ああ。この溢れそうな感情を、どうやって君に伝えようか



     『伝わる微熱、伝える情熱』



「おいボウズ。勝負しようぜ」
「構わないけど…今回はどうしてそんな気になったの?」


レオンが唐突なのはいつものことだ。
慣れっこになってしまったフィールは特に驚くでもなく事の経緯を聞くことにした。


「アルミラがよ、俺とお前の力レベルは同じだっつーんだよ」
「力レベルって敵をひるませる力の強さだろ?そんなもの、どうやって比べるんだい?」
「力比べっつったら、やっぱコレだろ?」


そう言ってレオンは腕を突き出してきた。
闘争本能の強さは相変わらずらしい。

楽しげな笑顔に絆されて、フィールは渋々承諾した。


「よっしゃあ!いくぜボウズ!」


互いの手のひらを握り合い、向かい合って椅子に座った。
レオン曰く力比べの定番、腕相撲だ。

ハンデと称してレオンはフィールに開始の合図を任せた。
アルミラが出かけてしまったのでレフリー役がいないのだ。


「これって相手の腕をテーブルに押し倒した方が勝ちなんだっけ?」
「お前やったことないのか?」
「収穫祭で大人たちがやってたけど、僕は参加したことなかったから」


答えながらもフィールの視線はレオンの手を見つめていた。
こんな風にまじまじと見る機会はあまりないから、何となく不思議な気分だった。

自分よりも大きな手。
今は二人とも手袋を外しているから体温を直に感じられる。


とくりと一つ、鼓動が跳ねた。


「ボウズ?」
「え?あ、ごめん…」


触れ合う手のひらが熱い。
抱きしめられたときと同じくらい、レオンの体温を感じた。

ゆっくりと、自分の体温が上がっていくのが分かる。
レオンに気付かれたくなくて、そっと目を伏せた。


「…フィール」


ふいに握り合っていた手を引っ張られる。
フィールが言葉を発するより早く、手のひらに口付けられた。


また一つ、鼓動が跳ねた。


「れ、レオン…!」
「そんなに見つめられちまったら、勝負どころじゃねーだろ?」


薄く笑ってまた手のひらに口付ける。

手の甲へのキスは尊敬の証。
手のひらへのキスは愛情の証。

意味を知らない訳ではない。


「んで?どうしたんだよ?」


白状するまで止める気はないらしい。
フィールは降参せざるを得なかった。


「…レオンにね、触れられると心地よくてほっとするのに、泣きたくなるくらいドキドキするんだ」
「なんだそりゃ?」
「なんて言ったらいいのかな…レオンの優しい気持ちが伝わってくる感じがするっていうのか…」


おかしいよね、と困り顔で笑う。
レオンはほんのり頬を染めたフィールの顔をまじまじと見つめていた。

この、己の内にある感情はそれほど優しいものではない。
フィールを組み敷いて思いをぶつけても足りないくらいに熱く、溢れかえっている。

それでもフィールを傷つけたくないと思うから、本能にブレーキをかけて何とか踏み止まっているのだ。


「…俺はそんなに優しかねぇぞ」
「優しいよ。言葉でも態度でも自分の気持ちをはっきり伝えてくれるんだもの」


そういって笑ったフィールの顔の方が優しくて。
柄にもなく、高まる鼓動にレオンは頬を赤らめた。


「そんなに言うならもっと態度で示してやんねーとな」


照れた自分を誤魔化すように、レオンはテーブル越しにフィールを抱き寄せる。
桜色の頬を撫で、薄く開いた唇に口付けを落とした。


もっともっと、この熱が伝わるように。



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