『生き字引の観察眼』



9月の晴れた日の放課後。
陽介と出雲はジュネスのフードコートにいた。

少年探偵と巷で騒がれている白鐘直斗を無事救い出し、暫くはテレビに入る必要もない。
実にのびのびとした気分であった。


「しっかしさぁ、直斗には驚いたよなー」


たこ焼きを頬張りつつ、陽介は先日の一件を思い返し嘆息した。
親友である出雲は無言のままお好み焼きを平らげている。


「確かにちっこいけど、ぱっと見分かんねっての。ある意味完二が一番いい勘してたんだな」


野生の嗅覚っつーの?と陽介は口の端についたソースを舐め取りながら笑った。
林間学校で完二がテントに入ってきた際、貞操の心配までしていただけにほっとしているのだろう。
完全に疑念を解いたわけではないようだが。


「花村は、男女の個体差ってどこで判別してる?」
「へ?」


出雲はそんな陽介を横目で見つつ問いかけた。
唐突な質問に、陽介は相棒の顔を見返す。


「何だよいきなり」
「いや、男か女かどこで見分けてるのか聞いただけなんだけど」


何を考えているのか読めない奴だ、と陽介は思った。
出会って半年近くなる現在でもそうだが、クールで頼りになる相棒殿はたまに想定外の反応を見せる。
そんな男だからこそ、一連の謎を追う自称特別捜査隊のリーダーが務まるのかも知れない。


「どこってそりゃあ…」


胸?と両手で乳房を掬うような動きをしつつ返答した。
動作がおっさんくさいとツッコまれたが、健全な男子高校生たるもの美乳も巨乳も好物なのは仕方がない。
やっぱりそうかと思いつつ、出雲は烏龍茶に口をつけた。


「そういうお前はどうなんだよ」


反応のない相棒に、陽介は口を尖らせつつ問い返す。
夏服でも私服でも分からなかったのだ。
こいつだって分からなかったに違いない。


「一般的に男女の個体差はヒップラインで判別するらしい」
「なんだそりゃ」
「あくまで一般論だ」


咽喉に潤いを流し込むと、出雲は飲み口を見つめたまま答えた。
手の中で烏龍茶の缶が小さな音を立てる。
淡々とした返答に陽介は首を傾げた。


「…つー事はあれか?お前、直斗が女だって気付いてたのか?!」
「確証はなかったけどな」
「うぉ!すげーな!石見マジック再びじゃん!」


何故か陽介は盛大にはしゃぎ出した。
先述の通り一般論であり百発百中ではないのだが、こうも感心されると面映い。
陽介のてらいのない賛辞はただ素直に嬉しかった。


「そーか胸じゃなくて尻かぁ…おし!覚えとくわ」
「あんま役に立たないと思うけど」
「いいんだよ。参考になるかも知んねーだろ!」


残暑の日差しの中、からりと笑う陽介に出雲も笑みを零した。


(2008/08/15)


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