境界の分からなくなる曇天と少し冷たい風。
八十神高等学校の屋上で、陽介は足元に転がる頭を見下ろしていた。
『午睡』
「こんな天気の日に寝るかね、フツー」
溜め息を吐いてみるものの、当人は気付いていないのか目を開く気配がない。
陽介はしゃがみ込み、相棒の顔を覗いた。
空と同色の髪が風に揺れている。
死人の様に(などと言ったら縁起が悪いが)静かな眠りだった。
色白の肌が余計にそう思わせるのかも知れない。
声を掛けても反応はなかった。
長い睫毛は固く閉じられている。
「クマならここで『目覚めのチッス〜』とか言うのかねぇ。あ、女の子じゃないからやらねーか」
一人ツッコミが虚しい。
頬でもつねって起こしてやろうかと思った瞬間。
「ぐおっ!」
強烈な頭突きを喰らった。
目を覚ました出雲が急に起き上がったのだ。
避け損ねた陽介の眼前に星が瞬く。
「いっでーっつの!急に起き上がんな!つかお前どんだけ石頭なんだよ!」
痛みのあまり早口に巻くし立てるが、当の犯人は聞いていない。
まだぼんやりとしたままの眼差しで入り口を見つめていた。
程なくして。
「あーいたいた!花村達、探したんだかんね」
「二人とも一緒だったんだ。先にここに来れば良かったね、千枝」
錆び付いたドアの軋んだ音と共に、千枝と雪子が姿を現す。
出雲は片手を挙げて二人に応じた。
驚いたのは陽介だ。
まだ痛む額を擦りつつ、出雲の耳に囁きかける。
「お前、二人が来たのに気付いたんなら、俺が居んのにも気付いてたよなぁ」
「花村だな、とは思った気がする」
「だったら起きろよ!俺を寂しんボーイにして楽しんでんのか!」
「クマみたいな事言うなって」
寝惚け気味なのか、やや半眼の出雲に陽介は食って掛った。
気にしてはいないが、あまりに扱いが違い過ぎるだろう。
これが格差社会というものなのか。
思わず負けそうである。
「まぁ、あれだ。花村だなと思ったら安心してまた寝た」
「なんじゃそりゃ」
じと目で睨み返すも、微笑みで返されてしまった。
その笑顔があまりに穏やかで、こいつは天然なんかじゃなくて計算じゃないかと思いたくなる。
「お前ってなにげにズリーよな」
「どこがだよ」
「どこったってなぁ」
「なーにブツブツ言ってんのよ。みんなもすぐ来るって」
俺にもよく分からないと首を摩る出雲と首を捻る陽介。
二人の元へとやってくる千枝と雪子に手を振りつつ、陽介は名の通り時に捉え辛い友を引っ張って立たせた。
(2008/11/03)
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