モルタル二階建てのアパート、悪頭荘。
そこが彼らの愛の巣だった。



     『裏・新●さんいらっしゃい』



「おかえり、レオン。今日は早かったね」
「予定より早く作業が終わったんだ。たい焼き買ってきたぜ」
「ありがとう。すぐ夕飯にするから座ってて」


一日の疲れも吹き飛ぶフィールの笑顔に、レオンの顔は知らずにやけていた。

二人でこうして六畳一間のオンボロアパートに暮らすようになって一ヶ月。
暮らしぶりは楽ではないものの、満ち足りた毎日を送っていた。


「今日はカレーか?」
「あと大根サラダ。お隣さんからいただいたんだ」
「ふ〜ん…」


おいしそうでしょ?とフィールは隣家からもらったという大根を嬉しそうに見せた。
二人の貧乏っぷりを知っているからか、ご近所さんは何かと食べ物を恵んでくれる。
それは大変ありがたいことであったが、丸々と太った大根を手にしたレオンは全く別のことを考えていた。
黙り込んでしまったレオンに、フィールが不思議そうな視線を寄越す。


「レオン?どうしたんだい?」
「なぁフィール。これと俺の、どっちがいい?」
「え?」


レオンの言っている意味が理解出来なかったのか、首を傾げて聞き返した。
にやりと口角を上げて、レオンはもう一度同じ台詞を繰り返す。


「この大根と俺の、どっちを突っ込まれたいって聞いてんだよ」
「なっ…!!」


一瞬でフィールの顔が真っ赤になる。
この手の冗談が苦手なのだ。


「変なこと言わないでくれよ!夕飯抜きにするよ?」
「それでもいいぜ?おまえを食うから」
「うぁっ!ちょっと…!!」


言うなり抱きすくめられた。
不埒な指先が背後からパーカーの中へと忍び込んでくる。
フィールは身を捩って抜け出そうとするが、腰骨を撫で上げられて息を詰めた。


「っ…」
「まだ慣れねぇのな」


過敏な反応を見せるフィールの項に、レオンが歯を立てる。
右手を筋肉の薄い胸元に這わせ、左手を下肢へと伸ばした。











「あぁっ…」


シンクに腰をかけるように凭れ掛けさせられ、フィールはレオンに貫かれた。
宙に浮いた脚が縋りつくようにレオンの腰に絡まる。
僅かでも身じろぐたびに強くなる締め付けが心地よい。
不安定な姿勢と布団の上ではないという状況が余計にフィールを煽っているようだ。
その反応に目を細めて、レオンは律動を開始した。


「ぅっ…あっ…レオンっ…」


深々と突き刺さるレオンに心の底まで揺さぶられているような、重い振動が脊髄を駆け上る。
突き上げるのとタイミングを合わせ、とろとろと涙を零す自身を扱かれる。
フィールは声を殺すことも出来ずに甘い声を上げ続けた。












何度も絶頂を迎えさせたフィールを薄い布団に横たえて、レオンは自嘲の笑みを浮かべた。
こうして一緒に暮らせるのが嬉しいとはいえ、少々無理をさせ過ぎてしまう。

だがこれも二人でいられればこそ。
せめてフィールが起きたらすぐに夕食に出来るよう仕度をしておこうとレオンが立ち上がったそのとき。


「やぁレオン。相変わらず下半身に忠実に生きているみたいだね」


背後から爽やかな声が聞こえてきた。
瞬間、レオンの体が硬直する。
振り返ることも出来ぬまま、必死に声を絞り出そうとした。


「かっ、かかか」
「おやおや。ケダモノになり過ぎて人語を忘れてしまったのかい?」
「お、お前どうやって…」
「いやだなぁ、私はここの大家だよ?入れて当然じゃないか」
「そりゃそうだ…って!物音一つ立てずに入れるわけないだろが!!鍵かかってんだぞ?!常識的な行動をしろよ!!」
「君に常識を語られるとは思わなかったよ」


微妙なノリツッコミで調子を取り戻したのか、勢いよく振り返ると大声でくってかかる。
柔らかな笑顔を浮かべている大家−カインは眠っているフィールを見つめたままバキボキと関節を鳴らし始めた。


「全く…君はどうして私がフィールとの同居を許したのか、考えもしないのだね」
「あぁ?何がだよ?」
「ただ遠くへ君を追いやるより、近場で始末した方が手っ取り早いだろう?」


どこからか取り出したレクスを装着する。
レオンは思わず神に助けを求めたくなった。









「あれ?父さん?」
「起きたかい、フィール。夕食の時間だよ」
「え、あの、レオンは…?」
「さぁ?どうしたんだろうね」


父の笑顔に、フィールは困惑の表情を浮かべるばかりだった。
レオンの行方は、未だ知れない。



MENU  /  TOP