―前回までのあらすじ―

昏睡状態から奇跡的に復活した凄腕の殺し屋、レオン。
彼は自分を襲撃した人物に復讐するために、そして以前愛し合ったフィールの真意を知るために暗殺団幹部皆殺しを決意する。
ガルム作の最強レクス「ハットリ・ハンゾー」を引っさげて、レオンは旅立つのであった。



     KILL FEEL Vol.2



悪頭暗殺団のセーフハウスは世界各地に存在する。
幹部のレオンですら、すべての位置を把握していなかった。

その中からフィールの居場所を探すのだ。
途方も無い作業と言えた。


「まずは幹部の連中でも当ってみっか」


一人だけ、所在の明らかな人物がいる。
トーキョーでヤクザ達を取りまとめているヴィティスだ。
彼ならば何がしかの情報を握っているだろう。


「そう簡単に吐くとは思えねぇけどな」


ヴィティスの冷徹な表情を思い出しながら、レオンはトーキョー行の飛行機に乗り込むのだった。




ネオンの煌く街、トーキョー。

眠らぬ摩天楼の中を疾走する一台のバイクがあった。
車体も乗っている人物の服も黄色である。
ド派手なバイクはシンジュクの一角へと消えていった。
そこは一般人は立ち寄らないエリアであった。

高い塀に囲まれたその一帯がどうなっているのか知る者は少ない。
黄色のバイクは臆することなく正面の門に停止した。
門の前に立っていた二体のヴォロが不審者を追い払おうと短い足で近付いてくる。


「ムダにでけぇ門だなぁ。上がらせてもらうぜ」


招かれざる客レオンはヘルメットをヴォロに投げつけ、ずかずかと敷地内に侵入した。
慌てたヴォロは非常ベルを鳴らし、急を告げる。
屋敷中からしもべ達がヴォロヴォロと、否、わらわらと飛び出してきた。


「はっ!ザコに用はねぇんだよ!」


群がるしもべ目掛けて左腕のレクスを一閃させる。
その一薙ぎで地面ごとヴォロを吹き飛ばした。
ハットリ・ハンゾーの威力に、思わずレオン自身が口笛を吹く。


「ガルムのヤロー、なかなかいいモン寄越したじゃねーか」


次々と湧き出るしもべ目掛けてレオンは更にレクスを振るった。





「ふふふんふ〜ふふふ〜んふ〜」
「ちょっとヴィティス!歌ってる場合じゃないでしょ!あいつどうすんのよ!」


だだっ広い和室には生け花に勤しむ和服姿の男と制服姿の少女がいた。
少女は男の悠然とした態度に怒気を漲らせる。


「レオンか…まさかあの状態から回復するとはな」
「そんなことどうだっていいわよ!あんたが行かないならあたしが行くからね!」
「君に止められるのか?」
「当ったり前でしょ!」


昂然と言い切るとジュジュは部屋から出て行った。


「随分と私情に駆られているようだが、あれでレオンに勝てるのか…」


騒々しく襖を閉める後姿に溜息を漏らし、ヴィティスは生け終わった花を床の間に飾る。
暫しその出来を確かめた後、硬質化した手で最後の仕上げとばかりに余分な蕾を切り取った。
そこで漸く満足する。
ヴィティスもまた、部屋を後にした。




「あー弱ぇ弱ぇ!次はどいつだ?!」


一頻暴れ終えたレオンの周りには、累々たるしもべの残骸が折り重なっていた。
しもべ程度では何体束になってかかってこようとレオンの敵ではない。
更に奥を目指して進むと、ピンク色の髪の少女が立ちはだかった。


「よぉ。久しぶりだな、ガキ」
「ガキっていうのやめてって言ってるでしょ!…まぁいいわ、今すぐ八つ裂きにしてやるから!」


言うなりジュジュは背中の剣翼をレオン目掛けて放った。
六つの凶刃がレオンを襲う。
身を屈めてそれをかわすと、レオンは左腕のレクスに力を篭め反撃に出た。
ジュジュは力任せな一撃を全方向に展開した剣翼で防ぐ。
幹部クラスには劣るものの、ジュジュもなかなかの手練であった。


