『ずっと一緒に・・・』


「なぁ、おいらにもそろそろ刀の使い方を教えてくれよ!!」

そう仔太郎が言い出したのは、あの戦いが終わり、俺の傷が治り始めたころだった。

その頃になると、仔太郎の乗馬もなかなか様になってきたようで・・・だからだろう、そう言ったのは。

子供は飲み込みが早く、目新しいものに惹かれるものだ。

「・・・・前も言ったろ?俺は、刀は教えられない。」

「でも、刀を封じてあった紐はもうないだろ?おいらも刀を習いたいんだ!!」

「ハァ〜、何度言ったって同じだ、俺は教えられない。」

「ッッおいらだって護りたいんだよ!遊びで言ってるわけじゃないッ!!」

「それでも、・・・・それでも駄目なもんは駄目だ。」

「〜!!名無しのケチッ!!!!」

そう言うと、仔太郎は休んでいた小屋の戸を乱暴に開けて出て行った。

飛丸はそんな俺たちの様子を見て、オドオドしながら俺に近寄ってくる。

安心させてやろうと、頭を撫でてやった。

「俺はいいから、アイツんとこ行ってやれ。」

「ワンッ!!」

飛丸は返事をすると、仔太郎を追いかけて小屋を出た。


仔太郎もそんなに遠くには行ってないだろうが、やはり心配だった。

それでも、アイツは頑固なところがあるから俺が今行っても火に油をそそぐような結果にしかならないだろうことは簡単に予想できる。

だから飛丸を代わりに行かせたが、・・・・・なんだか居心地が悪かった。

何故だろう?と考えるまでもなく、原因はハッキリしてる。

・・・・・静寂だ。

思えば、仔太郎たちと会ってから今に至るまで、俺が独りでいることはほとんど無かった。

あったとしても短時間、たったそれだけなのに今、独りでいることが嫌で嫌でたまらなかった。

・・・・ずっと独りで生きてきたのに、慣れってのは恐ろしい。

そんな沈黙に耐えられなくなって、俺は外に出た。

大気はまだ冷たく、それでいて澄んでいた、沈んでいた俺の気分も向上してくる。

タダで外へ出るのも勿体無いので、夕食の魚でも釣ってこようと川へ向かった。





なんだか魚のいなさそうな川だ。

それでも気分転換にはなるだろうと、釣り糸を垂らす。

6匹釣れれば上出来だ。


だいぶ日が暮れた。

予想どおりと言うべきか、川にはやはり魚がいないのか釣針にかかることはめったに無く、それでも一人頭2匹は欲しいと思い、意地を張ったのが悪かった。

日はすっかり暮れてしまい、4匹までは釣れたものの、それから一向に釣針にかかる気配は無く、諦めて帰ることにした。

仔太郎と飛丸はもう帰ってきただろうか?




小屋の近くまで行くと、小屋の外に人影があった。

仔太郎は膝を抱え込みながら、座ってる。

「ワンッ、ワンッ!!」

飛丸が吠えると同時に、仔太郎が立ち上がり、俺に抱き着いてきた。

「・・・どこ行ってたんだよ!!帰るのが遅かったじゃないかッ!!」

「それは悪かった、つい釣りに夢中になってな。」

ポンポンと仔太郎の頭を優しくたたきながら、安心させてやる。

最初会った時は、可愛くない餓鬼だと思っていたが、今では護ってやりたい大事な人間の一人になっていた。

「腹減ったろ?食おうぜ。」

「・・・・悪かった。」

「は?」

「だから、・・・昼間は悪かったって言ってるんだ!!」

「・・・あぁ、あれは俺も少しきつく言いすぎた。」

「じゃぁ、仲直りだな!!おいら、飛丸と薪拾ってきたんだ。腹減ったから早く食おうぜ。」

そう言った仔太郎と飛丸は、俺を一人外に残し、ズンズン小屋の中へ入っていった。

「・・・・切り替えの早いヤツ。」


小屋に入り、魚が焼けるのを待っていると、ふいに仔太郎が話しかけてきた。

「なぁ、無理にとは言わないけど、やっぱりおいら剣術を習いたいな。
力があれば誰かを護りたい時に役立つかと思って・・・。おいら、いつだって護られてるだけじゃ嫌なんだ。
・・・・・・名無し、駄目か?」

「・・・・刀を持てば、使う時は自分じゃ選べない。
否応なしに、抜刀することを迫られる時だってあるんだ。」

そう、そんな経験を何度もしてきた。

何度もしているうちに心が麻痺して、しまいには戦うことが楽しく思えてくる。

周りが血や死体で溢れかえってるのに、そのことが当たり前になってくる。

そして、あの日・・・あの子供に刀を向けてる時に、俺はようやく思い出したんだ。

・・・・・人を殺すってことは、どんなことなのかってことを・・・。

憎しみだけを背負って生きてきたから、今まで解らなかったんだ・・・命の重さってもんが。

だから、あの金髪の異人とやり合った時、昔の自分と重なって見えた。

今まで人の人生を奪ってきた分、俺もあの男のようにまともな死に方はしないっだろう。

だからこそ、仔太郎にはまともな人生を送って欲しかった。

あの時の、自分自身に対しての怒り、情けなさ、虚しさ・・・そんな気持ちをあじわって欲しくない。

「・・・・人を斬るってことほど、胸糞悪ィもんはねぇんだよ。」

「・・・・それは、名無しを見てればわかるよ。」

「なら何で・・・?」

「言ったろ?護りたいんだ、飛丸を、名無しを・・・。」

「俺はお前に護られるほど弱くない。」

「それも知ってる。・・・・けどそうゆう意味じゃないんだ。」

「???」

「そうゆう心の痛みを知れば、名無しの痛みも解ると思ったんだ。
・・・名無し、たまに夜うなされてるだろ?」

「ッッ////俺の事はいいんだよ、餓鬼なんだから!!」

「餓鬼扱いすんなッッ!!!!」

なんだか照れくさかった。

心配されることなんて、今まで無かったから・・・。

・・・・でも、いいもんだな・・こんなのも。

「やっぱり駄目か?」

「・・・・・体術なら教えてやってもいいぞ。」

「本当!!?」

「あぁ。」

「やったぁ〜!!じゃぁ明日からな♪約束だぞ、名無し!!」

「・・・あぁ。」

「あっ!!魚焼けたぞ。ほら飛丸、熱いから気をつけて食べるんだぞ。」

「ワンッ!!」

「名無しも、食おうぜ!!」



できれば、ずっと・・・こんな日々が続いて欲しいと、らしくもなく神に祈った。

・・・・この笑顔が、絶えることのないように。



END.



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Kaiさまのサイトにお邪魔したところ、運よく2222のキリ番をゲットさせていただきました。
初のストレンヂア小説だそうです。
Kaiさま、本当にありがとうございました。



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