『照柿』



烏が、柿の実を食んでいた。
食い散らかされた残滓が枝からぶら下がっている。
葉のない木を彩るそれは、滴る血肉のようであった。

赤毛は残った柿の実に手を伸ばした。
つるりとした外皮が指先に触れる。


「もう甘いのは残っておらんぞ」


背後から掛けられた声に振り返れば、虎杖がにやにやと笑いつつ顎を撫でていた。
虎杖は赤毛の隣に並ぶと、同じ様に柿の木を見上げる。


「烏と言うのは利口でな、甘い実しか食わんのよ。顔で分かると言うがのう」
「顔で?」


再び木を見上げるが、違いなど分からなかった。
人も同じよ、と虎杖は言う。


「強い奴は顔で分かる。だがそれを見分けるには己も強くなくては分からん」


所詮人は自分というものさしでしかものを測れぬ生き物なのよ、と虎杖は笑った。
赤毛は黙って柿を見つめている。


自分は渋柿と甘柿、どちらなのだろうか。
生き残り、武功を立てるには強くなくてはならない。
相手を見定めることも同様だ。

けれど、純粋に強者との対峙を望んでいるかと問われれば、そうではないような気がしていた。


「そうだ、これをやろう」


唐突に、虎杖が懐から包みを投げて寄越した。
開くと中には干し柿が二つ入っている。


「木になっておる柿ばかりが柿ではない、ということだ」


虎杖は豪快に笑うと、その場を後にした。
残された赤毛は干し柿を一つ手に取り、かさついた果肉をかじる。
食感は違えど、柿の甘さが口内に広がった。

姿は変われど本質は変わらないのだ。
枝にしがみついていた食い欠けの実が、ぼとりと落ちた。


(2008/11/05)


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