奈良 「古都の残念」
訪れたのは冷え込みが厳しい某年3月初旬だった。中学校の修学旅行以来である。
効率よく寺社を巡ろうと定期観光バスに乗った。
奈良交通が運行している「法隆寺・西の京」を選んだ。なお、乗車には事前予約が必要である。
約6時間半程度で法隆寺中宮寺慈光院薬師寺唐招提寺朱雀門などを巡る盛り沢山である。
奈良駅前の観光バス案内所でチケットを購入した。その時に昼食付き昼食無しかを聞かれたので特に考えず昼食付きにした。
バスは朝10時前に奈良駅前を出発、先ずは法隆寺に到着した。ここは修学旅行でも来た筈なのだが当時の記憶が無い。法隆寺に限らずコース中の数カ所は修学旅行で来ているのに全く記憶無しである。
当時の想いは『寺ばかりでつまらない』と言うものだった。要するにどこを見ても同じようにしか見えなかったのだ。
今回も幾つかの修学旅行と行き会ったが、やはり当時の私と同じように特別な関心は無い様子でスケジュールをこなしているだけの感であった。
古都や寺社は自ら進んで行く気にならないと面白いものではないだろう。

各所を巡る途中で昼食になった。昼食付きの乗客は1軒の食堂に案内された。
ここで私は失敗に気付いた。案内されたテーブルには既に食事が置かれてあったのだ。
案の定、ご飯やおかずは全て冷え切っている。汁物がホンの僅かに温かい程度だ。観光地の食事などそんな物と言ってしまえばそれまでだが、この時季、店内の客はバス客を含めても二十数人である。事前に並べて置く必要など更々ない。現に昼食付きを選ばなかった乗客は同じ店でも温かい物を食している。
なにも懐石料理のように一品ずつ運んでとは言わないが、熱い物は熱く冷たい物は冷たくと願うのは当然ではないか。ましてや古都、奈良の寺社近くに店を構えているのだから?
巡った各所やガイド嬢が好印象だっただけに、この一件は本当に残念であった。

旅から帰ってからバス会社に苦情の手紙を出した。折り返しバス会社の詫び状と共に食堂からの詫び状も同封されていた。それらには『食事も旅の楽しさの大切な一つなのに適切な状態で供せず誠に申し訳ない、今後はこの様な事が無いよう十分に気を配る』旨が記されていた。
その気配りはちゃんと出来ているのだろうか、そして今でもちゃんと続いているだろうか。確かめてみたい気がする。

写真:奈良 薬師寺本殿 Roshi 文章:Roshi
 

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