「のこのこヴィティスのところにくるなんて、フィールに会いに行くつもり?あんたなんかあのまま死んでればよかったのよ!」


床を蹴って、レオンの胸元目掛けて剣翼の一閃を放つ。
いつもは相手の攻勢が収まるまで防御に徹し、隙が出来たところで反撃に移る戦闘スタイルのジュジュが今日は随分と積極的に攻めていた。
その理由が分からぬほどレオンも鈍くはないらしい。


「おい、ジュジュ」
「何よ!」
「…ぱんつ見えてんぞ」


だがデリカシーはなかった。
ただでさえ冷静さを欠いていたジュジュが怒髪天を衝く。
憤怒の形相で剣翼を強襲させた。


「あんた殺す!マジで殺す!」
「おーコワコワ」


防御形態さえ崩してしまえばあとは容易い。
怒りに任せて放たれた一撃を軽々と避け、レオンはジュジュの懐に渾身の一撃を叩き込んだ。
ジュジュの痩身が倒れるのに合わせて剣翼も床に落ちる。
それを振り返ることなく、レオンは更に奥へと進んだ。




広大な屋敷の廊下を数度折れ曲がると、白砂の敷き詰められた庭先へと出た。
松の木の下に白い着物の男が一人立っている。


「怨みだけでここまで来たのか?」
「そんなご大層なモンじゃねぇよ。とっととフィールの居所を吐きやがれ!」


レクスに淡い光が灯るのを認めると、ヴィティスは何も言わず両手を硬質化させ斬りかかった。
音速の斬撃は続けざまに繰り出され、流石のレオンも防戦一方となる。


「ちっと会わねぇうちに随分短気になったんじゃねぇの?演歌歌手さんよ!」
「君に話すことなどない。早々に死んで貰う」


裂帛の気合と共に光弾を放った。
レオンは左腕を翳し防ぐと、隙を衝いて反撃に転じる。
両者一歩も譲らず硬い金属音が鳴り響いた。
そのまま数度ぶつかり合う。


「これでも喰らいやがれ!!!」


競り合いに焦れたレオンがタイミングを見計らって必殺技を叩き込んだ。
正に一撃必殺の鋼爪がヴィティスに襲い掛かる。
だが直線的なその一撃を冷静に見極め避けると、ヴィティスは静かに言い放った。


「これまでだ」


正確無比な動作で、がら空きの背中を斬りつける。
黄色いライダースーツの背から血が噴出した。
思わずレオンが膝をつく。


「ぐっ…!!!」


蹲ったレオンを冷徹な眼差しで睥睨していたヴィティスは止めを刺そうと再び手を硬質化させた。
冷え冷えとした月光を弾いてレクスが怪しく光る。
凶刃が繰り出された刹那、レオンは地面の上を一転するとヴィティスの懐目掛けて左腕を突き出した。
狙い違わずヴィティスを切り裂き、白い着物は鮮血で赤く染まる。


「死ぬ前にいっこいいことしてけよ。フィールはどこだ」


ヴィティスの腹部に刺さったままの爪を僅かに押し付け、レオンは問い質した。
痛みに顔を歪めながらもヴィティスははっきりと告げる。


「ボスの居所は幹部の私ですら知らない」
「んだよ。使えねーな」
「…テキサスに行ってみるといい。ドロシーがいるはずだ」
「フィールの妹か…じゃあな」


それだけ聞くと左腕を抜き取った。
支えを失って、ヴィティスの体がどうと倒れる。
左腕を一振りすると、血で汚れた白砂を踏んでその場から立ち去った。




「次はテキサスか。なかなか楽じゃねぇな」


レオンは屋敷の前に止めてあったバイクに跨り、次なる目的地へと向かった。
孤高の獣の旅はまだ続く。



     ― KILL FEEL Vol.2 END ―



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作中でヴィティスが歌っているのは梶芽●子さんのあの曲です。
ぼかしてますが。


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