春も近く、雪解けの季節を迎えた。
それでも頬を撫でる風は冷たく、吐く息も薄っすらと白い。
「まだまだ寒いな・・」
ため息まじりに吐き捨てると、
「政宗殿は寒がりでござるな」
と幸村が笑う。
長い冬を終え、雪の下に広がるたんぽぽ畑が顔を出していた。
待ちきれないのか、春を待たずに花を咲かせたたんぽぽ達。
小さい体で凍えるような冷たさを耐える。
―――これが雑草の強さか。
「ひとつ拝借・・」
しゃがんだ幸村の手には一輪のたんぽぽ。
「たんぽぽは雪の下でずっと春を待っている・・
政宗殿とは大違いでござる」
そして太陽に向けて黄色い花を掲げ、眩しそうに双眸を細めた。
「寒さに耐えられる強さが移るよう政宗殿に花冠でも――」
「そうだな、お前にはよく似合うと思うぜ」
ああ、何故かコイツにはたんぽぽの黄色が似合う。
赤を飾る眩しい黄色。
黄色に映える鮮やかな赤。
脳裏に焼きつくほどに、綺麗だ。
「俺は寒がりで結構・・・」
思わず伸ばした腕で、そのまま幸村を抱きしめる。
「こうしていれば温けぇじゃねえか」
少し体温が高めの幸村は照れたような表情を見せた。
困ったように視線を泳がせ、俯く。
暫くの間をおいて幸村が頷いた。
「某が温めてあげれば問題ないのだな」
何を納得しているのかと、つい笑ってしまう。
「な・・笑うような事は言っておらぬ!」
「ハハ、わかったわかった、約束だぜ」
「うむ・・・約束でござるな!」
春を目の前にした花畑で抱きしめ合ったまま笑うなんて。
―――なんて、幸せな光景なのだろうか。
けれど忘れてはいけない。
俺達は国を獲り合う仲でもあることを。
いつか必ず来るであろう命を懸けた闘いを。
「Dandelion・・」
お前によく似合うその花の意味は――――別離だったな。
ぽたり、ぽたりと赤い滴が刀をつたっていた。
愛しい屍は信じられないほどに穏やかな顔をしたまま腕の中で眠る。
思い出すのは花を掲げていた姿。
赤を飾る眩しい黄色。
黄色に映える鮮やかな赤。
「あの時の約束守ってくれたな・・・
なァ?
幸村・・・」
鉄錆のニオイが鼻をついていた。
それでも、温もりが残るうちはこのまま抱き続けていたい。
「ああ、すげェあったかい・・・」
天下を獲った暁に、花を手向けにこよう。
お前によく似合う、たんぽぽを。
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Moronの奏人さまからいただきました。
・奏人さん→「ダンデライオン」
・雨城→「あたためてあげる」
と、双方が出したお題を使って書いたのですが、奏人さんはちゃんとお題クリアして書いてらっしゃるのに、私が書いたのはクリアできていないような…
何はともあれ、奏人さんありがとうございました。
(2007/03/02)
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