Lady Madonna      佐々木繁樹 作 登場人物  エリ(売り出し中のアイドル声優)  ミハル  サトミ  カズコ  レディーマドンナ村松(演出家)  The Beatlesの「Lady Madonna」が流れる中、開幕。  上手側にテーブルとイス4脚。台本が4部おいてある。下手側に特別なイス。センターにスタンドマイク。最初、下手からミハル、サトミ、カズコ(以下、まとめて『3人』と呼ぶ)が出てくる。テーブルの台本を手に取り、座って読み始める。3人でしゃべったりもする。  しばらくあって、村松の声がする。 村松「おはようございます」  3人、台本を持ち、急いで下手側に並んであいさつ(下手からミハル、サトミ、カズコ)。ただし、声は聞こえない。 村松「私が、このラジオドラマの演出をする、伝説の演出家・日本ラジオドラマ界の宝・『レディーマドンナ村松』です」  3人、よろしくお願いしますと言っているようだが、聞こえない。 村松「ところで、いい! あんたたち3人! とにかく邪魔をしないで、淡々と自分の役割をこなす! 絶対に、エリちゃんの邪魔しちゃダメよ! ちょっと機嫌を損なうと、撮影は中止になってしまいます。くれぐれも、ツマはツマらしく、つましくつつましやかにしてるように!」  3人、「つまって何?」のようなことを言い合っているようだ。 村松「ツマも分かんないの! あんたたちはさしみのツマだ、って言ってんの! 役者なんて主役と引き立て役の二種類しかいないの! だから、ひたすら主役を引き立てること! それから、マイク通さないとこっちに声聞こえないからね! ラジオの常識知らないの!」  そこへ、エリ(帽子姿)が入ってきて、悠然と特別なイスに座る。三人、呆然と見守る。 村松「あ、エリちゃーん! 今日も超多忙な中ありがとうねー。いやー、最近大活躍だからさー、本当に来てくれるか不安だったのよ! それにしても、今日もかわいいわね! ラジオでもキュートに決めてくるのね! もうプリティリトルベイビー!」  エリ、軽く会釈する。 村松「では、収録に映りますが、じゃ、まず、最初、マイクテストするから、エリちゃん、ちょっと何でもいいから台詞言ってみて・・・あなたのために、まだ誰にもマイク使わせないでいたんだから・・・お願いしていい? 自分の間でいいからね・・・じゃ、お願いします!」  エリ、しずしずとマイクに近づき、 エリ「『ああ、教えてください! わたしの人生に・・・本当にわたしの人生に必要なもの・・・なんですか?・・・教えてください! うふ』・・・こんなもんでどう?」 村松「いい! 最高! 完璧!」 エリ「ありがとう」 村松「かー! この謙虚さ! 私の目に狂いはない! このドラマ、なんか行ききってしまいそうな予感! 聴取率1位決定! もう夕日が目に浮かんじゃいました!」 エリ「それはそれは」 村松「あーよかったわー・・・はー・・・えー! じゃ、そっち、3人衆! 出てきて!」  3人ともマイクの方に向かう。で、並ぶ。 村松「じゃ、まず、一番左(ミハルのこと)! 一歩前へ!」  カズコが前に出ようとする。 村松「違う! 左だって!・・・あーもー! こっちから見て左ってことは、そっちから見て右ってことでしょ! ・・・先が思いやられます・・・先が思いやられます! 何で瞬時に分からないの! はー・・・いつまで経っても売れないわ・・・メガネ掛けてるあなた!」 ミハル「はい」 村松「はい、じゃ、さっきのエリちゃんの次のセリフ、ちょっとテストしてみるわよ」 ミハル「はい」 村松「ではいきまーす、よーい・・・アクション!」 ミハル「『あなたの人生に必要なもの、・・・教えてあげようかしら』」 村松「カット! 全然ダメダメ!」 ミハル「ダメですか?」 村松「ちょっと! 台本よく見て!」 ミハル「・・・」 村松「『を』って書いてあるの見えないの!」 ミハル「はい?」 村松「『を』! 『を』!」 ミハル「あ・・・『必要なものを』ですか」 村松「なに勝手に台本変えてるの! その脚本家、著作権うるさいんだから! 一字一句変えないように気をつけなさいよ!」 