「もっと右だよ、右」
「こっちか?」
「そっちは左!」
「ああ、すまん」
「うわっ!急に動くなって!」


ふらふらと左右によろめく人間二人を飛丸は心配そうに見守っていた。
大きな柿の木の下、肩車作戦でギろうとしているのは名無しと仔太郎だ。
枝の先端に食べてくださいと言わんばかりに熟した実を見つけたのは仔太郎で、ならばと名無しが肩を貸し今に至る。

柿の実にはぎりぎり届かず、跳ねてみても指の先が僅かに触れる程度だ。
枝を拾ってそこに引っ掛けようかと思案する一行の耳に、天をも裂く大音声が谺した。


「くぉら!何やっとるかー!」
「いっけね!逃げるぞ、名無し」
「分かったから髪を引っ張るな」


柿の木の主の一喝に、一行は一目散に逃げを打つ。
仔太郎を肩に乗せたまま、名無しはトンズラした。


「ちぇ、柿食い損ねたな」


名無しの肩からひょいと飛び下りると、仔太郎は残念そうに遠くに見える柿の木を睨んだ。


「この時期だ。他の木の実もなってることだし、そうがっかりするな」
「そりゃそうだけど…あれ?飛丸は?」


人間などより足の早い飛丸の事だ。
とっくに追い越しているものだとばかり思い込んでいた。


「おーい、飛丸…ってお前、それどうしたんだよ?!」


いつの間にか傍らにいた飛丸の口には柿の実がくわえられていた。
受け取った仔太郎は誇らしげに尻尾を振る飛丸を撫でてやる。


「そうか、取ってきてくれたのか。ありがとうな」
「わう!」
「あの高さは犬が飛べるものなのか…?」


飛丸最強伝説は続く。


(2008/10/30)


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