23 ウルトラクイズの「ルール上の問題点」について

 クイズを盛り上げるのは、何と言ってもルールの力に拠るところが大きい。だから、いまいち盛り上がらないようなルールに対しては、容赦ない批判が浴びせられることが多い。オープン大会は言うに及ばず、高校生クイズのようなテレビ番組にも、その批判はしばしばある。

 ウルトラクイズの歴史の中でも、やはり「ちょっとおかしいんじゃないの?」とクイズプレーヤーたちが思ったルールがいくつかあった。「ルール作り」について考えるのもこのページの目的なので、それらルールについてちょっと私見を述べてみたい。

 

l     第15回・ドミニカ共和国「新大陸獲得クイズ」

クイズプレーヤーたちは、このクイズ形式を「実力者を落とすためのものだ」という批判をしたようである。能勢氏の「クイズ全書」では「クイズ研を落とすため」という表現がある。果たしてこのクイズは「クイズ研を落とすため」のものだったのだろうか。ルールはこんな感じ。参加は7人。1問正解すると誰か一人を解答できなくさせる(封鎖)ことができる。一人残るまで続けて、残った人が勝ち抜け。それを6回繰り返し、6人の勝ち抜け者を決める。お手つき誤答は1回休み。

ペーパークイズ1位の大石氏と2位の能勢氏という「実力者」2人が最後に残り、最後に勝ち抜けを決めた能勢氏の「孟浩然!」という叫びが印象的だ、という人が多いクイズ。わたし自身はその頃世をすねた高校生だったので、別に感動はしなかった。負けた大石さんは「この形式だと負けます」とクイズ中に言った。これは「実力のある人が落ちる形式だ」という意味なのだが、果たしてそうだろうか? 

 あの場合、能勢氏や大石氏の必勝法は、何があってもお互いを指名しないようにすることではないかと思う(能勢氏の本にもその旨書いてある)。つまり、自分が落ちないために両方が勝ち抜けようとすることである。そのような戦略をとったとき、「実力者を落とすためのクイズ」には必ずしもなり得ない。だから、冒頭の批判はそう当たっていない。とは言え、あの限られた時間の中で、お互いがその戦略に気付くのは至難の業だと思うが。

 もうひとつ「いったん封鎖された人がクイズに参加できなくなる」ことについて考えておこう。そもそも「封鎖」というルールを導入した場合、「封鎖された人が復活できるかどうか」が大切である。このルールを改良するとすれば、「誰も正解できない問題が出たら、解答権のない人に答えを聞いて、正解だったら元に戻れる」と言ったところか。いずれにせよ、解答権を失った人が再び解答権を得られるようなルールを作っておけば、特にクイズ屋さんから批判が出ることもなかったろうと思う。

 ではウルトラクイズでは何故それをしなかったのか。そこには「テレビ番組」という性質からくる致し方ない「制約」が存在する。ウルトラクイズを考える上で、この「制約」はかなり大切である。

 第15回ウルトラは、1週90分枠だった。で、この90分でエルパソ・ジャクソン・ニューオリンズ・ドミニカ共和国、4つのクイズをこなさなければならない。とすると、単純計算で1つのクイズを22分30秒で行わなければならない。実際はCMやルート紹介、福沢MCや罰ゲームなどが入るから、実質ひとつのクイズにかけられる時間は10分というところか。この「放映時間の制約」は、ウルトラを分析する際きわめて重要である。

 もしこのクイズのとき、先のような改良を行ったらどうなったか。とてもではないが時間の制約を満たすことができないだろう。ウルトラでは偶に「勝ち抜けシーンが編集されてしまう挑戦者」が存在する。本土上陸後でウルトラ史上最後に勝ち抜けが編集されたのは、たぶん第11回パームスプリングスの天沼さんではないか(第13回クイーンズタウン正木さんは本土上陸前)と思うが、そういう編集は挑戦者が相当数残っているときに行われるのが通例である。このクイズの場合その種の編集ができない。つまり、或る程度編集するにせよ、ほぼクイズの全貌を放映せざるを得ない。急に封鎖されていたりすると明らかにおかしいからだ。

