※最後まで致しておりませんが、性描写を含むためR−18です。





いっそ戻れないのなら、どこまでも深く激しく。


眼前に広がる白いシーツの海。
手足を伸ばしてもまだ余りある大きなベッド。
陶然とするばかりの心地よい肌触りに、タクトは一度浮上した意識をまた手放しそうになった。
二度寝ほど気持ちのよいものはない。
だが、束の間の極楽はノックと共に入ってきた親友によって阻まれてしまった。


「タクト、起きたか?」
「・・・おきてませ〜ん」
「おはよう。いい度胸だな」


問答無用でふかふかの羽毛布団を剥ぎ取られる。
朝日を背に微笑むスガタはそれこそ夢の中のような光景であったが、発言と行動はなかなかに荒々しかった。
寝坊は許してくれないらしい。

あの、本気でぶつかり合った日、ツナシ・タクトはシンドウ・スガタの家に泊まった。
特に何かを話したわけではない。
ただ、拳を交えたことで今まで以上に分かり合えたのは言うまでもなかった。


「お前っていつもこんなに朝早いわけ?」
「そんなに早くもない時間だぞ」
「だって俺ら成長期よ?いくら寝たって寝たりな…」


そこまで言いかけて、タクトは不自然に口を噤む。
何やら気まずそうにしているタクトに、スガタは首を傾げた。

タクトの視線は布団の中にある。
今は朝。彼は15歳。
青少年の朝の気まずさといえば、一つしかないだろう。


「…スガタく〜ん。もうちょいしたら行くから、先行っててくれない?」


理由は察してくれとばかりに、タクトは窓の外へ視線を向けた。
流石に友人の家で抜くのは心苦しい。
暫く放っておけば落ち着くのだから、このままでいるのが一番だろう。

スガタは「ああ」と返事をすると、何故かベッドに乗り上げてきた。
ぎょっとなったタクトは、じりじりと近付いてくるスガタから逃れるように掛け布団と一緒に後退する。
いくら大きいとはいえ、所詮はベッドだ。
すぐにベッドヘッドに背がぶつかってしまった。

秀麗な顔のアップは心臓に悪いものらしい。
思わず息を呑んだ。
白い肌も癖のない髪も、こちらを見据える眼も、薄い唇もすぐ目の前にある。
落ち着くどころか余計に興奮してしまいそうだ。

指の長い手がこちらへと伸ばされる。
耐えかねてぎゅっと目を瞑れば、スガタの手はタクトへ触れることはなかった。
代わりに布団が引っ張られる。


「ス、スガタ?なにしてんの?」
「手伝ってやる」
「は?な、なにを?」


ナニを、とは言わなかった。
ただ悪戯っぽく小さな弧を描いたスガタの口元が、言わんとしていることを伝える。
タクトは盛大に顔を引き攣らせた。
勢いよく布団を引っ張り返す。


「結構です!」
「遠慮しなくていい」
「遠慮じゃなくて拒否してんの!」


友情にそんなオプションは含まれていないはずである。
島育ちはこんなところまで世間知らずなのだろうか。
イッツァピーンチ。
タクトは軽く涙目になりそうだった。

スガタとタクトの力は拮抗しているのか、羽根布団を挟んでの攻防は暫く続いた。
両者の腕がぷるぷると震えている。
布団が千切れないのが不思議なくらいだ。

タクトとしては負けるわけにはいかなかった。
この布団がスガタの方へ行ってしまったら最後、友人に処理を手伝ってもらうというとんでもない青春の一ページを刻むこととなる。
それだけはなんとしても避けたい。

だが現実とは無常なもので。
膠着状態に痺れを切らしたスガタが、タクトの耳に唇を寄せた。


「僕が嫌なら、ジャガーかタイガーを呼ぼうか?」
「なっ…!!!!」


あまりの発言に、タクトの腕の力が緩む。
すかさず引っ張り布団を取り上げたスガタは、そのまま自分の背後へと投げ捨てた。
ぼふっとマヌケな音を立てて落下した布団が起こした風に青い髪がなびく。

勝者は表情を変えぬままタクトににじり寄った。
敗者は眦を吊り上げ勝者を睨みつける。


「お前、なんてこと言うんだよ!いくらあの二人がメイドだからって」
「本気にしたのか?冗談に決まっているだろう」
「ですよね!ごめんなさいスガタさん!!!」


流石にむっとした様子のスガタに、タクトは間髪入れずに謝った。
腰が引けているのは致し方ないだろう。
目は完全に覚めたが、とても落ち着ける状況ではない為下半身も相変わらずだった。
辛さより居た堪れなさの方が勝っている。

スガタの手が、今度はタクトへと伸ばされた。
頬に触れる指先はやや冷たく感じる。
逃げようにも眼前に迫るスガタの双眸から目が離せない。
咽喉がひくりと震えた。

抵抗を諦めたタクトを見つめたまま、スガタは指を滑らせる。
布越しに腿を撫でると、先程触れた頬が赤みを増した。
それでも目を逸らさないタクトに、指先をパジャマの中へと潜り込ませる。
噛み締められた唇に喰らいつきたい衝動を抑えつつ脇腹を撫でた。


「…どうしても嫌なら止めるが、どうする?」


ここまでしておいて何を今更と自分でも思う。
だが今ならまだ戻れる。
手にしてしまいたいと願う分だけ、戻れ戻れと声がする気がした。

これほどまでに欲しいと願ったことはない。
その強さは、躊躇させるに余りある。

俯いたタクトが顔を上げた。
顔は赤いままだが、眼は強い意思を宿している。
きらきらと輝いてすら見えるそれに、今度はスガタが息を呑んだ。


「今更引くくらいなら、最初からやるなよ」


唇が押し当てられる。
ふいのキスは甘さには程遠く、頭突きを喰らったような衝撃だった。
壁を壊すなら思い切って壊してしまえと背中を押される。
空いていた腕で首を抱くと、そのまま唇を貪った。
腰に回していた手を下腹部へと這わせる。

脈打つ下肢に指を絡めると、スガタはそのまま上下に動かした。
重ねた唇から漏れ出る吐息に目を細める。
忍び込ませた舌先で咥内を突き、声が聞きたいとせがんだ。

とろりと蕩けた眼をしているのはタクトだというのに、溺れているのはスガタの方だった。
ぬめる手のひらの感触は生々しいばかりのはずが、どこか夢見心地なのがおかしかった。
追い立てる感覚とは斯くも楽しいものなのか。
長い指で輪を作り緩く締め上げ、先端に爪を立てた。

仕上げとばかりに舌を強く吸い上げると、手は白濁で汚れる。
さんざ貪った唇に、軽く歯を立てた。
最後は優しくキスを落とす。
負けじとキスを返してくるタクトの肩を、スガタは強く抱いた。


「…朝っぱらから濃厚すぎるんですけど」
「いいじゃないか。風呂の支度はさせてあるし、折角の休みなんだから」


まだまだ時間はあると囁くスガタに、タクトの肩がびくりと震える。
眩いばかりの朝日が今は恨めしい。
下半身は落ち着きを取り戻したはずなのに、心臓はまだ暴れたままだった。
抱き締めるスガタの肩口に額を乗せ、降参の意思を示す。

落ちゆくならばどこまでも。
深く、激しく、果てなく共に。



(2010.12.05)



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