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「逸材、我慢の土台づくり オリ入団時コーチ「引っ張って打つな」
イチローがオリックスへ入団した当時、2軍打撃コーチを務めていた
河村健一郎さん(68)は、その打撃を見て「こんなにどんな球にもタイミングが合う選手がいるのか……」と驚いたという
当時の根来広光・2軍監督にどう育成するのかを問われた河村さんは「我慢して2年間、2軍で(積極的に起用し)300打席立たせますから」と告げた。
まだ細身で1軍の投手に力負けしたが、1年通して戦える体作りをすれば開花すると確信していた。プロで生きる道は、まず安打を量産し高い打率を残すことだと考えた
河村さんはイチローと一つの約束をした。「2軍での最初の30試合は絶対に球を引っ張って打たない」。強引に引っ張ると打撃に狂いが生じ、
失敗する例をたくさん見ていたからだ。イチローは約束を守り、30試合で4割ほどの打率を残した。そこで自由な打撃を解禁したところ、いきなり最初の試合で2打席連続の本塁打を放ってみせたという。→ |
ロッキーズ戦の七回、三塁打を放って、大リーグ通算3000安打を達成し、ヘルメットを脱いで観客の声援に応えるイチロー=共同 |
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技あり柵直撃三塁打
思い切りたたいた打球が右翼手の頭上を襲った。七回1死で迎えた第4打席、イチローが右越え三塁打を放って、ついに大リーグ史上30人目となる偉業を成し遂げた.
2番手左腕のラスンが相手。イチローは初球から2球続けて外角球を見極め、優位に立った。
そして3球目、真ん中低めに甘く入ってきたカットボールを見逃さない。右翼フェンスに直撃した打球は外野を転がり、イチローは快足を飛ばして余裕を持って三塁に到達。チームメートからの祝福が待っていた。本塁打で記録を達成するイメージを描いたこともあったという。過去、大リーグ通算3000安打を本塁打で決めたのはヤンキース時代の同僚のジーターとロドリゲスら3人しかいない。
打球が右翼に上がった瞬間、イチロー自身の頭の中にも「(フェンスを)越えてほしい」という思いがよぎった。だが打球は惜しくもフェンスを越えず、「そんなに甘いものではない」とも考えたという。
三塁打での記録達成は、ブルージェイズやツインズで活躍したポール・モリターに次いで2人目。
大きな当たり、野手の間を抜ける打球方向、そして足の速さと幅広い能力が必要な三塁打は、本塁打より難しいとされる。イチローは「結果的に、その方がよかったかな」と笑った。【田中義郎】 |
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米大リーグ通算3000安打を達成し、ボンズ打撃コーチ(右)と握手するイチロー=共同【デンバー田中義郎】
米大リーグは7日、各地で行われ、マーリンズのイチローが当地でのロッキーズ戦でメジャー通算3000安打を達成した。
イチローは6番・中堅で先発し、七回の第4打席で右越え三塁打を放った。記録達成は史上30人目で、日米通算三塁打も116となって福本豊のプロ野球記録を上回った。 |
→イチローが安打を積み上げられるのは、調子の波が少ないからでもある。
河村さんは「状態のいい時に練習しよう」と常々言っていた。いい時こそしっかり練習し、その状態や感覚を身につける狙いだった。
「2人とも偏屈」と笑うが、まさに逆転の発想だった。
偉大な記録に到達した土台は、こうした初期の取り組みにもある。【荻野公一】
毎日新聞2016年8月8日 東京夕刊より記載
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