その一太刀は今まで命を奪ってきたどれよりも重かった。
幼子だから。刀を持っていなかったから。
どれも言い訳でしかなく、ただ殺したくなかったのだと思い知らされた。
血と雨の染み込んだ結紐だけが己の罪を糾弾する。
早く斬れ臆病者、と促した声が耳の中で鳴り響く。
その通りだ。自分はなんと臆病なのだろう。
首を落とす決断も連れて逃げる逡巡もしなかった。
濡れて重く滴る髪が視界を赤く染める。
後ろで束ねた髪を掴むと、脇差を引き抜いて切り落とした。
左の手に、凶々しい花が咲く。
追い腹を切ることなど許されはしないだろう。
命を絶ったのは自分なのだから。
だからこれはせめてもの手向け。
生きることも死ぬことも選ばなかった自分が出来る唯一の餞。
それすらもどっちつかずの選択で、やはり臆病者でしかない。
死にもせず、生きもせず。
人ではなく、鬼ですらなく。
虚ろな肉体を引き摺って彷徨えばいい。
死路への誘い花に似た赤は、風に乗って流れて消えた。
(2008/12/04)
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