 とは言え、いくらテレビ的な制約があるにしても、やっぱり「クイズ研潰しじゃん」と思う人がいるかも知れない。ただ、それは「ウルトラクイズはクイズ研を目の敵にしている」という価値観を持っている人が、そういう色眼鏡を持ってこの形式を見るからそう思うのであって、わたしはむしろ(身贔屓と言われるかも知れないが)「なかなか勝ち抜けにくい厳しい形式によって、単純早押しでは出てこない挑戦者の表情を描き出そうとしている」と見ている。そう言う観点からすると、この形式にはそれなりの妥当性があると思う。

 

l     第8回・ハワイ「朝飯早食い綱引きクイズ」

 第8回でペーパートップながらハワイで敗退した道蔦氏の著書では「食べ物をゲームに使うのは好きではない」と批判されている形式。この点に関してはまったく以て同意見である。

 ルールはこうだ。朝飯を注文し終わったところで福留氏が登場。「朝飯をはやく食べた人から有利になるクイズを行います」と宣言。はやく食べた人から順に2列に並び、前の方から解答権が与えられていく綱引きクイズ。まず問題が出たら綱引きをする。勝った方の先頭の人が問題に答え、正解だと勝ち抜け。誤答であれば綱の一番後ろに回る。24人のうち12人が勝ち抜け。

 「早食い」というのは正直言って、老若男女(といっても45歳までだが)が参加するクイズ番組にはなじまない形式であると思う。幼い頃見た記憶だけで云うと、確かどなたか一人、まったく食事に手を出せず、苦しそうな顔をされていた方がいたと記憶している。何があったのか今でも分からない。でもまあ、こういう表情を導くのもウルトラクイズのひとつの要素だから、ありなのかな、と言う気がする(ちょっと可哀想だが)。

 しかし、ウルトラクイズの趣旨からして、どうしても納得のいかない点がある。綱を引く後ろの人たちのモチベーションが、なかなかあがりづらいということである。クイズ開始時12対12だった綱引きが、一人抜けると12対11になる。そうなれば12人の側が圧倒的に有利になることは間違いない。つまり、後ろで引っ張っている人にとって「自分のチームにとって勝ち抜けが出る」ということは、順序が1番前に行くということ以上に、「相手チームが次に引き勝つ可能性が圧倒的に上がる」ということを意味するのである。だから、後ろにいる人にとっては何とか引き勝って、先頭の人に間違ってもらいたいところなのだが、先頭の人は分からなければ力を入れなければ良い。そうすれば相手の勝つ可能性が圧倒的に強くなり、自分の位置は安泰になるから。

 つまりはやる気がまったく出ない。だってどう頑張ったって自分は抜けられないんだもの。ウルトラクイズはこの辺を改良するため、綱引きクイズの「チーム戦」を発明した。これは上手い改良である。全員が当該綱引きによる利害を被るからである。しかも、綱を引く前には問題を読まないようにした。これも上手い。問題を聞いてからだと、一人一人の中で「この問題は解答権がほしくないなぁ」という気持ちが出てきたりして、引く気が萎えかねないからである。全員が一生懸命綱を引いていなければ、絵として何にも面白くないし。かくして、第10・11回で見事に綱引きクイズを復活させたスタッフの企画力は見事。布石として「チーム戦」を発明した第9回サンフランシスコ「バケツリレー6連発クイズ」があるわけだが。

 かように、ウルトラクイズは「自分たちのクイズ企画のここがまずかった」という反省表明をする代わりに、ルールの改良を以て我々に示唆を与えているのである。

 

