額へのキスは父として
それ以外のキスは一人の男として



      『××キスキスバンバン××』



カインとフィールが床を共にするようになる前から、フィールには聞いてみたいことがあった。
習慣のようなものなのかも知れないが、特別な意味合いを持っているような気がしたから。
情事の後の気だるさにうつらうつらしていると、今日もカインが額に口付けてきた。
すっかりお馴染みになってしまった、甘くて優しいその行為。
これまたお馴染みになったカインの腕に頭を乗せ、そっと尋ねてみる。


「…ねぇ、父さん。どうしていつもおでこにキスをするの?」


カインが軽く目を瞠った。
珍しく驚いた顔をした父に、フィールの方が驚いてしまう。
聞いてはいけないことを聞いてしまったのかと心配になったが、そうではないらしい。

困り顔になってしまったフィールの頬にキスを落としてから、カインは話し始めた。


「お前のね、お母さんが教えてくれたおまじないなんだ」
「母さんが?」
「眠る前におでこにキスをするといい夢が見られる、って」


そういってまた一つ、キスを落としてくる。
カインの瞳は優しい光を帯びていた。

いつもカインに口付けられると感じる心臓が壊れそうな高鳴りとは違う、暖かな気持ちが胸に溢れてくる。
カインの父としての温もりと、肖像画でしか見たことのない母の温もりを感じられたような気がした。

だからかなぁ、と天井を仰いでフィールが呟く。
フィールの髪を指で梳きながらカインが先を促してやると、気恥ずかしそうにしながらも口を開いた。


「眠れないときに、こうやっておでこに手を乗せる癖があったんだ。母さんのおまじない、覚えていたのかなって」
「…そうだね」


嬉しそうなフィールの顔に、フィールを産んですぐに亡くなってしまった彼女の面影を重ねる。

神々の追っ手から逃げ続け、心身ともにボロボロになっていた自分を救ってくれた彼女。
あの包み込むような優しさがなかったら、きっと自分は志半ばで倒れていたことだろう。
そして彼女がいなかったら、フィールも生まれてこなかった。

彼女と出会い、フィールが生まれ、今の自分がいる。
盲目的に信じていた神はもういないけれど、こんな運命なら悪くない。

カインからも自然と笑みが零れてきた。


「今でも眠れないことがあるのかい?」
「え、今は…その…父さんがキスしてくれるから…」
「寝かせてあげられなかったことはあったけどね」
「と、父さん!」


そのときのことを思い出したのか真っ赤になったフィールを抱きしめ、キスを繰り返す。
唇が離れるたび零れる吐息も逃すまいと深く深く口付けた。

どのキスも自分だけがフィールに与えられればいいと思う。
酷い独占欲だと自覚はあってもこれは譲れない。

もう一度、フィールの額にキスをした。
全身に何度キスをしようとも、額へのキスだけは特別だ。
このキスだけは、父親としてのキスだから。


「さ、もう遅いから眠ろうか」
「うん。お休みなさい、父さん」


ちらとカインを見つめ、フィールが首を伸ばして額に口付けてくる。
照れくさいのか胸に顔を埋めて隠してしまったフィールの髪に口付けを落とし、カインも眠りにつく。


きっと今夜も、いい夢がみられることだろう。



MENU  /  TOP