喰い尽くされるくらいなら
こちらから喰らってしまおうか



     『激情メランコリック』



もう何度果てただろうか。
二人の荒い息遣いだけが響いていた。


「くっ…はっはぁ…」


フィールの顔は涙とレオンの残滓とで汚れていた。
目は虚ろで、唇は閉じることも出来ないまま嬌声を上げて続けている。
その姿すら、レオンを昂揚させた。

レオンは狂ったようにフィールを求め続けている。
フィールは何も言ってくれないレオンが怖かった。



喰われる。そう思った。



勝者であるレオンから出された命令はただ一つ。
「今夜は俺の好きに抱かせろ」それだけだった。

こうも乱暴に求められたことは今まで一度たりともなかった。
日頃荒っぽいレオンだが、フィールを傷つけるようなことは決してしない。
行為に不慣れなフィールに無理を強いることもなかった。


「まだ…足んねぇ…」
「レオン…っ」


また渇きを覚えてフィールを組み敷く。
フィールが怯えた表情でレオンを見上げるが、レオンは構わず律動を再開した。


「足んねぇんだよ…」


掠れた声でレオンが呻く。
その声が今にも泣き出しそうに聞こえて、フィールはレオンの顔を見つめた。

情欲に溺れた金の瞳。
ぞくりとするほど輝くそれは、助けを求めるようにフィールに向けられている。

何がレオンをそうさせるのかフィールには分からなかった。
分かるのは、レオンが自分を求めていることだけ。

フィールは力の入らない腕を伸ばしてレオンを抱き締めた。


「フィール…?」
「何が、足りないの?」


フィールが静かに尋ねる。
急に抱き締められたレオンは驚いた顔をしたが、逡巡したのちフィールの肩口に額を預け、甘えるように抱き締め返した。


「…何度お前を抱いても足りねぇんだよ。欲しくて欲しくて、堪らねぇ…」


その言葉に、血が熱く燃える。
先程の荒々しい情交よりも激しくフィールの心を掻き乱した。


フィールはレオンほど自分の感情に素直ではなかった。
持て余していた、と言ったほうが正しいかも知れない。

自分の感情を正直に伝えることが怖かった。
それは相手にとって迷惑になることだと思っていたから。

だがレオンがそんな価値観を壊してくれた。
もっと自分から求めてよいのだと気付かせてくれた。
渇望するほどに愛しいと思う、この発狂しそうな想いをぶつけてもよいのだと教えてくれた。

自分のためだけに欲しいと思った存在に欲しいと言われる。
それはこの上なく官能的で、フィールを酔わせた。


「レオンにね、このまま喰われてしまうんじゃないかと思った」


柔らかい表情で微笑みながら、フィールは言葉を紡いだ。


「それもいいかなって思ったけれど…きっとレオンに喰われても、僕はレオンが欲しくて堪らなくなる。そんな気がしたんだ」


終わりなんてありはしない。
どこまでも求め続けるのだろう。


フィールの珍しい発言に、レオンの目が丸くなる。
だがすぐにニヤリと口元を歪めるとフィールを抱き起こした。
急に引き起こされてキョトンとしているフィールにキスをする。


「今夜は好きに抱かせろって言ったよな?」


その言葉に顔を赤らめたフィールにまた口付けて、耳元で囁いた。


「だったら…喰らい尽くすまでだ」


抱き合うのに優しさなんていらない。
喰うか喰われるかでいい。


「わっ!レオン…!!」


レオンはフィールを自分の上に抱き上げた。
何度も抉った秘所に己を宛がい座らせる。
息を詰めるフィールの眦に溜まった涙を吸い上げて、ゆっくりと腰を引き下ろした。

熱い楔が体内に押し入ってくる。
圧迫感に息も絶え絶えになりながら、フィールは衝撃に耐えるようにレオンにしがみ付いた。
レオンの腰に脚を絡ませきつく抱き締め合う。


「は…ああっ……レオンっ…」
「まだまだ足りねぇだろ?フィール…」


フィールも自分を求めていたことが嬉しくて、レオンは力強く突き上げる。
しっとりと汗ばんだ肌がぶつかり、更なる熱を生んだ。

溢れてくる感情なら溢れさせればよい。
獣のように、衝動の赴くままに貪り合えばよい。


「やっぱ…止まんねぇわ…」
「く…はぁっ、あ……ああっ!!」


目も眩むほどの快感の中で、二人は共に果てた。






「レオンはさ、限度ってものを知らないの?」
「いや…すまねぇ…」


溜息をつくフィールにレオンは謝罪の言葉を口にする。
だが、にやけきった顔のままでは誠実さに欠けるというものだ。

一晩中求め合ったお陰でフィールの躰は起き上がれないほど消耗していた。
正直口を開くのもだるくて仕方が無い。
それでもフィールの表情は晴れやかだった。


「…たまには言葉にして伝えないと分からないこともあるよね…」


レオンの胸板に顔を埋めたままでフィールが呟く。
耳聡く聞きつけたレオンが銀糸の髪に指を絡ませながら、この愛しい少年に万感の想いを込めて囁いた。


「カラダでだったら、何度でも伝えてやるぜ?」
「…レオン、暫くおあずけね」
「なっ!!そりゃないぜフィール!!」


ココロもカラダも 喰って喰らって喰い尽くせ



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