さえ手に入れば、どんなジャンルの問題でも作ることができる。ただし、注意しなければならないのは「世間的な認知度」を履き違えないことである。不案内なジャンルに関しては、たいして知られていないことを平気で出題してしまったりする。例えば、歌謡曲全般に明るくない人がいるとしよう。この人がたまたま太田裕美の「ドール」という曲が好きで良く聞いていたとする。このとき、
なんていう問題を作っても、解答者がノーコメンテーターになることうけあいだ。たまたま読んでいいなあと思った小説を問題にしても、誰も答えられなかったりするもんだ。
ここまでのことをまとめよう。
自分が不案内なジャンルのクイズ問題を作るときの問題点
これらを克服する手段を、もう少し探ってみよう。吉田拓郎の歌の例で言えば、「今手に入るネタだけで問題を作ってしまって大丈夫か」という「ネタの安心度の嗅ぎ分け」が重要である、ということになる。これは、「間違い問題になりにくい問題文構成を心がける」「限定できているかを気をつける」という要素も含んでいる。
自分が不案内なジャンルに関して、ネタになりそうな本を1冊持っていると安心だ。ただし、「ネタの安心度の嗅ぎ分けができる」という条件付きでだが。
わたしはファッションの問題を作るとき、毎月買っている生活情報誌「ESSE」をぱらぱら眺める。それに古本屋で買った「図解服飾用語辞典」などでウラとりする。これでも万全とは云いがたいが、一企画で1〜2問作るくらいなら、なんとかなる。ごくまれに間違い問題を作ってしまうこともあるが、「ネタの安心度の嗅ぎ分け」が自分なりにできているので大丈夫だ。
つーことで、先ほど挙げた問題点の、Aは「ネタの安心度の嗅ぎ分け」でなんとかなる。しかしB・Cとなると、なかなかそうはいかない。
わたしがクイズのゲーム機問題作成のバイトをしたときは、「テレビドラマ」の問題を100問とか200問とか作らなければならなかった。こういうときはB・Cの要素を満たすために、週刊「TVガイド」のドラマ特集をひたすら眺める。同じドラマについて2回以上「TVガイド」に掲載されていれば、「このドラマは何処を問題にするべきか」が見えてくる。何処が世間的に注目されているかを知る資料があれば、それを使うのがいい。新聞とか、雑誌とか、インターネットとか。
これはわたしがこういうときに備えて、TVガイドをむこう6年分くらい(使えそうなところだけ残して)保存しているからできる芸当であり、また「テレビドラマ」という比較的マスコミにのりやすいネタだからこそ「何処が世間的に注目されているかを知る資料」が存在するのである。普通のジャンルでは、また普通の生活をしていれば、こうはいかない。
で、結局のところ、B・Cを克服する抜本的な方法はないと思う。唯一の解決策は「そのジャンルに詳しい人の指示を仰ぐ」ということである。事情が許す限りそうするのがよいだろう。大学のクイズ研究会にいると、案外そういう機会が少ないもんだけど。
よく「クイズ研究会に入ると、どんなジャンルに関しても詳しい人がいるから楽しい」という声を聞く。でもわたしは、そうは思わない。「生きた知識」の量は、一般生活を営んでいる社会人の方が、はるかに多い。B・Cを克服するには、「生きた知識」が必要なのである。
そのジャンルに関して、自分の持っている数少ない知識を駆使し、できればそのジャンルに詳しい人の指摘を仰ぎながら、コツコツ出題の範囲を広げていくしかないと、わたしはそう思う。
ひとつ付け加えておきたい。ここまで考えてみて、「そんなに無理してまで不案内なジャンルの問題を作らなくてもいいんじゃないか?」という気持ちが起こってきた。B・Cの一番の克服法は「作らないこと」である。それはそうなのだが、わたしは「どんな知識でも、自分のクイズの世界に入れたい」と思うのである。だから、どんなジャンルの問題でも、なるべく作るための努力をしていきたい。クイズを広げるための一考察と思ってくれれば幸いである。