「11月11日が某チョコレート菓子の日なら、12月12日も豆腐の日にすべきですよね」


真剣至極の表情で、久々知兵助は呟いた。
隣で熱い茶を啜っていた土井半助は、この豆腐好きの少年にどう返したものかと返答に窮する。
久々知は土井の返事を待つことなく、大きな目をくるりとこちらに向けると更に続けた。


「そもそも、言った者勝ちなんですよね。棒状のものなら何でも良い訳ですし。うまいでお馴染みのあれでも、枝を模ったあれでも良いのですから」


ヴァレンタインデーにチョコレートが持て囃されるのも、節分の恵方巻がいつの間にやら全国区になったのも、そもそもはイベントに託けて広めたものがいるからだ。
久々知はそう言いたいらしい。
確かにな、と土井は思った。

ならば何故豆腐の日を作ってもっと消費を増やそうとしないのだ。
そしてもっと美味しい豆腐が作られるようになったらいいのに。
言わんとしていることをここまで読み取った土井は、相変わらずの久々知の豆腐好きっぷりに思わず苦笑した。

尤も、仮に「練り物の日」が制定されようものなら、土井は全力で以って抗議の意を示すだろう。


「で。世間の風潮に逆らって、今日のお茶菓子は甘酢に漬けた梅なのかな?」
「いえ。これはたまたま頂いたのです」


兵助らしい答えだな、と小さく笑った。
見ているだけで口に唾が溜まりそうな青い実は、ふっくらと蜜に浸っている。

美味しいですから先生もどうぞと勧める久々知の指が実の一つを摘み、口に運んでゆくのを眺めていた土井は、ふいに顔を近付け梅を奪った。
つ、と雫が指を伝う。
舌を伸ばしてそれも奪った。


「…横取りはだめですよ」
「私のために持ってきてくれたのだろう?」


違いますよ、とは言わない唇に、今度は青い実を一つ、押し当てる。
小さく音を立てて蜜を吸い、果肉に歯を立てる久々知から、土井はまた一つ奪うのだった。



(2010.11.12 出遅れたポッキーの日SS)



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