ミハル「す、すいません!」  エリがおもむろに入ってきて エリ「わたしも・・・さっき、『うふ』って入れちゃったんですけど・・・著作権法違反でした?」 村松「何言ってるのエリちゃん! あなたはいいのよ! あなたの『うふ』はなきゃだめでしょ! だいたい紅白歌手に著作権なんか関係ないのよ」  エリ、下がる。 村松「ほんっとに、気をつけなさいよ! じゃ、次のセリフの人! だれ?!」  サトミが出てくる。 サトミ「あ、私です」 村松「(『用意』なしで)はい、どん!」 サトミ「え、あ、もう、セリフ、言ってもいいんですか?」 村松「カット!」 サトミ「すいません」 村松「『え、あ、もう、セリフ、言ってもいいんですか』なんてセリフどこにあるの!」 サトミ「すいません」 村松「じゃ、もう一回! はい、どん!」 サトミ「じ、人生に必要なもの」 村松「カット! 『じ、人生』って何!」 サトミ「すいません」 村松「もう1回!」 サトミ「人生に、ひ、必要なもの」 村松「カット!」 サトミ「すいません」 村松「『ひ』が多い!」 サトミ「人生に必要なもの・・・それは・・・何だと思う?・・・何だと思う」 村松「カット!『何だと思う』が多い! もういい! はい次のセリフのやつ! すぐしゃべって!」  カズコが出てきてすぐしゃべる。 カズコ「ぶへへへへ! 人生に必要なものなんか・・・絶対に教えてやるものか!」 村松「へが二つ少ない!」 カズコ「(数えながら)ぶへへへへへへ! 人生に必要なものなんか・・・絶対に教えてやるものか!」 村松「ぜーーーーーったいに!でしょ!」 カズコ「ぜーーーーーったいに! おしえてやるものかーーーーーー!」 村松「・・・はいカット!」  3人、改めて並び直す。 村松「まあ、いいでしょう。あー疲れる。・・・じゃあ、エリちゃんとその他3人で合わせてみますよ。エリちゅわーん! やってもいいかな?」  4人、並んで、セリフを順に。並びはエリが一番下手になるように。 村松「ではいきまーす、はい、アクション!」 エリ「ああ、教えてください! わたしの人生に・・・本当にわたしの人生に必要なもの・・・なんですか?・・・教えてください! うふ」 ミハル「あなたの人生に必要なものを・・・教えてあげようかしら」 サトミ「人生に必要なもの・・・それは・・・何だと思う?」 カズコ「(数えながら)ぶへへへへへへ! 人生に必要なものなんか・・・ぜーーーーーったいに! おしえてやるものかーーーーー!」 村松「カットー! エリちゃんはやっぱり最高ね! エリちゃん100点! 三人は合わせて2点! おまけの2点! もうちょっとちゃんとやらないと、その役下ろすよ! 代わりはいっくらでもいるんだから!・・・とにかく、時間もないから、さっきのセリフからはじめて、さらに続けてやりましょう。じゃまた、プリティエリちゃんからね。準備いい? 行きますわよー、よーい・・・アクション!」 エリ「ああ、教えてください! わたしの人生に・・・本当にわたしの人生に必要なもの・・・なんですか?・・・教えてください! うふ」 ミハル「あなたの人生に必要なものを・・・教えてあげようかしら」 サトミ「人生に必要なもの・・・それは・・・何だと思う?」 カズコ「(数えながら)ぶへへへへへへ! 人生に必要なものなんか・・・ぜーーーーーったいに! おしえてやるものかーーーーー! びーーーーーーむ!」 ミハル「まずい! このままでは、エリちゃんが悪魔に乗っ取られてしまう!」 サトミ「悪魔よ! エリたんの体から、退散!退散!退散!」 ミハル「エリ・エリ・デーモン・エスケープ・ドッカイケー!」 エリ「(数えながら)ぶへへへへへへ! 人生は(数えながら)金金金金金! それにしても人生は(数えながら)金金金金金」 ミハル「遅かった!」 サトミ「とりあえず、できることをしましょう!」 ミハル「エリ・エリ・デーモン・エスケープ・ドッカイケー!」 エリ「金だ〜! 金〜! はっ!(我に返り)私は何を・・・ここは・・・どこ?・・・うわっ(また悪魔が入る)やっぱり金だ〜! 金こそ全て〜!」 