11 第20回高校生クイズについて 問題編

 高校生クイズの問題については、企画同様いずれ歴史的な考証を予定している。ここでは第20回の全国大会の問題に限っていろいろと分析してみたい。とはいえ、今回の番組中、純粋な早押し問題は非常に少ない放送量だった。なので、1つの点にしぼってお話する。

 まず、わたしの「高校生クイズ」問題に対する前提を述べておく。

 前提:クイズの勉強ばっかりやっている高校生が、著しく有利になるような問題は避けてほしい。

 理由はたいへんはっきりしている。そういう問題ばかり出すと、高校生たちにそっぽを向かれてしまうからだ。

 もちろん、高校生クイズの場合、かつて視聴者とのバランスを考えなかった「クイズ王決定番組」と違い、イベントとしての楽しさがあり、また比較的「イチかバチか」的要素が強いため、どんな問題を出しても、出場者の数は減らないように思われる。

 が、ここまでインターネットが盛んになり、「高校生クイズ必勝法」的な内容のページが増えている現状において、「クイズの勉強ばっかりやっている高校生に有利になる問題」を出題してしまうと、高校生クイズが、そうした「クイズの勉強ばっかりやっている一部の高校生」だけのものになってしまう。「特別な勉強をした人だけが勝ち残るゲーム」に参加したいと思うやつは、そんなにいないもんだ。

 高校生クイズが面白いのは、「クイズ」を媒介として「高校生の生の姿」を映し出しているからだと思う。仕事柄、高校生といつも接していて思うのは、世間で言われているような高校生(わたしのクラスの生徒は今年で「17歳」になる連中である)像は全然的を得ていない、ということ。高校生は基本的にまじめだし、ひたむきだし、さわやかだし(これは個人差がある)、そういう「普通の高校生」の姿をテレビで描き出す方法は、実はそんなに多くない。そのときに「クイズ」という方法は非常に都合が良かった。

 高校生が地区予選を勝ち抜いて、全国大会に出るようなイベントはいっくらでも存在するが、「普通の高校生」が全国大会に出場しているようなものは、他に無い。高校野球も高校サッカーも英語弁論大会も、一部の特殊な高校生のもの、という印象が否めない。

 普通の高校生がドキュメントの主役になることが、高校生クイズの要である。クイズばっかりやっている特殊な高校生のものになってしまったら、存在意義は無くなる。

 この辺のことを書き進め出すと「高校生クイズの問題を歴史的に考える」の項の内容に踏み込んでしまうので、このくらいにしておくが、わたしがなぜ「前提」のように思っているかは、理解いただけたと思う。

 ここまでの準備を持って、今回の問題を大げさに分析してみよう。

 

 我が先達・秋元雅史氏はそのホームページの表紙で、今年の高校生クイズの問題に関して「方向性は良いが、引出しが少ない」という趣旨の発言をされている。ここ数年の問題に就いては、わたしも全く同意見である。そのことを説明するのに一番顕著な例は、次のような種類の問題である。

  1. サザンオールスターズの「TSUNAMI」。このうち、一筆書きできないのは、Tと何?(日野春駅)

 わたしは常々、高校生クイズの問題文は構造的にまずいものが多い、と言ってきたが、この問題も、ちょっとだけまずい点がある。「このうち」という部分は「タイトルに使われているアルファベットのうち」と言わなければならないところである。でもまあ、それはおいておこう(問題文の構造に就いては、いずれ「問題作成講座」で取り上げる)。

 最近の高校生クイズには、このように「アルファベットの綴り」を利用した問題が非常に多い。例えば昨年の問題で言えば、

  1. 「ミーシャ」「ウーア」「チャラ」。無い母音はeと何?(沖縄大会決勝)

 クイズ問題をさんざん作ってきた身として言えば、この種の問題はいっくらでも作れる。明日まで50問作れ、と言われたら、作れないことも無い、と思う(寝なければ)。

 先に登場していただいた秋元雅史氏の問題に「SMAPのメンバーを漢字で書いた時、唯一2回使う漢字は何?」という問題がある。わたしも「キシャのキシャがキシャでキシャす。唯一2回出てくる漢字は?」という問題を作ったことがある。こういう問題はそんなにたくさん作れない。だが、「アルファベット」にして、しかも「Tと何?」のように2つあるもののうち一方を答えさせる問題であれば、大量生産できる。要は「一筆書きできないのは」の部分を「無い母音は」とか「左右対称なのは」「2回登場したのは」にしたりすりゃあいいだけだ。

 他にも、「エラー」の綴りに「R」は何回出てくるか、とか、第17回で出まくった「英語の綴りの最初の文字は」「英語の綴りは?」など、この種の問題には事欠かない。また、「英和辞典でひくと最初にくるのは?」というのも、このカテゴリーに入るだろう。

