あなたはいつでも全てお見通し
『ビタースウィート』
「白鐘は論理武装しないとダメなタイプか?」
唐突にそう言われたのは一緒に帰る途中、四六商店の前でだった。
「な、何でそうなるんですか」
焦って言い返すが、こちらの心中などお見通しなのだろう。
灰色の瞳は穏やかに微笑むばかりだった。
直斗は甘党だ。
だがあまり公言したくないと思っている。
自分の目指す探偵には甘い物など不似合いだからだ。
ブラックコーヒー片手に紫煙をくゆらせ思案する。
そういうハードボイルドな男に憧れているのだ。
だから疲れた頭には甘い物、などと理由をつけてチョコレートを持ち歩いている。
だと言うのにこの先輩ときたら。
四六商店のアイスボックスを見るなり「食べないか?」と聞いてくるのだ。
アイスは好きだ。
しかし喜色満面で「はい」と言える筈もない。
いくら自分のコンプレックスを知られた相手とは言え、まだ認めたくない部分はあるのだ。
だから丁重に断った。
多少の未練は感じつつ。
そんな直斗に向けられたのが先の言葉。
「俺は結構甘い物好きなんだ」
「はぁ…」
言いながらおばちゃんの元へ向かうと、さっさと会計を済まて店を出た。
「だから付き合いだと思ってくれればいい。はい」
差し出されたのはチョコレート味のアイス。
こうまでされては受け取らざるを得なくて。
こういうのが真の大人の男と言うものかも知れないと、少し悔しく思いながらアイスを舐めた。
(2008/10/29)
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