カズコ「All you need is money!」 村松「カットーーーー! 何その日本人丸出しの英語は!」 カズコ「えー?」 村松「もっと上手に読めないの!」 エリ「村松さん、お手本をお願いします」 村松「All you need is money!」 カズコ「そんなんでいいの?」 ミハル「真似するのが必要なの?」 村松「シャラップ! いい? 続きいくよ! ハイ用意!(3人、急いで準備)アクション!」 エリ「All you need is money!」 ミハル「とうとう英語も飛び出した」 サトミ「深いところまで悪魔が入り込んでしまった!」 カズコ「(数えながら)ぶへへへへへへへ! どんどん入り込んでやるぜ〜〜〜」 村松「ちょっと待て!」 ミハル「はい?」 村松「おれは正義の味方・・・ルドルフ=ヴァレンティノ・・・おれが来たからには・・・デーモンなんかフライフライフライ!」 ミハル「カットカットカット!」 村松「(まだ役から抜け出ないで)なぜ止める! ようやく主役が登場したんだぞ」 ミハル「主役?」 村松「言い忘れたが、私は演出兼主役の、レディーマドンナ村松! 正義の味方・ルドルフ=ヴァレンティノとは私のことだ! 昨日の友は今日の敵! このまま続けるよ!」 ミハル「はあ」 村松「おれの呪文は・・・普通の呪文より苦み走ってるぜ・・・耳の穴かっぽじってよく呪文を聞け!」 カズコ「(数えながら)ぶへへへへへへへ! くるなら来てみろ!」 村松「パリコトパナナデフライフライフライ!」 カズコ「うわーーーーー! ルドルフ=バレンティノ・・・あんた・・・強かったぜ」 村松「すべては無に帰してしまったか」 エリ「なーんちゃって! (数えながら)ぶへへへへへへへ! おれはこっちだぜ!」 村松「じゃあ、そっちに向かって・・・ラーメンチャンタラギッチョンチョン! バイノバイノバイ!」 エリ「うわーーーーー! ルドルフ=バレンティノ・・・あんた・・・強かったぜ」 村松「すべては無に帰してしまったか」 サトミ「なーんちゃって! (数えながら)ぶへへへへへへへ! おれはこっちだぜ!」 村松「なにをーーーー! じゃあ、さらにいくぜ! ピロリロピロリロピロリロピロリロ!」 サトミ「うわーーーーー! ルドルフ=バレンティノ・・・あんた・・・強かったぜ」 村松「すべては無に帰してしまったか」 ミハル「なーちゃって! (数えながら)ぶへへへへへへへ! おれはこっちだぜ!」 村松「なにをーーーー! じゃあ、さらにいくぜ! バババババ!ビビビビビ!ドドーン!」 ミハル「うわーーーーー! ルドルフ=バレンティノ・・・あんた・・・強かったぜ」 村松「はいいったんカットーーー! いやー、大変いいドラマになりそうです」 エリ「私の代表作になりそうです」 村松「エリちゃん・・・そういってくれるとありがたい・・・おい、なんだ・・・ちょっと、何処連れてくんだ・・・待て・・・まだ途中だぞ・・・今のあと十四回続くんだぞ・・・おい・・・だから・・・暴力反対! フライフライフライ!」 エリ「行っちゃった!」 カズコ「自分がフライフライフライしたわけか」 ミハル「今のガードマンだよね」 サトミ「連れて行かれたね」 カズコ「演出家じゃなく、ただの不審者だったってことでしょ」 エリ「じゃ、練習しましょうか」 ミハル「はい?」 エリ「本当の演出家が来るまで。私主演やるから」 ミハル「本気ですか」 エリ「やっぱり私の代表作になりそうです・・・(おもむろに)はい、どん! おれは正義の味方・・・ルドルフ=ヴァレンティノ・・・おれが来たからには・・・デーモンなんかフライフライフライ!」  三人、止まってしまう。 エリ「ほら、(数えながら)ぶへへへへへへへ!でしょ! 早く!」  促されてしょうがなく ミハル「(数えながら)ぶへへへへへへへ! くるなら来てみろ!」 エリ「おれの呪文は強烈だぜ! パリコトパナナデフライフライフライ!」 ミハル「うわーーーーー! ルドルフ=バレンティノ・・・あんた・・・強かったぜ」 エリ「すべては無に帰してしまったか」  この辺で、「Lady Madonna」が流れ、閉幕。