「ぐぁあああああああっ!!!」


なんでだ、フィール
どうして俺を



     ― KILL FEEL Vol.1 ―



目の前に広がるは無機質な白。
何故か体が動かない。

レオンは今、自分がどこにいるのか分からなかった。


――そうだ、俺はフィールと逃げる約束をして…


脳裏に甦るのは、優しい少年の笑顔。
そして
自分に向けられた夥しい数の銃口だった。


――フィール…俺を裏切ったのか…?


あの心優しいフィールがそんなことをする筈がない。
分かりきっていることなのに、目を開けていることすら辛い現実が否定する。

自分を襲撃したしもべ達は「悪頭暗殺団」の中でも自分と同じ幹部クラスの殺し屋付きのしもべだ。
つまり、あの襲撃の指示は自分と同ランク以上の者が行っていたことになる。

暗殺団中最強とまで謳われたレオン殺害を命じられる人物。
それは


――ボスの、フィール以外にいるわけがねぇ


ぎりり、と歯を噛み締めた。
拒絶するようにきつく閉じた瞼が痛いほどだ。

自分は用済みだったのか。
それとも他に理由があったのか。


――そんなことはどうでもいい。ただ


もう一度、フィールに会わなくてはならない。
何故こんなことになったのか、問いたださずにはいられなかった。

レオンは自分に繋がっていた点滴の束を引き抜くと、病室を後にした。






ちゅら海の島、オキナワ。
この珊瑚礁の島の山奥に、金髪の男がふらりと訪ねてきた。


「よう、ガルム。相変わらずシケたツラしてやがんな」
「貴様は礼儀というものを知らんのか」


ガルムと呼ばれた堂々たる体躯の人物は苦々しげに金髪の男、レオンに応じた。


「とうの昔に死んだと聞いていたがな」
「残念だったな。俺はまだ死ねねぇんだよ」


特に驚くでも無いガルムに対し、レオンは単刀直入に用件を告げる。


「得物がいるんだ。一番いいのを頼む」
「相変わらずこちらの都合を聞かぬ奴だ」


呆れ返って溜息を吐いたものの、悪びれる様子の無いレオンに毒気を抜かれたのか、ガルムは奥の部屋へと消えていった。

数分後、手に大きな包みを携えて戻ってきたガルムはそれをそっと床に降ろした。
レオンが包みを開くと、中には腕全体を覆えるほどの鋭利な爪が鈍い輝きを放っていた。


「流石は名高いレクス職人様だな。ありがたく頂いてくぜ」
「それは銘をハットリ・ハンゾーという」
「……………」
「…ハットリ・ハンゾーだ!」
「わーったよ。怒鳴んな」
「そのレクスは最高と言ってもいい出来だ。だが強い武器は同時に使うものも選ぶ。そのことを努々忘れるな」
「へいへい」
「もう用はなかろう。とっとと立ち去れ」
「てめえに言われるまでもねぇよ。邪魔したな」


手に入れたレクス、ハットリ・ハンゾーを包み直し、レオンはその場を後にした。
しかし入り口まで来たところで、「そうだ」と呟き真剣な顔で振り返る。


「もう少し、ネーミングセンス磨いた方がいいぜ」


いらん世話だ、とガルムが吼えた。
生真面目な反応を返すガルムをからかい終えると、レオンはひらひらと手を振りガルムの家を辞した。
姿が見えなくなる直前に、ガルムが大声で呼びかける。


「おい!貴様、何をやらかす気だ?!」
「決まってんだろ」


口元に不敵な笑みを刻んで、孤高の獣が振り返る。


「殺すんだよ!!」



     ― KILL FEEL Vol.1 END ―



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