抜けるような秋晴れ。
互いの背にもたれ掛り、見上げた青は少しだけ目に染みた。



   『スウィートトラップ』



「何だっけ?女心と鰯雲?」
「秋の空、だろ」


下らない会話を交しつつも、何となく空を眺め続けている。
ごつごつとした背の感触と、制服越しの体温。
他にはいらない気がした。


「花村、何か食ってる?」


風に乗って鼻孔を擽る人工甘味料の香りに誘われたのか、肩に後頭部を乗り上げて陽介の顔を覗き込んだ。
陽介は僅かに後ろを向き、からりと音を立てて見せる。


「これ?」


舌先には小さなキャンディが一つ、日の光を弾いていた。


「お前も食う?」
「うん。頂戴」


首を伸ばして陽介の舌から飴玉を奪い取る。
相棒が取った行動に、陽介は目を丸くするばかりだ。
「サンキュー」と軽い調子で礼を言う声に、ああともうんともつかない返事をするのがやっとだった。
大きく息を吐くと、同じ様に肩に頭を預ける。

無言が苦痛な訳ではない。
この、出会って半年が過ぎたばかりの親友の隣では余計な言葉など無用だった。
それでも言葉を探してしまうのは―


(予防線、なんて役に立たないのにな)


口内に残る甘ったるさは先程まで食べていた飴のせいではないだろう。
触れ合う耳の擽ったさも心音を早めるばかりで。
空にはやはり雲一つなかった。


(2008/11/01)


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