 ひとつの発想で大量生産できる種類の問題を、大量に出題することを、別に非難する気は無い。かく言うわたしも「○○、△△、などの下に共通してつく言葉は?」という種の問題をたくさん作っている。

 例えばいつも槍玉にあげる「本名問題」のような大量生産の仕方は、「クイズの勉強ばっかりやっている高校生」を有利にするので、高校生クイズの問題には馴染まないだろう。

 それに対し、ここで紹介した種類の問題は、事前に同じ問題を作って練習する、っつーわけにはいかないだろう。頭が働くかどうか、という勝負であるから「クイズの勉強ばっかりやっている高校生」に有利というわけでもない。

 でもやっぱり、こういう種類の問題はあんまり好きではない。理由を4つ述べる。

 ひとつには、この種の問題が著しく得意な人が存在することである。第17回では、優勝した弘前高校のリーダーが「綴り」問題をカモにしていた。「○○、△△、などの下に共通してつく言葉は?」という種の問題が大得意だったサークルの先輩もいる。同じ種類の問題が同じ大会で何問か出題され、同じ人が正解してしまうと視聴者の印象はどうだろうか。もっとも、ここまで細かく気にして番組を見ているやつは少ないか。

 ふたつめ。この種の問題は、普通の問題の中に少しだけ混じっていると楽しいもののはず。こういうのが多くなってしまうと、クイズで重要な要素「目新しさ」が薄れてくる。つまり「またそういうのかよ」という印象。これもわたしだけかなあ、気になるのは。でも、この種の問題を出すなら「とっておきのもの」に搾るべきであり、何でもかんでも思いつくままに出してしまう、というのは、クイズ問題の粗製濫造としか言えない。作れば作るほど面白くなくなる。例えばウルトラクイズでは、

  1. オーストラリアとオーストリア。英語で書くとオーストラリアにあってオーストリアにないアルファベットは?(第10回リオ)

 というのが出ている。これはいいとこをついている。これが第15回になると「魂のソウルと韓国のソウルの綴りの違い」というのが出ている。これらは実に洒落ているし、視聴者も「へーっ」という納得もできる。

 別に必要以上の面白さを求めなくてもいいではないか、高校生が頭を使って挑むような問題を用意しているのだから、という立場もありうる。つまり「頭を使う問題」を使うことで、「高校生が頭を使ってひたむきにクイズに取り組む姿」を描こうとしているのだ、と受け取る立場である。

 しかし、クイズ番組で出題される問題には少しでも「新しい」要素を盛り込む努力が、クイズ番組には求められるのではないだろうか。そうしないと「特定の種類の問題に対応する練習をしてきた人」を著しく有利にしてしまう。このことが、先に挙げた前提に反することは明らかだろう。

 みっつめとして、知的に要領のいい高校生の姿ばかりを映し出してほしくないから、というのも挙げておこう。

 よっつめ。おそらく、歴史的に見て高校生クイズは「言葉」というジャンルの問題を多めに出そうとしているように見える。「アルファベット綴り」系統の問題を「言葉」の問題にたくさん入れてしまうと、他の「言葉」の問題、「ことわざ」や「慣用句」の問題が減ってしまうかもしれない。相対的に「言葉」問題が薄くなってしまうのは避けたいところだ。

 とまあ、急いで書いたのでいまいちまとまっていない。これ以上は「歴史的経緯」の方で述べる。

 

 最後に、今回の全国大会で、気に入った問題と、「ちょっとなー」という問題を2問ずつ挙げておく。

【気に入ったもの】

 もっとも「m−」のハミングが正解のような気もするが(だからわたしも作らなかった)。「Yesterday」問題として、わたしは「The Beatlesの名曲「Yesterday」で、1番の歌い出しは「Yesterday」ですが、2番の歌い出しの単語は何?」という問題を作ったことがある。洋楽のスタンダードを問題にしたこと、それを正解した神奈川工業のリーダー(だと思うが)、この2つの要素が気に入った理由である。

 最大公約数、という手があったか。気づかなかった。ちょっと悔しいなあ。もっとも、この種の問題をまたたくさん作り出したらつまんなくなるんだけど。

【ちょっとなー】

 答えは「一酸化炭素」ということだが、「コバルト」でも正解でしょ。

 なぜ書き出しが必要だったのだろうか。無いと寂しいと思ったのだろうか。もしくは「書き出し」問題を見ていたクイズ関係者が作った問題なのだろうか。いずれ、もう少し他の情報を入れることで問題の形になると思うのだが。このように、いまどきのクイズ関係者が作ったと思しき問題がたまに混じっていて、わたしにはとても気になる。最近減ってきたなあ、と思っていたのに。もっともこの問題を聞いた時は、一瞬井上陽水の歌が頭に浮かんだが。

 

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