附記 ウルトラクイズでは綱引きクイズを5回行っている。最初に行われた第7回では、どうも「同時に綱を引っ張るのは、各チーム6人ずつまで。それ以上は『2軍』として周りでの応援に廻る」というルールにしていたようである。これだと人数が増える減るで問題はあまり起きない。しかし、男性女性の人数比によって著しく有利不利が生じる。たぶん、放送でカットされた箇所では、

 

l     第10回・モニュメントバレー「大西部マラソンクイズ」

このクイズは15人を5人ずつ3列に並ばせ、空席待ち形式でマラソンクイズ。正解すると1ポイント。誤答だと列の最後尾に。また、誰かが正解したとき、他の2列で先頭だった人が最後尾に着く。2ポイント勝ち抜け。というルール。15人中13人勝ち抜け。

 そもそも空席待ち形式のクイズには「編集がしにくい」という欠点がある。よく分からないうちにぐるぐる座席が回ってしまうと、視聴者は混乱してしまう。「あれ、この人さっき先頭だったのに?」「この人急に先頭に来てる」など、要らぬ混乱と要らぬ「批判の糸口」を与えてしまうのはテレビ的にまずい。かといって、行われたクイズを丸ごと全部放送することは不可能である。ちょこちょこカットしながら編集しなければならない。そこんとこの折り合いをどうするか。なかなか難しい。

 一般に言って、空席待ちクイズのルールを決める際、最も大きい問題となるのが「スルーになったらどうするか」ということである。おおむね

@座席の入れ替わりはせず、そのまま次の問題を出す

A先頭にいる人は全員最後尾に着く

の2つに分かれる。編集をしやすくするためには@のルールにしておく方が便利である。そうしておけば、スルーの問題はまるまるカットすればよい。これに対し第14回ソルトレイクや第16回グアムでの空席待ちクイズは、スルーになったとき全員が列の最後尾に移るというルールで行われた。

 第14回の場合はタイムレースで、ほぼクイズの全貌が放送されているから編集の都合は関係ない。また第16回では挑戦者の数が多いから、編集しまくってもそんなに変ではない(且つ、多くの人にチャンスを与える意図もある)。ということで、ウルトラクイズでは編集という観点も踏まえて@Aをきちんと使い分けている。他には第12回アラスカ鉄道で行われているが、@のルールだと思う。第9回成田空港敗者復活はAだった。これは編集の都合が関係ないことと、敗者復活なのでひどい問題を出して最後尾に回す画を撮りたい(現にそういう問題が出題されている)、ということとが絡んでいる選択だと思われる(第5・6回サイパンの形式は@かAか見てないので分からない。どっちなのだろう?)。

 さて、第10回モニュメントバレーであるが、@を選択したと言うことそのものに問題があるとは思えないが、ひとつだけ欠点めいたことを指摘しておく。それは「残り3人になったときに、3人が2列乃至1列に並んでしまうと、先頭でない人に解答権がまず回ってこない」という点である。このことはウルトラスタッフも気にしていたらしく、実際高村さん、清水さん、堀さんの3人が2列に並んでしまったとき福留氏が「清水さんの後ろにいる堀さんを空いてる早押し機につけてもいいか」ということを高村さんと清水さん2人に訊いている。2人はOKし、結局既に1ポイント取っていた堀さんが正解し、勝ち抜けた。

 こうなる可能性があることははじめから想定されてしかるべきだと思う。何故「残り勝ち抜け数が1人になったら、列の後ろにいる人を空いている早押し機につける」ということを、ルールにはじめから組み入れておかなかったのだろうか。ルールに設定されていないことをいきなり話に持ち出すのは、明らかにアンフェアであるように思えてしまう。クイズ番組としてアンフェア

 しかし、マラソンクイズはロケ地となる場所の道路の幅によって、何列まで早押し機を設置できるかが決まってくる。

 とは言え、先に分類で言う@のルールでは、確かに清水さんの後ろに並んでいる堀さんが可哀相である。だから福留氏の措置は間違ってはいないと思う。だったらどうすればよかったのか。

 

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