理性が本能を隠してくれればいい
傷付けずにいられるから

本能が理性を喰い殺してくれればいい
迷わないで済むから


「…らしくないか」
「どうしたの、父さん?」


珍しく自嘲気味に哂う父にフィールがそっと問いかける。
我が子に心配されるようでは父親失格とばかりに、カインは誤魔化すようにフィールを抱き寄せた。

知られてはいけない筈の想いなのに、優しく受け止めてくれたフィール。
欲しいものはどんな手段を用いても手に入れる主義のカインといえど、フィールを己のものとするのは多少躊躇いがあった。

親子だからではない。
優しすぎるフィールだから、自分の想いは負担になるだろうと思いとどまったのだ。


結局、あの手この手奥の手でフィールをオトしたわけだが。


ただ伝えても負担にしかならないなら、フィールに同様の感情を抱かせて負担にならないようにすればいい。
そのくらいのことが出来ずに父親とはいえなかろうと、カインは可愛い我が子を篭絡したのだ。


努力の甲斐あって相思相愛の仲となり、現在に至る。
外見の穏やかさとは裏腹に、本能の赴くままに生きる男カインは今日も最愛の息子をその腕に抱きしめていた。


「父さん。くすぐったいよ」


切れ長の目を細め、身を捩るフィールの首筋に口付けを落とす。
服の端から手を忍び込ませれば、体をやや強張らせながらもされるがままに身を任せた。

並んで座っていたソファーに押し倒し、衣服を剥ぎ取ってゆく。
手馴れた愛撫に恥しそうにしながらも、フィールはカインを拒まなかった。


「んっ…はあっ…」
「フィール…」


指先で、唇で、身の内に燻る想いを伝える。
焼き切れそうなこの感情を理性の箍で抑えられるのも、衝動のままに高ぶらせてしまうのも、ただただフィールが愛しいからだ。

身勝手だと分かっていても止められない。
こればかりは理屈で片付けられないことだから。


「あっ、はっ…ああっ…とうさ…」
「愛しているよ、フィール」
「んあっ!は、はぁっ…ああっ…!」


手の中で果て虚ろな目で見上げてくるフィールに、今日もまた思いのたけをたっぷりと注ぎ込もう。


理性的で統制のとれた本能ほど、危険なものはない。



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