もらってうれしい。あげてたのしい。



   『おみやげ』



「おかえりなさい。お兄ちゃん」


玄関をくぐるとすぐに掛けられる明るい声。
こちらに来てからは当たり前の様に与えられる言葉に、出雲はくすぐったさを覚えつつ、菜々子にただいまを返した。


「あのね、お土産でおまんじゅうもらったの。お父さん帰ってきたら一緒にたべよ」


お隣さんが温泉に行ったからってくれたの、とダイニングテーブルの上にある包装されたままの箱を見せてくれた。
頷きつつ、出雲はしゃがんで菜々子の視線に高さを合わせる。
菜々子は不思議そうな顔をした。


「どうしたの?」
「何となく元気がなさそうだから」


言いつつ頭を撫でる。
菜々子は目を丸くし、顔を赤くした。


「菜々子元気だよ?」
「そうか」
「うん…」


頭の上にある手をちらちらと見つめ、菜々子は言おうか言うまいか逡巡する。
出雲の手が菜々子から離れた時、「あのねお兄ちゃん」と切り出した。


「みかんとか沢山もらったときにおすそわけするでしょ?」
「うん」
「うちもね、そういうのはお返しできるの」


でもね、と菜々子は俯く。
出雲は菜々子が続きを言うまで待った。


「おみやげのおかえしはできないの」


菜々子の父、遼太郎は刑事だ。
仕事が忙しい事もあり、菜々子に構ってやる事もままならなかった。
だから当然家族旅行の機会もない。

親戚からの貰い物なら近隣にお返しも出来るだろう。
だが『お土産』のお返しはできないのだ。
それが菜々子には心苦しかったようだ。
同じ様に忙しい両親を持つ出雲にはその気持ちがよく分かった。


「俺もお土産は貰うばかりだな」
「ほんと?」
「両親から出張先のお土産をよく貰ってた。」
「そっかぁ」


お兄ちゃんのお父さんとお母さんもお仕事忙しいんだよね?と互いの共通点を見付けた嬉しさからか、菜々子の顔に笑みが戻った。
それに安堵し、出雲はまた菜々子の頭を撫でる。


「そうだ、今度うちに遊びにおいで」
「お兄ちゃんのおうち?」
「ちょっと遠いけど、そのときお土産のお返しをするといいよ」
「…うん!」


花が咲いた様な愛らしい笑顔だった。
出雲の口許も綻ぶ。

兄弟のいない出雲にとって、菜々子という妹の存在はたまらなく可愛いものだった。
稲羽にはないものを、沢山見せてあげたいと思う。


「お兄ちゃんのおうち、都会にあるんだよね?都会ってなんでもあるってほんと?」
「どうかな。ジュネスはないけどね」
「えっ!そうなの?」


心底驚いた顔をされてしまった。

驚きと喜びと。
もっともっと与えられればと出雲は菜々子の顔を見つめつつ思った。


(2008/11/08)


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